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男はみんな嘘つき

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 時刻は21時ちょうどで、中学生が電話出来るギリギリの時間といっていいだろう。

 緊張の中、受話器からは呼び出し音がなっている。一回、二回と呼び出し音がなる。七回なって出なかったら電話を切ろうと思った時、相手の受話器を取る音が聞こえた。

 


 どうかぁ、神様、詩織の父親がでませんように!

 僕の心臓は緊張の為に激しく鼓動していた。

 だが、願いは無惨に砕け散ったのである。

 受話器から聞こえてきた声は、野太く低い、おっさん特有の声だったのだ。

  


 僕は、野太く低いおっさんの声が聞こえた瞬間、電話を切ってしまおうかと思ったが、ここは試練だと自分を励まして受話器を置くのをやめた。

 

 電話の相手の男は不機嫌そうな声で「はい、もしもし神崎ですけど」と威圧してくる。



「あの、もしもし、わたくし、三上っていうものですが、夜分遅くにすいません。詩織さんおられるでしょうか」

 

 僕はどもりながら、詩織の父親らしき声の主に言った。


「はい? どちらさん?」

 

 言い方がまずかったのか、声の主はますます不機嫌な声になって威圧してくるようだ。



「三上っていうものですけど……詩織さんおられますでしょうかです」

 もう一度、僕は声の主に丁寧な言い方で聞いてみた。

 丁寧すぎておかしな言い方になってしまったが、この際仕方がない。




「あぁ、詩織ですか、今風呂に入っていてね。電話には出られないよ」

 

 声の主は冷たくそう言い放った。

 

 風呂だったら、仕方がないので電話を切ろうと思ったとき、受話器のむこうから、恋こがれし詩織の声が聞こえてきた。



「お父さーん、誰から電話? 三上って人じゃないでしょうね」

 詩織の声が聞こえてきた瞬間、声の主は、待ちうけのボタンを押したみたいで、受話器からは“手のひらに太陽”のメロディーがまぬけに聞こえてくる。

 その歌詞の真っ赤な血潮あたりで待ちうけ音が止まり、不機嫌な声の主から、可愛らしい詩織の声に相手が変わった。

「あ、もしもし、祐一君。ごめんね。今、子機に切り替えたから、もう大丈夫よ」



「え? 詩織、風呂に入っていたみたいだけど、大丈夫なの」


「お風呂なんか、もう二時間も前に入り終わってるよ。お父さん、そんなこと言ったの?」

 

 やはり、詩織の父親は嘘をついていたのだ。


「さっきの人、やっぱりお父さんだったのか」



「うん、お父さんだよ、声は無愛想だけど、そんなに悪い人じゃないのでごめんね。怒っておいたから許してね」

 

 どうやら、詩織は父親に滅法強いみたいである。



「もう、むちゃくちゃ緊張したよ。詩織の父ちゃん怖いよ!」

 僕は正直に詩織に言った。


「ごめんね、なんか嫌な思いさせちゃったかな。祐一君から電話あるんじゃないかと思って、電話見張っていてよかったよ、でも、なんで、お父さん風呂に入ってるなんて嘘いったんだろう?」

 

 そんなのは、決まっているのだ。娘に変な虫がつきそうなのを察知して意地悪したのに決まっているのだ。



「なんでだろうね。きっとお父さん、誰かと勘違いしていたんだよ」

 

 僕は、詩織の父親の悪口を言うのは得策ではないと考え、父親を庇う発言をした。



「祐一君って優しいのね。詩織思いやりのある人って大好き」

 

 大好きって、詩織はかわいい奴だと思った。



「あ、そうだ。今日一緒に帰ろうと思ってたんだけど、祐一君、部活にでてなかったよね?」

 

