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番外編、圭吾と零
圭吾の出張
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「ゆい~、おくちあけて。はい、あーん」
ご機嫌ななめなゆいに、零は一生懸命夕飯を食べさせる。
いつもはここに圭吾がいて、ゆいがなかなか食べてくれない時は交代しながら食事をするのだが、今は出張で留守のため零一人で育児をしている。
今までは子供が小さいからと出張でも日帰りだったのだが、今回は欠員の穴埋めのため2泊3日になってしまったのだ。
「や~!ぱっぱ!」
いつもなら遅くてもこの時間には帰ってきているパパが、今日は帰ってこない。
まだ幼いのに、ゆいにもわかるのだろうか。
「うん、パパは2回寝たら帰ってくるよ。それまでママとお留守番してようね」
2回、とはお昼寝を抜いての数だが、ゆいにとって2日はとても長い。
まだ2年しか生きていないこの子には、今ここにパパがいないことを受け入れるのは難しいのかもしれない。
泣いてご飯を食べてくれないので、仕方なくデザートのバナナをあげることにした。
これなら自分で手に持って食べてくれるので、そのうちに零が夕飯を食べられる。
と言ってもほんの数分なので、零はゆいとの格闘ですっかり冷めたチャーハンを急いで平らげた。
「なななおーちい!」
ゆいは大好きなバナナを、もちゃもちゃと美味しそうに食べている。
「バナナおいしいね」
さっきまであんなに泣いてパパが良いと言っていたのに、子供の機嫌はコロコロ変わるようだ。
「ままーなななしゅき?」
「うん、ママもバナナすきだよ」
「いーたんもしゅき?」
「うーん、どうだろうね。ばあばに今度聞いてみようね」
いーたんとは、圭吾の実母が最近保護した捨て犬のことだ。
本当の名前はすいちゃんだが、ゆいはいーたんいーたん、と呼んでいる。
一度会っただけなのに、子供の記憶力は凄まじい。
毎朝起きるたびに
「いーたんは?」
と聞いてくる。
そのくせ写真を見せても
「わんわ!」
と言うので、恐らく何度もいーたんと呼んでいるうちに本物のことは忘れたがかわいいいーたん、という記憶だけは残ったのだろう。
「ばーば?」
「うん。いーたんはばあばのお家にいるんだよ」
「ばーばもなななしゅき?」
零はふふふ、と笑ってしまう。
どうしてもみんながバナナを好きか知りたいなんて、ゆいはかわいい。
「ばあばもバナナ好きだと思うよ。この前バナナケーキ焼いてくれたもんね」
圭吾の実母は零にとってお姑さんだが、仲が良いので2週間に1回は会っている。
零の実母は新幹線で行かないと会えない距離にいるが、義実家は電車で30分くらいの距離なので妊娠中もなにかと助けてもらっていたのだ。
「なななちぇーき?」
「そうだよ、バナナケーキ、ゆいも食べたでしょ?美味しかったね」
ゆいはお話に夢中になっているうちにバナナのことはどうでも良くなったらしく、半分くらい残してごちそうさまをした。
と思ったら眠そうに目を擦りだしたので、零は急いでお風呂に入れて歯磨きをして、寝室へ連れて行く。
パパがいないことで寝かしつけも難航するだろうと思っていたが、今日はあまりお昼寝をしなかったことと、疲れさせるために公園でたくさん遊んだことが功を奏したのかいつもよりすっと寝てくれた。
起こさないようにそっと寝室を出て、できなかった家事に取り掛かる。
ゆいの残したバナナを食べて、床に散らばったチャーハンの米粒を拾い、フローリングシートで床を拭く。
お皿を洗い、明日の朝食の準備をしてお風呂に入った。
お風呂から上がると、脱衣所に置いていたスマートフォンが鳴る。
「もしもし、圭吾さん?」
圭吾から起きてる?とメールを貰ったので、すぐに電話をかけた。
『もしもし、遅くなってごめんね』
「いえいえ。でも、服を着るのでちょっとだけ待ってくださいね」
裸のままだったので、零は急いで身体を拭いて服を着る。
「お風呂入ってたの?ごめん、髪乾かしてないよね。ドライヤー終わってからかけ直そうか」
零はそのままでいいと言ったが、圭吾が風邪をひくといけないからと言うので5分で髪を乾かしてかけ直す。
「お仕事お疲れさまです。ちゃんとお夕飯食べられましたか?」
『うん、お好み焼き食べた。零は?大丈夫だった?』
「はい、夕飯はちょっと大変でしたけど、寝かしつけはすぐ終わったので良かったです」
それから30分ほど今日のことを話し、零が眠気に負けてふにゃふにゃと返事し始めたので、圭吾はそっと電話を切った。
