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2.隣人の距離
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「そうだなあ。学生時代の……悪友ってやつかな。でもふたりとも、すごく優秀だよ。ぼくが突然この街に引っ越したんで、心配もしてくれてる」
ジェイミーが失恋を引きずっているのではないかと心配をしていたけれど。別れたばかりの頃はそれはそれは、見ていられないほどの落ち込みようだったと言うから仕方ないのかもしれない。
別れた当時のことは、あまり記憶にない。辛すぎる記憶に、蓋をしようとしているのかもしれない。
エリスのことを思い出さないと言ったら嘘になる。思い出しては心が痛むこともある。
それでも、以前よりは大丈夫だと思える。
リュカが大きな眼鏡のレンズの奥の、緑の目を細める。
「いいお友達なんだね」
「まあ……そう、かな?」
何だか照れくさくてジェイミーはそっぽを向く。
ジェイミーが照れていることに気付いているのだろう、リュカがおかしそうにふふっと笑った。
そうこうしているうちに、料理が運ばれてきた。
この店のサラダボウルは何度か食べたことがあるけれど、ボリュームがあって美味しい。リュカが頼んだハムサンドも美味しそうだ。
ジェイミーの前に出されたサーモンのサラダボウルを見て「さっき今日の夕食用にサーモンを買ったのに。お昼もサーモン?」と呆れた顔だ。
「うん。あの立派なサーモンを見たから食べたくなったんだよ」
「夕食のメニューを変える?」
「まさか! 予定どおりでお願いするよ」
今日はこれからリュカの家のツリーの飾りつけを手伝うことになっている。
今日のお礼に、と今夜は夕食をリュカの家でご馳走になる予定だ。
「ジェイミーはいつからクリスマス休暇を取るの?」
ハムサンドの付け合わせのポテトフライをつつきながら、リュカが言った。
ちなみに、リュカは出版社の担当の休暇に合わせ、仕事は休むことにしたらしい。
「クリスマス休暇、っていうか……」
そもそも、ジェイミーは今働いていない。毎日がクリスマス休暇みたいなものだ。
友人のこともそうだが、ジェイミーは自分の仕事について話したことがなかった。
「働いてないよ、僕」
隠すことでもなく、ジェイミーは事実をそのままに口にする。
するとリュカは目をまんまるにして「えっ?」と驚きの声をあげる。思わず苦笑が漏れた。
「僕が朝から仕事に行くところを一度でも見たかい?」
「ううん。僕みたいに、在宅勤務なのかと思ってた。もしかして……失業者?」
気遣うようなリュカの視線がおかしい。思わず声をたてて笑うと怪訝な顔をされた。
「まあ、そんなようなものだよ」
まさか一生働かなくても暮らせるほどの資産があるとは言わない。そんなこと、一体誰が信じるだろう。
「失業っていうか、休養中? まあ、結構貯蓄があるから、休養と外遊を兼ねてる、っていうか」と付け足せば、リュカも納得したようだ。
「帰省はするの?」
「いや。こっちにいるつもりだよ。ひとりで好きにやるさ」
両親は隠居中――といっても、各自気ままに過ごしているようで、滅多に会うことはない。たぶん、学校を卒業してから一回くらいは会ったと思うけれど。クリスマスということを忘れていなければ、カードくらいは送られてくるだろう。
「リュカは?」
「そうだな……僕も、今年はひとりかなあ」
「リュカも帰らないんだ」と質問とも相槌ともなく頷くと、リュカが「帰る家もないからね」と苦笑した。
ジェイミーは思わずえっと声を上げてしまう。
このときはじめてリュカの両親は幼い頃に亡くなっていたことを知った。
「そんな悲観することじゃないんだよ。小さすぎて両親のことはほとんど覚えていないし。僕は育ててくれた祖父のことが大好きだったから。……その祖父も、僕が大学を卒業した年に亡くなってしまったけど」
