【新版】優しい狩人 【『軍神マルスの娘』と呼ばれた女 1】 ~第十三軍団第七旅団第三十八連隊独立偵察大隊第二中隊レオン小隊~

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24 無敵の女スナイパーと千里眼の男

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 自分は尊敬すべき師匠であるレオン少尉を殺すために行くのではない。彼女を神にしないために行くのだ。


 

 疾走する馬を御しながら、ヤヨイはそう、胸に刻み込んだ。

 彼女を殺さなくてもいい。

 そこに僅かに希望を感じたが、同時にそれが殺すよりも難しいことであるのも自覚していた。何よりも他の人間にさせたくなかった。ヤヨイが自分でやりたかった。ウリル少将のところへ戻って、良かった。


 

 独立偵察大隊の野戦司令部はあの東の宿営地から南に20キロほど手前の森の中にあるらしい。討伐司令部はそこまで臨時に電信を引いていたのを知った。その通信線を辿れば司令部に着く。馬に気合を入れ速度を速めた。

 30分ほどの騎行で小麦畑が終わり、森が見えて来た。その森の中のひときわ高い台地。そこに帝国軍の赤地の鷲の旗が翻っているのが見えた。

 大隊司令部の野戦陣地には多くの天幕が張られ、監視塔が新たに二つ作られようとしていた。そして台地のスロープからは今しも一小隊が前線に向かうべく、出発していった。

 スロープの下で馬を降り、陣地を見上げ、申告した。

「本日、独立偵察大隊付きを拝命しましたヴァインライヒ二等兵であります!」


 

 大隊長のポンテ中佐は愛嬌のある、だが抜け目のない目つきをした中肉中背の男だった。

 連隊での事情聴取の時には隣に座っていた。その時には感じなかった、見るからに実戦経験豊富な指揮官といった風があった。市井なら、熟練の職人か愛想のいい狡猾な商人といったところか。彼はそんな雰囲気を漂わせていた。

「先ほど電信が来た。委細は聞いている」

 中佐はヤヨイとリヨン中尉を地図の載ったテーブルに誘った。さっそくブリーフィングが始まった。

「現在、第四宿営地と北方の工兵隊の陣地を結ぶ複合陣地に対しては38と25連隊の野戦部隊が包囲網を構築中だ。そして我が独立偵察大隊は大隊の総力を挙げてレオンの小隊に当たることになった。

 貴官の昨日の調査報告に従って、現在この第五宿営地を中心にこことここ、そしてここに1個ずつ中隊を配置、展開して警戒に当たっている。敵の宿営地からの迫撃砲弾の射程ギリギリの線だ」

 中佐は手にした乗馬鞭の先で地図のポイントを指し示しながら説明していった。第五宿営地というのが、レオン少尉の小隊のいる東の陣地だ。レオン少尉を「敵」と呼ぶことに思うところがあったが、もちろん口には出さなかった。

「レオンの統率は完璧だと認識している。つまり、兵たちへの投降の呼びかけにも動じることはないだろうという判断が前提だ。向こうが行動を起こしたら、一応は呼びかけはするがな。・・・だが、そうなのだろう?」

 にこやかに笑っているような目だが、その光は鋭く、レオン少尉の意志の固さに勝るとも劣らないものを感じさせた。

「少尉の意志は固く、小隊の結束は強いです。そう、ご判断なさるのが妥当だと考えます」

 と、ヤヨイは答えた。

 中佐は柔和な瞳の奥を光らせ、ウム、と入れた。

 そして、傍らに控えていた大隊本部付の伍長に、

「リーズルとアランを呼んで来い」

 と言った。


 

 中佐は続けた。

「その判断を前提とすれば、一個小隊15、6名と言えども無理押しすればこちらの被害も無視できないものになるだろう。なにしろ、銃を持った敵と交戦するのは初めてという兵がほとんどだからな。かく言う俺も15年前に会戦での実戦は経験したが、銃を持った敵は、初めてだ」

