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二人で美味しいシチューを食べようか

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ガチャ、とドアを開くと同時に、花嶺圭吾はなみねけいごは緊張のあまりため息をついた。
靴を脱ぎ、それらを丁寧に揃えて家にあがる。
「あれ、もう入ってるのか」
ドアの向こうでなにやら物音が聞こえる。
そして、
「あっ圭吾さんですか?お先に失礼してます」
とリビングに繋がるドアが開かれた。
あまりの衝撃に圭吾は一瞬くらっとしたが、
すぐに持ち直し、
れいくん、早かったんだね」
と返事をする。
美、という言葉の擬人化のようなその容姿で迎え入れられ、
これが今日から毎日か、と圭吾は幸せのあまりもう一度小さくため息をついた。

男でも子を産める人間は昔から貴重とされ、
生まれてすぐに受ける検査でその結果が出ると、
政府から強制的に結婚相手を決められ、その人の子を産まなくてはならない。
零も例外でなく、政府に決められた相手、圭吾の妻となるため、今日ここに越してきた。

「いい匂いがするね、何か作ってたの?」
優しく声をかけると、笑顔で零が振り返る。
「はい、シチューなんですけど、苦手でなければ一緒に食べませんか?」
「いいね、たのしみだ」
圭吾がそう言うと、零は嬉しそうにして料理を再開した。

零の作ったシチューはとても美味しかった。
こんなに美味しい料理をこれから毎日食べられると思うと、圭吾は自然と笑顔になる。
「零くん、今日は引越しで疲れてると思うから、先お風呂入ってきて」
「あ、でも食器の片付けが…」
零はどうしよう、を顔に貼り付けたような表情をするので、かわいくて笑ってしまう。
「それは俺がやるよ。作ってもらった側が食器を洗うのは基本だからね」
「そうですか…じゃあお言葉に甘えて、お先にお風呂失礼しますね」
零が緊張するのは当たり前だ。
なぜなら、圭吾と零は昨日初めて会ったばかりなのだ。
昨日は互いの両親との顔合わせをし、
そのまま婚姻届を書いて提出した。
引越しの家具などは事前に送っていたので、
体力的には大丈夫だろう。
だが、きっと精神的には緊張と不安で疲れているはずだ。

圭吾は食器を洗いながら、零のことを考える。
一般的に言えば、今日は初夜と呼ばれるのだろうか。
まだ会って間もないのに、そんな性急に行為をするのはどうなのだろう、と思いはするのだが、
初夜で抱かれなかった場合、零が自分には魅力がない、と卑下するかもしれない。
できればそういうすれ違いは避けたい。
これから死ぬまで共に生きていく相手を、心から大切にしたい。

そんな心配とは裏腹に、零は風呂からあがると
「お先にありがとうございました。
あちらで待っているので圭吾さんもゆっくり入ってきてくださいね」
と寝室へ向かった。
脱がせてください、とでも言うようにバスローブを身につけ、少し赤らめた顔で微笑んでいる。
そうか、今夜抱いてもいいのか。
高揚してうさぎのように跳ねたい気持ちを抑え、
圭吾はすぐさま風呂へと向かった。
零が入ったあとのそこはやはり濡れていて、
圭吾はよからぬ事を想像する。
ここで、裸の、零くんが…。

はやく零の元へと急ぎたい圭吾は、浴槽には浸からずシャワーをあびる。
隅々まで綺麗に洗った後、脱衣所に置いてあるバスローブを手に取った。
これも、零くんが用意してくれたのか。
なかなかできる妻だ。
きっとこの先も色々と助けられるのだろう。

零が緊張して濡れない、なんてことにはならないよう、ローションと、一応コンドームを持ち寝室に入る。
事前に買っていたダブルベッドの端に、
やはり顔を赤らめた零が座っている。
「お待たせ、零くん」
緊張してこちらに気が付かなかったのか、
零は少し驚いたような仕草をし、
「あ、圭吾さんおかえりなさい」
と微笑んだ。
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