ドMのボクと史上最凶の姉たち

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第三話 ぼくの姉、双葉(後編)

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 いつもならクルマかオートバイで出かけるのに。

 それならぼくにはもう手も足も出ない。まだ高校生だから車の免許はないしオートバイの免許を取ったのが学校にバレると退学になる。

 だが今は。ふた姉はてくてく歩いてく。いつもどこへ行くのか気になっているふた姉の後を付いてゆくのに、今この時ほどの好機があろうか!

 そう思ったら、無意識に後を尾行けていた。きっと、カレシとデートに違いない。そう思ったら、居ても立っても居られなくなってしまったのだ。

 もちろん、わかってる。ふた姉だってもう22なのだ。

 カレシに裏切られて以来男に対して警戒心が強すぎてずっと「空き家」状態のひと姉とか、そこそこ以上に美形なのに何故か男の影なんかまったく何にも感じられないみつ姉とは違い、ぼくの知っている限り、ふた姉にカレシがいなかった時はない。

 でも、カレシに夢中になったり、ましてや溺れるなんてことはなかったように思う。なんか、どっか、クールてか、ドライなのだ。

 だいたい、スマホの扱いひとつにしてもそうである。さっきみたいにダイニングのテーブルの上とかコタツの上とか下駄箱の上とかにほっぽりだしたまんま。充電もせず電池切れになることもしょちゅう。で、それがけっこうな頻度で、鳴るのだ。しかも、ロックもかけてない。いつだったか、

「不用心じゃない?」

 と言ったことがある。

「なくしたり落としたりしたらどうすんの?」

 と。

 そしたら、

「おサイフケータイにもしてないし、アドレスなんて一個も入ってない。全然困らないよ」

 涼しい顔でふた姉は言った。

 相手の方が気の毒だしあんまりうるさいのでお風呂に入っているふた姉にドア越しに、

「ふた姉、さっきから電話だよ」

 と、言ってみることも何度もあった。

「んー出てみて」

「え、いいの?」

「だって、出ないと誰からかわかんないじゃん」

 ふた姉はカレシの番号も登録してないのだ。

「あの、ヤマトフタバのスマホですが、姉は今お風呂入ってまして・・・」

 ぼくが出ると大抵相手さんは怯む。だが、それにもめげずに「これお風呂場持って行って」とか言われることもある。

「ねえ、どうしても出てくれって」

 すると、風呂場のドアがガラッと開いて濡れた手がニューッと出てくる。ぼくの手からスマホを取ると、ドアが閉まる。

「アラ、○○さん! ごめんなさい。・・・ええ、今のは弟。・・・ああ、そんな。あり得ないですよ。あはは。○○さんたら、可愛い。・・・ええ。・・・ええ。わかりました。ええ、きっと。・・・それじゃあね。・・・アイシテル♡」

 そして、チッ! という舌打ちが風呂場に響くや、ドアが開きまた手が出てくる。

「どっか、置いといて」

 で、またドアが閉まる。

 そして、

「あ~あ、だりいわ・・・」

 風呂場に憂鬱な声が響く。

 で、それから何日かすると車が変わっていたりするのだ。

 付き合うカレシが変わる度にクルマが変わっていたりする。それも国産や輸入の高級スポーツカーばかり。もちろん、値が張る。

 まだベンゴシのタマゴで司法修習生に国から支給される13万5千円の給付金が唯一の収入であるひと姉よりは金持ちだが、国内ツアーのレースドライバーのドライバーフィーとか、モデル事務所に所属しない単発のグラビアのギャラとかなんてたかが知れている。そんなふた姉の収入からして到底買えるはずないクルマばかり。カレシからのプレゼント? カレシというよりはいわゆる今流行りの「パパ活」?

 悶々としながら後をつけてゆくと、やっぱり駅だった。

 夏の盛り。平日昼間の電車はガラガラ。

 ぼくはふた姉の乗った車両の隣の車両に、ベンチシートは空いてるのに死角だけどふた姉の姿が見えるように立った。

 ふた姉はスラリと伸びた脚を投げ出すようにして腕組みし、時折背中の窓の外を眺めたりしていた。実に画になる。

 いったい、どこに行くのだろう。

 ふと、スマホが鳴っていたのを思い出した。

 悪いと思いつつも、ぼくは開いた。

 LINEのポップアップが出ていた。メッセージは、

「1207」

 ん? なんじゃ、これは?

