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第一部 陰謀の渦中へ
01 コルセットの受難とパラティーノの舞踏会
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三月の澄み切った大空を、一羽の鷲がその大きな翼を広げ、悠々と舞っていた。
彼は、鋭くはあるが穏やかな眼差しを下界に向けていた。もう気の遠くなるほどの遥かな時間、彼は、下界を二本の脚でちょこちょこと動き回る奇妙な生き物が栄えては滅び、滅びてはまた立ち上がって動き回るのをずっと見守り続けていた。
彼は、二本脚で動き回るその奇妙な生き物、「人間」が、好きだった。
その人間たちが、大災害と愚かにも彼ら自身が作り出した禍々しい炎によって一度は全て滅び去ったのを目の当たりにしたのがついこのあいだのことだったような気がする。
だが人間たちはしぶとかった。
再び立ち上がり、今彼が見下ろしている悠久の土地に現れそこに棲みはじめたのだ。そして人間たちの真の守護者である彼を差し置いて再び「神」というものを作り出しそれを敬いはじめ、何の断りもなく勝手に彼を旗印にしてそこに集うのをずっと微笑みを持って見守り続けて来た。
それから、だいぶ経つ。彼ら人間の尺度で言えば、それは数百年から千年ほどの時間ではあるのだが。
おや?
鷲はかすかに何やら不穏な叫びを耳にした。
どうも、人間の女のようだ。
それが彼の興味を引いた。
どれ。暇つぶしにひとつ、覗いてやるとするか。
鷲はぐっと高度を下げ、その人間たちの街の、ある丘の上を舞い始めた。
人々が「帝国」と呼び、その中心を「帝都カプトゥ・ムンディー」と呼ぶ、その大きな街の都心。
そこには政治軍事の中心である元老院と統合参謀本部、そして帝国皇帝の皇宮と皇帝を補佐して行政を執り行う内閣府がある。
それに隣接して帝国の最高学府バカロレアの広大なキャンパスが広がり、さらにその南には帝都の人々に癒しと快楽を提供する歓楽街スブッラがあり、それらの間には黒御影石のエンタシスも堂々たる数々のフォルムが建ち並び、帝都に住まう人々の憩いや集会や学問の場として親しまれていた。
その都心を取り囲むように、七つの丘があった。
遥か昔の帝国の勃興期。人々はこの七つの丘を砦とし、それを堅固な城壁で繋いで周辺の蛮族たちに対する備えとした。だが、それから千年近い時を経た今は、朽ちかけた城壁に僅かにその名残を残すのみだった。
そのうちの一つだけは神々に捧げられいくつかの神殿に埋め尽くされていたが、残る六つの丘は全て住宅地に変わった。
帝国人にもいろいろある。
広大な住処を持ち裕福に暮らす貴族や「ホモ・ノヴァス」と言われる新興成金たちと、そうでない平民達とだ。
それら丘の上のかつて周辺の蛮族を撃退した砦たちは、いずれも石を敷いて舗装され夜はガス灯が灯る街路を持ち、街路に沿った広大な敷地に噴水のあるアトリウムを取り囲む豪勢な屋敷を構える貴族やホモ・ノヴァスたちの「高級住宅街」に変貌していた。
「ぎゃあああっ! うおおおっ!」
その叫びはとある黒御影石造りの大きな邸宅、その二階、噴水のある緑のアトリウムを取り囲む回廊に沿った一室から上がっていた。
「うわ、お、おくさまっ! も、もう許して、やあああっ!」
「大袈裟よ。これも貴族の女のたしなみ。コルセットぐらい着け慣れておかなくてはね」
それは、華奢な体つきの美少女が屈強なハウスメイドにコルセットの背中の紐をぎゅうぎゅうに締めあげられている、の図だった。
コルセットを締められている美少女の名は、ヤヨイ。
彼女は、美しいセミロングのブルネットの下の碧眼を苦悶に歪め、苦しみに耐えていた。
ドイツ系の父とヤーパン人を先祖に持つ母との間に生まれ、強敵チナを下した「チナ戦役」に一部隊を率いて戦った陸軍の軍人でもあるヤヨイは、また新たな敵を迎え苦戦していた、というわけなのである。
「今回のコードは『18世紀フランス宮廷風』だそうなの。普通の夜会なら男性は燕尾服、女性はポールガウンなのだけれど、特に『18世紀』とあるからにはローブ・ア・ラ・フランセーズとかローブ・ア・ラングレーズとか・・・、いずれにしてもコルセットは必須なの。ガマンなさいね」
貴族の深窓の令嬢であられたヤヨイの下宿先の奥様は、すでにコルセットを着け終わり、ローブを着けるばかりのしどけない姿でキビキビと宣もうた。
今宵招待を受けているパラティーノの丘の侯爵家のお屋敷で催される舞踏会。それはヤヨイの「デビュタント」になるものであったのだが、その舞踏会のために着付けをしている最中なのだ。