 ヤヨイは中佐の率直なところに好感を抱いた。

「この配置は、貴官の調査通りレオンがデモンストレーションしながら西に向かうとした場合の布陣ということだ。迫撃砲弾もだいぶ補給されたようだが、この配置した線より南には絶対に行かせない。前哨線の後方、こことここには砲兵隊を伏せてある。敵が前哨線に取りつくような場合は砲弾で味方の兵の背を擦るようにして野砲を十字砲火で打ち込む。この線を破ることはまず、不可能だ。そして前哨はむしろ積極的に交戦して敵の、」

 第38連隊独立偵察大隊長ポンテ中佐は、乗馬鞭の先を東の宿営地、第五宿営地の地点に描かれた陣営地の記号の上にピシャリと置いた。

「敵の兵力を出来るだけ削ぐ。それが目的の1つ目だ。そして2日後に到着する予定の東の第4軍団の増援部隊が来るまで出来るだけここに張りつけさせ、リンデマンたちへの合流を阻止する。それが目的の2つ目だ。レオンがリンデマンたちと合流すると長引く。レオンが意図するところが自分たちの大志の宣伝にあるのだとすれば、合流は速やかに、絶対に阻止せねばならん。

 増援部隊は長射程の榴弾砲を引っ張ってくる。たった1個小隊に大袈裟すぎるが、敵の射程外からのアウトレンジ攻撃を多用し、出来るだけ味方に被害を出さないように、というセナート(元老院)の指示らしいからな。だがどうせ無駄になるだろう。レオンもその点は考慮済みだろう。宿営地のタコツボに籠ってわざわざ巨砲で滅多打ちにされるのを黙って待つようなヤツではあるまい? 

 彼女の名前は以前から聞いていた。38連隊の偵察にはスゴイ奴がいると。レオンが自分の部下になるというのでどんな奴か、一度話をしてみたかったが、まさか俺の着任早々に反乱を起こされるとはなあ・・・」

 ヤヨイは何も応えることが出来ず、黙っていた。

 二人の兵が本部のタープにやって来た。そのうちの一人はなんとあの連隊の食堂で見かけた金髪の女性兵だった。

「ヴァインライヒ。貴官に助っ人を付けることにした。ルービンシュタイン上等兵とフリードマン一等兵だ。銃の名手と夜目と耳の良いヤツだ」

 ヤヨイは二人の上級兵に偵察部隊式敬礼をした。

「リーズルは見ての通り女だが、この大隊一の狙撃手だ。コイツは500メートル先の鷹の目を打ち抜くぞ」

「600メートルです。中佐殿」

 ルービンシュタインと紹介された、金髪の女性兵士はそう言ってクスっと笑った。

「それにアランが居れば新月の夜でもカンテラは不要だ。一キロ先の木の葉が落ちても聴きとれる耳も持っている。隠密で敵を探索するのにうってつけだろう?」

 そう言って黒髪の藪睨みの小男の肩を叩いた。

「軍法は上官への下命を禁じているが、俺の偵察隊にはそんなものは関係ない。両名ともヴァインライヒの指揮下に入り指示を受けろ。彼女が先任だからだ。いいな?」

 二人も黙って偵察隊式敬礼をした。

「ヴァインライヒ。貴官は『カラテ』と格闘戦の猛者だそうだな。一瞬の内に素手で5人の野蛮人を殺したと聞いた」

 偵察部隊一の狙撃手と夜目の利く兵は中佐の言葉に目を剝いた。

「3名です、中佐殿」

 ヤヨイの訂正にポンテ中佐はフフンと笑った。ヤヨイは黙った。

「ヴァインライヒ。貴官の任務は敵の捜索と誘導だ」

 と中佐は言った。

「レオンは手練れだ。みすみす我々に発見されやすいような小隊ひとかたまりの行動はしないだろう。分隊ごとか2、3名でバラバラにゲリラ戦を展開し我々を攪乱しようとしてくるかも知れない。

