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もしものふたり
大人ですね
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「花嶺さん?」
初めて名前を呼ばれ、私服姿の零がかわいすぎる衝撃も相まって圭吾は変な声が出そうになった。
一応何かあった時のために名刺を渡していたので、
あわよくば名前を呼ばれたり、なんてことを考えてはいた。
だが、いざその姿でその声で名前を呼ばれると、
やはり心臓がもたない。
今日の零は華奢な身体に合った、少しダボッとした格好をしている。
風に吹かれてたまに透ける細い身体のラインが美しい。
「立花くん、今日は来てくれてありがとね」
動揺を隠すように、いつも仕事でする笑顔を貼り付け、必死に取り繕う。
「こちらこそ、ありがとうございます。
昨日は楽しみで眠れなかったです」
くす、と笑う笑顔がこれまた素敵だ。
じゃあさっそく向かおうか、と待ち合わせの駅から歩き出す。
横に並んで歩ける日が来るとは…なんて、全ての初めてに気分が高揚する。
圭吾は自然と車側の歩道を歩き、零はその気遣いに小さくお礼を言った。
「普段の休日は何をして過ごすんですか?」
いかにも壁がある零の質問にも、圭吾は真面目に答えた。
そんなところも、零には好印象だ。
「休日か、基本は本を読んだりダラダラしたり…かな」
本、僕も好きです。という零の返しに、
圭吾はあたかも自分が好きですと言われたような気持ちになった。
好きな小説の話とか、この前見た映画の話とか、そんなたわいない会話をすること十数分。
漸く目当てのカフェが見えてきた。
ちょうどお昼過ぎなので、テラスの席にはカップルらしき男女や男性同士、そして女性同士がいちゃいちゃと賑わっている。
零と圭吾は店内に入り、注文待ちの列に並んだ。
メニューが配られ、それを二人でみる。
「これ、美味しそうですね」
零はチョコチップが入ったスコーンに目を止める。
「じゃあ、これにしようか」
他にも食べたいものは遠慮なく言ってね、と圭吾。
飲み物は圭吾がブラックコーヒー、零はチャイにした。
ブラックコーヒーなんて、大人ですね、と感心する零がかわいくて、撫でたくなってしまう。
いつも缶コーヒーのブラックを買うが、それも大人だと思われているのだと思うと可笑しくてかわいくて、仕方がない。
自分も払うと言って聞かない零を宥め、
圭吾が支払いを済ませた。
「大人だから、払わせて」
先程言われた大人、を上手く活用し、
好きな子にご馳走するという願望を叶えた。
半ば無理やりだが。
「ん、おいしい」
スコーンで口の中の水分が奪われるのが面白いらしく、零は楽しそうにもぐもぐとしている。
その姿を写真に収められないのが残念だが、
今日は初めてのデートだし、と目に焼き付けた。
「うん、香りがいいね」
圭吾はブラックコーヒーを澄まし顔で飲んだ。
スコーンを口に含むと、なるほど確かに面白い。
ともう一度コーヒーを飲み、喉を潤わせた。
「今日は何から何までありがとうございました」
ぺこり、と頭を下げた零の、形のいい頭の中心にあるつむじがかわいい。
色々な話で盛り上がり、外が少し暗くなってしまったので、圭吾は零にタクシーを拾い、予め運転手にお釣りが出るだけの額を渡した。
圭吾の紳士な対応に、零は心を揺らした。
零は最後に、カフェにあったペーパーの上に書きにくそうだがボールペンで電話番号を書いた。
そしてそれを、御手洗に立った圭吾のジャケットのポケットに入れた。
帰宅後、ポケットの中から見覚えのないペーパーが取り出され、その紙に染み付くコーヒーの匂いで今日のことを思い出し、そしてベットの上で柄にもなく身悶えた。
_______________
ハヤクエロヲカキタイ…
初めて名前を呼ばれ、私服姿の零がかわいすぎる衝撃も相まって圭吾は変な声が出そうになった。
一応何かあった時のために名刺を渡していたので、
あわよくば名前を呼ばれたり、なんてことを考えてはいた。
だが、いざその姿でその声で名前を呼ばれると、
やはり心臓がもたない。
今日の零は華奢な身体に合った、少しダボッとした格好をしている。
風に吹かれてたまに透ける細い身体のラインが美しい。
「立花くん、今日は来てくれてありがとね」
動揺を隠すように、いつも仕事でする笑顔を貼り付け、必死に取り繕う。
「こちらこそ、ありがとうございます。
昨日は楽しみで眠れなかったです」
くす、と笑う笑顔がこれまた素敵だ。
じゃあさっそく向かおうか、と待ち合わせの駅から歩き出す。
横に並んで歩ける日が来るとは…なんて、全ての初めてに気分が高揚する。
圭吾は自然と車側の歩道を歩き、零はその気遣いに小さくお礼を言った。
「普段の休日は何をして過ごすんですか?」
いかにも壁がある零の質問にも、圭吾は真面目に答えた。
そんなところも、零には好印象だ。
「休日か、基本は本を読んだりダラダラしたり…かな」
本、僕も好きです。という零の返しに、
圭吾はあたかも自分が好きですと言われたような気持ちになった。
好きな小説の話とか、この前見た映画の話とか、そんなたわいない会話をすること十数分。
漸く目当てのカフェが見えてきた。
ちょうどお昼過ぎなので、テラスの席にはカップルらしき男女や男性同士、そして女性同士がいちゃいちゃと賑わっている。
零と圭吾は店内に入り、注文待ちの列に並んだ。
メニューが配られ、それを二人でみる。
「これ、美味しそうですね」
零はチョコチップが入ったスコーンに目を止める。
「じゃあ、これにしようか」
他にも食べたいものは遠慮なく言ってね、と圭吾。
飲み物は圭吾がブラックコーヒー、零はチャイにした。
ブラックコーヒーなんて、大人ですね、と感心する零がかわいくて、撫でたくなってしまう。
いつも缶コーヒーのブラックを買うが、それも大人だと思われているのだと思うと可笑しくてかわいくて、仕方がない。
自分も払うと言って聞かない零を宥め、
圭吾が支払いを済ませた。
「大人だから、払わせて」
先程言われた大人、を上手く活用し、
好きな子にご馳走するという願望を叶えた。
半ば無理やりだが。
「ん、おいしい」
スコーンで口の中の水分が奪われるのが面白いらしく、零は楽しそうにもぐもぐとしている。
その姿を写真に収められないのが残念だが、
今日は初めてのデートだし、と目に焼き付けた。
「うん、香りがいいね」
圭吾はブラックコーヒーを澄まし顔で飲んだ。
スコーンを口に含むと、なるほど確かに面白い。
ともう一度コーヒーを飲み、喉を潤わせた。
「今日は何から何までありがとうございました」
ぺこり、と頭を下げた零の、形のいい頭の中心にあるつむじがかわいい。
色々な話で盛り上がり、外が少し暗くなってしまったので、圭吾は零にタクシーを拾い、予め運転手にお釣りが出るだけの額を渡した。
圭吾の紳士な対応に、零は心を揺らした。
零は最後に、カフェにあったペーパーの上に書きにくそうだがボールペンで電話番号を書いた。
そしてそれを、御手洗に立った圭吾のジャケットのポケットに入れた。
帰宅後、ポケットの中から見覚えのないペーパーが取り出され、その紙に染み付くコーヒーの匂いで今日のことを思い出し、そしてベットの上で柄にもなく身悶えた。
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ハヤクエロヲカキタイ…
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