 ふた姉のスマホにLINEをインストールしたのはぼくだから、扱いは造作もない。

 最近のトークは、と・・・。

 一番上の「MIKE」というひとを含め、未読がずら~り・・・。ふた姉、無精だな。

 でも、みけ? 猫かよ。ぼくはそのトーク画面を開いた。

 最新が「1207」で、その前は2時間前の音声通話。で、その前がさらに10分前の、

「いま、いる?」

 これだけ。

 察するに、ふた姉はこの「みけ」という人に会いに行こうとしている。LINE通話で行き先を打ち合わせたと見た。

 だけど、「1207」って・・・。なんだろう?

 12時7分? 車のナンバー? 電話番号の下4ケタ? 意味ない。

 そうこうしていると、ふた姉が席を立った。

 都心をグルグル回る環状線。その一番大きな駅に着いた。

 朝のラッシュほどじゃないけど、それでも人が多い。

 電車を降りたふた姉がフォームから地下に降りる階段を降りてく。改札を出る。右と左。どっちに行くんだ?

 ふた姉は左に、西口に向かった。

 スマホを翳して改札を出る。ぼくは後を追った。

 この駅は西と東でまったく違う顔を持つ。東が大きな繁華街。西は高層ビル街。平日昼間でも人通りがある東に比べると、西は人が少ない。密かに後をつけるには困難だ。

 ええい、もう見つかってもいいや!

 ぼくは100メートルくらいの距離を置いてふた姉の魅力的な後姿を追い続けた。

 やがて、ビルとビルの間の広い街路の先に大きな茶色い壁のホテルが見えて来た。

 そのホテルに向かってずんずん歩いてく、ふた姉。

 どうしてだろう。ドキドキが、止まらない。

 そして、ホテルのエントランスに入って行くラフな格好のふた姉の姿を見て、ぼくは立ち止まってしまった。

 1207は、ルームナンバーだ。

 どお~ん・・・。

 ぼくのアタマの中でお寺の重々しい鐘が鳴り響いた。

 ・・・。

 もちろん、わかってる。ふた姉だってもう22だ。

 カレシさんがいてもおかしくないんだ! つか、あんな超美形でスタイルグンバツでしかもグラビアモデルだぞ! カレシさんの一人や二人、いないほうがオカシイのだ!

 でも・・・。

 わかってはいるのに、こうして現実を目の当たりにしてしまうと、ドキドキしてた胸の奥が、きゅーん、と・・・。苦しいほどに締め付けられてしまう。

「ああ・・・」

 ぼくはフラフラと後を追った。

 冷房の効いた、大きなシャンデリアのあるだだっ広いエントランスホール。平日の昼間だってのにハイソ風味なひとたちが行きかう。この人たちはいったい何の仕事をしてるんだろう。これが「ホテル族」という人種だ。

 そんな人たちの間をスタスタ。敷き詰められたカーペットの上をずんずんと歩いてくふた姉。いくつかあるソファーの一つに座り、肩に下げたポーチを開いた。そこでやっとスマホを忘れたことに気付いたみたいだ。

「ハイ、これ。忘れてったでしょ」

 もしいまここでぼくがスマホを差し出したら、ふた姉はいったいどんな顔をするんだろう。

「ああ、タケルじゃん! おお! 気が利くね!」

 絶対にそうはならないのは断言できる。命を懸けたっていい。

 悶々とドキドキときゅい~んな胸を抑えつつ、ぼくは掌にかいた大汗を握りしめていた。

「お客様。なにかお困りでしょうか」

 黒いスーツ、アタマ七三でテカテカした人。いかにもホテルのマネージャーってカンジの人。そのひとが穏やかに、かつビジネスモードバリバリで話しかけて来た

 そこで初めて、自分がTシャツにバミューダショーツに素足にスニーカーだったことに気付く。こんなハイソな高級ホテルにまったくもってそぐわない、ドレスコードバリバリ無視のラフすぎる格好。ふた姉の眩しいほどのラフとは次元が違う、商品価値のない、ラフ。

「あ、すいません。ちょっと待ち合わせで・・・。あの、夏休みで、オバがこのホテルに泊まってるんですが・・・」

 とっさにワケワカメな言い訳をするぼく。

 そうこうしているうちにいくつかある電話ボックスから出てくるふた姉の姿を見つけた。迷いなくエレベーターホールに向かってゆく魅力的な後姿。

 ああ、相手の電話番号を覚えていたんだろうな、とわかる。スマホがないから連絡できないはず。そのアテは見事にハズれた。そのまま引き返してくれれば、よかったのに・・・。

