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第四部 ついにもぐらとの死闘に臨むマルスの娘。そして、愛は永遠に。
64 大鷲と『雷の神』
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大鷲は、このところずっと東の空を舞っていた。
あの明るいオーラを放つ7つの丘の可愛い若い女。そして東の地に住むはかなげで悲し気なオーラを纏う若い女。その二つの若い女がこの下にいるのはわかっていた。大鷲は、彼女たちが気になって気になって仕方がなかった。
人間の若い女は、・・・可愛い。
それなのに、下界を覆う雲が厚すぎてその美しいオーラが彼の目に届かないのだ。もどかしいことこの上ない!
かといって、雲の下には降りたくもない。おそらく、下界は大雨。
雲にもいろいろある。今、彼の眼下に広がる雲は中央に大きな穴を持ち、穴を中心にして強烈な風を吹き出しているはずだからだ。二本足で歩く人間が現れる以前から、悠久の時を舞ってきた彼にとっても、この雲は厄介だった。
だが、なんとかならないものだろうか。
あの娘たちがどうしても気になる。
あーでもない、こーでもない・・・。
堂々巡りの大鷲の思考は、突如得体のしれない声にさえぎられた。
「おい! そこのトリ! ヒマなら手伝え! 」
は?
「お前だ。この辺りで飛んでるのはお前だけではないか」
旋回しながら鋭い目を四方に向けたが、どこにも影はなかった。
二本足の生き物が地を歩き始めるずっと以前から、大鷲はモノローグの世界にいた。
そのわたしに話しかけてくるヤツがいたとは・・・。
いったい、誰だ?
「わたしにもワカラン! 」
はあ?
声は大鷲の体の中から聞こえてくるようにも感じた。そんなことはこの数万年もの間で一度もなかった。彼は、初めて自分を超越した存在と対峙していた。
いったい、お前は、誰なのだ!
「だから! ワカランと言っているではないか。アタマの悪いトリめが! 」
なんだと?! この、クソ! 言わせておけば・・・。
「いいから! ヒマなら手伝えと言っている 」
わけのわからんヤツの言葉にハイハイ従うバカなどいない!
「わたしにもわからんが、人間どもはわたしを『雷の神』とかいうらしい。あれは単なる物理現象であって、わたしにもどうすることもできんのだがな。
頼みというのは、わたしの娘のことだ。
お前がスケベ根性丸出しでわたしの娘を追っかけているのは知っているのだ。だから、お前に頼んでいる」
『わたしの、娘』?
「そうだ。
7つの丘の国、帝国の人間どもは『軍神マルスの娘』と呼んでいるがな。飛行機とかいう空を飛ぶ機械を操り、どんな大男でも一撃で倒せる技を持っている。
その娘が、今危ういらしいのだ」
危うい?
あの明るいオーラの娘が、か!
「そうだ。
励ましてやりたいのだが、なぜかわたしの声が届かぬ。
どうやら雲の下になにか厚いヴェールがあるようなのだ。帝国にはないものが、ここにはあるようだ」
で、わたしにどうしろというのだ。
「雲の下、ヴェールの下に降りてわたしの言葉を伝えよ」
は?
「下に降りてわたしの言葉を娘に中継しろと言っている」
人に頼みごとをするのになんだその言いぐさは!
「お前はトリで人ではないではないか。
いいから、つべこべ言わずに言うとおりにせよ!
急がんと、わたしの娘、お前の好きな若い女に災いがふりかかるぞ。それでもよいのか! 」
大鷲は、ムカついた。
だが、この『雷の神』とやらは根はワルいやつではないらしい。
それに、大好きな明るいオーラの娘も気にかかる。
不承不承(ふしょうぶしょう)ではあるものの、大鷲はぐっと高度を下げ、分厚い雲の下に降りて行った。
「頼んだぞ、トリよ」
彼の背後から『雷の神』の声が聞こえた。
あの明るいオーラを放つ7つの丘の可愛い若い女。そして東の地に住むはかなげで悲し気なオーラを纏う若い女。その二つの若い女がこの下にいるのはわかっていた。大鷲は、彼女たちが気になって気になって仕方がなかった。
人間の若い女は、・・・可愛い。
それなのに、下界を覆う雲が厚すぎてその美しいオーラが彼の目に届かないのだ。もどかしいことこの上ない!
かといって、雲の下には降りたくもない。おそらく、下界は大雨。
雲にもいろいろある。今、彼の眼下に広がる雲は中央に大きな穴を持ち、穴を中心にして強烈な風を吹き出しているはずだからだ。二本足で歩く人間が現れる以前から、悠久の時を舞ってきた彼にとっても、この雲は厄介だった。
だが、なんとかならないものだろうか。
あの娘たちがどうしても気になる。
あーでもない、こーでもない・・・。
堂々巡りの大鷲の思考は、突如得体のしれない声にさえぎられた。
「おい! そこのトリ! ヒマなら手伝え! 」
は?
「お前だ。この辺りで飛んでるのはお前だけではないか」
旋回しながら鋭い目を四方に向けたが、どこにも影はなかった。
二本足の生き物が地を歩き始めるずっと以前から、大鷲はモノローグの世界にいた。
そのわたしに話しかけてくるヤツがいたとは・・・。
いったい、誰だ?
「わたしにもワカラン! 」
はあ?
声は大鷲の体の中から聞こえてくるようにも感じた。そんなことはこの数万年もの間で一度もなかった。彼は、初めて自分を超越した存在と対峙していた。
いったい、お前は、誰なのだ!
「だから! ワカランと言っているではないか。アタマの悪いトリめが! 」
なんだと?! この、クソ! 言わせておけば・・・。
「いいから! ヒマなら手伝えと言っている 」
わけのわからんヤツの言葉にハイハイ従うバカなどいない!
「わたしにもわからんが、人間どもはわたしを『雷の神』とかいうらしい。あれは単なる物理現象であって、わたしにもどうすることもできんのだがな。
頼みというのは、わたしの娘のことだ。
お前がスケベ根性丸出しでわたしの娘を追っかけているのは知っているのだ。だから、お前に頼んでいる」
『わたしの、娘』?
「そうだ。
7つの丘の国、帝国の人間どもは『軍神マルスの娘』と呼んでいるがな。飛行機とかいう空を飛ぶ機械を操り、どんな大男でも一撃で倒せる技を持っている。
その娘が、今危ういらしいのだ」
危うい?
あの明るいオーラの娘が、か!
「そうだ。
励ましてやりたいのだが、なぜかわたしの声が届かぬ。
どうやら雲の下になにか厚いヴェールがあるようなのだ。帝国にはないものが、ここにはあるようだ」
で、わたしにどうしろというのだ。
「雲の下、ヴェールの下に降りてわたしの言葉を伝えよ」
は?
「下に降りてわたしの言葉を娘に中継しろと言っている」
人に頼みごとをするのになんだその言いぐさは!
「お前はトリで人ではないではないか。
いいから、つべこべ言わずに言うとおりにせよ!
急がんと、わたしの娘、お前の好きな若い女に災いがふりかかるぞ。それでもよいのか! 」
大鷲は、ムカついた。
だが、この『雷の神』とやらは根はワルいやつではないらしい。
それに、大好きな明るいオーラの娘も気にかかる。
不承不承(ふしょうぶしょう)ではあるものの、大鷲はぐっと高度を下げ、分厚い雲の下に降りて行った。
「頼んだぞ、トリよ」
彼の背後から『雷の神』の声が聞こえた。
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