常日頃は何事にも鷹揚で穏やか。悪く言えば「世間知らず」の奥様だったが、こと社交界に関するしきたりや作法のことになると性格が激変するのだった。
「で、でも奥様。わ、わたしは貴族じゃありませ、うひゃああああっ!」
まだも紐が締め付けられ、ヤヨイは早、息も絶え絶えの体たらくとなり果てていた。
「仕方ないわ。ウリル少将のご命令なのでしょう。貴族の社会に慣れておくようにと。その協力をして差し上げててよ。ガマンガマン」
「ウリル少将」とは現帝国皇帝の甥にして帝国陸軍の顕官である。
そのウリル少将が率いる皇帝直属の特務機関、通称「ウリル機関」は、帝国を害する恐れのある人物や団体の監視、情報収集や、時にはそれを実力で排除する、つまり暗殺をも行うことを任務とする内閣府と陸軍両属の組織なのである。
それがヤヨイの勤務先だった。
ヤヨイは、カラテの手練れでもあった。
「陸軍特務少尉ヤヨイ・ヴァインライヒ」
ヤヨイはその「ウリル機関」に所属するエージェントであり「アサシン」、殺し屋なのである。数々の任務、事件に関わり多くの功績を積んできた猛者である彼女だったが、それもこうなってしまっては形無しであった。
そのヤヨイの「コルセットの受難」を部屋の片隅から心配そうに見守る少年がいた。
彼の名はタオ。
まだ8歳のタオは苦悶する母を小学校の教科書の端からチラチラと垣間見ていた。
初めて一小隊の指揮官として臨んだチナ戦役。その戦場で、ヤヨイは聡明な戦争孤児の少年と出会い、彼を養子として引き取ったのだった。
「いいこと、タオ。あなたのお母様をイジメているのではなくてよ。見ていてごらんなさい。あなたのお母様は今にずっと美しく大変身するわ。今日の舞踏会で殿方の視線を総ざらいすること請け合いよ!」
心配そうなタオにそう言い含めた奥様は、よし、というようにハウスメイドに目配せした。
「そんなものでいいかしらね。どう、ヤヨイちゃん。もう慣れたでしょ?」
「慣れてません! 慣れたくありません! ムリ! 絶対無理です! もう死にます、今死にます! すぐ死んでしまいますぅ!」
「もう、大袈裟ね。そんなことでは『軍神マルスの娘』が泣いてしまうわ。そう呼ばれているのでしょう?」
「『マルス』でもなんでも、ヤなものはヤなんですぅっ!」
この15日でヤヨイは21になった。
3月15日。
この帝国が国の礎と定め、そのありようを標榜する古代ローマ。その古代ローマの実質的な帝政の創始者であるユリウス・カエサル。英語名ジュリアス・シーザー。
3月15日は、そのカエサルが暗殺された日である。
小学校の教科書にも引用されているカエサルの著作になる「ガリア戦記」と「内乱記」と共に、その「3月15日」は、この帝国の子どもたちにも広く知られている。
その誕生日のおかげで、幼いころからヤヨイは「マルス」と綽名された。
今では「神君(デイヴス)カエサル」と言われ、帝国の代々の皇帝の正式名にその名が冠せられている、その「神君」の生まれ変わりではないか、ということで。
小学校の内は子供らしいからかいの対象であった『マルス』は、リセ、バカロレアと進級進学を重ねるにつれて尊敬と畏怖の対象となっていった。
「マルス」と彼女の下宿先である伯爵家の奥様は四頭立ての豪華な馬車に乗って、七つの丘の一つ、そこに居を構える貴族たちの爵位の高さから最高級にランクされる「パラティーノ」の丘の上のブランケンハイム侯爵家の敷地の門をくぐった。
帝国貴族の男子は、当主であろうと子息であろうと陸軍士官になることが慣例、半ば義務となっている。そして30歳になれば自動的に元老院の議席を得る。もちろん、軍務を兼任したまま、である。故に、公称定数600のはずの元老院の議席は常に空席がある。僻地に駐留する軍団勤務の貴族がわざわざ帝都に戻って議事に出席することなどないからである。
帝都に近い、例えば帝都の東に駐屯地と司令部を持つ第一近衛軍団などに勤務している貴族ならば、しかも戦争や演習などの「軍務繁盛期」以外ならトーガに着替えて出席も可能だ。半日馬を飛ばせば帝都に帰還できる距離ならばこうした舞踏会などの私的な催しにも参加できる。
ただし、トーガか軍服以外の服装の着用は許されない。
貴族の男子はなにかと制約が多いのである。
ただし例外はある。
今宵の舞踏会や晩餐会などの催しを主催するホストファミリーに限っては士官であっても服装規定に縛りはない。
広大な敷地を縫うように走るアプローチ沿いには点々と小さなトーチが燃え、庭園のそこかしこには松明が灯され、夜間であっても手入れの行き届いた美麗な庭園の佇まいを招待客に披露していた。
ヤヨイと奥様たちの馬車が館のエントランスホール前の雨除けの下に停まると、侍立した、常はテュニカ姿であろう執事の一人が完璧な「18世紀フランス宮廷の衛兵」姿で高らかに呼ばわった。