最後、圭吾が「だいすきだよ、おやすみ」と言ったのを、零は少し残っていた意識でしっかりと受け取った。
ご機嫌ななめなゆいに、零は一生懸命夕飯を食べさせる。
いつもはここに圭吾がいて、ゆいがなかなか食べてくれない時は交代しながら食事をするのだが、今は出張で留守のため零一人で育児をしている。
今までは子供が小さいからと出張でも日帰りだったのだが、今回は欠員の穴埋めのため2泊3日になってしまったのだ。
「や~!ぱっぱ!」
いつもなら遅くてもこの時間には帰ってきているパパが、今日は帰ってこない。
まだ幼いのに、ゆいにもわかるのだろうか。
「うん、パパは2回寝たら帰ってくるよ。それまでママとお留守番してようね」
2回、とはお昼寝を抜いての数だが、ゆいにとって2日はとても長い。
まだ2年しか生きていないこの子には、今ここにパパがいないことを受け入れるのは難しいのかもしれない。
泣いてご飯を食べてくれないので、仕方なくデザートのバナナをあげることにした。
これなら自分で手に持って食べてくれるので、そのうちに零が夕飯を食べられる。
と言ってもほんの数分なので、零はゆいとの格闘ですっかり冷めたチャーハンを急いで平らげた。
「なななおーちい!」
ゆいは大好きなバナナを、もちゃもちゃと美味しそうに食べている。
「バナナおいしいね」
さっきまであんなに泣いてパパが良いと言っていたのに、子供の機嫌はコロコロ変わるようだ。
「ままーなななしゅき?」
「うん、ママもバナナすきだよ」
「いーたんもしゅき?」
「うーん、どうだろうね。ばあばに今度聞いてみようね」
いーたんとは、圭吾の実母が最近保護した捨て犬のことだ。
本当の名前はすいちゃんだが、ゆいはいーたんいーたん、と呼んでいる。
一度会っただけなのに、子供の記憶力は凄まじい。
毎朝起きるたびに
「いーたんは?」
と聞いてくる。
そのくせ写真を見せても
「わんわ!」
と言うので、恐らく何度もいーたんと呼んでいるうちに本物のことは忘れたがかわいいいーたん、という記憶だけは残ったのだろう。
「ばーば?」
「うん。いーたんはばあばのお家にいるんだよ」
「ばーばもなななしゅき?」
零はふふふ、と笑ってしまう。
どうしてもみんながバナナを好きか知りたいなんて、ゆいはかわいい。
「ばあばもバナナ好きだと思うよ。この前バナナケーキ焼いてくれたもんね」
圭吾の実母は零にとってお姑さんだが、仲が良いので2週間に1回は会っている。
零の実母は新幹線で行かないと会えない距離にいるが、義実家は電車で30分くらいの距離なので妊娠中もなにかと助けてもらっていたのだ。
「なななちぇーき?」
「そうだよ、バナナケーキ、ゆいも食べたでしょ?美味しかったね」
ゆいはお話に夢中になっているうちにバナナのことはどうでも良くなったらしく、半分くらい残してごちそうさまをした。
と思ったら眠そうに目を擦りだしたので、零は急いでお風呂に入れて歯磨きをして、寝室へ連れて行く。
パパがいないことで寝かしつけも難航するだろうと思っていたが、今日はあまりお昼寝をしなかったことと、疲れさせるために公園でたくさん遊んだことが功を奏したのかいつもよりすっと寝てくれた。
起こさないようにそっと寝室を出て、できなかった家事に取り掛かる。
ゆいの残したバナナを食べて、床に散らばったチャーハンの米粒を拾い、フローリングシートで床を拭く。
お皿を洗い、明日の朝食の準備をしてお風呂に入った。
お風呂から上がると、脱衣所に置いていたスマートフォンが鳴る。
「もしもし、圭吾さん?」
圭吾から起きてる?とメールを貰ったので、すぐに電話をかけた。
『もしもし、遅くなってごめんね』
「いえいえ。でも、服を着るのでちょっとだけ待ってくださいね」
裸のままだったので、零は急いで身体を拭いて服を着る。
「お風呂入ってたの?ごめん、髪乾かしてないよね。ドライヤー終わってからかけ直そうか」
零はそのままでいいと言ったが、圭吾が風邪をひくといけないからと言うので5分で髪を乾かしてかけ直す。
「お仕事お疲れさまです。ちゃんとお夕飯食べられましたか?」
『うん、お好み焼き食べた。零は?大丈夫だった?』
「はい、夕飯はちょっと大変でしたけど、寝かしつけはすぐ終わったので良かったです」
それから30分ほど今日のことを話し、零が眠気に負けてふにゃふにゃと返事し始めたので、圭吾はそっと電話を切った。
最後、圭吾が「だいすきだよ、おやすみ」と言ったのを、零は少し残っていた意識でしっかりと受け取った。
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