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懲りないトナカイ男
しおりを挟む僕はキスを断られてムラムラした気分であったが、仕方がないので詩織に英語を教えてもらった。
もちろん、日ごろから授業など聞かずに淫らな妄想に明け暮れていた自分にとって、詩織の言ってることは難しくてわからなかったのだが、元々、勉強を教えに来てもらってるという手前上聞かない訳にはいかないのだ。
それから一時間ほどかけて、詩織に試験に出そうなところを教えてもらい勉強はお開きにしてもらった。
その後、同級生の話などを詩織と談笑していたら、時間は6時すぎになってしまっていた。
好きな子と一緒にいると時間がすぎるのは実に早いものである。
僕としては、ずっと一緒にいたい気持ちがあったのだが、あんまり詩織に長居してもらうと、詩織の両親、特に父親がうるさそうなので詩織を送って帰ることにした。
玄関口で二人して靴を履いていると、お節介な母親が現れた。
「詩織ちゃん、今日は祐一に勉強教えてくれてありがとうね。またよかったら遊びにきてちょうだい」
まぁ、いちおうに母親らしいことを言ってくれてよかった。
「おばさん、お菓子ご馳走さまでした。私も祐一君にいろいろ勉強以外のこと教えてもらって楽しかったです」
詩織は、勉強ってところで、僕のわき腹をぎゅうっとつまむと母親に会釈した。
「それじゃ、祐一、しっかり送ってあげるのよ」
母親は満面の笑みをうかべて手をふると、僕達を玄関から送りだしてくれた。
そうして詩織を送るために自宅をあとにしたのだった。
冬場の夕方ともなれば、外はすっかり日が沈み寒風が吹き荒さんでいる。
そんな中、僕と詩織は無口で詩織の自宅に向かって足をすすめていた。
詩織はどう思っているのかは分からないが、僕の心は外の温度のように冷え切っていて寒かった。
本来なら、なりゆきとはいえ、あのような行為に及んだのであるからして、詩織のことを結果はどうあれいたわってやらないといけないのが筋なのであるが、まだまだ、心が未熟で精神的に大人と子供が半々に入り混じっていた中学生にとっては、そのような心の余裕はなく、全てが自分中心で進んでしまうのであった。
もし、あの時に母親が帰ってこなかったら、詩織と最後までいけたのだろうか? ということばかりが気になってしまい、私の口を貝のように閉ざしてしまっていたのであった。
そんな、僕をみかねて詩織の口が開いた。
「さっきから、祐一君何考えてるの?」
白い息を吐きながら詩織が聞いてきた。
詩織に自分の思ってることをストレートに聞いてみようかと思うのだが、答えを聞くのが怖い自分がいる。
「うん、今日はいろいろあって悪かったな」
「……うん。ほんと、いろいろあったね。びっくりしちゃったよ!」
僕と違って詩織の方がかなり余裕のある返答である。
「びっくりしたって?」
「だって、勉強中に祐一君いきなしキスしてくるし、Hだったし、急におばさん帰ってくるし、へんなもの顔に飛んでくるし、それに祐一君泣いたし……ふつう、びっくりしない?」
詩織の言うことはもっともであった。でも、詩織の口ぶりからして怒っていないようなので少し安心した。
「あぁ、確かにびっくりするよな。詩織は俺が、あんなことして怒ってない?」
「怒ってるよ!」
即答であった。やっぱり怒っているんだと少し肩を落としかけたら、詩織が続けて言った。
「
怒ってるけど……嬉しくもあったよ。だって祐一君、詩織のこと、ホントに好きだと分かったんだもん」
僕は、詩織のことがとても大事な存在に思えて、気がつけば詩織の左手を強くにぎりしめていた。
「明日も勉強教えてくれる?」
「勉強以外のことしないのだったら教えてあげる」
やはり、詩織は私よりも一枚も二枚も上手であることが分かるお返事である。私の考えてることなど手にとるようにわかっているようであった。
「祐一君、今はテストに集中しようよ。来年受験だし、一緒の高校いきたいよ」
詩織の言ったことが現実に引き戻した。
「祐一君は公立一本でいくんでしょう?」
「うん。出来たら公立だけにして欲しいと母さんは言ってるし、たぶん私立行く金は家にはないと思うから……」
僕の通ってる中学校の進路状況は七割が地元の公立高校に進む。
残りの三割が私立に進学するのだが、私立の進学校にすすむのが二割であって、あとは公立に行く学力がなかったりするものが行く、金さえ払えば受かるようなダメ高校ってことになっていた。
僕の学力は公立高校に受験できるかどうかのギリギリな状態であったので、ふつうなら、眉を吊り上げて勉学に励まないといけなかったのである。
しかし、僕はというと、受験ってのは他人事のように思っていて、周りの同級生のように熱い気持ちなどなく、日々思ってるのは、受験とは全く関係のないHのことばっかりなのであった。
「なんか、今度の試験の結果で進路先がほぼ決まるって先生が言っていたから、祐一君がんばろうね」
詩織に励まされたものの、心は試験や受験にあらず、いかにして詩織と合体できるかばかり思ってしまうのであった。
「うん、まぁ、がんばるよ。でも、試験終わったら映画でも見にいこうな!」
僕は、すでに次の作戦決行のための布石をうっておくにしていた。
「試験終わるころってクリスマスだよね。雪降るといいなぁ、映画楽しみだね! でも、まずは試験がんばろうよ」
正直、僕の心は試験なんてどうでもよくて、頭の中ではトナカイが飛び回っていた。
「ねぇ、祐一君聞いてるの? がんばろうね!」
「おぅ、がんばるよ!」
心は試験にあらずだが、とりあえず詩織に返事だけはしておいた。
詩織とクリスマスに映画行って、そのあとにリプトンでハンバーグでも食って、そして詩織を食ってやると妄想をしていると、詩織の家に着いてしまっていた。
「ほんじゃ、祐一君、また明日ね。帰ったら勉強おさらいしておくんだよ」
詩織は笑顔で手を振ってくれていた。
「今日は、ほんとにありがとうな、それといろいろ悪かったな。ほんじゃ、また明日」
詩織にバイバイと手を振ると、詩織が家の中に入っていくのを見届けて来た道を引き返していた。
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