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3.(リュカ視点)
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しおりを挟む「大丈夫?」
困っているような、あるいは、どこか怒っているような。ジェイミーは今まで見たことがないタイプの複雑な表情をしていて、リュカは思わずたずねていた。
「え? ああ、大丈夫。ごめんよ、リュカ。何だか変な集まりになってきたね」
「ううん、賑やかで楽しそうだよ」
ちょっとツンとしているけれど、ミアもいい子のようだし。しかしジェイミーが変な顔をしているのは、ミアが来てからだ。
「ミアさんのこと、苦手なの? 仲悪い?」
「いや、そんなことは、あー……いや、そうなのかも」
こんなにはっきりしないジェイミーもはじめてだ。
それからすこし言葉を選んで「僕は、ミアには嫌われているんだ」と白状した。
「昔はそんなことなかったんだけど、むしろ慕ってくれてたと思ってたけど。いつからか、ね。今では蛇蝎のごとく嫌われてるよ」
ジェイミーの言葉に、リュカは違和感を覚えた。
たしかに彼女はツンとしていたけれど、嫌われている、というのは妙な話だ。折角の大晦日に、嫌いな人間の家にやってくるとは思えない。
「まあ、仕方ないのかもしれない。グレンヴィル家の人間が、ハッター家の人間なんかと関わる方がめずらしいんだから。……大方リーアムに無理矢理連れてこられたんだろうけど。さぞミアが嫌な思いをしているだろうと思うと申し訳ないよ」
そう言ってジェイミーは自分の中で話を完結させてしまった。
リュカは釈然としなかったが、家同士の問題もあるなら、リュカがどうこう言えることではない。
話す間も手を止めずお茶の用意をするジェイミーに倣って、リュカもアップルパイの用意をはじめた。
セラとミアが良家のお嬢さんなのは見るからに間違いない。グレンヴィル家がどういう家なのかわからないが、ジェイミーだっていいところのお坊ちゃん然としている。
ミアのお家は由緒あるお家柄のご令嬢。ジェイミーのお家は成り上がりの新興貴族とか? いや、ジェイミーは貴族って感じじゃないから、裕福な商人とか? 売れない芸術家だとロマンチックかもしれない、などと、リュカの頭の中で物語ができてゆく。
身分違い? それとも政敵同士? 引き離された恋人たち……。悲しくも美しい恋愛悲劇。
そこまで考えたところで胸のあたりが、もや、とする。
あくまでこれは妄想だ。ジェイミーとミアは恋人同士じゃない。ジェイミーはミアではなく、オメガの恋人と、最近までいっしょに暮らしていたのだし……。そしてまたもや、とする。
うん、もう考えるのはやめよう。
「ねえ、ジェイミー。もう一切れ食べない?」
いろいろ考えたらお腹が空いてしまった。
「うん、食べちゃおう」と悪戯っぽくジェイミーが笑ってくれたので、リュカは嬉々として、お客人の分といっしょに自分たちの二切れ目のパイも切り出した。
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