「ライヒェンバッハ伯爵夫人、並びにフラウ・ヴァインライヒ様のお着き~ぃ!」
高さ3メートルはあろうかという巨大な両開きのドアが開かれた袖に、今夜の夜会のホストであるブランケンハイム侯爵とその夫人がコード通りの「18世紀フランス宮廷風」な華麗な衣装で招待客を出迎えていた。
「やあ、メーテル! ようこそ我が屋敷へ。おお! これはこれは、貴女があの『アイゼネス・クロイツ』の! お噂はかねがね。さ、どうぞ広間へ」
華麗なアビ・ア・ラ・フランセーズに身を包んだ壮年の侯爵は由緒ある貴族特有の鷹揚な所作でヤヨイを出迎えた。
縁に金糸の刺繍がしてある漆黒のネル生地で誂えた膝上までのコートにこれまた金糸銀糸を縫い込んだウェストコート、袖にヒラヒラのフリルのついたシャツにこれまた秀麗なシルクのフリルのクラヴァット(ネクタイの祖型)、下は膝までしかない半ズボンのブリーチズにシルクの長靴下、ピカピカの短靴。そして銀のウィッグ(かつら)の下はおしろいに着けボクロ。
その隣の侯爵夫人もピンクを基調にしたきらきらしいシルク地のローブ・ア・ラ・フランセーズに白くて長い手袋。もちろん、おしろいの上の金髪を豪華に結い上げた頭にはヤヨイの100年分の俸給を費やしても買えそうになさそうな美しい宝石をちりばめた豪華すぎるティアラが・・・。
「まあ、メーテル! この方が貴方の秘蔵の『マルスの娘』なのね! 」
うわ・・・。
幼いころから帝国平民の標準着である粗末なコットンのテュニカしか着たことのないヤヨイには別世界の人間たちに見えた。
「Sir Marquis、Marquise 、閣下、侯爵夫人、今宵はご招待いただきありがとうございます」
辛うじて挨拶だけは出来たが、慣れない場で作り笑顔はどうしても顔の引きつりが抑えきれない。
「でも、残念だわ。貴方のデビュタントが拝見できるのを楽しみにしておりましたのに」
「そうですわ、テレーズ。この子ったらどうしてもコルセットはイヤ、と駄々をこねるものですから」
侯爵夫人と同じく、淡いシルクグリーンのローブ・ア・ラ・フランセーズに身を包んだ下宿先の奥様はそう言って肩を竦めた。
あまりなコルセットの苦しさに降伏を余儀なくされ攻略を断念したヤヨイは、結局帝国陸軍士官にこのほど制定されたばかりの「第一種礼装」でやってきたのだった。
黒のトラウザーズに金モールと金の縁取りをした黒のジャケットは男女兼用である。常はシャツもタイもグレーなのだが、こうした夜会や晩餐などの場合に限り白いシャツに黒のタイが定められていた。
もちろん、茶色い樫の葉の階級章の他に黒い月桂樹の「アイゼネス・クロイツ」の略章、そしてお気に入りの愛らしい赤いハートの通称「レッドハート」、半年前に叙勲を受けたばかりの「人道奉仕勲章」フマニテールン・ディーンスト章が右胸を飾っていた。
ローブではないのでスカートをつまんで腰を落とす式の女性の挨拶は出来ない。もちろん、ヤヨイにはうっかり頭を下げて落っことす心配をせねばならないティアラもない。男性のように、上体を曲げ侯爵夫人が差し出した手袋の甲に恭しくキスを捧げた。
「でも、お噂の『アイゼネス・クロイツ』の帝国陸軍士官がご一緒なら、エスコートの殿方も必要ございませんわね」
侯爵夫人の言葉にはかすかな鋭い棘があった。
貴族社会の最初の冷たい洗礼を受けたヤヨイは、にわかにたった半年前のエア・ボーンの仲間たちとの気安い日々が恋しくなってしまった。
やれやれ、まいったな・・・。
ああ。早く帰りたい。
来たばかりだというのにヤヨイの頭の中はもう、すでにベッドで寝息を立てているであろうタオの隣にもぐりこんでその愛らしい温もりに包まれながら眠ってしまいたい思いで一杯になってしまった。
なにやら心が浮き立つような美しい調べが流れてきた。
それで暗い気分も少しは持ち直し、その調べに誘われるようにしてすでに貴族たちが集っている大広間へと奥様をエスコートするようにして歩を進めた。
まるで宝石をちりばめたような高価なガラス細工をふんだんに使い、夥しい燭台の光をキラキラと煌めかせる豪華で大きななシャンデリア。それがいくつもぶら下がり、高い天井に描かれた神々しい神々の姿を浮かび上がらせていた。
うわあ・・・。
まるで下界から天上のヴァルハラを見上げているみたいだ。
そのあまりな美しさにしばし心を奪われ、見惚れた。
おかげでその広い広間を埋め尽くした大勢の着飾った人々のなかにヤヨイと同じ「第一種礼装」の将官たちがいるのに気づくのが遅れてしまった。
「ヤヨイちゃん。最初に言っておくわね。軍のエラい方がいてもここでは敬礼はナシよ。いいこと?」
奥様はまるで人が変わったようだった。
