上 下
61 / 152
番外編、圭吾と零

夏祭り②

しおりを挟む
「おまたせ」
「まま~」
しばらくすると、袋をいっぱいに抱えた圭吾と、圭吾の浴衣を掴むゆいが戻ってきた。
「圭吾さん、ありがとうございます。
ゆいもありがとうね」
二人が買ってきたのは、
「えっと、これが焼きそばで、これがゆいの言ってたフランクフルトね。
あとたこ焼きと…デザートにりんご飴」
もう少しすれば同じようにご飯を食べる人が多くなりそうなので、空いているうちにお腹を満たしておく。
大人二人なら食べ歩きもできるが、ゆいやりおもいるのでそうはいかない。
「じゃあゆいくんおてて拭こうね~」
持ってきたウエットシートでゆいの手を拭き、さっそくフランクフルトを食べさせる。
「いい?絶対に持ったまま歩いちゃダメだよ」
棒が喉に刺さるといけないので、食べる前にお約束をする。
ゆいは
「はーい!」
と大きな返事をして、ガブッ、とフランクフルトにかぶりついた。
そしてりおもお腹が空いて泣き出したので、零が授乳をする。
周りから見えないように授乳用のケープをして、零もお腹が空いたので圭吾に食べさせてもらう。
「ん、美味しい」
さすが屋台の味。
久しぶりのお祭りなので、懐かしく感じる。
りおが母乳に満足したようなので、今度は圭吾が代わってゲップをさせる。
そしてお腹がいっぱいになって眠くなったのか、先程買ってもらったわんちゃんを抱きながらベビーカーで寝てしまった。
「ゆい、ままにも一口ちょうだい」
ゆいからフランクフルトを一口もらう。
「どーぞ!」
ゆいは優しいので、本当に一口だけもらうと、
「もっといーよまま」
と言って勧めてくれる。
有難くもう一口もらって、ゆいにも焼きそばを食べさせた。
「俺のもあげる」
圭吾は零とゆいに自分のたこ焼きを分ける。
「ん~、美味しいですね」
3人で楽しく食べて、それから花火の時間まで屋台を見て回る。
「あ、金魚すくい」
零が見つけたのは、昔ながらの金魚すくい。
すくえてもすくえなくても、一匹貰えるらしい。
「一回やってみる?」
圭吾の提案で、零はふふ、と笑う。
「ももたが食べちゃいますよ」
確かに、と圭吾は思って、二人で笑う。
いつの日かゆいが見つけた捨て猫のももたがいるので、魚は買えない。
それに、屋台の金魚はすぐに死んでしまう。
上手く育てられる自信が無い。
「じゃあ、代わりにスーパーボールすくいでもやりましょうか」
零がそう言って、ベビーカーを押しながらスーパーボールすくいをやっているお店に向かった。
「はい、じゃあ頑張ってねー」
屋台のおじさんからポイを二つ、ゆいと圭吾がもらう。
零は見てると言ったので、父子並んでスーパーボールと睨めっこ。
そして、
「えいっ」
ゆいは青いスーパーボールを狙ってポイをミスの中に入れた。
そして……
「あっ」
青いスーパーボールはゆいのポイを破いてしまった。
「うー…」
ゆいはいじけてままのお腹に頭をすりすりした。
「よく頑張ったね~ゆい。
ほら、ぱぱが取ってくれるよ」
「急な無茶ぶり…」
圭吾は笑って、ゆいの欲しかった青いスーパーボールを指さした。
「これ?」
ゆいは泣きべそをかきながらそれを見る。
「うん…」
圭吾はそっと水の中にポイを沈めた。
そして、
「ほらっ」
すい、とスーパーボールをお椀の中に入れた。
「わ、すごい圭吾さん!」
へへ、と妻からの褒め言葉に照れる圭吾。
「ほら、零の好きなのも取ってあげる」
ドヤ顔でそう言うので、零は黄緑色のスーパーボールを指さした。
「これね、OK」
そして圭吾は、見る見るうちにお椀をいっぱいにしてしまった。
「ぱぱすごいね~」
周りの子供たちからも注目を浴びてしまう。
「じゃあこれとこれとこれ、3つだけください」
圭吾はゆいと零が選んだスーパーボールと、もう一つ水色のスーパーボールを選んでおじさんに渡した。
「いいの?取った分だけ貰えるよ」
おじさんはそう言ったが、圭吾は迷わず3つでいいと答えた。
「残りは他の取れなかった子にあげてください」
圭吾はそう言って、袋に入れてもらったスーパーボールを受け取る。
「たのしかったね~」
圭吾はゆいに袋を持たせ、次の屋台を探す。
「お、射的だ」
圭吾は射的屋を見つけると、子供みたいな顔をしておじさんにお金を払った。
「ゆいどれがいい?」
今回もゆいに選んでもらい、それを狙う。
ゆいが選んだのはかわいいくまのぬいぐるみだ。
「よし、あれね」
圭吾は銃口にコルクをセットし、まとを狙う。
パンッ
と音がして、くまのぬいぐるみが落ちた。
「え?!」
零は驚き、目を丸くする。
「高校生の頃友達と射的屋に入り浸って財布空にしてたから」
圭吾はまたドヤ顔で、取った景品をゆいに渡す。
「ゆいもやってみるか」
圭吾は残りの二発をゆいにあげた。
しかし当然上手くはいかず、景品は圭吾の取ったぬいぐるみのみとなった。
「それにしても、圭吾さんはすごいですね」
花火の見える位置に移動しながら、零が圭吾に話しかける。
「そう?子供っぽくない?」
「いやいや、圭吾さんのそういうところ、好きですよ」
子供と一緒にお祭りを楽しんでくれる父親なんて、まさに理想そのものだろう。
それに、大人気ないようなことはしない。
スーパーボールだっていっぱい取ったけど、それは取るだけで、貰ったのはほんの少しだ。
「ゆいもよかったね、ぱぱかっこよかったね」
ゆいは圭吾に取ってもらったぬいぐるみを抱きしめながら、
「うんっ!」
と頷く。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

複数番ハーレムの中に運命の番が加わったら破綻した話

雷尾
BL
合意を得なきゃだめだよね。得たところで、と言う話。割と目も当てられないぐらい崩壊します。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

処理中です...