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1976

39 Rock And Roll

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 ずいぶんと時間が経っちまったよ。ロックン・ロールを演ってから

 長い時間が経っちまっったよ。俺がさまよい歩きはじめてから

 ああ 連れ戻してくれ。俺を戻してくれよ

 戻りたいんだ ベイビー。俺が昔いた場所にさ

 だってすげえ長い時間だった

 ホントに長くって 淋しくて 淋しくて 淋しくて 淋しくて・・・

 淋しくて、仕方ない時を過ごしてたんだ


 

 マスターの部屋で、わたしは素っ裸でダイニングの椅子に掛け、大股を広げてマスターに舐めてもらっていました。BGMはまたしてもレッド・ツェッペリンさんが閉店間際までかけていた「Rock And Roll」でした。あのガシャガシャいうリフがなんとなくエッチのリズムに合うのです。テーブルの上にライナーノーツがあり、掲載された長髪のロバート・プラントの写真が、どこかお風呂上がりのヤンベ先生に似ていました。

 マスターとのセックスではもう、タブーはなくなっていました。少なくともわたしからは。どこをどうされても、全く平気になっていました。

「・・・ったく。しょうがねーやつだな、お前は」

 マスターはそんなふうにグチるのが好きな人でした。そういうどうしようもない女がわたしでありヤマダさんであり、たぶん、マスターのいままでの女だったひとたちにもみんな、

「・・・ったく。しょうがねーやつだな、お前は」

 とかいいながらも可愛がっていたのでしょ う。きっと、そういう女の面倒を見るのが好きだったのだと思います。脚は短かったですが、あしながおじさんみたいな人だったのかもしれません。

「男、できたんだろう」

「・・・できてない」

「嘘つけ。ここんとこしばらく来なかったくせに・・・いいからさっさと吐いちまえ」

「・・・オエッ・・・」

「そっちじゃねーわ!」

「うそ・・・ああん、もう・・・、もう・・・」

「余裕こきやがって。これでどうだ・・・」

「それだめああん、あ、ああっ! いっちゃう、ああん、んんんん・・・」

 言うまでもなく、こんなふうにして彼は楽しんでいたのです。楽しみつつ、わたしがどこかしら、何かしらを抱えているのを気にしてくれていたのでしょう。

「寂しかったんだね? わたしが来なくて。正直に言いなあああああああん・・・」

「上から目線しやがってこの野郎。クソ生意気な小娘が。ぐっちょんぐっちょんにしてやる」

 椅子から引きずり下ろされて胡坐をかいたマスターの上に跨りました。ぐにゅるんと這入ってきたものが愛おしくてさらに腰を沈めました。彼にお尻を掴まれて揺さぶられると、もうダメでした。

「っそあああん、だ、ダメっ! そん、ああっ! いっ、いっちゃうああん、ああっ、・・・んんんんんんんっ・・・」

 わたしの一番好きな形で真っ白にされ、それで乳首に舌を這わされると、蕩け切りました。弛緩から復活すると両手と両脚でマスターにしがみつきました。もう離したくないという気持ちになりました。ずっとこの時が続けばいいのに。彼に抱かれるたびにそう思いました。

 それなのに、あと一年と少しで彼と別れねばならないなんて・・・。

 

 わたしの中ではマスターとヤンベ先生は西と東の両雄でした。

 どちらも身体の関係では最高でした。

 マスターは少しインポ気味ではありましたが、一二週間も間を開けてあげれば、疲れを知らないマシンのようにわたしを究極の高みまで何度も押し上げてくれました。わたしの性はマスターに開かれて熟しました。

 ヤンベ先生もタフでした。彼の硬すぎる幹はわたしの敏感な部分を何度も蹂躙し、しかも何度精を吐いてもすぐに復活して責めて来るのです。なかなかイってくれないマスターでは得られなかった、男を征服する愉しみを教えてくれたのは彼でした。わたしの実力以上にわたしの学力も性の世界も高め導いてくれたのは彼です。