いつもの彼女はいささか鷹揚すぎるくらい。全てにおいて「いいわ。よきに計らってちょうだい」的な方なのに、こういう場ではまるで「社交界の歩く百科事典」みたいだ。ヤヨイの一挙手一投足全てに細々と過剰過ぎるほどのアドバイスをくれる。「世間知らず」などと奥様の悪口を言うこともあるヤヨイだったが、ここではヤヨイの方が「世間知らず」だった。
帝国の紋章があしらわれた壁際には美しい調べを奏でる楽団が居並び、広間の中ほどが徐々にひろがってそこここでダンスを求める「18世紀フランス宮廷風」の紳士が同じくきらびやかなローブを纏った淑女たちの前で礼をし、彼女たちの手を取って中ほどに進み調べに合わせて舞い始めた。
音楽と言えばスブッラの街角で楽師の奏でるギターか手回し式の蓄音器、そしてボスであるウリル少将の弾くピアノぐらいしか知らなかったヤヨイだったが、貴族たちの世界ではすでに様々な弦楽器が「復刻」され、発掘された多くの名曲の数々に親しめる環境が整っていたのだった。
もっとも、華美な催しを嫌う現皇帝のおかげでひろく帝国に普及はしておらず、その美しい調べを堪能できるのはこうした夜会や貴族の家で催されるディナーか規模の小さな音楽会ぐらいに限られてはいたのであるが。
なんてカワイイ曲かしら。ウリル少将の弾くあのイカツイ曲とは大違いだわ。
「ボッケリーニの『メヌエット』ですな」
急に目の前に現れた『18世紀フランス宮廷』風味、青いビロードのコートに派手な銀糸の刺繍のウェストコート、そして半ズボンのブリーチズに真っ白のシルクの長靴下の、やっぱりプラチナシルバーのかつらをした青年が目の前に現れた。
「ヤヨイちゃん。この方がアヴェンティーノにお屋敷のあるルーデンドルフ子爵よ。ホラ、前に身上書を見せて差し上げたでしょ? それはそれはご熱心に貴方にアプローチしてくださってねえ・・・」
「はじめてお目にかかります、フラウ・ヴァインライヒ。
でも、まったくもって残念ですな。
ガウンではなく軍服姿でおいでになってしまいダンスをお誘いできないのも、貴女の名を『フロイライン』ではなく『フラウ』を付けてお呼びしなければならないのも。
貴女がこんなに突然に結婚してしまわれるなんて思ってもみませんでした」
そう言って、ルーデンなんとかの子爵さまは深くお辞儀するやヤヨイの手を取ってその甲にキスをした。そして顔を上げてにや、と笑った。
辛うじて手を引っ込めるのを思い留まれた自分を褒めてやりたくなるぐらい。それほどに気持ちの悪い男だった。ヤヨイの一番嫌いなタイプ。白いおしろいがそのキモさをさらに際立たせていた。
リセの寄宿舎にいたころ、しつこくヤヨイに付き纏って来た男の子に似てる。思えば、それがイヤでイマム先生にカラテを習ったのだったっけ・・・。
アレさえなければ、今ごろはバカロレアの大学院で思う存分電波の研究をしていられたなあ・・・。
「お会いできて光栄に存じます、ルーデン子爵さま・・・」
「ルーデンドルフ、です。フラウ・ヴァインライヒ」
返辞も上の空になるほどに、目の前のキモい男からなんとか自我を守ろうと、ヤヨイは過去の思い出に逃避した。
するとヤヨイと同じ黒い「第一種礼装」の茶色いマントが近づいて来たのが目の端に留まり、ヤヨイはやっとその男から解放された。
敬礼はしてはいけないということだが、踵を付けてバウくらいはと思いその少将を振り仰ごうとすると、
「なんだ、お前のその恰好は!」
聞き慣れた小うるさい上司の声が降って来た。
「閣下! ・・・どうしてここに?」
ウリル少将は苦虫を噛み潰したような顔でヤヨイを睨んだ。
小うるさい上司は、明らかにこの華やかな夜会の場に似合わない、黒いコートを着た暗い感じの少壮の男を伴っていた。
彼は、鋭くはあるが穏やかな眼差しを下界に向けていた。もう気の遠くなるほどの遥かな時間、彼は、下界を二本の脚でちょこちょこと動き回る奇妙な生き物が栄えては滅び、滅びてはまた立ち上がって動き回るのをずっと見守り続けていた。
彼は、二本脚で動き回るその奇妙な生き物、「人間」が、好きだった。
その人間たちが、大災害と愚かにも彼ら自身が作り出した禍々しい炎によって一度は全て滅び去ったのを目の当たりにしたのがついこのあいだのことだったような気がする。
だが人間たちはしぶとかった。
再び立ち上がり、今彼が見下ろしている悠久の土地に現れそこに棲みはじめたのだ。そして人間たちの真の守護者である彼を差し置いて再び「神」というものを作り出しそれを敬いはじめ、何の断りもなく勝手に彼を旗印にしてそこに集うのをずっと微笑みを持って見守り続けて来た。
それから、だいぶ経つ。彼ら人間の尺度で言えば、それは数百年から千年ほどの時間ではあるのだが。
おや?
