【新版】優しい狩人 【『軍神マルスの娘』と呼ばれた女 1】 ~第十三軍団第七旅団第三十八連隊独立偵察大隊第二中隊レオン小隊~

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22 遠くなってしまった母

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 夏は陽が落ちるのが遅い。

 汽車は翌日の日没前にカプトゥ・ムンディーに着いた。前線に赴いた時は丸3日がかりの車中だったから、その素晴らしいスピードに驚いた。

 北駅は半月ぶりだった。駅前の商店街にはすでに灯りが灯り、帝国の各地から寄せられた多くの品々を鬻ぐ店が軒を連ねていて、夕飯の食材を買い求める金持ちの家の奴隷たちや若い学生や勤めを終わって家に帰る前に買い物をしようという人々で賑わっていた。

 だが貧乏学生として気楽に街を闊歩していた時とは違い、今は帝国の最高指導部へ密書を届ける重要な使者(メッセンジャー)であるリヨン中尉に帯同している身だ。

 それに、レオン少尉との別れとウリル少将の命を果たせなかった自責の念に駆られていた身でもある。その賑やかな雰囲気にもいささかも心が浮き立つことはなく、どこか他人行儀な感じさえした。

 通りから首都の中心を望む方向にいくつかの、家々が立ち並ぶ小高い丘があり、その丘の向こうに官庁街がある。

 駅前に待っていた、地方から首都へやってくる政府高官や元老院議員たちを乗せる専用の二頭立ての馬車に、同じ客車に乗っていた佐官たちの、たかが中尉と下士官風情が、というような咬牙切歯(こうがせっし)の眼差しを背にして乗り込んだ。

「スクリニウム(内閣府)へ」

 馬車はカンテラを翳して官庁街に向かった。


 


 

 今から約三千年ほど遡る、数百年だか千年だか前の大災厄からさらに二千年ほど前の古代。

 世界の覇者であったという大帝国の存在は大災厄を生き抜いた人々の間にも語り継がれていた。いつかは自分たちもまたその大帝国のような国を作りたいものだと。

 その名が「ローマ」だと知った誰かがそれにあやかろうとしたのか、官庁街を取り囲むいくつかの丘に「チュリオ」とか「カピトリーノ」だとか「パラティーノ」などという名前が付けられてからもう百年以上が経つ。

 帝国の建国当初はその丘の上に要塞が立ち並び、丘と丘は城壁で結ばれ、周辺の蛮族が攻めてくると住民たちはみなその城壁の中に逃げ込み、要塞から弓や石弓を撃って撃退したのだという。

 その要塞もいつしか住宅地に代わった。城壁も長い年月の間に大部分が遺跡となり、今では当時を偲ぶよすがとしてわずかにいくつかが保存されているだけだった。

 今、その丘たちの頂上からふもとまではびっしりと家や建物が立ち並び、どの家の窓からも夕餉の支度をする灯りが漏れ、炭の香りと美味しそうな食事の匂いが馬車の走る通りまで漂い出て来ていた。訓練所に入ってから無縁だったその匂いに、8年ぶりに会いまみえる母への思慕が募った。

 内閣府はそうしたいくつかの低い丘たちに囲まれた官庁街の中心にあった。

 石造りの重厚で荘厳な建築物。すぐ隣にさらに荘厳な元老院(セナート)の議場。内閣府の奥には皇帝の住まいである皇宮(カイザリヒャー・パラスト)がある。この帝国の中心、政治の中枢が、ここだ。いざ戦争になれば、帝国軍の最高司令部がここに置かれる。だが、今は戦争はない。反乱は、あるが。

 駅の通信所から手回し式の電信で第一報を送っておいたせいか、リヨン中尉とヤヨイはすぐに正門を通され、ヤヨイたちが携えて来た書簡を今かと待っていた官吏に無事手渡すことができた。

「さあ、これで大事な任務は終わった。きみのお母さんの許へ行こう。馬車で送るよ」

 自分よりはるかに上位にあたる士官が、軍務でもない、たかが一兵卒の私事に属することに付き合ってくれ、しかも送迎までしてくれるというあり得ない待遇を示され、ヤヨイは困惑した。

