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葵生川 望
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使用済みのティッシュを捨てようとして、ベッドサイドにゴミ箱がないのに気付いた。
そうだ、ベッドサイドにゴミ箱があるのはラブホテルの仕様だ。力尽きてベッドにうつ伏せになると、「捨ててあげるよ」と浅野がティッシュを取り上げた。
「浅野さん……ホント元気だな」
「そんなことないよ? 僕はもう歳だから一回しかできない。その一回を存分に楽しもうと頑張っているんだよ」
「……十分すぎるだろ」
「おや不満かい?」
その口ぶりは暗に「まさかあれだけよがっておいてそんなはずはないだろう」と言っている。
そのとおりだ。
「まさか」と答えると浅野は笑った。
予想外の激しいセックスで、望はくたくただ。「僕はシャワーを浴びてくるけど……」と言うようなことを浅野が言った気がするが、望は気付いたら眠っていた。
気付いたら朝だった。
望は裸のまま眠っていて、広いベッドの隣には浅野がいた。バスローブのままで眠っている。浅野が一応は拭き清めてくれたようだが、なんだか体が気持ち悪い。シャワーを浴びようと体を起こすと、さすがに腰と尻が痛んだ。
「おはよう」と寝起きの掠れた声が聞こえる。
浅野は望の起こした体を抱き寄せると、「目が覚めたとき、隣にアオイがいるなんて。いいもんだね」と愛おしそうに頬を撫でた。そういえば、こんな風に一晩過ごすことは初めてだ。浅野がこんな風に触れてくるのも、初めてかもしれない。
「できることなら、ずっとこうやって僕の腕の中だけに閉じ込めておきたいよ」
驚いて浅野を見ると、ふふと優しく笑って、望の見開いた目の横にそっと触れるようにキスをした。
「そんな顔しないで。きみを捕まえておくなんて、無理だってわかってるから」
それから時計を見やって、望にのし掛かる。いつになく甘えるような浅野の姿に、望の腹の奥の方がキュンと疼いた。
一回がせいぜいなんて嘘だ。
浅野のそれはもう硬く勃起していて、望の腹に擦り付けてくる。
「チェックアウトは十一時。ランチの予約は十一時半。もう一回する時間はたっぷりあるだろう?」
今の時間は九時を少し過ぎたところだ。
少し痛むが、できないほどじゃない。甘えてくる浅野の様子がどこかの駄犬を思い出して、これじゃあ浅野に失礼だと苦笑する。
「昨日は少し激しくし過ぎたからね……優しくするよ」
「ん……あ、んっ……」
優しく蕩かすように。
望のペニスはすっかり張り詰め、浅野の舌に包まれると痛む尻のことなど忘れてしまった。一瞬前までの甘える様子はすっかりなく、いつもの余裕綽々で悠然と構える浅野の姿があるだけだ。後孔をくすぐられ、勝手に腰が動く。浅野の口の中で一回達し、そのあと浅野のペニスを体内に埋められてまたイッた。
セックスのあとは予定どおり、昼食に湯豆腐を食べに行った。
大正時代、町家だった建物を生かしたその建物はいかにもといった風情溢れる佇まいだ。鴨川が臨める景色も素晴らしい。浅野と一緒でなければ、こんなところへ来る機会は一生なさそうだ。
「そういえばさ、浅野さん京都に何の用事だったの。学会か何か」
『湯豆腐と湯葉の懐石』を口に運びながら、望は何となしにたずねた。
そういえば先週は学会と結婚式と両方あって、宮崎に行ったと言っていた。しょっちゅう日本全国飛び回っている人なのだ。
「昨日は専門医の面接官だよ」
「何それ」
「専門性の高い医者のことだよ。それなりの知識・経験が必要なんだ。外科、とか内科とかあるだろう」
「……浅野さんは何の専門なわけ」
「小児アレルギー」
それは結構すごい人なのではと望が慄いていると、「僕がすけべなことばかりしてると思ったかい」と浅野はくつくつ笑った。返す言葉もない。
「これでも昼間はそれなりに仕事をしているんだ。……と言っても、僕の給料なんてせいぜい中小企業の役員クラスだろうね。僕のお金の出所が知りたい?」
「……まあ、気になってはいたよね」
浅野は朗らかに笑んだ。
「僕の実家がドームの近くでね。土地が余っていたから今はコインパーキングなんだ」
副業をしていたとは思いも寄らない。付き合いは長いが、まだまだ浅野について、知らないことがたくさんあるようだ。
「結構いい商売なんだ」と浅野は茶目っ気たっぷりにいたずらっぽく笑った。
昼食のあとは特に観光もせずに京都駅に向かった。
新幹線に乗る前に寄ったスタバで、浅野はカフェラテと期間限定のフラペチーノを買った。といっても、注文をしたのは望だ。ちなみに、フラペチーノは浅野の分である。「僕みたいにおじさんになると、なかなかこういう店にひとりで入るのは恥ずかしいんだよ」と浅野は笑い、嬉しそうにフラペチーノを啜る。浅野の正確な年齢の把握していないが、試験官なんてものはそこそこ老齢した熟練の医師がやるものではないのだろうか。四十代に見える浅野だが、案外年齢はいっているのかもしれない。