鷲はかすかに何やら不穏な叫びを耳にした。
どうも、人間の女のようだ。
それが彼の興味を引いた。
どれ。暇つぶしにひとつ、覗いてやるとするか。
鷲はぐっと高度を下げ、その人間たちの街の、ある丘の上を舞い始めた。
人々が「帝国」と呼び、その中心を「帝都カプトゥ・ムンディー」と呼ぶ、その大きな街の都心。
そこには政治軍事の中心である元老院と統合参謀本部、そして帝国皇帝の皇宮と皇帝を補佐して行政を執り行う内閣府がある。
それに隣接して帝国の最高学府バカロレアの広大なキャンパスが広がり、さらにその南には帝都の人々に癒しと快楽を提供する歓楽街スブッラがあり、それらの間には黒御影石のエンタシスも堂々たる数々のフォルムが建ち並び、帝都に住まう人々の憩いや集会や学問の場として親しまれていた。
その都心を取り囲むように、七つの丘があった。
遥か昔の帝国の勃興期。人々はこの七つの丘を砦とし、それを堅固な城壁で繋いで周辺の蛮族たちに対する備えとした。だが、それから千年近い時を経た今は、朽ちかけた城壁に僅かにその名残を残すのみだった。
そのうちの一つだけは神々に捧げられいくつかの神殿に埋め尽くされていたが、残る六つの丘は全て住宅地に変わった。
帝国人にもいろいろある。
広大な住処を持ち裕福に暮らす貴族や「ホモ・ノヴァス」と言われる新興成金たちと、そうでない平民達とだ。
それら丘の上のかつて周辺の蛮族を撃退した砦たちは、いずれも石を敷いて舗装され夜はガス灯が灯る街路を持ち、街路に沿った広大な敷地に噴水のあるアトリウムを取り囲む豪勢な屋敷を構える貴族やホモ・ノヴァスたちの「高級住宅街」に変貌していた。
「ぎゃあああっ! うおおおっ!」
その叫びはとある黒御影石造りの大きな邸宅、その二階、噴水のある緑のアトリウムを取り囲む回廊に沿った一室から上がっていた。
「うわ、お、おくさまっ! も、もう許して、やあああっ!」
「大袈裟よ。これも貴族の女のたしなみ。コルセットぐらい着け慣れておかなくてはね」
それは、華奢な体つきの美少女が屈強なハウスメイドにコルセットの背中の紐をぎゅうぎゅうに締めあげられている、の図だった。
コルセットを締められている美少女の名は、ヤヨイ。
彼女は、美しいセミロングのブルネットの下の碧眼を苦悶に歪め、苦しみに耐えていた。
ドイツ系の父とヤーパン人を先祖に持つ母との間に生まれ、強敵チナを下した「チナ戦役」に一部隊を率いて戦った陸軍の軍人でもあるヤヨイは、また新たな敵を迎え苦戦していた、というわけなのである。
「今回のコードは『18世紀フランス宮廷風』だそうなの。普通の夜会なら男性は燕尾服、女性はポールガウンなのだけれど、特に『18世紀』とあるからにはローブ・ア・ラ・フランセーズとかローブ・ア・ラングレーズとか・・・、いずれにしてもコルセットは必須なの。ガマンなさいね」
貴族の深窓の令嬢であられたヤヨイの下宿先の奥様は、すでにコルセットを着け終わり、ローブを着けるばかりのしどけない姿でキビキビと宣もうた。
今宵招待を受けているパラティーノの丘の侯爵家のお屋敷で催される舞踏会。それはヤヨイの「デビュタント」になるものであったのだが、その舞踏会のために着付けをしている最中なのだ。
常日頃は何事にも鷹揚で穏やか。悪く言えば「世間知らず」の奥様だったが、こと社交界に関するしきたりや作法のことになると性格が激変するのだった。
「で、でも奥様。わ、わたしは貴族じゃありませ、うひゃああああっ!」
まだも紐が締め付けられ、ヤヨイは早、息も絶え絶えの体たらくとなり果てていた。
「仕方ないわ。ウリル少将のご命令なのでしょう。貴族の社会に慣れておくようにと。その協力をして差し上げててよ。ガマンガマン」
「ウリル少将」とは現帝国皇帝の甥にして帝国陸軍の顕官である。
そのウリル少将が率いる皇帝直属の特務機関、通称「ウリル機関」は、帝国を害する恐れのある人物や団体の監視、情報収集や、時にはそれを実力で排除する、つまり暗殺をも行うことを任務とする内閣府と陸軍両属の組織なのである。
それがヤヨイの勤務先だった。
ヤヨイは、カラテの手練れでもあった。
