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シン
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部屋に戻り卵粥を作っていると、ベッドから亘を呼ぶ声が聞こえた。
どうやら目を覚ましたらしい。
「望? 起きた?」
「たった今……布団、なんか重……」
「あ、悪い。俺ん家から追加の毛布持ってきた。お前すごい熱あるぞ」
「ん……マジか。なんかダルいと思った……」
「今お粥作ってるから。食えそう? ていうか食えよ。食わないと薬飲めないし」
望はしばらくぼんやりとしていたが、ふ、と頬を緩め「今の亘、おかんって感じ」と小さく笑った。
「おう、今だけはおかんになってやる」
枕を背中に入れて上体を起こさせる。お粥の椀を渡してやるつもりだったが、先手を打たれた。
「ん」
「え、なに。その口。あーんしろってこと?」
「ん」
口を開いて待っている望に、亘は苦笑を浮かべる。
「甘えんぼかよ」
熱で弱っているからだろうか。こんな望を見るのは初めてだ。
意外に食欲はあるのか、匙ですくったお粥を口元まで持っていくと、望は自分でふぅふぅしながらパクパク食べた。そんな様子を可愛いと思い、そして安心した。これだけ食欲があるなら、すぐに元気になるに違いない。
望はあっという間に粥を完食した。
「まだ食える? グレープフルーツならあるよ」
まだ食べたりなかったのか「ん、食う」と即答する。
「オッケー、待ってろ」
しかしポップに踊らされて買ったはいいが、グレープフルーツの切り方なんてわからない。みかんのように簡単には剥けない。仕方がないので半分にカットし、自分ですくって食べてもらおうと、スプーンと一緒に持っていった。
それを見た望は目を丸くして、そのあと声を上げて笑った。
「え、なに……?」
何かまずかっただろうか。
心配になって訊ねると、望は「おかんじゃなくて、ばあちゃんかよ」と笑っている。
「俺のばあちゃん、俺が熱出すと絶対グレープフルーツ食わせてきたんだ。こうやって半分にカットしてさ、ハチミツかけて。でもハチミツかけても苦くてさ。こうやってスプーンでほじって食べるんだ、すげー懐かしい」
今度はちゃんと皿を受け取って、自分で中身をくり抜いてせっせと食べる。亘が「美味い?」と聞くと、へにゃっと笑って「ありがと」と答えた。
「俺グレープフルーツって初めて美味いと思った」
「そりゃよかった。薬は?」
「ん、いいや。いっぱい食ったし、寝る。風邪じゃないもん」
過労という自覚はあったらしい。
「うん、それがいいよ。おやすみ」
亘は背中に挟んでいた枕を抜いてやった。
望はもぞもぞと布団に潜り込み、「亘、ありがと。お前がいてよかった」だなんて、めずらしく殊勝なことを言う。
「いいから早く寝ろって」
亘は幾分か安心して、口元に笑みまで浮かべると望の頭をくしゃりと優しくひと撫でし、望の部屋をあとにした。
どうやら目を覚ましたらしい。
「望? 起きた?」
「たった今……布団、なんか重……」
「あ、悪い。俺ん家から追加の毛布持ってきた。お前すごい熱あるぞ」
「ん……マジか。なんかダルいと思った……」
「今お粥作ってるから。食えそう? ていうか食えよ。食わないと薬飲めないし」
望はしばらくぼんやりとしていたが、ふ、と頬を緩め「今の亘、おかんって感じ」と小さく笑った。
「おう、今だけはおかんになってやる」
枕を背中に入れて上体を起こさせる。お粥の椀を渡してやるつもりだったが、先手を打たれた。
「ん」
「え、なに。その口。あーんしろってこと?」
「ん」
口を開いて待っている望に、亘は苦笑を浮かべる。
「甘えんぼかよ」
熱で弱っているからだろうか。こんな望を見るのは初めてだ。
意外に食欲はあるのか、匙ですくったお粥を口元まで持っていくと、望は自分でふぅふぅしながらパクパク食べた。そんな様子を可愛いと思い、そして安心した。これだけ食欲があるなら、すぐに元気になるに違いない。
望はあっという間に粥を完食した。
「まだ食える? グレープフルーツならあるよ」
まだ食べたりなかったのか「ん、食う」と即答する。
「オッケー、待ってろ」
しかしポップに踊らされて買ったはいいが、グレープフルーツの切り方なんてわからない。みかんのように簡単には剥けない。仕方がないので半分にカットし、自分ですくって食べてもらおうと、スプーンと一緒に持っていった。
それを見た望は目を丸くして、そのあと声を上げて笑った。
「え、なに……?」
何かまずかっただろうか。
心配になって訊ねると、望は「おかんじゃなくて、ばあちゃんかよ」と笑っている。
「俺のばあちゃん、俺が熱出すと絶対グレープフルーツ食わせてきたんだ。こうやって半分にカットしてさ、ハチミツかけて。でもハチミツかけても苦くてさ。こうやってスプーンでほじって食べるんだ、すげー懐かしい」
今度はちゃんと皿を受け取って、自分で中身をくり抜いてせっせと食べる。亘が「美味い?」と聞くと、へにゃっと笑って「ありがと」と答えた。
「俺グレープフルーツって初めて美味いと思った」
「そりゃよかった。薬は?」
「ん、いいや。いっぱい食ったし、寝る。風邪じゃないもん」
過労という自覚はあったらしい。
「うん、それがいいよ。おやすみ」
亘は背中に挟んでいた枕を抜いてやった。
望はもぞもぞと布団に潜り込み、「亘、ありがと。お前がいてよかった」だなんて、めずらしく殊勝なことを言う。
「いいから早く寝ろって」
亘は幾分か安心して、口元に笑みまで浮かべると望の頭をくしゃりと優しくひと撫でし、望の部屋をあとにした。
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