 しかし、迂闊にもというか、当然のことだが、ヤヨイは多くの国母貴族から生まれた平民たちと同様、実の母であるレディー・マリコの居所を知らない。結局はそれを知る彼に頼るしかないのだと悟った。

 国法により、国母貴族の母から生まれた平民は実の母親に会うことは許されなかった。それによって引き起こされる相続の揉め事や幾多の愛憎劇による悲劇を経て作られた法だと聞いた。それが許されるのは国家に対し多大な貢献をした者だけだ、と。電波の研究によってその権利を勝ち得ることが出来たらと夢想したことも一度や二度ではなかった。

 だが、思いがけなく、それが叶うことになったわけだ。

「・・・ありがとうございます」

 リヨン中尉の好意に素直に甘えることにした。


 


 

 貴族や金持ちや高級官僚、軍の高官といったいわゆるセレブリティたちはみな、首都を取り囲むいくつかの丘の上に邸宅を構えていた。百年ほど前に盛んになった海洋考古学、海洋歴史学によって解明された多くの新しい技術によって巨富を得た新興成金(ホモ・ノヴァス)も、競って丘の上に邸宅を構えたがった。

 彼ら新興成金の間では12人の子をなして国母貴族となった母を娶るのが一種のステイタスにまでなっていた。彼女たちと結婚すれば自分もまた一代に限ってではあったが貴族の仲間入りをすることが出来るからだった。貴族になれば名誉だけではなく元老院という貴重な情報を持つ場所により近づくことができるのだ。情報はさらなる富を生む。古代も今も、情報が価値を生むことは変わらない真実であり続けていた。ヤヨイの母であるレディー・マリコが婚姻した相手もまた、そうした新興成金の一人だった。

 都心を北西に臨む、チュリオの丘。

 隣のアヴェンティーノの丘との間に、ついふた月ほど前に大火があった一帯がある。

 丘の上の高級住宅地の石の舗装街路は、二度目だった。道の所々には各邸宅の灯す街灯まである。クィリナリスもそうだが、月明りと街灯に照らされた石畳はやっぱりヤヨイの住むところとは世界が違っていた。

 クィリナリスと同様に奴隷の門番がいた。ただし、あっちは奴隷に扮した警備を兼ねた憲兵隊の伍長。こっちは、本物の使用人。

 門から屋敷までの広い園道を馬車は走り、まるで皇帝の宮殿のような建物の、背丈の二倍ほどもある両開きの大きな玄関ドアの前に止まった。そのアプローチには馬車が3台は横付けして雨をしのげる大屋根まであり、そこに執事らしき召使と二人のメイドが侍立していた。クィリナリスにもなかった、まさに別世界。お伽話の中でしか知らなかった世界が現実(ここ)にある。こんな大邸宅に8年前に別れたきりの実の母が住んでいる。それが最大のお伽話だった。

「着いたよ。降りよう」

 中尉に促され奴隷が用意した踏み台を踏んで馬車を降りた。

 50代くらいの白髪の混じった執事頭が恭しく進み出た。南の国の出身だろうか。顔は東洋系か西洋系か判別し難かった。

「ヤヨイ様。ようこそお越しくださいました。奥で奥様がお待ちでございます」

 と、言った。名前を知っているのに驚いた。リヨン中尉が手配してくれたのだろうか。思わず中尉を顧みた。

「行っておいで、ヤヨイ」

 彼は変わらない微笑を湛えてヤヨイの腰を押してくれた。

 そこは玄関ホールというよりは広いサロンのようなところだった。

 床は広大な帝国の版図を描いた大理石のモザイクが埋め込まれ、白い壁の各所に植物が植えられ、ニッチには海底の遺跡から引き揚げられたものだろう、様々な彫刻の数々が飾られていた。正面にはアトリウムを望み、新兵訓練所やクィリナリスのそれよりもはるかに大きな噴水からカスケードを伝い、豊かな水量が溢れ出しているのが贅沢な灯りに照らされていて美しかった。

