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もしものふたり
零くん、圭吾さん
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※もしものふたり の世界線です。
_________
「花嶺さん!お久しぶりです!」
この日の零は、いつになくハイテンションだった。
何かいい事でもあったのか、と圭吾は聞きたくなったが、あの男の話題が出たら立ち直れる自信が無いので、聞かないことにする。
「立花くん、久しぶりだね。
今日は誘ってくれてありがとう」
自然な会話をできるように、なるべく落ち着いて話す。
朝コンビニへ行かなくなってからは、
まだ一度も会っていなかった。
そのためか、なんだか心がムズムズする。
「…あの」
零は、俯いてなにかを言いたそうに、もじもじしている。
まるで欲しいものを父親に強請る子どものようだ。
「僕のこと、名前で呼んでもらえませんか…?」
嫌ならいいんですけど…。
と、零は恥ずかしそうに言った。
「…零?」
圭吾が呼ぶと、嬉しそうに顔を上げ、笑顔になった。
かわいくて、愛おしくて、この子を幸せにしたいと思った。
いや、むしろ自分が、幸せになるために。
一緒にいたい。
例え自分と一緒になってくれなくても、たまにならこうして会ってくれるだろうか。
「なんか、恥ずかしいね。
やっぱり零くんって呼ぼうかな」
じゃあ僕も、圭吾さんって呼んでいいですか?という零の返しに、圭吾はひたすら心の中で悶えるしか無かった。
「それでは、こちらをご覧下さい。
皆さんから見て正面が、南…」
と、プラネタリウムのナレーターが説明を始める。
正直星のことはよく分からないけれど、こうして零と二人、並んで同じ景色を見られるのが幸せだった。
「圭吾さん、たまに流れ星がありません…?」
と、耳打ちで零がコソコソと教えてくれる。
「あ、ほんとだ」
今流れたね、と圭吾。
偽物の流れ星だけど、願い、叶えてくれるだろうか。
圭吾は流れ星が見える度に、何度も心の中でお願いする。
どうか、隣にいる零くんが、ずっと幸せでいられますように。
一緒にいるのは俺じゃなくてもいいから、零くんの願いが叶いますように。
好きな人の、赤ちゃん…健康に産めますように。
自分で願って、悲しくなった。
零に悟られないよう、首が疲れたと言って下を向く。
大丈夫ですか?と心配してくれる零に、
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
いい年してこんな女々しい男なんて、
嫌だろう。
あの逞しそうな男と、幸せになってほしい。
悔しいけど、圭吾はそう願うしかなかった。
プラネタリウムが終わり、入場特典の星空キーホルダーを貰った。
その季節によって星空は変わるらしく、
「僕、春のやつが欲しいんです。
また行きませんか?」
と零に誘われた。
誘われたけれど、
「あの彼とは行かなくていいの?」
と少し意地悪な言い方をしてしまう。
こんな言い方、したくないのに。
やっぱりちょっと悔しくて、声に出してしまった。
「…え?彼って、誰のことですか?」
零は心底不思議そうに、圭吾の顔を覗く。
無自覚な小悪魔め。
かわいくて、意地悪な言い方をした罪悪感が胸に広がる。
「僕は、好きな人と行きたいんです。
あの彼って、もしかして亮くんの事ですか?
