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ラブホテル
しおりを挟む一方、不安の方は未成年の分際でこのような場所に入ってきてしまい、はたして何も言われずに利用させてもらえるのか? また、ホテルの従業員に問い詰められ警察に通報されてしまった挙句に補導なんて……ことにならないだろうかと頭によぎってしまうのであった。
どちらかと言うと後者の不安の方が大きかったような気がする。
しかし、そのような僕の不安はすぐに払拭された。
なぜなら、思わず激突しそうになるくらいに、くもり一つなく磨きこまれた全面ガラスばりの自動ドアを抜けた先のロビーには、ホテルにお決まりのフロントが無かったからだ。
いや、正確に言うとフロントみたいなスペースはあるのだが、そこには従業員は存在していない
。あるのは上部に設置された監視カメラがあたりを見渡しているだけであった。
「祐一君、なんかぁ怖い」
監視カメラが一定のリズムで淡々と左右に動いてる姿を見て詩織がこわ張った表情で言った。
「大丈夫……大丈夫だよ」
何が大丈夫なのか自分でもわからないが、とにかく詩織を心配させてはいけないので強がってみた。
しかし、従業員がいないってことは、どうやって、部屋に案内してもらえるのだろうか? 初めての経験なので全くわからない。
とりあえず、私はロビーの周りを何かヒントになるようなものはないかと探してみた。
すると、宝塚歌劇団のセットを彷彿させるような豪華な階段の手前にパネルのようなものがついてるのを発見した。
僕は、詩織の手をひっぱってパネルの方に進んだ。
パネルはまるで、エロ本の自販機のように写真が貼りついている。
貼りついてる写真は、エロ本のような女性の裸ではなくて部屋の内装が写されたものであった。
そしてパネルには部屋の名前と番号がふってあり、番号の下にはそれぞれの部屋の料金が書かれている。
エロ本の自販機と同じでパネルの横に部屋に該当するボタンがついているのだ。
僕は、それを見た瞬間に、すぐに従業員がいない理由を理解することが出来た。
よくよく考えたら、ここはラブホテルこと別名連れ込みホテルである。
修学旅行や家族団らんで来るような場所ではないのだ。
もしも、普通のホテルのように従業員と対面するようなことがあったら、恥かしくて逃げ出したくなるのに決まっているのだ。
なぜなら、僕のような性欲で脳汁が噴出しそうなバカ面をして、対面する従業員に「これからSEXします」って顔で宣言してしまったら、お互いに恥かしすぎて穴があったら入りたい気分になることなど目に見えてるからだ。
このラブホテルの部屋選びのシステムに妙に納得してしまっていた。
「うわぁ、見て見て祐一君。この部屋素敵だよ」
詩織はさっきまでの不安な気持ちが吹き飛んだようにはしゃいだ声を出してパネルを指差していた。
詩織が指差したパネルはラバーズ(恋人達)と部屋名がつけられていて、写真の内装を見る限り、ピンクを基調にした部屋の壁紙がハートで埋め尽くされていた。女の子だったら見た瞬間気にいってしまうだろうというくらい乙女チックな部屋である。
詩織がラバーズを気にいったみたいなので、チェックイン代わりのボタンを押すことにした。
僕にとってかわいらしいとか素敵な部屋とかは正直どうでもいいことなのだ。
とにかく詩織がご機嫌でいてくれたらそれでいいのである。
「この部屋空いてないんじゃない? ランプ消えてるよ」
早く、部屋に入りたいがためにボタンを連打していた僕に詩織が落ち着いて言った。
なるほど、詩織の言うようにラバーズのパネルとボタンのランプは消えている。
どうやら空き部屋だけパネルのランプが点いてるようだ。
僕達はパネルのランプがついてる空き部屋を探した。
「ねぇねぇ、祐一君、ここって洒落てるね」
パネルを見ていた詩織が嬉しそうに言ってきた。
「何が洒落てるの?」
僕は詩織の言ってる意味がわからなかったので聞いてみた。
「もう、鈍感なんだから……パネルをよく見てよ、うっすらと写真にかぶさるようにタロットカードの絵が浮きでてるじゃないの。
それに部屋の名前が全部タロットカードの大アルカナから取ってあるのよ。エンプレス(女帝)に、ムーン(月)でしょ。それに、マジシャン(魔術師)スター(星)うわぁ、全部で24部屋もあるんだ。むちゃくちゃ凝ってるよ」
確かにパネルにはうっすらと怪しげな西洋の絵が見え隠れしていた。そういえば、このホテル自体の名前がエンペラーなので詩織の言うようにタロットカードから取っているのだと納得してしまう。
僕は、再度パネルを見てランプのついてるものを探した。流石に聖夜だけあってほとんど全部のランプが消えていた。ランプがついてるのは、サン(太陽)とハングドマン(吊られた男)って名前の部屋だけであった。選択肢は二つしかないのだが、一応に私はどっちがいいかと詩織に聞いてみた。
「ハングドマンは嫌、だって名前も部屋もキモイよ」
詩織は即決で拒否反応を示した。
ハングドマンの部屋の内装を見てみると、確かに詩織からしたらドン引きするなと思うようなものであった。
それはハングドマンって部屋が文字通り、SM専用部屋だと思われるものだったからだ。
写真に写ってるベッドには手錠がついていて、壁にはムチが取り付けられているのがよく分かってしまう。しかも、部屋の代金も二時間で6800円と一番高かった。
人気うすなのが納得ってものである。
私的にはSM部屋も興味がないわけでもないのだが、値段が気にくわないので却下である。
そういうことなので僕達はサンって名前の部屋にすることにした。
写真の内装を見た感じでは怪しい雰囲気はないし、何より明るい名前なので問題はないように思われた。
「ここしか空いてないし、いいよね」
僕は、確認の意味を込めて詩織に聞いた。
「うん」とだけ詩織は緊張した顔をして頷つく。
サンのボタンを迷いなく押す。
ボタンを押した途端に、ロビーの照明が薄暗くなって、部屋までの案内をする矢印が点灯した。
矢印に導かれるように豪華な階段を登ってサンって名前の部屋までたどりついた。
サンの部屋の扉にはドラクエに出てきそうな大きな太陽の紋章が刻みこまれていて、やる気をより燃えあがらせてくれるように感じた。
分身正宗も、まるで光合成をするかのように太陽の紋章からパワーを注入されてパンツを膨らませていた。
そして、僕はドアノブを回して、ここにきて躊躇するような仕草を見せかけた詩織の手を引っ張ると部屋の中に入っていったのであった。
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