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3.(リュカ視点)
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しおりを挟むリュカたちの住むアパートメントから花火が打ち上げられる広場までは、メトロで二十分ほどの距離だ。公共交通機関は夜通し無料で運行している。
地下鉄がめずらしいのか、セレナとミアはキョロキョロとしていた。何度かリュカとメトロで出掛けたことのあるジェイミーは平然としているが、やはり初めて乗ったときは物珍しそうにあちこちキョロキョロしていたことをリュカは知っている。お金持ちの家で育つと、地下鉄は使わないのだろうか。
広場に近い大通り周辺は夕方頃から駅が閉鎖されているため、降りた駅から目的地まではしばらく歩かなくてはならない。
辺りは人がごった返していて、小柄なリュカは人ごみに呑まれてしまいそうになる。人の波に押されてたたらを踏んだところを、ジェイミーに捕まえられた。
「大丈夫かい?」と、肩を抱かれて引き寄せられる。
ジェイミーの腕の中に納まると、リュカは、安心してほっと肩の力を抜いた。
「クリスマス前のマルシェよりすごい人出だね」と、普段引きこもりのジェイミーは驚いていた。
規模の大きい有名なマルシェもあるが、マルシェ自体は街のあちこちで開催されている。カウントダウンイベントは、年に一度きり、ここでしかやっていないものだ。
「年に一度の大イベントだからね。でも、想像以上の人だ。僕もビックリだよ。……みんなとはぐれちちゃいそうだね」
見るとすこし先にリーアムやミアの頭が見える。こちらを振り返ることなく、少しずつ進んでいく。ここではぐれてしまうと、後から合流するのは難しそうだが、ジェイミーの態度はあっさりしたものだった。
「あっちはあっちで上手くやるさ。リュカとはぐれなければ問題ないよ」
それから「僕たちも行こうか」とジェイミーは自然にリュカの手を握って歩き出す。
ふたりとも手袋をつけていて、彼の体温を直に感じられないことがひどく惜しく感じる。思わずぎゅっと手を握ってしまうと「ん?」と優しい笑顔で見おろされてしまう。……こんな顔、今まで見せなかったくせに。
花火が見られる広場についたときはすでに十一時四十五分を過ぎていた。これ以上進むのは難しそうだ。
カウントダウンは十秒前からはじまった。
三、二、一……年が明けた瞬間、盛大な花火が上がる。
あちこちから「Bonne Année!」の声が上がり、周囲の人と抱き合ってキスを交わす。
リュカもジェイミーと抱き合って、互いの頬にキスをした。
ジェイミーはとてもいい笑顔を浮かべていて、その表情がとても魅力的で、ついじっと見入ってしまった。その視線に気付いたジェイミーも、優しげに目を細めたままじっとリュカを見つめ返す。
辺りはものすごい大騒ぎなのに、その瞬間周りの音が一切遮断されてしまったかのように感じられた。目の前にいる彼しか目に入らない。
ジェイミーの顔が徐々に近付いてきて、唇同士が触れた。
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