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勝負の公立受験

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 僕の内申は二学期の成績では、絶対教科が英語2、国語3、数学2、理科3、社会3であってして、副教科は音楽2、体育5、美術3、技術家庭が4である。トータル持ち点は55点で、どちらかといえば、内申点の恩恵を受けるものだと思えるのだが、花道を受かったことによって、恐らく体育が4、技術が3に改ざんされてると雅博は推測してくれていた。

 そうなると持ち点は49点になり6点も差しひかれてしまう。

 これは、元々適性試験の行われる絶対評価の低い僕のとっては非常に不利なのであった。

 模試の結果では、平均点が58点に対して、私は48点ぐらいなのである。

 内申点がオール3の平均だと考えた場合のもち点が51点なので、合格する為には、適性試験で最低60点は取らないと不合格になってしまうのであった。

 模試よりも12点成績をあげないといけないのは、僕にとっては正に至難なのである。

 そういう訳なので、尻に火がついた状態に追い込まれているのだ。

 残る二週間、睡眠時間を削る所存で受験勉強に励むことにした。

 息抜きの右手の運動も一日一回だけに我慢することにもした。



 それからというもの、公立高校合格を目指して、睡眠を削りがんばった。

 右手の運動は二回することもあったが、とにかくがんばったのである。

 そんな、僕を見て家族も全面協力してくれた。

 母親は毎日、夜食を作ってくれたし、父親も必勝ならぬ必殺鉢巻を新たに作製してくれたのだった。

 それと、協力してくれたのは家族だけでは無かった。

 雅博も「暇だからつきやってやるよ!」と言って、学校が終わると、毎日二時間ほど私の勉強をみてくれたのであった。

 雅博は、「ここは出るから、暗記しとけ」とか言って強力にバックアップしてくれたのである。

 そのような、みんなの協力によって、受験前日に試してみた実力テストでは64点を取れるまでになっていたのだった。

 やる事はやったので、後は公立受験に備えて夜中の勉強はしないで寝ることにした。

 睡眠をしっかりとった方が得策だと考えたからである。

 そのおかげで、受験当日の目覚めはすこぶるよく、体調も万全で朝からモリモリと母親の作ってくれたカツフライを残さずに食べることが出来たのであった。

 


 僕は玄関で心配そうにしている母親に「母さん、祐一はしっかり自分の為に戦って参ります」と戦場に向う日本の兵隊さんのような事を言って、母親に敬礼すると、自宅から飛び出していったのであった。

 僕は、ママちゃりの愛車デロリアンに颯爽とまたがると、いざ、出陣! とばかりにペダルを勢いよくこぎだすと、自宅から10分程度の公立高校の受験会場に向って走りだしたのであった。

 

 途中、道端に落ちていた犬の糞をデロリアンの車輪が踏みつけたが、逆に運がつくとポジティブに考えることにした。

 普通なら、チクショウと思うところだが、このように前向きに考えられるのは調子のいい証拠なのだ。

 僕は自転車が風をきる度に漂ってくる春の匂いに気分をよくしながら、受験会場に辿りついたのであった。

 愛車のママチャリを駐輪場に止めると受験が行われる教室に向った。

 花道で一度経験してることなので慣れたものである。

 受験番号は0137番で、校舎一階にある一年生の教室が僕の適性試験の場所であった。

 受験番号は出身中学ごとに振り分けられていたので、僕の周りにいる受験生は皆知ってる顔ばかりである。 

 同級生達は皆、緊張した表情をしていて自分の席で参考書を見たり、仲のいい友人と受験の話をして試験までの時間をつぶしていた。

 花道の受験の時と違って寝てるものなどは一人もいない緊迫した時間である。

 僕は、いまさら参考書を見る気にもなれなかったので、次々と教室に入ってくるライバル達を何気なしにぼっと眺めていた。

 本来なら、この場所に詩織も一緒にいたはずなのに……と、一瞬頭によぎってしまったが、メソメソしていたら気持ちで受験に負けてしまう気がしたので考えないことにした。

 

 立ち話をしていた同級生が着席を始めたので、腕時計を確認してみる。

 時刻は8時50分、試験開始10分前である。公立の適性試験は9時ジャストに始まり、一教科あたり50分のテスト時間で、10分の用足しをはさみ次の試験に入るのである。

 試験教科の順番は、英語から始まり、数学、社会、国語、理科であった。五教科全ての試験が終わるのが15時ちょうどと花道のゆるい試験設定と違い長丁場であるのだ。

 試験開始5分前になって、試験官が教壇の前に現れた。

 いよいよ、公立受験開始である。

 

 試験官が問題を配り出してる姿を固唾を飲んで見守る。

「それでは、初めてください」

 試験官の発声とともに教室内にカリカリと鉛筆で名前を書き出す音が聞こえ適性試験が開始された。

 まずは、苦手な英語からのスタートである。

 

 目論見では英語は半分解けたらよしと考えていた。それぐらい苦手な教科なのだ。

 

 問題をざっと見たが、花道受験のような選択式の易しい問題は一問もない。

 問題の難しさに額に汗をかきながら解くことに尽力したのであった。

 第一問目の英単語発音のイントネーションの位置からわからなかった。

 

 それでも、分かる問題から解くようにして、なんとか答案用紙は埋めることが出来た。

 予想では半分は正解出来たと思ったので、まずまずの出来ではある。

 

 用足し時間にライバル達の動向を知るため、話に聞き耳を立てていたが、どうやら問題は予想以上に難しいものであったようだ。これは、僕にとっては苦手な教科で平均点が下がるというラッキーな展開と言っていいだろう。

 そうして、次のテスト数学に突入した。

 

 数学も僕にとっては英語ほどではないが苦手な教科である。

 ブロックのように積み上げられた図形の面積を出せみたいな問題が出ると、脳内は崩れてしまうのだ。

 どうか、そのような問題は出ないでくれと祈りながら問題用紙をひっくり返して見る。

 しかし、願いは届かず、図形の問題が睨めつけるように紙に貼りついていたのであった。

 図形の問題が出たら、はなから諦めるつもりだったので、方程式や因数分解から解くようにして数学の試験に挑むことにした。

 結果、多少の空白はあるものの六割弱は正解出来たのではないかと手ごたえを感じたのであった。

 ほどなくして、午前中最後の社会の試験が始まった。

 社会は私の中で一番得意な教科であって、二学期の成績は3であるものの、それまでは4を維持していたので、苦手である英数の挽回が期待できるのだ。

 実際に模試でも一番点数が出る教科なのである。

 案の定、社会の問題を見てみると容易に解くことが出来る問題が数多くあって、テスト時間が終わるまでに全ての問題を解くことが出来た。

 悪く見積もっても七割は正解出来たのではないと思うぐらいの会心の出来であった。 

 勢いが出てきたところなので、次の試験に進みたいところであったが一時間の昼食タイムに突入とあいなった。まぁ、腹が減っては戦ならぬ受験は出来ないので、母親が作ってくれた弁当を食べながら、ここまでの試験の出来映えを考えてみるのだった。

 僕の内申点から考えて、合格安全ラインは62点である。苦手な英数と得意な社会が終わった時点で、だいたい平均すると60点は取れてるのではないかと思われる結果である。もちろん取らぬ狸の皮算用的な計算であるが、残す、国語と理科は65点は取れる教科なので、その二教科をいつも通りにこなす事が出来れば、ギリギリではあるが合格ラインが見えてくるのであった。

 しかし、油断は禁物なのだ。


 僕は昼飯を食べた後に襲ってくる眠気を予防するために大量のハッカ系のガムを口に含むと顔を洗いに行ったのだった。
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