「陸軍特務少尉ヤヨイ・ヴァインライヒ」
ヤヨイはその「ウリル機関」に所属するエージェントであり「アサシン」、殺し屋なのである。数々の任務、事件に関わり多くの功績を積んできた猛者である彼女だったが、それもこうなってしまっては形無しであった。
そのヤヨイの「コルセットの受難」を部屋の片隅から心配そうに見守る少年がいた。
彼の名はタオ。
まだ8歳のタオは苦悶する母を小学校の教科書の端からチラチラと垣間見ていた。
初めて一小隊の指揮官として臨んだチナ戦役。その戦場で、ヤヨイは聡明な戦争孤児の少年と出会い、彼を養子として引き取ったのだった。
「いいこと、タオ。あなたのお母様をイジメているのではなくてよ。見ていてごらんなさい。あなたのお母様は今にずっと美しく大変身するわ。今日の舞踏会で殿方の視線を総ざらいすること請け合いよ!」
心配そうなタオにそう言い含めた奥様は、よし、というようにハウスメイドに目配せした。
「そんなものでいいかしらね。どう、ヤヨイちゃん。もう慣れたでしょ?」
「慣れてません! 慣れたくありません! ムリ! 絶対無理です! もう死にます、今死にます! すぐ死んでしまいますぅ!」
「もう、大袈裟ね。そんなことでは『軍神マルスの娘』が泣いてしまうわ。そう呼ばれているのでしょう?」
「『マルス』でもなんでも、ヤなものはヤなんですぅっ!」
この15日でヤヨイは21になった。
3月15日。
この帝国が国の礎と定め、そのありようを標榜する古代ローマ。その古代ローマの実質的な帝政の創始者であるユリウス・カエサル。英語名ジュリアス・シーザー。
3月15日は、そのカエサルが暗殺された日である。
小学校の教科書にも引用されているカエサルの著作になる「ガリア戦記」と「内乱記」と共に、その「3月15日」は、この帝国の子どもたちにも広く知られている。
その誕生日のおかげで、幼いころからヤヨイは「マルス」と綽名された。
今では「神君(デイヴス)カエサル」と言われ、帝国の代々の皇帝の正式名にその名が冠せられている、その「神君」の生まれ変わりではないか、ということで。
小学校の内は子供らしいからかいの対象であった『マルス』は、リセ、バカロレアと進級進学を重ねるにつれて尊敬と畏怖の対象となっていった。
「マルス」と彼女の下宿先である伯爵家の奥様は四頭立ての豪華な馬車に乗って、七つの丘の一つ、そこに居を構える貴族たちの爵位の高さから最高級にランクされる「パラティーノ」の丘の上のブランケンハイム侯爵家の敷地の門をくぐった。
帝国貴族の男子は、当主であろうと子息であろうと陸軍士官になることが慣例、半ば義務となっている。そして30歳になれば自動的に元老院の議席を得る。もちろん、軍務を兼任したまま、である。故に、公称定数600のはずの元老院の議席は常に空席がある。僻地に駐留する軍団勤務の貴族がわざわざ帝都に戻って議事に出席することなどないからである。
帝都に近い、例えば帝都の東に駐屯地と司令部を持つ第一近衛軍団などに勤務している貴族ならば、しかも戦争や演習などの「軍務繁盛期」以外ならトーガに着替えて出席も可能だ。半日馬を飛ばせば帝都に帰還できる距離ならばこうした舞踏会などの私的な催しにも参加できる。
ただし、トーガか軍服以外の服装の着用は許されない。
貴族の男子はなにかと制約が多いのである。
ただし例外はある。
今宵の舞踏会や晩餐会などの催しを主催するホストファミリーに限っては士官であっても服装規定に縛りはない。
広大な敷地を縫うように走るアプローチ沿いには点々と小さなトーチが燃え、庭園のそこかしこには松明が灯され、夜間であっても手入れの行き届いた美麗な庭園の佇まいを招待客に披露していた。
ヤヨイと奥様たちの馬車が館のエントランスホール前の雨除けの下に停まると、侍立した、常はテュニカ姿であろう執事の一人が完璧な「18世紀フランス宮廷の衛兵」姿で高らかに呼ばわった。
「ライヒェンバッハ伯爵夫人、並びにフラウ・ヴァインライヒ様のお着き~ぃ!」
高さ3メートルはあろうかという巨大な両開きのドアが開かれた袖に、今夜の夜会のホストであるブランケンハイム侯爵とその夫人がコード通りの「18世紀フランス宮廷風」な華麗な衣装で招待客を出迎えていた。
