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詩織からの電話。そして再会へ
しおりを挟む僕は、タイミングの悪い電話だなと思い受話器をとった。
そうすると受話器から聞こえてきた声は、二ヶ月ぶりに聞く懐かしい声の持ち主であったのだ。
そう、声の主は逢いたくて仕方がなく、夢にまで出てきてしまう詩織からであった。
僕は、詩織からの突然の電話に驚いてしまい思わず受話器を落としそうになってしまった。
「もしもし、祐一君。聞こえてる? もしもし……」
あまりの事で、声が出ない僕に詩織は何度も受話器越しに呼びかけていた。
僕は、返事を早くしないと、せっかくの詩織からの電話が切れてしまうのじゃないかと思い、唾をごくりと飲み込むと慌てて声を発した。
「もしもし、詩織聞こえてるよ! 今どこにいるんだ?」
詩織に聞きたいことがいっぱいありすぎてパニックになりそうである。
「公衆電話からかけてる。今からそっちに行くので家にいてね」
詩織はそう言って電話を切ったのだった。
声を聞いた感じでは、おちこんだ様子はなかった気がしたので少し安心した。
僕は、再びジャージ姿になると、詩織の訪問を待った。
待つこと20分ほどで玄関のチャイムがなる。
僕はつまずきそうになりながら、玄関のドアに駆け足で向った。
そして、ドアの施錠を解き扉を押し出して外を確認すると、家の外には神妙な顔をした詩織がダウンジャケットを羽織って突っ立ていた。
「ごめん、祐一君……」
僕は、詩織の一言目が発し終わるのを待たずに、詩織の腕を掴むと自宅に引っ張り入れた。
「ごめんね、あたし……」
手を引っ張られながら謝ろうとする詩織を、僕は自分の体の方に引き寄せて強く抱きしめた。
すっかり冷たくなっているダウンジャケットの上から、詩織を温めてやろうと長い抱擁をしたのだった。
抱きしめながら小柄な詩織が愛おしくて仕方がない。
「寒かっただろう」
「ありがとう。でも、ちょっと苦しいよ祐一君……」
それでも僕は、暫しの間、詩織を抱きしめていたのだった。
長い抱擁が終わった後、詩織を自室のコタツに座らせると、自身は温かい紅茶を入れに台所にいっていた。
紅茶を入れながら、詩織が逢いにきてくれたことが嬉しくて仕方がなかった。
いろいろと言いたい事と聞きたい事が山盛りなので、すぐに紅茶が入れ終わると詩織の待つ自室に戻る。
自室に戻ると、詩織の方も早く、言いたい事があるのか、そわそわした感じでコタツに座っていた。
詩織に「はい、どうぞ」と言って紅茶を差し出すと、詩織が話しだすのを待った。
「私、高校行けなくなっちゃった」
詩織の最初の言葉は衝撃的だった。
「祐一君、豊田商事って知ってる? パパはそこに関係する人達に騙されちゃって――だから働く事にしたの」
ニュースに疎い僕ではあるが、豊田商事の名前は知っていた。
去年ぐらいに、そこの社長が何者かによってテレビ画面の中で刺殺されるという衝撃的な事件で有名だったからだ。
詩織の話によると、なんでも詩織の父親は、その一派と思われる人達に、「リゾート地の権利を買わないか? 必ず儲かる!」と甘い言葉に誘われたそうである。
そして、細々ながら町工場を経営していた父親はそいつらの甘い言葉にのってリゾート地の権利を工場の運転資金と多額の借金をしてまで購入したのだ。
しかし、実際はそんな甘い話は真っ赤な嘘であって、相手は他の被害者から告訴されて何処かへ消え去ってしまったそうである。
残ったのは莫大な借金だけとなった詩織の父親は借金から逃げるために、家族を引き連れて逃げたということであった。
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