【完結】【やりちん】僕の青春グラフィティ。ノスタルジーな昭和チェリーボーイの卒業物語

カトラス

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平城 花道

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 それこそ、受験生の鉄則である四当五落を忠実に守って、睡眠時間を削りながらペンを持ったのである。

 朝起きてから深夜まで、参考書と睨めっこしながら、ひたすらペンを手にとりノートに試験に出そうなポイントを書き込んでいく、まさに受験生とは辛いものであるのだ。

 このような辛いことに耐えれるのも、受験が終わったあとに待っている詩織との楽しい高校生活と、花道を合格した後の詩織からのご褒美を期待してのことであった。

 そうして、私の冬休み後半はひたすら右手にペンを持ち、(時には持つ物が正宗に変わることもあったが……)受験勉強地獄に苛まれながら過ぎていったのであった。



 そんな、楽しい事と辛い事が入り交ざった冬休みも終わり、僕にとって、運命の中学生活最後の三学期が始まった。

 同級生達の誰もが、正月休み明け特有のボケた顔などしてるものはいない。

 みんな、ここからが勝負だという引き締まった顔をしていて、男子生徒、女子生徒を問わず、みな、年末のテレビで見た戦国ドラマに出てくる戦いくさまえの足軽のような緊張した表情をしていた。

 受験指南役であるところの足軽大将の先生までもが表情が硬い。

 ほら貝の変わりになる授業開始のチャイムがなると、足軽達は槍の代わりにペンを取り必死に授業内容をノートに書き込んでいく。

 これから起こる受験という戦に備えて準備に余念がないのた。

 各々が、それぞれの城であるところの高校を攻略すべしと目の色を変えているので、私は息がつまりそうになってしまうのであった。

 しかし、僕は他の同級生足軽達に比べるとまだ恵まれているかも知れないと考えることにした。

 それは、最初に目指すべき城攻めをする花道高校は、偏差値って名の、城の防御が低いからである。

 山の断崖絶壁に建てられた城や、高く聳え立つ城壁に囲まれた難攻不落なものではなく、簡単な柵で囲まれたような城というよりかは屋敷みたいなものであると思うのであった。

 そんな、自身や同級生達の高校受験に対する希望と不安が交錯する中、貴重な授業時間を無駄にしないようにと先生の授業を真剣に受けるようになっていた。

 そういった訳で授業が終わると僕は緊張の糸がきれてしまい、どっと疲労感に襲われるのである。

 しかし、そんな疲労感も放課後に、詩織と一緒に手をつないで帰宅するといっぺんに吹き飛んで疲れきった心も癒されるのであった。

 詩織は年が明けて、禁欲後に初めてあった始業式から少し塞ぎ込んでいるような感じもするが、詩織も同じ受験生なので仕方がないところである。
 同じ受験に関して不安な気持ちがあるにも関らず、詩織は、僕が受験という戦に負けそうな弱気なことを吐くと「自信を持って!」とか「がんばろうよ!」とか明るい顔をして励ましてくれるのであった。

 つくづく、私は詩織というかけがえのない存在にありがたい気持ちでいっぱいになってしまう。

 詩織がいるからこそ、受験という名の戦にも耐えられるのだと思うのだった。

 そのようなわけで、詩織に支えながら花道の受験前日である1月19日まで、なんとか受験のプレッシャーに押し潰されることなく日々を過ごすことができた。



 花道高校の受験前日に、花道高校まで受験会場の下見をしに母校の正門を後にした。

 一人で花道まで下見に行くのは心細いと思っていたところに詩織が「私も一緒に行ってあげる」と自身の受験勉強が忙しいにも関らず優しいことを言ってくれた。

 そうして僕と詩織は花道高校に向かったのである。

 花道高校は、私達の住んでる町から離れたところにあるので、バスとJRを乗り継いでいかなければいけない。

 花道までの所要時間は片道でおよそ1時間弱といったところだ。

 電車に揺られながら、もし志望校である公立受験に失敗して、花道までをバスと電車に揺られながら毎日通学することを考えるとゾッとした気分になるのであった。

 詩織の方はそんな気持ちなど知らずに、二人で久々にお出かけ出来てご機嫌そうである。

 車窓から見えるどうでもいい景色を楽しんでいた。

 ほどなくして、花道高校の最寄駅である穴留と言うとんでもなく下品な名前の駅に到着した。

 穴留駅からは花道高校まで徒歩で5分ぐらいの距離である。

 駅の改札を出たら、花道高校の下校時間と重なったのか、近所の住民から通称花クソと呼ばれている学らんを着た花道の生徒達とすれ違っていく。

 どの生徒もガムをクチャクチャ噛みながら歩いたり、そこらじゅうにタン唾を吐きまくっている。

 また、服装もだらしなく、だぶだぶの学生ズボンからシャツが花道の流行なのか飛び出していた。

 それと、男子高の宿命なのだろうか、通りすがる生徒のほとんどは詩織のことをいやらしい目で見ると帰宅を急いでいた。

「なんか、祐一君。花道って怖くない」

 チンピラのように駅周辺を闊歩する花道の生徒の様子を見て、詩織が小声で呟いた。
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