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筧 義松
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このタイミングで鳴るのかよ、と落胆する義松を「はい、おしまい~。時間だよ。早く仕舞いなよ、ソレ」とつっけんどんな口調で押しのけた。
ほんのりアオイの頬が染まっているのは、気のせいだろうか。
「アオイさんも……少しは興奮した?」
「そんなわけないでしょ。そんな粗品で、俺が興奮するわけ」
「粗品って酷いな……。でもアオイさん、勃ってる。勃っちゃったときは、どうするんですか? ムラムラしないの?」
「うるさい、ほっとけ。それより、あんたのせいで腹減った」
「えぇ? 俺のせい?」
理不尽な言いがかりに苦笑しながら、義松は押し付けられたティッシュで自身の精子濡れになったペニスを拭いた。
「ラーメン食いに行くぞ」
「え? ……えっ?」
「なに。童貞包茎くんに、日曜の夜に生意気にも予定があるって?」
「いや、ないですけど……包茎は関係ないです。ってゆーか! 童貞じゃありません!」
「ラーメン嫌い?」
「嫌いじゃ――」
「じゃあいいじゃん。決まり。あんたの奢り、な?」
するりと首に腕を回されぎょっとする。これはもう、キスをする距離だ。
目の前に迫ったアオイの美麗な顔が、な? と小首を傾げた。落ち着きはじめていた下半身がふたたび滾るのを感じる。
ドギマギしながら義松がこくりと頷くと、アオイは満足げに笑った。
「着替えて部屋片づけたら今日はもう終わりだから。多分十五分後くらい。適当に近くのコンビニとかで時間潰しといてよ」
そして義松は今、店の近くのコンビニで立ち読みをしながら時間を潰していた。
自分は一体何をしているんだろうか。
言われた通り、律儀にアオイを待っているものの、本当に一緒にラーメン屋に行くのだろうか。
……何のために?
いやそれはラーメンを食すために他ならないけれど、アオイは何のために義松を誘ったのだろうか。
客がキャストの連絡先を聞いたり、店の外で会おうと迫ったりというのは、他の店でもよくある話だ。しかし、連絡先をすっとばしていきなり飯。それも、お誘いは向こうから。しかも、ラーメン。
残念だが、色っぽい期待はできなさそうだ。
それでも義松はウキウキしながら、アオイが出てくるのを待っていた。
「おまたせ」
十五分を過ぎたところで義松は立ち読みを切り上げ、コンビニの前でアオイを待つことにした。
ほどなくして、目の前の信号が青になり、普段着に着替えたアオイが横断歩道の向こうから小走りでやってくる。
トップスはシンプルな黒のTシャツ。ボトムは細身のジーンズ。
本当に普通のオトコノコだ。
店では惜しげもなく晒していた美脚が、すっぽりと衣類に包まれている事に、少しばかり落胆する。
それと同時に、普通だったら見られるはずもない普段のアオイの姿に、義松は胸をときめかせた。
「そんなに待ってないです。ちょうど十五分くらいですよ」
「ん。じゃ、行くか」
……なんだこのやり取り。ちょっとデートみたいじゃないか?
「バイトの後、よく来るんだ、ここ」と、連れてきてくれたのは「エルミタージュ」がある通りから一本細い道に入った場所にある店だった。
ひなびた外観からは想像できないお洒落な内装だ。テーブル一つ一つの間隔も広くゆったりした作りで、おまけに中庭まである。
「ここ、本当にラーメン屋なんですか?」
「夜は創作中華居酒屋みたいな感じかな。俺、焦がし味噌」
席につくなり、メニューも見ずにアオイは水を持ってきてくれた店員の女の子に告げた。
義松は慌ててメニューを開きながらアオイに「何がオススメなんですか」とたずねる。
「何食べても美味いけど、最初は焦がし醤油か焦がし味噌だな」
「あ、じゃあ俺、スペシャル焦がし醤油で」
「いいチョイスじゃん。あっ、餃子。なぁ、半分こしよ? すみませ~ん、餃子一人前も~」
…… は ん ぶ ん こ し よ ?
