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それから

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颯太と結婚の約束をした日から、早くも二ヶ月が過ぎていた。
あれから二人の仲が大きく変わるということは無く、日常にちょっとしたスキンシップが加わった程度だ。
「おはよ、颯太。ご飯できてるよ」
今は、金曜日の夕方から日曜日の夜まで颯太の家で過ごし、平日は実家で母さんの花屋で働くという生活をしている。
颯太はというと、最近再就職をして新しい職場に慣れるのに必死だ。
「ゆき~…」
なかなか起きない颯太を力ずくで起こしに行くと、見事罠にハマった。
腕をくい、と引っ張られ、そのままベッドに連れ込まれた。
颯太とは長いこと友達だったということもあって、こういうのはまだ慣れない。
「ちょっと颯太さ~ん」
平日起きれなくなるよ、と颯太の体を無理やり起こし、テーブルに朝食を運んだ。
「そうだ、今日不動産屋行くんだよね」
朝からのいちゃいちゃを諦め、顔を洗ってすっきりした颯太は思い出したように言った。
「そうだよ、いい部屋があるらしいから、今日は三軒見せてもらう予定」
実は、結婚に向けて少しずつ準備を進めている。
とはいえ颯太はまだ再就職したばかりだし、俺的にも離婚して一年未満で再婚するというのは気が引ける。
なので、ひとまず同棲という形で一緒に住む部屋を探しているのだ。
「いい部屋見つかるといいね」

朝食を食べ終え、二人でシャワーを浴びて昨夜の汗を流す。
それから着替え、時間通りに不動産屋へ向かった。
「えーっと、こちらですね」
一軒目に向かったのは、実家からは少し離れたマンション。
駅から徒歩5分で、颯太の職場にも通いやすい場所だ。
「綺麗ですね。広さも充分あるし、いいかも」
颯太は気に入ったらしく、嬉しそうに色んなところを見て回った。
「ここは日当たりもいいですし、人気の物件です。ただ壁が薄いと感じる方もいらっしゃるようなので、静かに暮らしたいという方にはあまり向かないですね」
なるほど、騒音トラブルは避けたい。
結局はどんなにいい場所でも、ご近所さんとの付き合いが一番大事だったりするのだ。
「とりあえず、次行きましょうか」
二軒目は、実家からもそう遠くない場所にある団地だ。
緑が豊かで、子供の声も聞こえてくる。
俺はこういうところが好きかもしれない。
「こちらはお子さんを育てている方に人気の場所です。
壁も厚いですし、各棟の近くに小さめですが公園もあるので、子供だけで遊ばせるのにも安心です」
お子さん、とか言われても、俺たちは男同士なので子を産み育てることはできない。
しかし常に子供の声が聞こえてくるというのは、いいかもしれない。
俺も颯太も子供好きなのだ。
「うーん、いい場所だけど、駅からちょっと遠いのがネックかも」
駅からは徒歩30分と、通勤には向かない。
バスで駅まで行くこともできるが、それならここより少し高くても駅近物件に住んだ方が時間も定期代も節約できそうだ。
「確かに。とりあえず、三軒目をお願いします」
最後に向かったのは、駅から徒歩7分のマンションだ。
一番最初に言ったところよりは少し家賃が安くて、なんとなく温かみのある場所だ。
「ここいいかも」
部屋に入る前から、2人ともなんとなくここがいいと感じていた。
「最初のお部屋よりは少し年季が入っていますが、壁も厚いですし部屋と部屋の間隔も広いので騒音問題はあまりないですね。
木が多いので夏はセミがうるさいと言われますが、ここから見える木は全て桜なので、春は絶景です」
年季が入っていると言われればそうだが、使うのに不便ということはなさそうだ。
むしろ、味があって俺は好きだ。
「ゆき、俺はここがいいと思う」
「うん、俺も。ここにします」
実家からは少し遠くなるが、自転車で行けば問題ない。
駅からも近いし、よく見ればスーパーも近い。
ここに決まりだ。
一度不動産屋に戻って諸々の契約を済ませ、日が暮れる前に颯太の家に帰った。
「よかったね、いいところが見つかって」
「うん、はやく引っ越したいな」
引っ越しは三週間後に決まったので、俺は明日から母さんのお店をはやく上がらせてもらい、颯太の部屋の引っ越し準備を進める。
颯太は再就職したばかりであまり負担はかけられない。
「明日も休みだけど、ゆき疲れちゃった?」
これは多分、えっちなお誘いだ。
「大丈夫だよ、準備してくるから待ってて」
本当は少し疲れているけど、これからしばらく忙しくなるとスキンシップの頻度も落ちるだろう。
元々友達歴が長いこともあって、少しでも期間が開くとギクシャクしてしまいそうな気がした。
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