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門限
しおりを挟む僕は自身の動揺を悟られないように平然な顔を装って、詩織の返答をしばし待った。
「門限ですかぁ? うーん……」
詩織は、アダルトビデオでお世話になってる女優のように悩ましげにすぐには答えない。
「いちおう、あるにはあるんですけど……いつもは19時なんですよ。でも今日は特別な日だから21時までなら大丈夫かな。両親には女友達と買い物行くって言ってるから……」
僕は、詩織の返答によって自身の計画が音を出して崩れるのを聞いてしまった。
さすがに僕の中ではお泊りは最初から無理だとわきまえていたのだが、門限が21時ってのは、詩織の両親を甘く見ていた。
僕の計画では23時までは大丈夫だと踏んでいたからだ。はっきりとした現在の時間は定かではないが、おそらく18時すぎだろう。
門限が21時だとしたら、あと詩織と一緒にいられる時間は三時間もない計算になってしまうではないか。
そのうちの一時間はバスに乗って帰ることを計算しておかないといけない。
今から即行でホテルにいってギリギリではないか! でも実際にそんなことが出来るような状態ではないし、食事が終わったら詩織にプレゼントを買ってやらないといけないのだ。
どう考えても最低で二時間は時間が足りないことになってしまっているのであった。
所詮、計画といっても、この程度のつめの甘いものであってして自身の妄想とご都合主義を合わせた上でしか成り立っていないものなのである。
「じゃぁ、食事が終わったら祐一君達は帰ってしまうんだ」
僕のご都合主義の計画など一切知らない朱美さんがサラッと私の一番恐れてることを言ってのける。
「どうかしたの? 祐一君。なんだか急に顔色悪くなったよ」
門限のことを聞いて消沈している私に詩織が心配そうに聞いてきた。
「うん、なんでもないよ」
そう答えるのが精一杯であった。
「大丈夫だったらいいけど……ところで、今何時?」
詩織は門限の話になったので時間が気になったらしく時間を聞いてきた。
僕は、何も考えずに父親から拝借した腕時計を見てみる。
時計は拝借した時からずっと止っていたことをその時になって思い出した。
「今はねぇ……」
僕は、チラッと腕時計に目をやると超能力者ユリ・ゲラーのように適当な時刻を自信満々で言い放った。
「18時をちょっとまわったとこだよ」
「もう、そんな時間なんだ。楽しいと時間が経つの速いなぁ」
詩織は帰宅時間が押し迫ってるの感じとってか残念そうな表情で悲しげに呟いた。
「なぁ、祐一」
僕達の会話を聞いていた雅博が突然話かけてきた。
「俺達、ここで解散にしないか? お前も残り少ない時間を詩織ちゃんと一緒に過ごしたいだろう」
雅博は事前の計画通りに話をふってきた。
「え!? ここで解散するのか?」
僕は白々しく雅博に返した。
「うん、俺も朱美と、これからラブラブモードに入ろうかなって……」
「なに言ってるのよ! 雅博のバカ」
雅博の言ったことに、まんざらでもない顔をして朱美さんが顔を火照らせながら言った。
「ラブラブモードって何?」
詩織が興味深げに雅博に聞く。
「うん、そういうことは後で祐一に聞くといいよ」
雅博は軽くはぐらかした。
「あ、ごめん。俺ちょっと用を足してくるわ。祐一も連れション一緒にどうだ?」
それは、作戦会議を意味するかとだと僕は感じとった。
「あぁ。俺も連れションしたかったんだ」
「連れションって……子供じゃないんだから……」
朱美さんが僕達に呆れてポカンと口をあけて言った。
「じゃ、ちょっと行ってくるわ」
僕は笑みを浮かべて、雅博と一緒に便所に行った。
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