「やあ、メーテル! ようこそ我が屋敷へ。おお! これはこれは、貴女があの『アイゼネス・クロイツ』の! お噂はかねがね。さ、どうぞ広間へ」
華麗なアビ・ア・ラ・フランセーズに身を包んだ壮年の侯爵は由緒ある貴族特有の鷹揚な所作でヤヨイを出迎えた。
縁に金糸の刺繍がしてある漆黒のネル生地で誂えた膝上までのコートにこれまた金糸銀糸を縫い込んだウェストコート、袖にヒラヒラのフリルのついたシャツにこれまた秀麗なシルクのフリルのクラヴァット(ネクタイの祖型)、下は膝までしかない半ズボンのブリーチズにシルクの長靴下、ピカピカの短靴。そして銀のウィッグ(かつら)の下はおしろいに着けボクロ。
その隣の侯爵夫人もピンクを基調にしたきらきらしいシルク地のローブ・ア・ラ・フランセーズに白くて長い手袋。もちろん、おしろいの上の金髪を豪華に結い上げた頭にはヤヨイの100年分の俸給を費やしても買えそうになさそうな美しい宝石をちりばめた豪華すぎるティアラが・・・。
「まあ、メーテル! この方が貴方の秘蔵の『マルスの娘』なのね! 」
うわ・・・。
幼いころから帝国平民の標準着である粗末なコットンのテュニカしか着たことのないヤヨイには別世界の人間たちに見えた。
「Sir Marquis、Marquise 、閣下、侯爵夫人、今宵はご招待いただきありがとうございます」
辛うじて挨拶だけは出来たが、慣れない場で作り笑顔はどうしても顔の引きつりが抑えきれない。
「でも、残念だわ。貴方のデビュタントが拝見できるのを楽しみにしておりましたのに」
「そうですわ、テレーズ。この子ったらどうしてもコルセットはイヤ、と駄々をこねるものですから」
侯爵夫人と同じく、淡いシルクグリーンのローブ・ア・ラ・フランセーズに身を包んだ下宿先の奥様はそう言って肩を竦めた。
あまりなコルセットの苦しさに降伏を余儀なくされ攻略を断念したヤヨイは、結局帝国陸軍士官にこのほど制定されたばかりの「第一種礼装」でやってきたのだった。
黒のトラウザーズに金モールと金の縁取りをした黒のジャケットは男女兼用である。常はシャツもタイもグレーなのだが、こうした夜会や晩餐などの場合に限り白いシャツに黒のタイが定められていた。
もちろん、茶色い樫の葉の階級章の他に黒い月桂樹の「アイゼネス・クロイツ」の略章、そしてお気に入りの愛らしい赤いハートの通称「レッドハート」、半年前に叙勲を受けたばかりの「人道奉仕勲章」フマニテールン・ディーンスト章が右胸を飾っていた。
ローブではないのでスカートをつまんで腰を落とす式の女性の挨拶は出来ない。もちろん、ヤヨイにはうっかり頭を下げて落っことす心配をせねばならないティアラもない。男性のように、上体を曲げ侯爵夫人が差し出した手袋の甲に恭しくキスを捧げた。
「でも、お噂の『アイゼネス・クロイツ』の帝国陸軍士官がご一緒なら、エスコートの殿方も必要ございませんわね」
侯爵夫人の言葉にはかすかな鋭い棘があった。
貴族社会の最初の冷たい洗礼を受けたヤヨイは、にわかにたった半年前のエア・ボーンの仲間たちとの気安い日々が恋しくなってしまった。
やれやれ、まいったな・・・。
ああ。早く帰りたい。
来たばかりだというのにヤヨイの頭の中はもう、すでにベッドで寝息を立てているであろうタオの隣にもぐりこんでその愛らしい温もりに包まれながら眠ってしまいたい思いで一杯になってしまった。
なにやら心が浮き立つような美しい調べが流れてきた。
それで暗い気分も少しは持ち直し、その調べに誘われるようにしてすでに貴族たちが集っている大広間へと奥様をエスコートするようにして歩を進めた。
まるで宝石をちりばめたような高価なガラス細工をふんだんに使い、夥しい燭台の光をキラキラと煌めかせる豪華で大きななシャンデリア。それがいくつもぶら下がり、高い天井に描かれた神々しい神々の姿を浮かび上がらせていた。
うわあ・・・。
まるで下界から天上のヴァルハラを見上げているみたいだ。
そのあまりな美しさにしばし心を奪われ、見惚れた。
