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最終章
汁男優
しおりを挟む高校を卒業した僕は、花道の就職斡旋を受けずに、サムソンで引き続きバイトしながらAV監督を目指す道を選択していた。
就職をせずに、サムソンでのバイトにしたのは、AV男優という職業は仕事の時間と収入が非常に不安定な職業であるからだ。
そういったことから、AV男優よりは収入の安定してるのとAVの仕事時間の不規則さを調整するにはサムソンでのバイトは都合がいいと考えたからである。
それと、バイト仲間をつまみ食い出来るってのも僕にとっては大きい理由でもあった。
もちろん、両親は就職をしないでバイトで生計を立てる私の選択に猛反対であったが、AV監督になりたいことは隠して、将来映像関係の仕事をしたいと熱く語ったことと、三年経って結果が出なかったらちゃんとした職に就くと約束したら、一応に納得はしてくれたのだった。
バイトで稼いだ金を毎月少ないながら母親に入れるようになったのも、定職に就くことを諦めさせることに繋がったのかも知れない。
花道を卒業してから、ほどなくして僕と三平は目黒にある“いんぐりもんぐり”という名の、とてもじゃないがローンなどの職業欄に記入できない企画専門のAV制作会社の面接に受かり、AV男優の末席に名をつらねさせてもらった。
そこで、僕と三平は月に三回ほどの仕事をいただいて汁男優としてデビューしたのだった。
ちなみに、僕の男優名はピストン祐で三平は実家が寺をしてるってことで、極楽珍坊というつけた奴のセンスを疑いたくなる名前を拝命したのである。
そうして、月に数度の仕事だったが、僕はAV監督になるための第一歩を踏み出したことに喜びを隠しきれないでいた。
しかし、そんな喜びとは裏腹にAV業界の仕事っていうものは、僕がイメージしていたものよりも、かなり恥かしく過酷なのものであった。
そもそも男優になったからといっても、「はいどうぞ」とばかりに男優になる前に抱いていた夢のように、すぐに女性を抱けるわけではないのだ。
なぜなら僕は男優の世界では最下層の汁男優であるからだ。
女性と一対一で絡むことなど遠い世界のことなのである。
ただ、ひたすらに一流と呼ばれる男優達の女優との絡みを見ながら、三平をはじめとする他の汁男優達と一緒になって一物を扱くのである。
一流男優と女性が汗だくになってエッチをしてる姿を見ながら、女性の喘ぎ声をオカズにして、ひたすらに右手を激しく擦り、女性の顔や腹などに射精するのであった。
いくら、自身が望んだ世界だとはいえ情けない事、この上ない仕事なのであるのだ。
それでも僕は、いつかは一流男優になって、女性と絡んでやるんだと心に密かな闘志を燃やしながら、少しでも一流男優の技を吸収してやると思い、右手を擦るだけの仕事に励んだのだった。
そんな、とても人に言えない汁男優を一年ほど我慢して続けていた時、僕に汁男優から卒業出来るチャンスが訪れたのであった。
それは、“先輩社員達の淫靡な罠にはまるOLまゆみちゃん”というAVを撮影していた時のことだった。
いつものように、まゆみちゃんなる女優のエッチを眺めてるだけで、シャケの種付けのように女優の顔に発射して撮影を終えて休憩していると、三平が「祐一、監督が話あるみたいだぞ!」と、慌てふためいた表情をして呼びにきてくれた。
監督は汁男優にとって雲の上の人なので、私は何か撮影中に不手際でもしたのではないかと思ってしまいビクビクと畏怖しながら監督のところに行ったのだった。
「ピストン、お前なかなかいい物、持ってるなぁ! どうだ、今度撮影する3Pものにメインじゃないか出演してみないか? ギャラは一万だ」
僕は、何か文句を言われるのではないかと思っていただけに、監督の言ったことに驚いてしまう。どうやら、監督は我が分身である正宗の事が気にいったみたいであった。しかも、メインではないにしろ監督の口ぶりから女性と絡める事は必須である。ギャラにしても汁男優の5倍近くといい待遇であるのだ。
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