 そのため、この配置した前哨線の各中隊の位置は動かさない。さらに、その北に遊撃部隊としてさらに2個中隊を配置する。この2つは動く。固定せず、遊弋させる。西から森の中を進み、やつらの西進を防ぐとともに奴らを徐々に配置している防衛線の網に追い込み、一網打尽にする。

 貴官の任務はその遊撃部隊の誘導だ。先行して敵の動きを掴み、敵を発見したら信号弾か呼び笛を使って位置を知らせる。そこに遊撃部隊がゆき、ヤツらを追い詰め、迫撃砲で叩く。それが最も被害を出さない方法だと思う。リーズルとアラン。この2名を率い敵の、特に夜間の行動を警戒し、敵の所在を探索し友軍と本隊に通報しろ。

 兵は殺傷しても、レオンや首謀者たちは出来る限り生かして逮捕するようにという指示があった。単独の攻撃は極力控え、危険な場合はその場を離れ攻撃を遊撃部隊に譲れ。過度に敵に接近するな。これは特に命じておくぞ。いいな?」

「・・・わかりました」

「くどいようだが、もし遭遇しても、絶対にレオンは殺すな。わかったか」

「はい。肝に銘じます」

 中佐は頷き、地図に目を落とした。

「ヴァインライヒ、・・・ヤヨイ。レオンが宣言通りに動くかどうかは定かではない。さしあたってお前ならどこから入る?」

「中佐がご指摘されたように小官も、レオン少尉はもう宿営地にはいないと推測します。

 彼女の目的はデモンストレーションです。彼女の意志を広く帝国軍に知らしめるために最善の行動をするはずです。恐らくは東隣の、この、第四軍団の最西端の宿営地を派手に攻撃し他の軍団まで巻き込んで戦端を開くものと思われます」

 ヤヨイは地図の右端、国境の川の南沿いの連絡道路の東の端にあるレギオンⅣ、第四軍団の管轄下にある宿営地を指した。

「その確認の意味でも、一度第五宿営地をチェックしてから後を追う形にしたいとおもいますが。そうすれば、遊撃部隊を宿営地の線まで前進させることができます」

「なるほど・・・。よかろう。遊撃部隊にはすぐに伝令を出し、第五宿営地の線まで前進させよう」

 中佐は状況説明と命令を締めくくり、鞭で手のひらをピシャリと打った。

「ヤヨイ。心してかかれ」


 


 

 リヨン中尉は不思議な人だ。

 中佐はリヨン中尉にはさして注意を払わなかったし、特に指示も命令もしなかった。ヤヨイの事情聴取の時すでに会っていてウリル少将の副官だと認識しているからだろうか。憲兵隊ではない、ウリル少将指揮の特殊任務に従事しているから、だろうか。野戦や偵察とは明らかに毛色の違う相手に警戒や当惑を覚えたから、かもしれない。

 いずれにしても、リヨン中尉がいてくれるおかげで、ヤヨイは万事やりやすかった。

 いつも空気のように気配を殺し、まるでそこにいないかのように振舞い、でも、必ずそこにいる。そしてヤヨイが彼を必要とするときに現れ、ヤヨイのために動き、母に会わせてくれたり、今も、髪と顔に迷彩を施し出撃準備をするヤヨイの傍らにいる。

「準備出来ました」

「では、行こうか」

 本部のタープの前で同じく完全武装に迷彩を施したリーズル、アラン両名と集合し、乗って来た馬の背に信号弾と予備の小銃の弾薬とひとまずは3日分の食料を積み、一行4人と2頭の馬は大隊の野戦司令部を出た。


 

 まだ陽が高かった。

 騎行はせず徒歩で行く。歩兵の2人が馬に乗れないからでもあるが、途中警戒している偵察部隊の防衛線を通るし、森の中は見通しが悪く、前哨線を過ぎたら敵の、レオン小隊の攻撃を警戒しなければならなくなる。今度の相手は弓ではなく、銃や迫撃砲を撃ってくる。本当に撃ってくるかどうかはわからない。だが、撃ってくると思わなくてはいけない。

