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筧 義松
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先月、筧義松(29)は、生まれて初めて男にヌいてもらうという経験をした。
職場の風俗通の先輩に紹介してもらったゲイ向けオナクラ「エルミタージュ」、そこでたまたま接客をしてくれたアオイという美麗な青年(ただし中身は結構ないい性格をしている)――彼にかけられた呪いの言葉に、義松は悩まされていた。
『きっとまた、俺に会いたくなるはずだから』
何を馬鹿な、と一笑に付すつもりだったのに、日を追うごとにその呪いの効力は強まっていくようであった。
二度もヌいてもらって帰宅したその日の晩、義松は早速アオイを思い出し更に二度ヌいた。そこから三日にあげずアオイを想像してヌいた。
そして約一か月後の土曜日、義松はエルミタージュに来ていた。
しかし、目の前に広げられた「現在ご案内可能」だというキャストのプロフィールシートの中に、アオイはなかった。
「あの……ちなみにアオイさんって、今日は……」
義松が意を決してたずねてみると、元気のよい返事が返ってきた。
「あー、アオイさんっすか! アオイさんは今日出勤じゃないですよ!」
前回受付にいた、品のある四十格好の男ではない。まだ二十代と思しき明るい茶髪の青年だった。八重歯がチャームポイントの、人好きのする懐っこい笑みが愛嬌のある男だ。
「アオイさんですね! 今日は出勤じゃないんですけど、明日は出勤予定ですよ」
「そうなんですね……あの、ちなみに予約ってできますか」
「申し訳ありません、ご予約は当日お電話のみでの受付なんですよ」
男は心底申し訳なさそうな顔で詫びたあと、なぜが得意げに言った。
「ちなみに……アオイさん、出勤日数少なくてレアな上に超人気です。あっと言う間に予約で埋まりますよ! 何せ、元No.1ですから」
たしかに、前回案内されたときも「たまたまキャンセルが出た」と言っていた。もしかして、あの日アオイに出会ったのはものすごい確率のラッキーだったのだろうか。
義松が少し考え込んでいると「お客様、いかがなさいますか?」と八重歯の男が問うた。認めたくはないが、義松はただ男にヌいてもらいにきたのではない。ただ、アオイにヌいてもらいにきたのだ。
「あー……えっと、出直します。明日」
「かしこまりました! ではまた明日、お待ちしております」
八重歯の男がにっかりと笑う。その顔には「そう言うと思ったよ」と書いてあった。
前回フリーで入れたのは、予約がたまたまキャンセルになったからだ。予約料は通常料金にプラスして二千円。だが、予約しないとアオイには会えない。
『店のオープンは十一時です。電話は十時半から繋がりますよ』と、受付の男が教えてくれた通り、義松は翌日の日曜日。朝の十時半ピッタリに電話をかけた。オナクラ「エルミタージュ」へ、アオイの予約をとるために。
ところが、どうしたことか。電話がまったく繋がらない。十時半に電話をかけはじめ、ようやく繋がったのは掛け直して五回目のこと。時刻は十一時を過ぎていた。
すでに大部分は予約で埋まっており、唯一取れたのは18時からの30分コースだけ。昨日の男の「あっという間に予約で埋まります」という言葉は、煽り文句でもなんでもなく、事実だったわけだ。
たった三十分でも予約が取れたことに義松は安堵した。
それと同時に、繋がらない電話にせっせと何度もトライする男が他にも何人もいるのかと思うと恐ろしくなる。
なにが恐ろしいって、大の男を〝そう〟させてしまう、アオイが、だ。
「いらっしゃい。やっぱり来たね」
初めてのときと同じように、カーテンの向こう側に案内される。
義松の顔を見るや、したり顔で笑うアオイに感じるのは子憎たらしさ半分、謎の胸の高鳴り半分。
「久しぶりだね。俺を思い出してあれから何回くらいヌいた?」
――それはもう数え切れないほど。
しかし素直に答えられるわけがなく……むっつりと黙り込んだままの義松に、アオイは薄く笑った。答えを聞くまでもなく、その表情は『わかっているよ』とも言いたげで、義松は何とも言えずばつが悪い。
案内された部屋に入るなり、アオイは義松の首に腕を回し、ぐっと体を寄せてきた。耳元で囁くアオイからは、香水の匂いとは違う……これは柔軟剤の香りだろうか? 淡い華やかな匂いがする。
「でも、想像だけじゃ物足りなかったでしょ?」
肯定するのは癪だが、黙ってこくりと頷くと、アオイは少し体を離し義松の顔を覗き込む。
例によって小首を傾げ、小悪魔的な笑顔で「素直でよろしい」と。
そしておもむろに義松の股間に手を伸ばすと、その膨らみをやわやわと揉む。
「あれ、ちょっと、もう勃ってるんだけど」
「だって、アオイさんが……近いから……」