 二人とも、確固とした自分の世界を持ち、そこに絶対の自信を持っている男でした。

 でも、どれだけ頑張ってもその男たちの世界には入れないのです。自分一人のものには出来ないのです。

 それは女にとって、とても寂しいものでした。

 その心の奥底の渇きに水をくれたのが、ヤマギシ君でした。

 高校生の時、彼はすでにわたしの中のわたしの知らない何かに気づき、そこに手を差し伸べ、欲してくれていたのです。そしてその時も、求めてくれていたのです。せつないほどに。だからわたしは彼を抱きしめたのです。奪って欲しかったのです。愛して欲しかったのです。

 でも彼はステージの上にさえ上って来てくれないのです。

 もしも最初の相手がワシオ君ではなくてヤマギシ君だったら・・・。

 拙いながらも、おたがいに同じ高さのステージで、大人の世界に足を踏みだしたばかりの男と女として全てを始めることができたかもしれません。ヤマギシ君なら、彼なら、自分の世界にわたしを迎え入れてくれたかもしれません。あるいは、わたしと一緒に同じ道を歩いてくれたかもしれません。

 傲岸不遜のそしりを受けるのを承知の上でいうなら、きっとわたしの性欲が強すぎ、彼がそれを意識したころには、既にそのステージが高すぎてしまったのでしょう。それに気後れし、彼は身を引いてしまったのだと思うのです。

 わたしから手を差し伸べて引き上げることはできませんでした。彼を穢したくはありませんでした。わたしが手を触れることで、あんなにも純粋な彼を壊したくなかったのです。

 でも手を伸ばしてくれさえすれば、わたしはその手を取ってステージに引き上げ、共に踊ることができたでしょう。

 ままならないもの。それを人は「運命」と呼びます。

 当然のことながら、わたしと彼が共に同じステージで踊る夢は最後まで叶えられることはありませんでした。


 

 ベッドの上でマスターのを迎えたまま、わたしはもう何度も真っ白になって十分に満たされていました。

「いま味見してるのは、どんな男だ」

 まだ二人とも半身を起こして繋がっていましたが、熱と乱れた呼吸が徐々に治まり、彼のがゆっくりとわたしの中でぐにぐにするのを、ビールでのどを潤しながら愉しんでいました。

「・・・大学のね、先生」

 本当の悩みは言わず、すでに整理済みの対象を言いました。マスターにしてもヤンベ先生にしても、愉しむなら整理済みの人の方が気はラクでした。

「ふ~ん。そいつはジジイか」

「わかんない。マスターと同じぐらいじゃない?」

 冷たいビールのボトルをニヤニヤしながらぐにぐに愉しんでいるマスターのお腹に載せて遊んでいました。

「そいつに乗り換えるのか」

「あ・・・、あ、そこ・・・。・・・無理だよ。だって、もうすぐいなくなるもん。高エネルギー研究所? そこから出向で来てるセンセだから」

「ん? つーことは赤門出てるんじゃないか? あそこいくのは工学部、じゃなくて理学部だっけか?」

「たぶんそうだと思う。同じ大学から来た核物理の助教授のセンセの後輩って言ってた。アメリカの大学に留学もしてたんだって」

「・・・ソイツ、聞いたことがあるな。・・・もしかしてヤンベとか言わないか」

「・・・何で知ってんの」

「だってソイツ、有名だもんよ。今は金さえあれば自由に海外に行けるようになったが、あの頃は大学とか会社の命令がなければ無理だった。イヤでも有名になるってもんだぜ。オレとは学部もキャンパスも違うけど、同級生だしな・・・」

「え? マスターって東大出てるの?」

「あれ・・・。まじいな。余計なこと言っちまった」

「ねえねえ、ちょ、ちょっと待って、いやあん・・・」

 そのまま押し倒されてひっくり返され、お尻を抱えられ、パンパン叩かれながら後ろから突かれまくりました。

「ああっ! あ、いや、ああっ! ああ、、ちょ、まっ、ああっ! ああん、気持ち、ああんんんん・・・」

 その後も何度か尋ねたのですが、マスターはもう二度と再びその話題に触れようとはしませんでした。
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