 少尉がどうやって小隊の兵たちを反乱へ纏め上げたのかはわからない。気になる点だが、纏め上げられた兵はこちらへの攻撃を躊躇しないだろう。たとえその相手が数日間は一緒に行動し、共にオートミールの鍋を囲み、共に蛮族相手に戦ったヤヨイだと知っても。

 レオン少尉は兵をそんな風に仕向けることが出来る人だ。

 背中の銃をいつでも構えられるようにストラップを掴み、周囲への警戒をしつつ、ヤヨイはわずか10日ではあったが濃密な時間を共に過ごしたレオン小隊の面々を思い出しながら馬の轡を取っていた。


 

 —誰かがいつもお前の背中を見ていてくれる—

 —もしおれが敵に掴まりそうになったらこいつらがおれを殺してくれる—

 —お前か俺がこの小隊を去るまで、俺がお前を守ってやる。絶対に死なせない—


 

 ジョー・・・。

 彼と敵と味方とに分かれてしまったことだけは、心残りだった。


 

「ねえ、あんた・・・」

 同行する唯一の士官である中尉を慮ってか、それまで黙ってすぐ後ろを歩いていたリーズルが、痺れを切らしたのかヤヨイに話しかけて来た。

「あんた、レオン少尉の指揮で国境を越えて威力偵察したって、本当なの?」

「・・・本当です」

 と、ヤヨイは答えた。

「羨ましい・・・」

「え?」

 思わず後ろを顧みた。ヘルメットの下でソバカスだらけの迷彩の顔が木漏れ日に映えていた。

「あたし、まだ2回しか実戦してないのよ。不公平よ! 他の小隊にも越境攻撃を認めるべきだよ。あ~あ。あたしもレオン小隊に配属になりたかったあ・・・」

 思わず足を止めた。異人種か異次元の生物を見る思いで彼女を見た。

「・・・なによ」

「・・・いいえ、別に」

「言っとくけどね。命令だから仕方なくあんたについてきてるんだからね。

 偵察の兵はみんな同じよ。みんなイヤなの。レオン少尉を敵にするなんて。彼女が大隊長ならよかったのに! アラン、あんただってそうでしょ! ・・・ちょっと、どこ見てんのよっ!」

 リーズルはアランの胸を銃床で小突いた。

「いや、あいかわらず、いいケツしてるなあ、と思って」

「・・・これだからあんたは・・・」

 さらにリーズルは何かを言いかけたが、最後尾で馬の轡を取る、迷彩も何も施していないリヨン中尉の無表情な視線を感じて再び下草を蹴って歩き始めた。中尉は一切、何も言わなかった。

 本当に彼は、リヨン中尉は不思議な人だ。

 と・・・。

「止まれ。・・・いるぞ」

 アランが呟いた。

 ヤヨイは首にぶら下げた呼び笛を出し、吹いた。

 すぐに背後から笛が聞こえた。そして前からもふたつの人影が現れた。皆銃を構えてヤヨイの胸元に狙いを付けていた。すでに包囲されていた。

「大隊付きのヤツらだな。お前たち、迂闊だぞ。だいぶ先から話し声が聞こえた」

 前の一人が言った。いつの間にか哨戒線にぶつかっていたらしい。アンブッシュしていた偵察兵が優秀なのか、アランの優秀な耳というのが評判倒れのものだったのか。そもそも呑気にお喋りしながら歩いていたのが悪い。

「ヴァインライヒ二等兵です。ポンテ中佐の直命により、レオン小隊の捜索と追跡の任についています。このまま第五宿営地まで進出し、その後、東に向かいます」

「聞いている。しかし、そんな迂闊なことで大丈夫か。すぐにやられるぞ」

 アンブッシュしていた兵たちは構えた銃の銃口を上げた。迷彩を施した顔に軽蔑と侮りが浮かんでいた。袖章がないからわからないが、伍長か上等兵だろう。この分隊の指揮官らしい。