何それ。可愛すぎるだろ。
大学生のバイトらしい女の子は「はいっ、ありがとうございます!」と気持ちのいい返事をして、にっこりと笑った。
「半分こ」に悶えていた義松は「あの子、可愛いんだよな~」と、頬杖をついて女の子の後ろ姿を見送るアオイの発言に、ハッと我に返った。
「昔っから、ここの店女の子が可愛くってさ~。バイトの後疲れてお腹空かせてくると、ほんと身も心も満たされるのよ」
締まりのない顔で笑うアオイに、何となくムッとする。自分の声がどこかトゲトゲしくなっている事を自覚しつつ、義松はたずねた。
「アオイさんは、やっぱり女の人が好きなんですよね?」
あんな店で働いているけど、そうじゃなければあの若い女の子にデレデレしたりしないだろう。
しかしアオイはきょとんして「いんや?」と言った。
ほんのりアオイの頬が染まっているのは、気のせいだろうか。
「アオイさんも……少しは興奮した?」
「そんなわけないでしょ。そんな粗品で、俺が興奮するわけ」
「粗品って酷いな……。でもアオイさん、勃ってる。勃っちゃったときは、どうするんですか? ムラムラしないの?」
「うるさい、ほっとけ。それより、あんたのせいで腹減った」
「えぇ? 俺のせい?」
理不尽な言いがかりに苦笑しながら、義松は押し付けられたティッシュで自身の精子濡れになったペニスを拭いた。
「ラーメン食いに行くぞ」
「え? ……えっ?」
「なに。童貞包茎くんに、日曜の夜に生意気にも予定があるって?」
「いや、ないですけど……包茎は関係ないです。ってゆーか! 童貞じゃありません!」
「ラーメン嫌い?」
「嫌いじゃ――」
「じゃあいいじゃん。決まり。あんたの奢り、な?」
するりと首に腕を回されぎょっとする。これはもう、キスをする距離だ。
目の前に迫ったアオイの美麗な顔が、な? と小首を傾げた。落ち着きはじめていた下半身がふたたび滾るのを感じる。
ドギマギしながら義松がこくりと頷くと、アオイは満足げに笑った。
「着替えて部屋片づけたら今日はもう終わりだから。多分十五分後くらい。適当に近くのコンビニとかで時間潰しといてよ」
そして義松は今、店の近くのコンビニで立ち読みをしながら時間を潰していた。
自分は一体何をしているんだろうか。
言われた通り、律儀にアオイを待っているものの、本当に一緒にラーメン屋に行くのだろうか。
……何のために?
いやそれはラーメンを食すために他ならないけれど、アオイは何のために義松を誘ったのだろうか。
客がキャストの連絡先を聞いたり、店の外で会おうと迫ったりというのは、他の店でもよくある話だ。しかし、連絡先をすっとばしていきなり飯。それも、お誘いは向こうから。しかも、ラーメン。
残念だが、色っぽい期待はできなさそうだ。
それでも義松はウキウキしながら、アオイが出てくるのを待っていた。
「おまたせ」
十五分を過ぎたところで義松は立ち読みを切り上げ、コンビニの前でアオイを待つことにした。
ほどなくして、目の前の信号が青になり、普段着に着替えたアオイが横断歩道の向こうから小走りでやってくる。
トップスはシンプルな黒のTシャツ。ボトムは細身のジーンズ。
本当に普通のオトコノコだ。
店では惜しげもなく晒していた美脚が、すっぽりと衣類に包まれている事に、少しばかり落胆する。
それと同時に、普通だったら見られるはずもない普段のアオイの姿に、義松は胸をときめかせた。
「そんなに待ってないです。ちょうど十五分くらいですよ」
「ん。じゃ、行くか」
……なんだこのやり取り。ちょっとデートみたいじゃないか?
「バイトの後、よく来るんだ、ここ」と、連れてきてくれたのは「エルミタージュ」がある通りから一本細い道に入った場所にある店だった。
ひなびた外観からは想像できないお洒落な内装だ。テーブル一つ一つの間隔も広くゆったりした作りで、おまけに中庭まである。
「ここ、本当にラーメン屋なんですか?」
「夜は創作中華居酒屋みたいな感じかな。俺、焦がし味噌」
席につくなり、メニューも見ずにアオイは水を持ってきてくれた店員の女の子に告げた。
義松は慌ててメニューを開きながらアオイに「何がオススメなんですか」とたずねる。
「何食べても美味いけど、最初は焦がし醤油か焦がし味噌だな」
「あ、じゃあ俺、スペシャル焦がし醤油で」
「いいチョイスじゃん。あっ、餃子。なぁ、半分こしよ? すみませ~ん、餃子一人前も~」
…… は ん ぶ ん こ し よ ?
何それ。可愛すぎるだろ。
大学生のバイトらしい女の子は「はいっ、ありがとうございます!」と気持ちのいい返事をして、にっこりと笑った。
「半分こ」に悶えていた義松は「あの子、可愛いんだよな~」と、頬杖をついて女の子の後ろ姿を見送るアオイの発言に、ハッと我に返った。
「昔っから、ここの店女の子が可愛くってさ~。バイトの後疲れてお腹空かせてくると、ほんと身も心も満たされるのよ」
締まりのない顔で笑うアオイに、何となくムッとする。自分の声がどこかトゲトゲしくなっている事を自覚しつつ、義松はたずねた。
「アオイさんは、やっぱり女の人が好きなんですよね?」
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