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第六話 ぼくの許嫁? (中編の下)
しおりを挟むヤマトタケルが日本全国の「まつろわぬ民」、言うこと聞かないヤツらを次々とやっつけていった折に最強の武器としたのが、ご存じ「草薙の剣」。
これ、名古屋の熱田神宮の御神体なんだけど、そのルーツは実はスサノオノミコトなんだよね。
正しくは、「タケハヤスサノオノミコト」(建速須佐之男命)。で、スサノオがやっつけたヤマタノオロチのシッポから出てきたといういわくつきの剣が、クサナギ。
天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)とも、草那藝之大刀(くさなぎのたち)とも都牟刈(つむがり)の太刀たちともいう。
ちな、皇居にあるのは形代(かたしろ)。神霊が依り憑く(よりつく)依り代の一種。早いハナシつまり、ダミー。それなりにご利益あると思うけど、オリジナルは名古屋だぎゃあ!
じゃ、ヤマタノオロチやっつけたのはどうやって? というと、スサノオが使った剣が 「十束剣(とつかのつるぎ)」という、また別のヤツで、
「だったら、クサナギよりもトツカの方がガチ強ェんじゃね?」とは誰でも思う。
で、幾人かの研究者の人たちはこう考えてる。
もともと「記紀」の神代史は「寓話」。
古代の人々の考えや大和朝廷の成立を神話の形にして人々にわかりやすくしたもの。
で、大和朝廷が当時の出雲を平定したストーリー、戦記を寓話化したのが「ヤマタノオロチ征伐の話」だという。
ちな、物理学者の寺田寅彦 (てらだ とらひこ、1878年(明治11年) - 1935年(昭和10年)は、
「ヤマタノオロチのイメージは活火山から流れ出る溶岩流かも」
と言ってる。
溶岩が山襞に沿って流れるのを「皮膚が爛れてダラダラ血を流してる怪物」に見立てたというわけだね。
で、「クサナギを得た」というのは、当時の出雲の地にいた製鉄を生業とする一族「たたら」の人々を支配下に置いたことの寓意ではないか、というのが研究者の人たちの見解ということらしい。
要するに、出雲を平定した大和朝廷が出雲の地場産業である製鉄も支配下に置いた。その寓話が「草薙の剣」伝説、ってわけ。
でも、そこは置いておいて。
高天原を追放されて出雲に降り立ったスサノオは、ヤマタノオロチという怪物に毎年娘を食われているアシナヅチ・テナヅチの夫婦と、その娘のクシナダヒメに出会った。
彼らの話によると、もうじき最後に残った末娘のクシナダヒメも食われてしまう時期なのだという。Oh,my god!
あわれに思うと同時に、美しいクシナダヒメが愛しくなったスサノオは、クシナダヒメとの結婚を条件にヤマタノオロチの退治を申し出た。スサノオの素性を知らないアシナヅチとテナヅチは訝しむが、彼がアマテラスの弟と知ると喜んでこれを承諾し、クシナダヒメをスサノオに差し出した・・・。
なんでこんな話をしてるのかっていうと、ワカバとぼくがピンポンしに行こうとしたら、
「そうそう! 実はね、ずっと前からタケル君に渡そうと思って渡しそびれてたものがあるんだ」
とかいってカバンをごそもそしてたおじさんが古い絵本をくれたからだ。
「『すさのおのみこととやまたのおろち』?」
もう表紙はボロボロ。しかもデザインも昔風のクレヨン画みたいな絵。装丁も糸がほつれて外れかかってる、骨董品のような絵本。
「憶えてないだろうなあ。タケル君とワカバがまだちっちゃいころ、ずいぶん読んであげたもんなんだよ」
? ? ?