 その水音のせいか、背後のサンダルの音に気が付かなかった。

「ヤヨイ、ヤヨイなの?」

 懐かしい落ち着いた声に振り向いた。

 8年の月日を感じさせない、優しい黒い瞳と黒い髪。あでやかさまで備えた、落ち着いたドレスに身を包んだ貴婦人が立っていた。

「お母さん!」

 母よりもはるかに大きくなった体を折り曲げるようにして、ヤヨイはレディー・マリコとなった実の母に抱きついた。


 


 

 二人は、長きにわたって別離を託った母子がする当然のこと、つまり、別れていた間のお互いの身の上を語り合い、再会の喜びに泣き、お互いにキスを雨のように降らせ、受け、抱き締めあった。

 無理もない。お互いに生きて再びまみえるなど思いもよらなかったのだから。もちろん、ウリル少将から託され、失敗した任務のことは母には伏せた。

 玄関ホールに続く、広い、屋内庭園のようなリビングに通され、柔らかなソファーを勧められ、飲み物を供された。新しい母の家のコーヒーは、いつもの徹夜で飲むコーヒーとは異次元の、別格の味がした。苦かった。母の作ってくれたあの素朴なレモネードの味が懐かしかった。

「今は軍にいるのね。危ないことはしていないのね」

 心配そうに尋ねる母の口調は紛れもなくあの優しかった母そのものだった。

「それは大丈夫。軍団の後方の部隊だから」

 そして親から仕事の内容を尋ねられた多くの子供がそうするように、ヤヨイもまた親に心配をかけぬよう、優しいウソを吐いた。

「なら、いいけれど。ムツキやキサラギのときも心配だったのよ。離れていても会えなくても、あなたたちはわたしがお腹を痛めて産んだ大切な子供たち。立派に軍務を務めあげて徴兵を終えるまではと毎日神々にお祈りしていたのよ。いいこと、間違っても偵察部隊などに志願してはだめよ」

 その一言も、内心を押し隠して聞き流すはずだった。

 だが、何故か、出来なかった。

 言わなくてもいい事が、口からほとばしり出てしまった。

「お母さん。偵察部隊あっての帝国軍だし、帝国なんです。野蛮人や敵国と接触の多い部隊です。危険ですが、誰かがやらなければならないんです」

 そう、言ってしまった。

「なんですって。ヤヨイ。まさか志願しようとしているんじゃないでしょうね!」

「お母様。お客様ですか」

 玄関ホールからの出入り口にヤヨイと同じカーキ色のテュニカにクロスした革帯の軍装の凛々しい少年が立っていた。

「まあ、お帰り。・・・ヤヨイ、わかる? あなたがおむつを替えてくれた、シワスよ」

 母が同じだから微かにヤヨイと同じ額の輪郭と鼻の形はある。だが髪も瞳の色も黒く、ヤヨイにはない特徴を持った、意志の強そうな少年が目の前に立った。そして完璧な敬礼をしてヤヨイの答礼を待った。

「お姉さまですね。シワスです。お姉さまのことはいつも母から聞いていました。兄弟の中で一番成績が良かったと。僕は今小学校に通いながら幼年学校の予備門にも行っています。将来は士官になりたいんです!」

 その物怖じしない、堂々としたもの言いに好感は持った。だが・・・。

「聞いたでしょう。どうしても軍人になりたいって聞かないのよ。それよりもリセが終わればお父様のお仕事を助けてビジネスをしなさいって言っているのだけど・・・」


 


 

 ヤヨイは電波の研究を深めるための機材を買う金が必要だった。そこへウリル少将から魅力的な提案を受けた。好き好んで偵察部隊に入りたがる新兵はいないし、ましてや誰それを殺めるなど、イヤだったけど引き受けた。結局任務は果たせず、助成の件もなくなり、逃げ戻って来てしまったわけだけれど。

