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余計なお世話
しおりを挟む僕はホテルに連れ込む前の経緯とホテルに入ってからの行動を思いだしながら詩織に詫びた。
「謝らなくてもいいよ、バタバタしたの門限がある詩織のせいだし……それに、あそこ面白かったしね」
詩織が、そのように言ってくれたので、僕は少し心が救われたような気持ちになった。
でも、詩織の言った“門限”って言葉に、また心は重いものに変わってしまう。
楽しい事をした代償に、詩織の父親に“門限”を破らせてしまった事を直接に詫びなければいけないからだ。
「なぁ、詩織の父さんって怖い人かな?」
心の準備をしておくために詩織に聞いてみた。
「パパは詩織には優しいよ。でも、門限には厳しいかも知れないかな」
詩織には優しいかも知れないが、僕には厳しいのではないかという返答である。
それに門限に厳しいのは、それだけ目に入れても痛くない娘おもいだってことなんじゃないかと簡単に想像出来るってもんだ。
そんな状態に僕が訳の分からぬ言い訳なんてしたら……火に油を注ぐってことにならないかと考えてしまうのであった。
「やっぱり、俺が詩織の父さんに謝らないといけないかな? なんか、悪い方向にいくんじゃないかと思って……」
恐怖のあまり、つい意気地のない事を言ってしまう。
「うーん? たぶん、祐一君が誠意を見せてくれたら大丈夫だと思うけど……パパは話せば分かる人だから」
詩織の「たぶん」って言葉が引っかかる。
それに誠意ってなんだ。
誠意大将軍みたいにドーンと構えろってことなのか?
私は誠意と聞いて、一休さんに出てくる足利将軍のことが、なぜかイメージされてしまっていた。無論、誠意の意味をはき違えていることは間違いないことではあるのだが、その時の自分は知る由もない。
あと、以前に詩織の家に電話した時の父親の僕に対する対応を思いだしてみると、とても話が通じる相手ではないのでは? と思ってしまうのだ。なぜなら、その時の詩織の父親は嘘をついてまで、娘に纏わりつく虫を排除しようとしていた事が存分に窺い知れたからである。
「やっぱぁ、詩織。俺怖いよ……」
「ダメだよ祐一君! 約束したんだから……」
詩織は、なんだか楽しそうにそう言うと、僕の逃げ道を完全に塞いでくれた。
タクシー乗り場につくと、僕達はすぐに客待ちのタクシーに乗り込んだ。
行き先を運ちゃんに告げると、タクシーは詩織の家に向かって走りだす。
タクシーに乗ったら再び考えこんでしまっていた。
考え事は、ラブホテルでご臨終されてしまった正宗の事と、詩織の父親にどう“門限”を破らせてしまった言い訳をするかの二点であった。
正宗の事に関しては、なぜインサート直前に折れてしまったかである。
回転ベッドで頭が酔ってしまったのではないかとも考えられるのだが、動きを止めてからも立ちあがらなった事を思うと違うような気がする。
いろいろな原因をタクシーに揺られながら考えているうちにある結論に至った。
それは、あの瞬間に母親の淫らな姿が何度も現れていたので、気を反らす必殺技の副作用的なものが出てしまったのではないかというものである。
もし、あの瞬間に母親を召喚しなかったら見事に合体できたのではないかと強く思ってしまう。
いずれにしても、まだ推測の域をでないので、今後の検証が必要なことは確かではあった。
また、雅博にこの事を相談してみるのも一つの手だとも思っていた。
いくら、考えても結果はすぐに出てはこないので、正宗のことは置いておくことにして、次に詩織の父親にいう言い訳を考えてみることにした。
僕の考えた言い訳は、クリスマスプレゼントを選んでいたら時間がかかってしまったとか、映画館が満員だったので一本映画を見る時間を遅らせたとか、とてもじゃないが言い訳としては苦しいものしか出てこないのであった。
なかなか、良い言い訳が思いつかない中、黙って運転だけしていればいい運ちゃんが僕と以心伝心してしまったのか、追い討ちをかけるような事を言ってくる。
「兄ちゃん達、随分遅くまで遊んでいたんだね。お姉ちゃんとかは親が心配してるんじゃないの?」
僕は、詩織がこのお節介な運ちゃんに気の利いた返しをしてくれるのではないかと期待したのだが、残念ながら、詩織は考えごとをしているうちに寝てしまっていた。
疲れているだろうから仕方がないことである。
「いろいろあったんで、遅くなったんですよ。これから、彼女の父親に謝るんですよ!」
僕は、別に答えなくてもいい事を運ちゃんに言っていた。
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