「おやおや。すっかりえっちな体に……ああ、元からか。脱がせてあげる。今日は三十分しかないんだから。短いけど濃密な時間を提供してあげるよ」
アオイはカチャカチャとベルトを外し、下着ごとズボンをずるんと下ろした。ズボンは足首まですとんとすべり落ち、控えめに皮を被ったままのペニスがぷるんと顔を見せる。
「相変わらず可愛らしいおちんちんしてるね」
アオイは嬉しそうに笑って、すでに先走りでぐっしょり濡れた先端に指を這わせた。
先っぽばかりをちゅくちゅくと音を立てていじめられると、それだけで腰が砕けるほど気持ちがいい。
「あっ……アオイ、さんっ……!」
「ん? 何?」
「そんな……いきなりっ……」
シャツの裾から忍び込んだアオイの反対の掌がいたずらに乳首をきゅっと抓ると、義松の肩はビクンと跳ねた。
「んっ……あ!」
「きもち? 気持ちいいよね、もっと気持ちよくしてあげるね」
義松の腰がガクガクと震えだし、立っていられなくなるとアオイはますます嬉しそうに笑う。
「いいよ? ベッド、横になっても」
それまでぴったりと寄り添っていた義松からアオイがすっと離れた。そして、ベッドに向かって突き放す。
「う、わ……っ!」
足首の辺りで絡まったズボンがもつれ、たたらを踏んだ義松は、そのままバランスを崩しベッドに後ろから倒れた。
「前回オプション料金もらいすぎちゃったの、ちょっと気にしてたんだ。その分今日はサービスしてあげる」
「えっ……何を、あ、ぅ、あっ……!」
倒れた義松にのしかかったアオイは、シャツをぺろんとめくり上げ、露わになった肌に舌を這わせる。つんと尖った乳首に舌先が掠めると、義松は大袈裟なほど肩を震わせた。
「しょっぱい……」
「あ……今日、暑かったから……んっ」
「気持ちイイ? おっぱい感じてる? キミ、やっぱり素質あるよ」
今回義松が追加したオプションは「①上半身ヌード生乳おさわり」と「②おっぱい舐め」だけで「③ちくび舐め(お客様が受け身)」は選択していないはずだ。
アオイは構わず巧みな舌遣いで左右の乳首をつんつんに尖らせると、指先との合わせ技で散々にこね回す。限界まで張り詰めた義松のペニスは、ぐしゅぐしゅに濡れて切なげに震えていた。
「あ……っ! やぁ……アオイさん……そんなおっぱいばっかり弄らないでください……」
「すっげー濡れてるよ、キミ。おっぱいだけでイけるようになるんじゃない?」
アオイは喉の奥でくつくつと笑って、唇で啄むように乳首を引っ張る。
……おっぱいだけでイけるようになる? そんなこと、ありえるのだろうか。
先月、筧義松(29)は、生まれて初めて男にヌいてもらうという経験をした。
職場の風俗通の先輩に紹介してもらったゲイ向けオナクラ「エルミタージュ」、そこでたまたま接客をしてくれたアオイという美麗な青年(ただし中身は結構ないい性格をしている)――彼にかけられた呪いの言葉に、義松は悩まされていた。
『きっとまた、俺に会いたくなるはずだから』
何を馬鹿な、と一笑に付すつもりだったのに、日を追うごとにその呪いの効力は強まっていくようであった。
二度もヌいてもらって帰宅したその日の晩、義松は早速アオイを思い出し更に二度ヌいた。そこから三日にあげずアオイを想像してヌいた。
そして約一か月後の土曜日、義松はエルミタージュに来ていた。
しかし、目の前に広げられた「現在ご案内可能」だというキャストのプロフィールシートの中に、アオイはなかった。
「あの……ちなみにアオイさんって、今日は……」
義松が意を決してたずねてみると、元気のよい返事が返ってきた。
「あー、アオイさんっすか! アオイさんは今日出勤じゃないですよ!」
前回受付にいた、品のある四十格好の男ではない。まだ二十代と思しき明るい茶髪の青年だった。八重歯がチャームポイントの、人好きのする懐っこい笑みが愛嬌のある男だ。
「アオイさんですね! 今日は出勤じゃないんですけど、明日は出勤予定ですよ」
「そうなんですね……あの、ちなみに予約ってできますか」
「申し訳ありません、ご予約は当日お電話のみでの受付なんですよ」
男は心底申し訳なさそうな顔で詫びたあと、なぜが得意げに言った。
「ちなみに……アオイさん、出勤日数少なくてレアな上に超人気です。あっと言う間に予約で埋まりますよ! 何せ、元No.1ですから」
たしかに、前回案内されたときも「たまたまキャンセルが出た」と言っていた。もしかして、あの日アオイに出会ったのはものすごい確率のラッキーだったのだろうか。
義松が少し考え込んでいると「お客様、いかがなさいますか?」と八重歯の男が問うた。認めたくはないが、義松はただ男にヌいてもらいにきたのではない。ただ、アオイにヌいてもらいにきたのだ。
「あー……えっと、出直します。明日」
「かしこまりました! ではまた明日、お待ちしております」
八重歯の男がにっかりと笑う。その顔には「そう言うと思ったよ」と書いてあった。
