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番外編、圭吾と零

静かな夏祭り

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※ 前回までの「夏祭り①、②、③」より一年前のお話です。
______________

「ただいま~」
ガチャ、と玄関から音がして、休日出勤を終えた圭吾が帰宅する。
「ぱっぱー!」
と、二歳半のゆいはだいすきなぱぱのところへ駆けていった。
「ただいま~ゆい」
ゆいの目線までしゃがみ、両手に持っていた袋を片手に持ち直し、
空いた片手でゆいを抱えた。
そして、そのままリビングまで向かう。
「おかえりなさい、圭吾さん」
妊娠9ヶ月の零は、ソファーに座り、圭吾の帰りを待っていた。
圭吾はゆいを降ろし、袋をテーブルに置く。
「ただいま、零」
ぎゅう、と苦しくない程度に抱きしめた。
お腹の子にもただいまと話しかけ、添えた手に伝わる胎動を噛み締めた。
それから手洗いうがいをして、
ゆいにお手伝いをしてもらう。
「屋台で色々買ってきたから、ゆいには並べるのお手伝いしてもらおうかな~」
零は自分がやると言って立ち上がろうとしたが、その大きいお腹で家の中まで動かせるわけにはいかない。
病院の先生に言われて夕方ゆいと共に軽くおさんぽをしているので、もう動くのは十分だろう。
ゆいが張り切ってお手伝いをすると言ってくれたので、父子で零の座るソファーの前に低いテーブルを出し、そこに買ってきたものを並べた。
「わ、すごい。美味しそうですね」
焼きそばやフランクフルト、フライドポテトに焼き鳥。
そしてたこ焼きもある。
「こっちの袋はデザートだから、また食べる時に冷蔵庫から出そうね」
圭吾はそう言って、りんご飴と串刺しパイナップルを冷蔵庫にしまった。
「で、こっちの袋はね」
見ると、もう一袋ある。
「なんですか?」
圭吾が自慢げに開くと、中には色んなおもちゃが入っていた。
光る指輪や光るブレスレット、ゆいの最近好きな戦隊モノのお面、プラスチックのうちわ。
「わー!」
ゆいは大喜びでぱぱに飛びかかる。
零はその様子を楽しそうに眺めていた。
そして、圭吾が寝室に行き、何かを取ってくる。
「それは…なんですか?」
ゆいがお祭り気分を味わえるよう、圭吾は色々考えてくれたようだ。
箱の中から出てきたのは、お祭り用のポイ…ではなく、網がついたポイだ。
そしていくつかの景品もある。
「家でもお祭りができないかなって。
これなら洗面器に水を張っていつでもおもちゃの金魚すくいができるでしょ?」
圭吾はそう言って、お風呂場から水を入れた洗面器を持ってくる。
床にレジャーシートを敷き、そこにそれを乗せた。
ゆいは突然のお水遊びにきゃっきゃとはしゃいでいる。
「ぱっぱ!こえおしゃかーしゃん!」
「うん、おさかなさんだね~」
袋からおもちゃの金魚やスーパーボールを取り出し、水に浮かべる。
「じゃあゆい、これでおさかなさんすくってみようね」
圭吾はゆいに網ポイを持たせる。
「あっ」
なんとゆいは、右手に網ポイを持っているにも拘らず、左手で金魚を鷲掴みしたのだ。
「ふふ、そりゃわからないよね」
それでも楽しそうなので、満足するまで遊ばせることにした。

「ゆいくんよかったね~、いっぱいおさかなさん貰ったね」
圭吾が片付けをしている間に零が声をかけると、ゆいは嬉しそうにした。
「しゃかーしゃんどーぞ!」
そして、自分が取った金魚の中から、一つを零にあげた。
「くれるの?ありがと~」
そんなこんなでゆい専用の金魚すくいは終わり、もうすぐ花火の上がる時間になるので夜ご飯を食べ始めた。
「ん!これ美味しい~」
妊娠中で味の濃いものが食べたくなる零には、屋台飯はぴったりだ。
圭吾はゆいの子供用皿に焼きそばを切って入れ、エプロンを着けて食べさせる。
「おいしい?」
「おーち!」
にこにこしながら椅子の上で足をぷらぷらさせ、初めての屋台飯を食べている。
「あ、もう花火始まりますよ」
零はそう言って、窓を開けて網戸に変えた。
そして、
ヒュ~~~~ ドンッ
と鳴り、花火が打ち上がった。
「わ~、綺麗ですね」
花嶺家は比較的高い位置に住んでおり、周りには大きな建物がほとんどない。
それに神社はここから徒歩10分ほどなので、まさに絶景の花火スポットなのだ。
周りのお宅も同じように網戸で花火を楽しんでいるようで、
「綺麗ね~」
「大きいなあ」
などと楽しそうな声が聞こえてくる。
「ゆいは初めてだもんね、あれは花火って言うんだよ」
「はなび?」
ゆいは花火に興味津々で、フォークを焼きそばに刺したまま口を開けてぽかんとしている。
神社のある方向からは和太鼓の音が鳴り響いており、家でも十分楽しむことが出来た。
「終わっちゃったね」
圭吾が焼きそばやたこ焼きのパックを片付けながら、しみじみと言う。
「ですね…。
でも、来年は家族4人で行きましょうね」
これからまた家族が増えて、花嶺家はもっともっと賑やかで、楽しくなっていくのだろう。
それが楽しみで、零はお腹を撫でて微笑んだ。
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