【完結】【やりちん】僕の青春グラフィティ。ノスタルジーな昭和チェリーボーイの卒業物語

カトラス

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三者面談

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 帰ってから、私はおさらいをしないといけないので、早足で家路に向かう。

 もちろん、僕のおさらいは、詩織に教えてもらった英語なんかじゃない。

 

 今日のH失敗の一人反省会をかねてのおさらいなのである。

 家に帰ってからの僕は、英語の教科書には一切目もくれずに、日課のタオルで正宗の強化に励んだ後、反省と称して、詩織とのHを思い出して無心で正宗を扱き倒した。久々に猿になれて満足であった。

 

 クリスマスの妄想が刺激的で、トナカイの引っ張るソリの上にはフルチンの私が仁王立ちで手綱をもち街を駆け回っているのであった。

 次の日から、試験前日までの間に、詩織は毎日勉強を教えにきてくれていた。

 僕は、隙を見ては詩織とHをしようと試みたが、前回のようにうまくはいかず、詩織のガードは鉄壁であった。それでも、数回のキスだけは出来たので良しとしないとバチがあたるだろう。

 
 退屈な勉強中は、熱心に教えてくれる詩織には悪いのだが、クリスマスの妄想に明け暮れて時間をつぶしてやり過ごしていた。

 そんな、僕だったので試験など、いい成績が取れるわけがなく、期末テストが終わり学校の先生が答案用紙を返した時には、ほとんどの教科で平均点をかなり下回るという惨たんたる結果であったことは当たり前といえば当たり前の事であった。

 
 そして、冬休みまで一週間をきったころ、僕は母親と一緒に先生と三者面談なるものを受けた。

 先生は事前に提出していた進路希望書に目を通しながら険しい表情で母親に事実をつげた。


「お母さん、今の成績だと公立一本ってのは難しいですね。万が一に公立を落ちた事を考えて、私立との併願受験を勧めるしかないです。そうですね、この成績だと私立の併願先は“花道高校”ってことになりますけど、いかがでしょうか?」

 先生の話を聞いてるうちに母親の顔色はどんどん血の気がひいて青ざめていくのがよくわかった。

 隣にいる自分も、そんな母親の表情を見るたびにゾッとして、はたから見たら青ざめているのに違いない。

 
 それと、先生の言った“花道高校”って名前に私は眩暈を起こしそうになってしまう。

 花道高校ってのは、名前を見ただけで、なんともバカっぽい感じがするのだが、実際にどうしようもない高校っていっていい学校であった。
 噂では日本語が話せたら入学できるって学校であってして、私が嫌いな男子校である。
 学長の理念は、「健全な肉体は激しい少林寺拳法に宿る」と学校案内に書かれているぐらいに、先日読んだ、メンズボーイのおっさんよりも、やばそうな御仁である。

 授業のカリキュラムも少林寺拳法が主体であって毎日授業に組み込まれているのだ。

 一歩間違えば、ヨットが主体の○塚スクールと同じじゃないかと思えてしまう。

 近所の住人や他校の生徒からは、花道の学ランを着た学生が通るたびに、影で“花道”ならぬ“鼻くそ”と呼ばれているそうである。
 だから、僕の併願先に花道が選択されようとしている事に母親が青い顔になる気持ちもよくわかったし、僕自身、絶対に行きたくない高校なのである。

「はぁ、花道ですか。花道以外は無いのですか先生!」

 
 母親は僕の言いたいことを代弁するかのように先生に聞いた。

「まぁ、お母さん――すべり止めなので確実に受かる――万が一の為ですよ」

 

 先生も花道のことを、よく熟知しているので、当たり障りのないように母親に気づかいを見せていた。

「大丈夫ですよ! 先に花道を合格していたら、祐一君も気持ち楽になるでしょう」

 

 先生は場の空気を和ますように笑って母親にそう言ったが、私は先生の目が笑っていないことに軽い違和感を感じてしまっていた。

「そういうことなんで、祐一君は併願で受験するってことでお願いします。併願先は花道高校でいきましょう」

 先生は最後のつめに入ったようで、母親に確認を求めてきていた。

「先生、あくまでもすべり止めなんですよね?」


「もちろん、すべり止めですよ! お母さん。これから祐一君が、がんばれば、まず行くことはないので……」

 そうして、そのようなやり取りの後、母親はしぶしぶ、先生の提案を受けいれた。

 いや、受けいれるしか道は無かったといっていいだろう。

 少なくとも花道は僕の高校受験の花道を飾ることがないことを祈るばかりである。
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