それなら従兄弟のお兄ちゃんですよ。
好きな人のこと、色々相談に乗ってもらってたんです。
でも圭吾さんがそんな意地悪言うなら、僕…」
零は早口でそう言いながら、涙を零す。
好きな子を泣かせてしまった。
それに、好きな人ってなんだ…
従兄弟って…
零は目いっぱいに涙を溜め、
ぎゅ、と自分の服を掴んでいる。
今にも零れそうな涙を、圭吾が拭う。
「ごめん。
嫉妬して、意地悪言った。
ごめんね…もう泣かないで…」
零は圭吾を睨みつけると、
「泣いてなんかないです。もういい、甘いものが食べたいのでどこか連れて行ってください」
と歩き出す。
どこまでも強くて、優しい。
きっと俺なんかより、何倍も何倍も頑張ってきたんだろうな、と圭吾は前を歩く零の背中が、心做しか大きく見えた。
___________
はあ~…圭吾ってこういうとこありますよね。
頼りがいのある男のようで、それは全部猫をかぶっているだけなんですね。
中身はばぶばぶのあかちゃんです。
その点、零はこう見えてめちゃくちゃ強い心の持ち主です。
か弱いようで、圭吾よりも強い男の子です。
はやくゆいを産ませたい。
続きます~
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「花嶺さん!お久しぶりです!」
この日の零は、いつになくハイテンションだった。
何かいい事でもあったのか、と圭吾は聞きたくなったが、あの男の話題が出たら立ち直れる自信が無いので、聞かないことにする。
「立花くん、久しぶりだね。
今日は誘ってくれてありがとう」
自然な会話をできるように、なるべく落ち着いて話す。
朝コンビニへ行かなくなってからは、
まだ一度も会っていなかった。
そのためか、なんだか心がムズムズする。
「…あの」
零は、俯いてなにかを言いたそうに、もじもじしている。
まるで欲しいものを父親に強請る子どものようだ。
「僕のこと、名前で呼んでもらえませんか…?」
嫌ならいいんですけど…。
と、零は恥ずかしそうに言った。
「…零?」
圭吾が呼ぶと、嬉しそうに顔を上げ、笑顔になった。
かわいくて、愛おしくて、この子を幸せにしたいと思った。
いや、むしろ自分が、幸せになるために。
一緒にいたい。
例え自分と一緒になってくれなくても、たまにならこうして会ってくれるだろうか。
「なんか、恥ずかしいね。
やっぱり零くんって呼ぼうかな」
じゃあ僕も、圭吾さんって呼んでいいですか?という零の返しに、圭吾はひたすら心の中で悶えるしか無かった。
「それでは、こちらをご覧下さい。
皆さんから見て正面が、南…」
と、プラネタリウムのナレーターが説明を始める。
正直星のことはよく分からないけれど、こうして零と二人、並んで同じ景色を見られるのが幸せだった。
「圭吾さん、たまに流れ星がありません…?」
と、耳打ちで零がコソコソと教えてくれる。
「あ、ほんとだ」
今流れたね、と圭吾。
偽物の流れ星だけど、願い、叶えてくれるだろうか。
圭吾は流れ星が見える度に、何度も心の中でお願いする。
どうか、隣にいる零くんが、ずっと幸せでいられますように。
一緒にいるのは俺じゃなくてもいいから、零くんの願いが叶いますように。
好きな人の、赤ちゃん…健康に産めますように。
自分で願って、悲しくなった。
零に悟られないよう、首が疲れたと言って下を向く。
大丈夫ですか?と心配してくれる零に、
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
いい年してこんな女々しい男なんて、
嫌だろう。
あの逞しそうな男と、幸せになってほしい。
悔しいけど、圭吾はそう願うしかなかった。
プラネタリウムが終わり、入場特典の星空キーホルダーを貰った。
その季節によって星空は変わるらしく、
「僕、春のやつが欲しいんです。
また行きませんか?」
と零に誘われた。
誘われたけれど、
「あの彼とは行かなくていいの?」
と少し意地悪な言い方をしてしまう。
こんな言い方、したくないのに。
やっぱりちょっと悔しくて、声に出してしまった。
「…え?彼って、誰のことですか?」
零は心底不思議そうに、圭吾の顔を覗く。
無自覚な小悪魔め。
かわいくて、意地悪な言い方をした罪悪感が胸に広がる。
「僕は、好きな人と行きたいんです。
あの彼って、もしかして亮くんの事ですか?
それなら従兄弟のお兄ちゃんですよ。
好きな人のこと、色々相談に乗ってもらってたんです。
でも圭吾さんがそんな意地悪言うなら、僕…」
零は早口でそう言いながら、涙を零す。
好きな子を泣かせてしまった。
それに、好きな人ってなんだ…
従兄弟って…
零は目いっぱいに涙を溜め、
ぎゅ、と自分の服を掴んでいる。
今にも零れそうな涙を、圭吾が拭う。
「ごめん。
嫉妬して、意地悪言った。
ごめんね…もう泣かないで…」
零は圭吾を睨みつけると、
「泣いてなんかないです。もういい、甘いものが食べたいのでどこか連れて行ってください」
と歩き出す。
どこまでも強くて、優しい。
きっと俺なんかより、何倍も何倍も頑張ってきたんだろうな、と圭吾は前を歩く零の背中が、心做しか大きく見えた。
___________
はあ~…圭吾ってこういうとこありますよね。
頼りがいのある男のようで、それは全部猫をかぶっているだけなんですね。
中身はばぶばぶのあかちゃんです。
その点、零はこう見えてめちゃくちゃ強い心の持ち主です。
か弱いようで、圭吾よりも強い男の子です。
はやくゆいを産ませたい。
続きます~
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