恋する彼のアパルトマン

吉田美野

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3.(リュカ視点)

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「不躾なことをお伺いしますけど、リュカさんはオメガでいらっしゃいますよね?」
「え? ええ、まあ」と、戸惑いながらリュカは頷いた。

 隠しているわけではないが、指摘されたのはジェイミーに続いて二度目だ。そもそも、リュカの周りにはオメガもアルファもいないので、これまであまり第二性を意識して生きてこなかった。リュカがオメガだと気付いたということは、セラもアルファなのだろうか。リュカは全然、何も感じないけれども。

「ああ、安心してくださいね。リュカさんからオメガの香りはしませんよ。でも、香りを感じ取れるのは相性のいい証です。……リュカさんからは蜂蜜の匂いがするんですって」
 そして楽しげにうふふと笑う。

 蜂蜜? とリュカは不思議に思った。
 蜂蜜はリュカも大好きだけれども、今日は蜂蜜を食べていないし、蜂蜜を使った料理もしていない。そういえば、最近蜂蜜酒にハマっているらしいジェイミーが、ときどき分けてくれるけれどもちろん今日は飲んでいない。
 大体、相性云々でなく、リュカが匂いを発していないのは、オメガとして不完全だからだ。

「独善的なとこもあるけど、基本的に恋人には誠実な男だから」とリーアムが言う。

 ふたりは何か勘違いしている。ジェイミーとの関係はそんなんじゃないし、リュカはオメガとしては不完全だ。
 しかしリュカはさっきのように「そんなんじゃない」とはもう口にできなかった。

 きっと、優秀なアルファであろうジェイミーには相応しくない。そう思ったら胸が塞がる。同時に自分が何を望んでいるのか、嫌でも自覚してしまった。

 黙ってしまったリュカに気付いて、セラが何か言いかけたとき、ジェイミーとミアが戻ってきた。
 ミアがシャンパンを、ジェイミーは人数分のグラスを持っている。

「すこし早いけど乾杯しよう。突然のことでグラスが足りなくて。種類がバラバラだけど勘弁してくれよ」
 そのグラスを見て、リーアムがおや、という顔をする。
「どうしたの。そのグラスを使うのかい? 後生大事にしていたのに」

 リーアムがすこし大袈裟に見えるくらい驚いて見せると、ジェイミーは嫌そうな顔をして言った。
「別に。物は使ってこそだろう」
 細長いシャンパン用のフルートグラスに、ひとつだけふつうのワイングラスが紛れている。元々は三人、増えても四人のはずだったから、数が揃わなかったのだろう。

 リュカは何となく、そのワイングラスはジェイミーの元恋人の持ち物だったんじゃないかと思った。
 リーアムが「僕がやるよ」と買って出てくれて、グラスに綺麗にシャンパンを注いでいく。各々好きなグラスを手に取って(リュカはつい、ひとつだけ仲間外れのワイングラスを避けてフルートグラスを手に取ってしまった)乾杯した。
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