OC! ~オナクラ~

吉田美野

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筧 義松Ⅲ

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「ぐっ、あッ! い、イぐッ……! あ、あああッ!」

 ビューッ、ビューッと、一度目二度目より薄い精子を、一度目二度目より勢いよく放つ。

「あぅ、あ、う……」
 ガクガク震えながら放心状態の義松を、アオイはぎゅっと抱き締めた。

「上手にイけたね? 可愛い……」

 何を言っているんだ、可愛いのはアオイのほうだ。

 荒い呼吸の合間に、それを言葉にしようと口を開く。
 しかし喘ぎ過ぎた義松の口はひどく乾いていて、開いた瞬間、唇が切れるようなピリリととした刺激が走った。
 結局音となったのは、あぅあぅという呻き声だけだ。

 アオイは自身の着衣の乱れを直すと、ペニスからコックリングを外し、ぐったりと動かない義松の体を手早く綺麗に拭いてくれた。

「お茶持ってくる、ちょっと待ってね」

 パタンと扉が閉まり、静かな部屋に取り残されると、真っ白だった頭の中にようやく情報が流れ込んでくる。このまま眠ってしまいたいほどの倦怠感と快楽の名残を感じながらも、義松はよろよろと起き上がった。

 動いた拍子に、尿道に残っていた精子がトロリと溢れる。

 ウエットティッシュで敏感な先端から溢れたそれを、慎重にちょんちょんと優しく拭っていると……今更ながら、恥ずかしくなってきた。
 相当大きな声で喘ぎ、叫んだ。廊下や隣の部屋どころか店中に聞こえていたかもしれない。店の出入り口はひとつしかない。帰り道、どうしたって店のボーイと顔を合わせる。今受付にいるのは加藤だろうか、阿部だろうか。どちらにしたって気まずいことに変わりはない。

「おまたせ」
 パンツを穿こうと手を伸ばしたとき、不意に扉が開く。
 紙コップを持ったアオイが部屋に戻ってきた。
「はいお茶」
「あ、どうも……」

 喘ぎまくったせいで喉がカラカラだった。
 より小さくなったペニスがぷるんと揺れると、コップを差し出そうとしていたアオイの視線が〝それ〟に注がれる。赤面した義松は慌ててパンツをはき、受け取った紙コップの中身を一気に飲み干した。

「もう一杯持ってこようか?」
「いや……大丈夫です」

 濡れた口元を手の甲で雑に拭う。声はまだ掠れていた。
 空の紙コップを受け取りながら「そう?」とアオイが小首を傾げて意味深に微笑んだ。そんな様子まで可愛いなんて、どこまで罪な男なのだろう。

「な、今日どこ行くか決めた?」
「……えっ?」

 アオイの顔に見惚れていたせいで反応が遅れた。
 目の前には頬をぷっくと膨らませたアオイが、わざとらしいが大変可愛らしく拗ねている。おそろしく可愛い。
「なんだよ、今日は肉の日じゃないの? ……その気だったのは俺だけ?」
「えっ、あ、いや! あの! 違います! その気です! 俺もめちゃくちゃその気で来ました!」

 しどろもどろに答えると、アオイは満足そうにふふんと笑った。
 〝スマートにさりげなく〟……脳内で何度もこのあとアオイを誘う様子をシミュレーションしたというのに。結局こうなるのか。かっこ悪いったらない。
 だが、アオイと今日もアフター(と、言っていいのかはわからないが)だ。結果オーライとはこういうことだろう。
 第一、アオイの前で格好がつかないのは、残念ながら今にはじまった話ではないのだ。

「はい、今日もありがとうございました」

 義松が着替えている間に、アオイは上機嫌でいつものように名刺をサラサラと書いて義松に渡した。アオイ直筆のメッセージ入りの名刺は、今日の分で四枚目だ。名刺は五枚集めると指名料が無料タダになるというシステムがあるが、アオイの直筆のメッセージ入りのこのカードを、義松はもったいなくて使えそうもない。義松はそれを大事に大事に財布の中にしまった。

「忘れモンない? また十五分くらいで店出るからさ、待っててよ」
「は、はいっ。わかりましたっ」
「ついでに店も探しといて?」
「あ、何系がいいですか? 焼肉ですか?」
「美味い肉とビールがあれば何でも。筧クンのセンスにすべて任せた」
 小首を傾げ「期待してるね」と微笑んだアオイに、それは営業用の顔だとわかっていても、義松はトキメキを禁じ得ない。

 だが与えられた任務の責任は重大だ。
 まさか店が気に入らないから帰る、なんてことはないだろうが、ひょっとしたら次はないかもしれない。
 お陰様で、義松のお帰りを満面の笑顔で見送った加藤に、気まずさを覚える余裕もなかった。



 すっかりお馴染みとなった向かいのコンビニの雑誌コーナーで、立ち読みをしながらアオイを待つ。迷わず「TOKYO NIKU特集」なる見出しをでかでかと掲げるグルメ雑誌を広げた。まさに今の義松にうってつけの特集ではないか。

 美味い熟成肉を食わせる鉄板料理屋や、A4ランクの和牛にこだわった焼肉屋。比内地鶏の焼き鳥屋、猪鍋を食わせてくれるバー。ありとあらゆる肉特集だ。雑誌をめくる反対の手でスマホを駆使し、グルメ情報サイトで当該の店の評価を調べる。

 アクセス・評価・価格帯(まさかあのアオイを連れて行くのに、安すぎる店ではいけない!)すべてを総合的に判断した結果、よさそうな焼き鳥屋を見つけた。焼き鳥屋といっても小洒落た雰囲気の全席半個室。

 よし、ここだ。

 心に決めたそのとき、アオイがエルミタージュのビルから出てくる姿が見えた。モコモコのボアのジャケットを着て、フリース素材のスヌードに顔を埋めている。控えめに言って……とても可愛い。
 義松はそっと雑誌を棚に戻してコンビニを出た。

「おまたせ。筧クン、店決まった?」
「はい、焼き鳥屋でもいいですか?」
「お~っ、いいね、焼き鳥!」

 念のため店に電話をすると、ちょうど席に空きが出たところのようだった。
 目当ての店は一駅隣だ、時間にして十五分ほどなので歩くことにした。
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