OC! ~オナクラ~

吉田美野

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筧 義松Ⅲ

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「適当に座って。って言っても、座ることはそこしかないけど。あ、それともベッド行く?」

 たちまち義松が真っ赤になると「冗談だよ」と妖しく微笑んだ。
 どこまで冗談で言っているのかはわからない。あのトイレでの件も、部屋に呼んでくれた意図も。

「まだ酒飲む? ビールとワインだったら冷蔵庫に冷えてるよ。それともコーヒー?」
「じゃあ……コーヒーで……」

 アオイは「オッケー」と機嫌よく返事をすると、ジャケットも脱がずに戸棚から電気ケトルを取り出し湯を沸かしはじめた。
 義松は促されるままにハイチェアに腰掛ける。冷凍庫からコーヒー豆を出すとドリッパーとサーバーを用意している。思ったより本格的なことが始まりそうだ。

「コーヒー、好きなんですか?」
「うん、好き~。あ、だけどドリップは見よう見真似ね? これは麗ちゃんの趣味。随分前だけど引越し祝いでくれて。俺、自分でこれ使うの初めて~」

 その割には手馴れた様子だ。どこからともなくドリップポットを出してくると、ペーパーフィルターにレギュラーコーヒーをセットし、沸いた湯でくるくるとドリップをはじめた。
「いい匂い~」とアオイはやっぱりご機嫌だ。

 淹れたコーヒーを、サーバーから500mlはあろうかという大きなマグカップにどぼどぼと入れ替え、カウンターにドン、と置く。なかなか男らしい。

「はい、どーぞ」
「あ、ありがとう……ございます。いただきます」
「俺と仲間。ね?」

 酔っているわけではなく、義松は目眩がした。
 ここにきて「仲間。ね?」……だと? 可愛い。可愛すぎる。
 キッチンを出て義松の隣に腰を落ち着かせた。ジャケットを脱ぎ、おもむろにハイチェアにかける。当然、Vネックからは鎖骨が覗いている。
「俺にもちょーだいっ」
 義松が一口飲んだあとのマグカップを、アオイは両手で持つと「あちち」と言いながら、コーヒーをちびちび飲んだ。わざとやっているなら、大したものだ。あざとい。あざとすぎる。
 そして義松は、コーヒーをふうふうしているアオイの唇から目が離せない。

 この唇が――……。

 ふと視線を感じ、義松はハッとした。アオイがマグカップを両手で包み込んだまま、こちらを見ている。おかしそうに、目を細めて。

 義松は無理矢理視線を逸らした。無理矢理、話題も逸らした。

「それにしても、本当に何もない部屋ですね……」

 アオイがくすりと笑う。
 彼にはいつも、心の内を何もかも見透かされているかのような気分になる。そんなわけはないとわかっているが、彼にはいつまで経っても頭が上がらないだろう。年下のアオイに、つい敬語を使い続けてしまうのもそういうわけだ。

「だって広すぎるんだもん、ここ」
「じゃあ何でこんなにいいマンションに住んでるんですか」
「会社が近いんだ。前のアパートから通えないこともなかったんだけど。あの部屋はできれば早く出たくって、あまりじっくり選んでる暇がなかったんだよ」
「……もしかしなくても、アオイさんめちゃくちゃお金持ちですか? 別に生活困ってるわけじゃないですよね……なのになんであんな店でバイトなんか――」

 そういえば、アオイがあの店で働く理由はなんだろう。

 勝手なイメージだが、ああいった手合いの店で働く人たち、というのはお金のためにはじめるのだとばかり思っていた。借金を返すためにキャバクラや、ソープで働く……なんて話はアングラなドラマなんかではよく目にする。アオイは、違うのだろうか。元No.1だと言うし、結構稼いできたはず。今は月に一、二度の出勤だが、予約ですべて埋まるアオイの収入はそれだけでも結構な金額になるはずだ。
 アオイは義松をジッと見つめ「別に、金には困ってないよ」と答えた。その表情からはやはり感情が読めない。

「じゃあ何で……」
「もう趣味みたいなもんだよ。あの店で働くのはさ」

 以前「両方いけちゃう」と言っていたがそういうことなのだろうか。手練の年配の男性と大人の遊びをしたり、義松のような初心な男をからかったり、そういうことが趣味なのだろうか。アオイが多くの客から求められていることはわかっている。
 だがそれでも、押しつぶされそうなほど胸が痛んだ。

「そんな切ない顔で見つめないでよ~。ほんと筧クン俺のこと好きね?」

 義松の顔を見て、アオイが茶化すように笑った。
 もともと、嘘を吐いたり隠しごとをしたり、というのは得意ではない。ポーカーフェイスとは最も無縁だろう。アオイに恋焦がれていることなんて、とっくに本人にバレバレだ。
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