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持つべきものは友
しおりを挟む僕は、はなから受験のことは頭になく、あるのは詩織のことばかりである。
しかし、母親の一言によって受験のことも思い出すと、詩織のこともあいまって頭がパニックになってしまい叫びたい心境になる。
電気の消された真っ暗な部屋で目をつぶって、詩織や受験のことを考えていると不安で不安で仕方がなかった。
どうしたらいいんだ詩織? と自問してみたが、もちろん返事などあるはずがなく、楽しかった日々の詩織の幻想しか頭には出てこなかった。
そうして、僕は涙で頬を濡らしながら眠りについたのであった。
疲れていたのか、浅い眠りの中で、私は何度も詩織の夢を見た。
夢の中の詩織は、いつもの明るい詩織であってして笑顔で私に微笑んでくれていた。
でも、夢の途中から、少しずつ夢の世界の情景が暗くなっていき、最後には詩織が悲しい表情をして「バイバイ」と手を振ると、何処かへ消えていくのであった。
週末の日から、僕の体に突然襲い掛かった体調不良は激しい高熱とともに、三日三晩続いた。
週明けの月曜日に、近所のまち医者で診察を受けたらインフルエンザと診断され完治するまで学校を休むはめになってしまった。
結局、インフルエンザは完治するまで一週間かかり、受験本番を迎えてる僕にとっては非常に痛い休養になってしまった。
正に、弱り目に祟り目、泣きっ面に蜂と言うのだろうか、詩織がいなくなったことに追い討ちをかけるような、負の連鎖に私は心身ともに疲れ果てる結果になってしまっている。
学校を休んでる間に、何度か雅博が電話をかけてくれたのが、僕の心を癒す唯一の救いであった。
雅博には、詩織がいなくなってしまったことを話すと、自分が気がついてやる事も助けてやる事も出来なかった不甲斐なさを吐き出すように打ち明けた。
雅博は、僕の懺悔にも似た話を聞き終わると、「とにかく、今は休んで早く体を治せ。詩織ちゃんのことで、あんまり自分を責めるな。お前が思ってることは、いつか、また詩織ちゃんに逢った時に謝ればいいことだ」
とアドバイスをしてくれた。
僕は、それを聞いて詩織にまた逢える日が来るのだろうか? と聞いてみたら、雅博は、「お前に何も言わずに姿を消したのは、詩織ちゃん自身に心の整理が出来てないのだろう。時がきたら、必ず逢える日がくるから、とにかく、今は体を治して公立受験に備えて勉強をしろ」とだけ言って電話を切ったのであった。
雅博の話を聞いて、気分がだいぶ楽になることが出来た。やはり、持つべき物は友だとしみじみ思ったのである。
雅博の助言という医者が処方してくれる頓服より効く特効薬によって、インフルエンザを完治させると週明けから学校に行った。
学校に行くと、いの一番に職員室に立ち寄り、担任にインフルエンザが完治した旨を伝えた。
担任は「もう、大丈夫なのか? 無理するなよ」と言ってくれたが、なんとなく、受験を控えた大事な時期に他の生徒に風邪をうつされては困るといった感じのいいようであった。
「もう、すっかり大丈夫です!」と担任の意をくみ取って断言してやると、僕は教室に行った。
教室に入り机に座ると、今日からまたがんばって勉強しないといけないと引き締まった気持ちになった。
授業が始まるまでの間に、ひさびさに参考書を開いて自習していたのだが、続々と入室してくるクラスメート達に違和感を覚えたのであった。
それは、クラスメートの何人かは、僕の顔を見るなり痛いものを見るような表情を見せて、仲のいい友達にコソコソと耳打ちをしていたのだ。
なんだか嫌な感じがする。
最初は気のせいかな? とも思ったのだが、ほどなくして雅博が登校してきて「もう、体は大丈夫なのか」などと僕と話してる途中に、また、クラスメートがコソコソ何か言ってるのを見て私の違和感は確信めいたものに変わった。
「なぁ、さっきから俺のこと、コソコソ言ってる奴がいるんだけど…… 何かあるのか?」
僕は、思い切って雅博に聞いてみた。
「あぁ、お前が休んでる間に、詩織ちゃんが行方不明になってる事が漏れたみたいなんだ。誰か詩織ちゃんの自宅に行った奴がおもしろおかしく広めたんだろう。まぁ、気にするな、ほっとけ!」
そう言うと、雅博は僕の肩を揉んで自分の席に戻っていった。
雅博の話を聞いて、沸々と怒りがこみ上げてきたのだった。
そして、僕はその事をきっかけに、ちょっとした事件を起こしてしまう。
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