前回フリーで入れたのは、予約がたまたまキャンセルになったからだ。予約料は通常料金にプラスして二千円。だが、予約しないとアオイには会えない。
『店のオープンは十一時です。電話は十時半から繋がりますよ』と、受付の男が教えてくれた通り、義松は翌日の日曜日。朝の十時半ピッタリに電話をかけた。オナクラ「エルミタージュ」へ、アオイの予約をとるために。
ところが、どうしたことか。電話がまったく繋がらない。十時半に電話をかけはじめ、ようやく繋がったのは掛け直して五回目のこと。時刻は十一時を過ぎていた。
すでに大部分は予約で埋まっており、唯一取れたのは18時からの30分コースだけ。昨日の男の「あっという間に予約で埋まります」という言葉は、煽り文句でもなんでもなく、事実だったわけだ。
たった三十分でも予約が取れたことに義松は安堵した。
それと同時に、繋がらない電話にせっせと何度もトライする男が他にも何人もいるのかと思うと恐ろしくなる。
なにが恐ろしいって、大の男を〝そう〟させてしまう、アオイが、だ。
「いらっしゃい。やっぱり来たね」
初めてのときと同じように、カーテンの向こう側に案内される。
義松の顔を見るや、したり顔で笑うアオイに感じるのは子憎たらしさ半分、謎の胸の高鳴り半分。
「久しぶりだね。俺を思い出してあれから何回くらいヌいた?」
――それはもう数え切れないほど。
しかし素直に答えられるわけがなく……むっつりと黙り込んだままの義松に、アオイは薄く笑った。答えを聞くまでもなく、その表情は『わかっているよ』とも言いたげで、義松は何とも言えずばつが悪い。
案内された部屋に入るなり、アオイは義松の首に腕を回し、ぐっと体を寄せてきた。耳元で囁くアオイからは、香水の匂いとは違う……これは柔軟剤の香りだろうか? 淡い華やかな匂いがする。
「でも、想像だけじゃ物足りなかったでしょ?」
肯定するのは癪だが、黙ってこくりと頷くと、アオイは少し体を離し義松の顔を覗き込む。
例によって小首を傾げ、小悪魔的な笑顔で「素直でよろしい」と。
そしておもむろに義松の股間に手を伸ばすと、その膨らみをやわやわと揉む。
「あれ、ちょっと、もう勃ってるんだけど」
「だって、アオイさんが……近いから……」
「おやおや。すっかりえっちな体に……ああ、元からか。脱がせてあげる。今日は三十分しかないんだから。短いけど濃密な時間を提供してあげるよ」
アオイはカチャカチャとベルトを外し、下着ごとズボンをずるんと下ろした。ズボンは足首まですとんとすべり落ち、控えめに皮を被ったままのペニスがぷるんと顔を見せる。
「相変わらず可愛らしいおちんちんしてるね」
アオイは嬉しそうに笑って、すでに先走りでぐっしょり濡れた先端に指を這わせた。
先っぽばかりをちゅくちゅくと音を立てていじめられると、それだけで腰が砕けるほど気持ちがいい。
「あっ……アオイ、さんっ……!」
「ん? 何?」
「そんな……いきなりっ……」
シャツの裾から忍び込んだアオイの反対の掌がいたずらに乳首をきゅっと抓ると、義松の肩はビクンと跳ねた。
「んっ……あ!」
「きもち? 気持ちいいよね、もっと気持ちよくしてあげるね」
義松の腰がガクガクと震えだし、立っていられなくなるとアオイはますます嬉しそうに笑う。
「いいよ? ベッド、横になっても」
それまでぴったりと寄り添っていた義松からアオイがすっと離れた。そして、ベッドに向かって突き放す。
「う、わ……っ!」
足首の辺りで絡まったズボンがもつれ、たたらを踏んだ義松は、そのままバランスを崩しベッドに後ろから倒れた。
「前回オプション料金もらいすぎちゃったの、ちょっと気にしてたんだ。その分今日はサービスしてあげる」
「えっ……何を、あ、ぅ、あっ……!」
倒れた義松にのしかかったアオイは、シャツをぺろんとめくり上げ、露わになった肌に舌を這わせる。つんと尖った乳首に舌先が掠めると、義松は大袈裟なほど肩を震わせた。
「しょっぱい……」
「あ……今日、暑かったから……んっ」
「気持ちイイ? おっぱい感じてる? キミ、やっぱり素質あるよ」
今回義松が追加したオプションは「①上半身ヌード生乳おさわり」と「②おっぱい舐め」だけで「③ちくび舐め(お客様が受け身)」は選択していないはずだ。
アオイは構わず巧みな舌遣いで左右の乳首をつんつんに尖らせると、指先との合わせ技で散々にこね回す。限界まで張り詰めた義松のペニスは、ぐしゅぐしゅに濡れて切なげに震えていた。
「あ……っ! やぁ……アオイさん……そんなおっぱいばっかり弄らないでください……」
「すっげー濡れてるよ、キミ。おっぱいだけでイけるようになるんじゃない?」
アオイは喉の奥でくつくつと笑って、唇で啄むように乳首を引っ張る。
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