「ありがとうございます。以後、気を付けます」

「何かあったら信号弾だ。忘れるな」

「わかりました」

 そうして、ヤヨイたちは前哨線を離れた。

「アラン! 人のケツばっか見てないで仕事しろ。何のために来てるんだお前! この、アホ!」

 そう言ってアランを前に行かせ、リーズルは彼の後ろについた。

「おお、こっちのケツも、いいなあ・・・」

「・・・ったく。何なんだよ、お前はっ!」

 そんなことがあって、しばらく会話もなく森の中を歩いた。


 

 目の前の森の先が明るい。最前線沿いに点在する宿営地を東西に繋ぐ軍用道路だ。向かって左が西。少し行くとあの威力偵察をした河原の陣地への入り口があるはずだ。地図ではそうなっている。東に行けば第五宿営地。当面の目的地になる。

「道路と森の中。どっちを通る?」

 リーズルが訊いて来た。

「道路沿いに、森の中を行く。そのほうが、いいと思う」

「あたしもそう思うよ」

「ここからは、俺が先頭に立つ」

 アランが言った。ヤヨイは彼の言に任せた。

 そこから再び一時間ほど歩くと、道路沿いにあの東の宿営地、第五宿営地の高台と防護柵、それに監視哨の先端が木々の枝を透かして見えて来た。

 アランの足が止まり、彼は目を閉じて耳を澄ませた。

「大丈夫だ。この周りには、誰もいない」

 背後で物音がした。アラン以外一斉に振り向き、リーズルは銃を構えた。

「ヒバリだ。この辺りに巣があるんだろう。時々道路に出て日向ぼっこしながら、俺たちを警戒してるんだよ」

 そう言って、彼は笑った。

 午後の軍用道路の上に平和なヒバリの声が響いた。少し、この藪睨みの小男を見直した。

「宿営地に上がってみる?」

 リーズルが訊いた。

「うん。でも今はまだ、待って。ここで小休止して陽が落ちるのを待ちましょう。今のうちに食事を摂っておいて。陽が落ちたら、やってみたいことがあるの。少尉はきっと西から来る我々を警戒しているはずよ。東に向かっている背後になるから。それを確かめたいの」

「でも、何故陽が落ちてから、なの?」


 

 パンと水で簡単に夕食を摂った。馬はギャロップさせていないからそこいらの草を食ませるだけでいいだろう。そうして陽が落ちて森の中が暗くなるのを待って、ヤヨイは行動を起こした。

「中尉。リーズルと二人で宿営地に上っていただけますか。そして東側の松明を灯してまたここへ戻って来て下さい」

「わかった。・・・きみはどうする?」

「アランと二人で、ここで何が起こるか見ていたいんです」

 中尉とリーズルは薄闇の軍用道路を横切って宿営地のスロープを駆け登って行った。

「アラン。軍用道路の両脇に注意していて。第五宿営地に灯りが灯ると何かが起こるかも。それを確かめたいの」

 彼はコクと顎を杓った。そして目を見開き耳を澄ませた。

 と、宿営地の上に灯りが灯った。次いでゲートの扉が閉められる音。森の中を通り過ぎる風。額と背中を流れる汗を風が冷やしてゆく。灯りをともして来た二人が戻って来た。

「何か、動いた?」

「シッ!」

 ヤヨイは性急なリーズルの口を塞いだ。

 アランはしばらくゆっくりと辺りを眺めていたが、やがて暗い森の中のある一点にじっと目を凝らした。

「・・・いたぞ。1,000はないと思う。800か、もっと近い・・・。ひとりだ」

 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、アランが注視している方角の森の中から小さな閃光がした。続いてシュッ、というガスの音が遅れて響いた。

「グラナトヴェルファー(迫撃砲)だ! みんな、伏せてっ!」

 シュルルルル・・・。

 薄闇の空に弾体の飛翔音が響いた。弾は一発だけだ。しかし、炸裂音はなかった。野蛮人相手に散々ぶっ放したグラナトヴァルファーだったが、撃たれる側の気持ちが今、よくわかった。
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