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卍固め
しおりを挟むお金はラブホテルのジェットカプセルに乗って何処かへ、なんて死んでも言えないので、どう答えるか迷うところであった。
「今日、クリスマスだっただろ。だから、友達と映画見て、食事して、プレゼント交換したら無くなったんだよ」
僕は、ラブホテルで使ってしまったって事以外は、母親に正直に白状した。
「それだったら、母さん安心だけど――でもね、勝手に財布からお金は絶対に抜いたらダメ……でないと」
そう言って、母親は父親の顔をチラッとみた。
「まぁまぁ、母さん。祐一も反省して正直に言ってみてることだし――祐一も母さんに謝るんだ……」
父親はドラマで尋問中によく出てくるなだめ役の刑事みたいなことを言って場を和ませようとしてくれていた。
「うん。今度から絶対に財布からお金とったりしないから……ごめんなさい」
父親の配慮を無にするのも忍びないので母親に素直に謝った。
「なぁ、祐一。今度父さんとキャッチボールでもするか、お前とも随分スキンシップとっていなかったから、今回の事は父さんの責任でもあるんだ」
僕は思わず何で? キャッチボールなんだ! またテレビの公共広告機構にでも躍らせれているのだろうかとつっこみを入れたくなる心境である。
それにスキンシップならしょっちゅう、プロレスや空手の相手でとっているじゃないかと思ったが、僕はそんな父親が好きであった。
「それじゃ、今度からは絶対に泥棒のような事をしたら、母さんは親子の縁を切るのでそのつもりでいるのよ」
「はーい、ごめんなさい」と母親に言った。
ようやく、僕の詫びによって嵐は過ぎ去ったのであった。
僕は少し父親の事を見直していた。
いつも、「チェスト」とか訳のわからん事ばっかり言ってる人じゃないのだと感動すら覚える。
それなりに僕の家は父親が事を納めるという威厳があるような気がしていた。
プロレスのスペシャル番組を何もなかったかのように真剣な表情で鑑賞してる父親を尊敬の眼差しで見ていたのだった。でも、そんな父親に対する尊敬の念はすぐに崩れさってしまった。
それは、プロレスの番組が終わると、すぐに父親が僕のところに寄ってきて、こう言ったからだ。
「なぁ、祐一頼みがあるんだ。父さんに卍固め決めてくれないか! 一度、藤波の気持ちが知りたいんだ……」
藤波の気持ちを知ってどうなるだ! と、僕はそれを聞いて、やっぱりこの人はダメだと心底思ってしまった。
それでも、今日は母親をなだめてくれたお礼の意味もこめて、私は父親に思いっきり卍固めを決めてあげたのである。
父親は、技がかなり深くきまったみたいで、よだれを垂らしていたが、悶絶している表情はなぜか満足そうに思えてしまったのだ。
僕は、父親に猪木の必殺技でもある卍固めを父親にかけながら、こんな事をしていていいのだろうか? 真剣に考えていた。でも父親は真剣で技をかけながらも、じりじりと体を移動させていき、テレビの角にタッチして、唾を飛ばしながら叫んでいた。
「祐一、ロープだ、ロープ!」
そんな、バカな父親をお盆にケーキをのせた母親が大笑いしていた。
そうして、いろいろあった聖夜の夜は、僕の卍固めが父親のロープならぬテレビブレークによって外れると終焉を向かえようとしていたのだった。
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