 どうしても彼女の、レオン少尉の心に寄り添うことはできなかった。彼女を翻意させることも、殺すことも出来なかった。きっと少尉が言ったように、ヤヨイが、自分をこの世に産み落としてくれた、この素晴らしい母を持っていることに由来するのかもしれない。

 容姿端麗、頭脳明晰、身体健康、性格温厚。

 母のような国母貴族を世間や国は誉めそやし、持ち上げる。それまで自分も全ての女性の鏡だと信じ込んできた。その、母。

 だが、生まれて初めて、母の考えに違和感を覚えた。何故か、どうしても、母の言葉が霞んでしまって見えた。

「お姉さまの所属はどこですか。配置の前線は、西のチナ国ですか、北の野蛮人相手ですか」

 目を輝かせて8歳上の姉を質問攻めにする、シワス。まだ子供だからだろう、戦争の華麗でカッコイイ部分だけに目を奪われ惹かれているのだろう。そこにも違和感はあった。


 

 本来、国母貴族となった女性の産んだ子は12歳になれば親元を離れ、生母とは無縁の人生を送る。

 だがまだ養育中の末の子が母の結婚と重なることはままあった。その場合、母は国から支給される養育費と多額の慰労金を辞退する代わりに末の何人かを夫の子として入籍させることができる。ヤヨイの母のように金持ちと結婚した国母の多くがそうして持参金の代わりに相手の男の世継ぎを提供するケースも、ままあった。母の夫になった男には子がいなかったのだろう。

 例のあの、国母貴族の産んだ子は12歳を過ぎたら親元を離れ再び会ってはいけないという法律は、そうしたケースによる兄弟間の不公平を生まぬようにするための措置でもあった。


 

 どこがどう違うかは言えない。だが、違う。

 この人たちは、自分が危険を冒して得ようとしている金をふんだんに持っている。

 ここはかつてヤヨイが過ごした母の家ではない。母も、かつてその胸に甘えた美しくて優しい母ではなくなっていた。この士官になりたいという末っ子の弟も、かつておむつを替えてやった、あの小さくて真っ白な可愛いシワスとは思えなくなっていた。

 新兵訓練所やクィリナリスでの人間性を奪う訓練の日々のせいかもしれないし、

 過酷な前線の陣地で粗衣粗食をして汚れたシュラフにくるまって寝たせいかもしれないし、

 あの野蛮人の地の丘で滅多やたらに銃を撃ちまくり、殺しまくり、技を使って敵を斃したせいかもしれないし、

 劣悪な環境で人間以下の待遇に甘んじつつも、帝国の辺境を守るために命を曝している兵たちを見たせいかもしれないし、

 その兵たちを鼓舞しまとめ上げて野蛮人の部隊に立ち向かわせるずば抜けた能力と高い理想を併せ持ったレオン少尉と出会ったせいかもしれない。

 レオン少尉は紛れもなく、ヤヨイがそれまでに会った最も高潔で純粋な人だった。

 最前線で会った、あまりにも魅力的な指揮官に感化されたと言われればそれまでだ。性的な魅力や精神的人間的なポテンシャルの高さに影響を受けたのは否めない。端的に言えば、彼女を好きになってしまっていた。

 母のマリコの言葉は、子を持つ親なら誰でも思う、まともな言葉だ。

 しかし、そのまともな言葉が、シワスのあどけない憧れが、共にヤヨイの思いを、汚した。そして、その汚されたという思いは、母の今の夫である男と会うことで決定的になってしまった。


 

「奥様。旦那様がお戻りになりました」

 執事頭がその男、この館の主の帰館を告げた。

「やあ! ヤヨイだね。わたしはパーク。いくつかの農園と工場を経営している。軍にも軍需品を納めているんだよ」

 そう言って握手を求めて来た男は東洋系の細い目が鋭い、頬骨が張った小男だった。美しい母に全然そぐわない、どちらかというと醜怪な部類に属する容姿・・・。

「みんな食事は?」

「ヤヨイも来てくれたし、せっかくだからとあなたをお待ちしていたのよ」

 母はそう言ってその小男に寄り添った。

「ノン。では食事の用意を頼むぞ」

「今夜はどの間でお食事なさいますか」

 ノンと呼ばれた執事頭はそう訊き返した。

「ヤヨイ。彼は美食家なの。お客様をお迎えするときは特別な料理を作らせるのよ。テーマによって食事をする部屋を変えるの。これはアポロンの間で摂るディナー、これはポセイドンの間で摂るランチ、という具合にね。いにしえの古代ローマの貴族たちの風習なのですって!」

