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第二章
AV監督への道
しおりを挟む次の週末の土曜日に僕と三平は渋谷の地に立っていた。
もちろん、ビデオボーイに書かれていた汁男優の面接の為に渋谷に来ているのだ。
僕達は緊張しながら、事前に調べた地図を片手に渋谷パルコの裏手通りにある撮影所を目指していたのだ。
そうして、歩いて5分ぐらいで目的地に私達は到着した。
最初、ビデオボーイに載っていた情報には撮影所となっていたので、さぞかし撮影所は大きいものであって、修学旅行で行ったことのある京都の太秦映画村みたいなものを想像していたのだが、現地に到着するとあまりのしょぼさにびっくりしてしまった。
それは、撮影所とは名ばかりの雑居ビルの何室かを間借りしたにすぎないものであったからである。
まぁ、ある意味AVの撮影現場らしいといえばそれまでのことなのだが、こんなちっぽけなところでAVが撮影されると思うと驚いてしまうのだった。
僕は、ドアにコスモス企画と書かれた表札を見ながら勇気を出してノックした。
「どうぞ、入っていいよ」
ドアの中から無愛想な声が聞こえてくる。
その声を聞いて、一瞬ひるんでしまったが、僕と三平は「失礼しまーす」と言って室内に入った。
部屋の中は、事務所になっていて、どうやら隣の部屋が撮影場所になっているようだった。
先ほど「入っていいよ」と言った男は、椅子に踏ん反りかえって僕達を睨んでいた。
正直言って、びびってしまう威圧感があるのだった。
「何のよう?」
男は僕達がここに来た目的を聞いてきた。
三平はすでにガチガチに体が固まってしまい話にならない状態である。
「男優の募集を雑誌で見て、面接に来たのですけど……」
「帰れ、お前らどう見ても高校生だろ! うちは高校生を起用しないといけないほど人手に困ってないんでな」
男は冷たく、僕達に言い放った。
僕は、せっかくの夢が一瞬で壊れそうになってしまいそうになったので、勇気を出して男に言った。
「将来、AVの業界で働きたいと思ってるんです。だから、高校を卒業したら……」
男は、私の真剣に言ったことを大笑いした。
「兄ちゃん、面白いね。でも、この業界は甘くないよ! 男優と言っても、一流にならない限り食っていけないよ。だから、悪いことは言わないから帰りなよ。どうしてもって言うなら高校を卒業してからまた来るこったな。但し、ついでに言っておいてやるけど、汁男優の一回の出演料は2000円だから、それを覚悟しておくことだ」
僕は、男の言ったことにぐうの音もでないくらいに叩きのめされてしまった。
男の言うことは最もだから反論も出来ない。
そして、僕達は履歴書も見せることも出来ないまま、強制退出となったのである。
僕は来た道を引き返しながら、さきほどの事を考えて反省していた。
それは、自身の考えが甘かったと思うものであって、撮影所に来たら、バイトの面接のように明日から仕事がもらえると考えていた自分が情けなくなってしまうものだった。
しかし、それと同時に、こんな事で負けてたまるかと反骨心もわいてくるのだった。
きっと出直してきてやると強く決意した。
そう思うとなんだか元気が出てきたのだった。
「なぁ、三平。また面接受けに行こうよな」
僕は、さきほどから下を向いて無言で歩いてる三平をみていった。
三平もきっと、さきほどのことでショックを受けてるに違いないのだ。
だから、僕は三平を励ますつもりで前向きな事を言ったのであった。
すると、三平は「当ったり前じゃないかよ。めげずにまた来ようぜ!」と私の肩をポンと叩いて言った。
「なぁ、祐一。せっかく東京まで来たんだから、歌舞伎町行って、ノーパン焼肉行ってから帰ろうぜ! 肉食ったら、元気出てくるよ」
僕は、三平の言ったことを聞いて、少し心配していた自分がバカに思ってしまう。
三平は私以上に打たれ強い男なのである。
そうして、僕達はノーパン焼肉なる店に行って、食欲と性欲が共存できない事を強く知ることになり、あまり食事も女性も楽しめないままに帰宅することになったのだった。
思えば、その日は散々な一日だったのである。
詩織を救うという崇高な目的の為にAV監督を目指してから、五年の月日が過ぎ去っていた。
その頃の僕は携帯電話を片手に愛車のシビックを乗り回しては女性の尻ばかり追いかけていた。
いや、決して詩織の事を忘れて他の女性にうつつを抜かしていたわけではない。
現に詩織とは三年前から急激に普及しだした携帯電話のおかげで、いつでも連絡が取れるようになっていたので忘れようがなく、救ってやることは出来なくても、電話で見守ってやることが出来ていた。
実に時代の進歩は素晴らしいのである。
では、なぜ僕は詩織というかけがえのない存在がいながら女性を追い求めていたかというと、それは、女性の尻を追いかけるのも仕事の一環であったからだ……
なぜなら、僕は監督になるためのノウハウ修得の為にAV男優になっていたからである。
中編 了
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