おかげでその広い広間を埋め尽くした大勢の着飾った人々のなかにヤヨイと同じ「第一種礼装」の将官たちがいるのに気づくのが遅れてしまった。
「ヤヨイちゃん。最初に言っておくわね。軍のエラい方がいてもここでは敬礼はナシよ。いいこと?」
奥様はまるで人が変わったようだった。
いつもの彼女はいささか鷹揚すぎるくらい。全てにおいて「いいわ。よきに計らってちょうだい」的な方なのに、こういう場ではまるで「社交界の歩く百科事典」みたいだ。ヤヨイの一挙手一投足全てに細々と過剰過ぎるほどのアドバイスをくれる。「世間知らず」などと奥様の悪口を言うこともあるヤヨイだったが、ここではヤヨイの方が「世間知らず」だった。
帝国の紋章があしらわれた壁際には美しい調べを奏でる楽団が居並び、広間の中ほどが徐々にひろがってそこここでダンスを求める「18世紀フランス宮廷風」の紳士が同じくきらびやかなローブを纏った淑女たちの前で礼をし、彼女たちの手を取って中ほどに進み調べに合わせて舞い始めた。
音楽と言えばスブッラの街角で楽師の奏でるギターか手回し式の蓄音器、そしてボスであるウリル少将の弾くピアノぐらいしか知らなかったヤヨイだったが、貴族たちの世界ではすでに様々な弦楽器が「復刻」され、発掘された多くの名曲の数々に親しめる環境が整っていたのだった。
もっとも、華美な催しを嫌う現皇帝のおかげでひろく帝国に普及はしておらず、その美しい調べを堪能できるのはこうした夜会や貴族の家で催されるディナーか規模の小さな音楽会ぐらいに限られてはいたのであるが。
なんてカワイイ曲かしら。ウリル少将の弾くあのイカツイ曲とは大違いだわ。
「ボッケリーニの『メヌエット』ですな」
急に目の前に現れた『18世紀フランス宮廷』風味、青いビロードのコートに派手な銀糸の刺繍のウェストコート、そして半ズボンのブリーチズに真っ白のシルクの長靴下の、やっぱりプラチナシルバーのかつらをした青年が目の前に現れた。
「ヤヨイちゃん。この方がアヴェンティーノにお屋敷のあるルーデンドルフ子爵よ。ホラ、前に身上書を見せて差し上げたでしょ? それはそれはご熱心に貴方にアプローチしてくださってねえ・・・」
「はじめてお目にかかります、フラウ・ヴァインライヒ。
でも、まったくもって残念ですな。
ガウンではなく軍服姿でおいでになってしまいダンスをお誘いできないのも、貴女の名を『フロイライン』ではなく『フラウ』を付けてお呼びしなければならないのも。
貴女がこんなに突然に結婚してしまわれるなんて思ってもみませんでした」
そう言って、ルーデンなんとかの子爵さまは深くお辞儀するやヤヨイの手を取ってその甲にキスをした。そして顔を上げてにや、と笑った。
辛うじて手を引っ込めるのを思い留まれた自分を褒めてやりたくなるぐらい。それほどに気持ちの悪い男だった。ヤヨイの一番嫌いなタイプ。白いおしろいがそのキモさをさらに際立たせていた。
リセの寄宿舎にいたころ、しつこくヤヨイに付き纏って来た男の子に似てる。思えば、それがイヤでイマム先生にカラテを習ったのだったっけ・・・。
アレさえなければ、今ごろはバカロレアの大学院で思う存分電波の研究をしていられたなあ・・・。
「お会いできて光栄に存じます、ルーデン子爵さま・・・」
「ルーデンドルフ、です。フラウ・ヴァインライヒ」
返辞も上の空になるほどに、目の前のキモい男からなんとか自我を守ろうと、ヤヨイは過去の思い出に逃避した。
するとヤヨイと同じ黒い「第一種礼装」の茶色いマントが近づいて来たのが目の端に留まり、ヤヨイはやっとその男から解放された。
敬礼はしてはいけないということだが、踵を付けてバウくらいはと思いその少将を振り仰ごうとすると、
「なんだ、お前のその恰好は!」
聞き慣れた小うるさい上司の声が降って来た。
「閣下! ・・・どうしてここに?」
ウリル少将は苦虫を噛み潰したような顔でヤヨイを睨んだ。
小うるさい上司は、明らかにこの華やかな夜会の場に似合わない、黒いコートを着た暗い感じの少壮の男を伴っていた。
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