 部活に出れなかった理由と泌尿器に行って淫乱看護婦に射精させられてしまったなんて、とてもじゃないが言えない秘密である。


「うん、ちょっと体調悪くて、クラブ休んだんだ」


「祐一君、大丈夫なの? 風邪かなんかなの?」


「うん、医者行ったから大丈夫だよ。なんか、今、タチの悪い風邪はやっているから詩織も気をつけなよ」

 僕はペテン師のように、スラスラと嘘を言ってのけた。

 詩織の父親と同様に男は嘘つきなのである。



「そうなんだ。確かに、校舎裏の祐一君ちょっと顔色悪かったもん」

 

 そりゃ、あの時はアソコが痒くて痒くて仕方がなかったからな、しかし、詩織はよく見ているなと感心した。

「あの時はごめん。急に吐き気が襲ってきたもんだから、心配かけたみたいで悪いね」

「全然、気にしないで。でも、声聞いていたら元気そうでよかった」

 
 はい、痒みがおさまって、心も体もアソコも元気ビンビンです。

「それじゃ、明日から一緒に帰ろうよ。もっともっと、祐一君のこと知りたいし、いっぱい話したいよ」

 

 もっともっと知りたいか、しかし真の私の姿を知ったら、詩織はきっと幻滅してしまうだろうと思ってしまう。



「でも、詩織。一緒に帰ったら、すぐに噂になってしまうよ」


「雄一君は嫌なの? 詩織と噂になること……」

 僕の言ったひと言で、いきなりシリアスな展開に話が進みそうになった。



「いや、俺は全然平気だけど、詩織の方が、噂とか立てられたら大丈夫かなって思ったから……」



「詩織は全然平気。逆に噂になった方が嬉しいかも」

 

 以外と詩織は積極的なんだなと私は思った。


「じゃ、明日から一緒に帰ろうか」

「うん」

 

 詩織は嬉しそうに返事をした。

「それじゃ、部活が終わったら、正門の前で待ち合わせするって事でいいか?」

 僕は詩織にそう言った。

「うん、それでいいよ。明日から祐一君よろしくね」

 

 詩織と話していたら、実に楽しい。私はふと時計を見ると、もう1時間近く話しこんでいた。

 あんまり、初めから長電話してしまうと、詩織の父親にますます警戒されてしまいそうなので、キリのいい内容になったこともあって、そろそろ電話を切ることにした。



「詩織と話していたら、楽しくて時間忘れてしまうのだけど、あんまり話すと明日から、話すこと無くなっちゃいそうだから、そろそろ電話切るね」


「あ、そうだね。私も凄く、祐一君と話してると楽しいよ。それじゃ、また明日ね」

「うん、また明日。ほんじゃ、バイバイ」

 そう言って受話器をおいた。

 詩織と話して、興奮してしまったのか、軟膏によってコーティングされたアソコの先っぽは少し濡れていた。

 

 僕は、その後に詩織と淫乱看護婦をミックスした妄想で、シコシコをしてしまった事はいうまでもないことである。

  

 学生時代の男子生徒にとって一番の感心事とは一体なんだろう? と聞かれたら、僕は胸をはって言うことが出来る。

 それは、童貞を一早く捨てることなのだ。

 受験なんかよりも、男達にとっては重大な関心事なのである。

 それが証拠に、中学時代の私を含めた友人達の話題はことある事に童貞にまつわる話ばっかりだったような気がする。

 それは、高校生になっても、はたまた大学生になってもつきまとう話であって、人によっては社会にでてから、いいおっさんになっても話題になる、男にとっては重大かつ非常にデリケートで興味がつきない話題であると言ってもいい話なのである。

 なぜなら、童貞を捨てたものこそ学生にとってはヒーローであり、社会に出た者では童貞であることが恥ずかしいことになってしまい物笑いの種になることが必至の問題だからだ。

 ましてや、社会人になってくると、風俗で童貞は捨てたことにならないなどと、言い出す輩も出てくるほど男にとっては重大な事柄なのである。

 

 女性にとっては、さぞかし馬鹿らしい話に聞こえるだろうが、実際問題として童貞というのは、男のプライドがかかった重大な意味をもつ言葉なのである。
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