そうだ、ベッドサイドにゴミ箱があるのはラブホテルの仕様だ。力尽きてベッドにうつ伏せになると、「捨ててあげるよ」と浅野がティッシュを取り上げた。
「浅野さん……ホント元気だな」
「そんなことないよ? 僕はもう歳だから一回しかできない。その一回を存分に楽しもうと頑張っているんだよ」
「……十分すぎるだろ」
「おや不満かい?」
その口ぶりは暗に「まさかあれだけよがっておいてそんなはずはないだろう」と言っている。
そのとおりだ。
「まさか」と答えると浅野は笑った。
予想外の激しいセックスで、望はくたくただ。「僕はシャワーを浴びてくるけど……」と言うようなことを浅野が言った気がするが、望は気付いたら眠っていた。
気付いたら朝だった。
望は裸のまま眠っていて、広いベッドの隣には浅野がいた。バスローブのままで眠っている。浅野が一応は拭き清めてくれたようだが、なんだか体が気持ち悪い。シャワーを浴びようと体を起こすと、さすがに腰と尻が痛んだ。
「おはよう」と寝起きの掠れた声が聞こえる。
浅野は望の起こした体を抱き寄せると、「目が覚めたとき、隣にアオイがいるなんて。いいもんだね」と愛おしそうに頬を撫でた。そういえば、こんな風に一晩過ごすことは初めてだ。浅野がこんな風に触れてくるのも、初めてかもしれない。
「できることなら、ずっとこうやって僕の腕の中だけに閉じ込めておきたいよ」
驚いて浅野を見ると、ふふと優しく笑って、望の見開いた目の横にそっと触れるようにキスをした。
「そんな顔しないで。きみを捕まえておくなんて、無理だってわかってるから」
それから時計を見やって、望にのし掛かる。いつになく甘えるような浅野の姿に、望の腹の奥の方がキュンと疼いた。
一回がせいぜいなんて嘘だ。
浅野のそれはもう硬く勃起していて、望の腹に擦り付けてくる。
「チェックアウトは十一時。ランチの予約は十一時半。もう一回する時間はたっぷりあるだろう?」
今の時間は九時を少し過ぎたところだ。
少し痛むが、できないほどじゃない。甘えてくる浅野の様子がどこかの駄犬を思い出して、これじゃあ浅野に失礼だと苦笑する。
「昨日は少し激しくし過ぎたからね……優しくするよ」
「ん……あ、んっ……」
優しく蕩かすように。
望のペニスはすっかり張り詰め、浅野の舌に包まれると痛む尻のことなど忘れてしまった。一瞬前までの甘える様子はすっかりなく、いつもの余裕綽々で悠然と構える浅野の姿があるだけだ。後孔をくすぐられ、勝手に腰が動く。浅野の口の中で一回達し、そのあと浅野のペニスを体内に埋められてまたイッた。
セックスのあとは予定どおり、昼食に湯豆腐を食べに行った。
大正時代、町家だった建物を生かしたその建物はいかにもといった風情溢れる佇まいだ。鴨川が臨める景色も素晴らしい。浅野と一緒でなければ、こんなところへ来る機会は一生なさそうだ。
「そういえばさ、浅野さん京都に何の用事だったの。学会か何か」
『湯豆腐と湯葉の懐石』を口に運びながら、望は何となしにたずねた。
そういえば先週は学会と結婚式と両方あって、宮崎に行ったと言っていた。しょっちゅう日本全国飛び回っている人なのだ。
「昨日は専門医の面接官だよ」
「何それ」
「専門性の高い医者のことだよ。それなりの知識・経験が必要なんだ。外科、とか内科とかあるだろう」
「……浅野さんは何の専門なわけ」
「小児アレルギー」
それは結構すごい人なのではと望が慄いていると、「僕がすけべなことばかりしてると思ったかい」と浅野はくつくつ笑った。返す言葉もない。
「これでも昼間はそれなりに仕事をしているんだ。……と言っても、僕の給料なんてせいぜい中小企業の役員クラスだろうね。僕のお金の出所が知りたい?」
「……まあ、気になってはいたよね」
浅野は朗らかに笑んだ。
「僕の実家がドームの近くでね。土地が余っていたから今はコインパーキングなんだ」
副業をしていたとは思いも寄らない。付き合いは長いが、まだまだ浅野について、知らないことがたくさんあるようだ。
「結構いい商売なんだ」と浅野は茶目っ気たっぷりにいたずらっぽく笑った。
昼食のあとは特に観光もせずに京都駅に向かった。
新幹線に乗る前に寄ったスタバで、浅野はカフェラテと期間限定のフラペチーノを買った。といっても、注文をしたのは望だ。ちなみに、フラペチーノは浅野の分である。「僕みたいにおじさんになると、なかなかこういう店にひとりで入るのは恥ずかしいんだよ」と浅野は笑い、嬉しそうにフラペチーノを啜る。浅野の正確な年齢の把握していないが、試験官なんてものはそこそこ老齢した熟練の医師がやるものではないのだろうか。四十代に見える浅野だが、案外年齢はいっているのかもしれない。
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