「そうか。それは辛かっただろうね」
月並みの言葉しか出てこないジェイミーに、リュカは「ありがとう」と言って微笑んだ。
ジェイミーが失恋を引きずっているのではないかと心配をしていたけれど。別れたばかりの頃はそれはそれは、見ていられないほどの落ち込みようだったと言うから仕方ないのかもしれない。
別れた当時のことは、あまり記憶にない。辛すぎる記憶に、蓋をしようとしているのかもしれない。
エリスのことを思い出さないと言ったら嘘になる。思い出しては心が痛むこともある。
それでも、以前よりは大丈夫だと思える。
リュカが大きな眼鏡のレンズの奥の、緑の目を細める。
「いいお友達なんだね」
「まあ……そう、かな?」
何だか照れくさくてジェイミーはそっぽを向く。
ジェイミーが照れていることに気付いているのだろう、リュカがおかしそうにふふっと笑った。
そうこうしているうちに、料理が運ばれてきた。
この店のサラダボウルは何度か食べたことがあるけれど、ボリュームがあって美味しい。リュカが頼んだハムサンドも美味しそうだ。
ジェイミーの前に出されたサーモンのサラダボウルを見て「さっき今日の夕食用にサーモンを買ったのに。お昼もサーモン?」と呆れた顔だ。
「うん。あの立派なサーモンを見たから食べたくなったんだよ」
「夕食のメニューを変える?」
「まさか! 予定どおりでお願いするよ」
今日はこれからリュカの家のツリーの飾りつけを手伝うことになっている。
今日のお礼に、と今夜は夕食をリュカの家でご馳走になる予定だ。
「ジェイミーはいつからクリスマス休暇を取るの?」
ハムサンドの付け合わせのポテトフライをつつきながら、リュカが言った。
ちなみに、リュカは出版社の担当の休暇に合わせ、仕事は休むことにしたらしい。
「クリスマス休暇、っていうか……」
そもそも、ジェイミーは今働いていない。毎日がクリスマス休暇みたいなものだ。
友人のこともそうだが、ジェイミーは自分の仕事について話したことがなかった。
「働いてないよ、僕」
隠すことでもなく、ジェイミーは事実をそのままに口にする。
するとリュカは目をまんまるにして「えっ?」と驚きの声をあげる。思わず苦笑が漏れた。
「僕が朝から仕事に行くところを一度でも見たかい?」
「ううん。僕みたいに、在宅勤務なのかと思ってた。もしかして……失業者?」
気遣うようなリュカの視線がおかしい。思わず声をたてて笑うと怪訝な顔をされた。
「まあ、そんなようなものだよ」
まさか一生働かなくても暮らせるほどの資産があるとは言わない。そんなこと、一体誰が信じるだろう。
「失業っていうか、休養中? まあ、結構貯蓄があるから、休養と外遊を兼ねてる、っていうか」と付け足せば、リュカも納得したようだ。
「帰省はするの?」
「いや。こっちにいるつもりだよ。ひとりで好きにやるさ」
両親は隠居中――といっても、各自気ままに過ごしているようで、滅多に会うことはない。たぶん、学校を卒業してから一回くらいは会ったと思うけれど。クリスマスということを忘れていなければ、カードくらいは送られてくるだろう。
「リュカは?」
「そうだな……僕も、今年はひとりかなあ」
「リュカも帰らないんだ」と質問とも相槌ともなく頷くと、リュカが「帰る家もないからね」と苦笑した。
ジェイミーは思わずえっと声を上げてしまう。
このときはじめてリュカの両親は幼い頃に亡くなっていたことを知った。
「そんな悲観することじゃないんだよ。小さすぎて両親のことはほとんど覚えていないし。僕は育ててくれた祖父のことが大好きだったから。……その祖父も、僕が大学を卒業した年に亡くなってしまったけど」
「そうか。それは辛かっただろうね」
月並みの言葉しか出てこないジェイミーに、リュカは「ありがとう」と言って微笑んだ。
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