「そう、なんですか・・・」
「いこ、タケル! 」
浴衣姿で目ウルウルのワカバに手を引かれ、しかも古すぎる原作古事記の時代物の絵本を持って、ぼくは一階にある古いゲームばかり置いてあるゲーセンの横の卓球台に連れて来られた。なんか、静かにカオスだ。
「勝負だよ、タケル! 」
すでにラケットを握ってヤル気マンマンなワカバ。
なんでやねん・・・。
つい、自棄でカンサイ弁を思い浮かべるぼく。
ま、いいか。
「・・・じゃ、打てば」
「行くよっ! 」
ところが。
ワカバのサーブは何度やってもぼくのテーブルを打たないのだ。
だいたい。
コイツはちっちゃいころから運動とかスポーツがダメだったのだ。ぼくが手取り足取り、なんとかドッジボールとかバレーボールを教えてやったのだが、まるでダメ。
で、もう話したように、それまではぼくとコイツはいつも一緒に遊んでいたのだが、ぼくが小学校で少年野球を始めてから、少しずつワカバといる時間が減っていった。そしてそれは中学にあがると決定的になったのだ。ぼくが野球部、ワカバが剣道部に入部したことで。
卓球台の向こうでハアハア息を切らしているワカバに、ぼくは言った。
「じゃさ、ぼく打つわ」
卓球台の周りに散らかったボールを拾い集めたぼくは、思いっきり甘ーいタマをサーブした。
ぽ~ん・・・。
「やあっ! 」
案の定、ワカバのラケットは空を切り、ヤツは一回転してコケた。
「なあ、も、止めにしね? 」
「まだまだっ! 」
せっかく温泉に入ったというのに、ヤツはもう汗をかいて前髪が額に張り付いていた。それを浴衣の袖で払い、
「さあ、来いっ! 」
熱血かよ・・・。
・・・。
ホンキではないけれど、あまりにもウザすぎて、ぼくはテキトーにごくフツーの「卓球」をした。
ボール紙の箱に入った回収したボール、2ダースはあったと思うけど、全弾、向こうの卓に打ち込み、当然だけどワカバは一球も返せず、卓球台の傍にあった100円入れると動き出すマッサージチェアにぐったり伸びて、ハアハアを繰り返していた。
もう、いいだろう。
「部屋、戻るよ」
ぼくは二人分のラケットと広い集めたボールを入れたボール紙の箱を台の上に置き、客室へ上がるエレベーターホールに歩き出した。
と。
ぼくの浴衣の袖をギュッと握りしめたワカバがいた。
その汗だくの、悔し涙みたいのを浮かべた必死な顔を見ていたら、なぜだかとても切なくなったのは、なんでなんだろう。
第六話 ぼくの許嫁? 後編に続く。
「記紀が編纂される頃の出雲は、残念ながらまだ鉄王国といえるほどではなかったといいます。とはいえ、出雲国風土記飯石郡いいしのこおりの条、波多小川はたのおがわと飯石小川いいしのおがわの項に「鉄まがねあり」と記述があり、古墳時代後期・6世紀後半には製鉄が始まっていたことが羽森はねもり第三遺跡(雲南市)や今佐屋山いまさややま遺跡 (邑智郡邑南町)などから確認されています。
さらに中海(なかうみ)周辺の遺跡から6世紀後半から7世紀にかけての製鉄炉の炉壁が発見されていることから、草薙剣は神話とはいえ、質の良い出雲の砂鉄から作られた可能性はゼロとはいえないでしょう。砂鉄の採れた波多小川も飯石小川も、スサノオが御霊を止めたと風土記が伝える須佐も、当時は同じ飯石郡内。想像の翼はいやが上にも広がります。
人々が川を竜神として崇め、風水害をもたらさぬよう祈るのは古代からの常。炉から燃え上がるすさまじいばかりの炎をたたら製鉄に関わる人やオロチの目や腹にたとえて、三種の神器・草薙剣に結び付けるとは、記紀の作者は見事な語部といえるでしょう。それほどに出雲の鉄は優れていたのです。」
(出雲の国たたら風土記
https://tetsunomichi.gr.jp/tales-about-tatara/japanese-myth/)
余談ですが。
今年の甲子園では出雲の大社高校が大活躍しましたね!
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