 お願いもしないのに、母はそんなふうに解説してくれた。

「父上、お姉さまが来てくれたのだから、マルティウスの間では?」

「それは名案だ、シワス!」

 パークという小男は、キザったらしく、言った。

「聞いているよ、ヤヨイ。きみはバカロレアで重要な研究をしているそうだね。離れたところ同士の通信を可能にする『電波』の研究とか。

 実はわたしはマリコの子供たちを密かに探させていたのだ。もちろん、違法だがね。それできみの研究テーマを知ったのだ。非常に興味をそそられてね。是非その辺りのことをゆっくり聞かせてほしい。できればきみの研究に助成させてもらいたいと思っているのでね。

 ヤヨイ。風呂に入って旅塵を落としドレスに着替えるといい。せっかくの美しい娘が軍服のままでは可哀そうだからね。シワスも演習で汚れた服を着替えなさい。どれ、わたしも着替えてくるとしよう」

 そう言ってパークは奥の間に消えた。

「ヤヨイ。バスルームに案内するわ。メイドがいるから着替えとドレスの着付けもしてもらいなさい」

「お母さん!」

 と、ヤヨイは言った。

「せっかくだけれど、わたし、もう行かなくちゃ。大切な任務の途中なの。それが終わったら、また会いに来る。パークさんにはよろしく伝えてください」

「ええっ! どうして。泊って行けると思っていたのに・・・」

「ごめんなさい。どうしても外せない任務なの。徴兵されてとはいえ、わたしも軍の命令で動いてるの。わかって」

「・・・そう。しかたないわね」

 もう、母とは思えなくなっていた。この人は、「レディー・マリコ」という、貴族だ。

「じゃあ、元気で。身体に気を付けるのよ」

「お姉さま、軍隊の話が聞けると思っていたのに、残念です」

 この少年も、可愛かったシワスではない。軍人になることを夢見ている、どこかの、活発な少年に思えてならない。血は繋がっている。だけど、違いすぎる。何もかも、が。

「シワス。軍の任務は決してカッコいいことばかりじゃない。美しくなんかない。汚いし、醜いところよ。そこをよく考えて。職業軍人になるなら、ちゃんとリセに行ってからでも遅くないよ。じゃあ、お母さんも、お元気で」

 そう言って逃げるように屋敷を出た。後も振り返らなかった。

 母も弟も母の夫も、みなそれぞれを普通に生きているだけだ。誰も何も悪いことはしていない。だがその普通が、戦場の真実を知ったヤヨイとは、違い過ぎた。この8年という年月とそしてたった数日の少尉との時間で、その違いが、埋めようもない溝が、広がり過ぎたのだろう。

 職業軍人や徴兵された兵たちは、あのような金持ちたちや庶民の生活を守るために命を危険に晒している。その矛盾を飲み込むにはまだ、ヤヨイは若すぎた。

 そして今この間にもレオン少尉たちを鎮圧するために前線へ送られた38連隊の兵士たちは行軍しているかもしれない。ヤヨイが少尉を排除してさえいたなら失われずに済むはずの命が危険に晒されようとしている。

 長い園道を急ぎ、門番小屋の奴隷に頼んで開門してもらい、住宅街の道路に出た。

 乗って来た2頭立ての馬車が、まだそこにいた。

 暗いカンテラの灯りの下、リヨン中尉はカードゲームをしていたが、ヤヨイを認めるやそれをポケットに仕舞った。

「やあ。やはり閣下の言った通りだったな。ヤヨイは必ず戻ると。待っていて、よかった」
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