「上のヒトハはアタマが良かったがカンがニブい。そこへいくと下のフタバはアタマはともかく、カンがスルドかった」

 あの野球部の鬼のオニヅカ先生も言っていた。だけど、ふた姉はカンだけじゃなくて、記憶力もいいのだ。だからきっと、スマホの扱いもぞんざいになるんだろう。

 なぜだか再び、どお~んという重々しい音が鳴り響いた。

「あ、もう、いいです。出直してきます・・・」

 何も考えられずに、ぼくは逃げるようにホテルを出た。

 冷房の効いたホテルから出るとムッとした熱気が襲って来た。

 ホテルは出た。

 でも、出て何をするでもない。どこに行くでもない。夏の炎天下。上からは熱い陽射し、高層ビル街の間の広いペイヴメントからも猛烈な照り返し浴びながら、ぼくはただ、トボトボと歩き続けた。

 あの「1207」の部屋では、今・・・。

 考えまいと思っていても、どうしても考えてしまう。

 これでも、ぼくは高校2年生だ。まだケイケンはないけど、大人の男と女がホテルの一室ですることぐらいは、わかりすぎるほどにわかる。

 ふた姉から自分が出てるグラビアの雑誌を渡されて、

「頼むからオカズにしないでね♡」

 そんなことを言われて赤面しつつ、

「するわけねーだろッ!」

 とか言いながら、でも写真の一枚一枚をしっかり目に焼き付けていたりする。

 黒いビキニ。お尻ぷりんっ! ムネばいーんっ! しかもスレンダーで手足長っ! しかも、超美形。それが、あんなのや、こーんなのや、うわ、うひゃあっ! こんなカッコー、アリなのかっ! というようなあられもないポーズの数々。

 そんなモノを見せられて、ふん、とかいって何事もなかったように教科書に没頭できるヤツは男じゃない!

 きゅい~ん・・・。

 また胸が締め付けられた。

「あんたたち姉弟でしょ? キモッ!」

 あのウザいワカバなら、いや、誰だってきっとそう言う。

 んなこたわかってる!

 でも、苦しいんだ!

 苦しいものは、しょーがねえだろッ?!

 すると、またあのイメージがやってきた。

 時々夢にも出てくる、赤ちゃんになったぼくがふた姉の大きなおっぱいに抱かれている、あのイメージだ。

 不思議なことに、そのイメージが湧くと胸のきゅい~んもドキドキも収まる。そしてハラの奥にあったかいものが広がるのだ。

 いつの間にか、ぼくはその高層ビル街をぐるっと一回りしてたみたいだ。

 気が付いたら、あのホテルの真ん前にいた。

 Tシャツの裾で額の汗を拭ったぼくは、意を決して再びホテルのエントランスに入って行った。

 冷房の効いたホールに蠢くホテル族たちの間をすり抜け、いくつかのホテルマンたちの視線も撥ね返して、迷わずにエレベーターホールに向かい、「△」ボタンを押した。

 ぽ~ん・・・。

 後ろでドアが開いた。

 すぐに乗り込んで「12」を押す。ドアが閉まる。

 ぐい~ん・・・。

 ぼくは数字が増えて行く階数表示を見つめた。運命のエレベーターが、昇ってゆく。

 ぽん・・・。

 12階に、着いた。

 カーペットが敷き詰められた廊下をスニーカーが歩く。

 1201、1202、1203・・・。反対側が1216、1215、1214・・・。

「13」はない。だからこっちのウィングは全部で15室。1207は一番奥のカド部屋になるのがわかる。

 そして、廊下のどん詰まりに「1207」は、あった。

 ぼくは震える指でインターホンを、押した。

 ぴんぽ~ん・・・。

 し~ん・・・。

 誰もいない、人の気配がない廊下。

 と、

 目の前のドアの向こうに微かな気配を感じた。

 ドアの上の方に小さなカメラが付いてる。だから、ぼくの姿は中の人にバッチリわかる。

 もう一度押そうか。

 そう思っていたら・・・。

 がちゃ。

 ドアが開いた。

 ドアは少しだけ開いた。

 その向こうに、見慣れたショートヘアの超美形が現れた。

「タケル・・・」

 廊下の薄暗い照明にも、ふた姉の上気した顔がわかった。白いバスローブの胸元をしっかり握ったふた姉からは、なんとも言えない妖しい香りが漂っていた。黒い瞳が、濡れてた。切なすぎるほどに、キレイな瞳が。

 ふた姉の肩の向こうに人影があった。同じ白いバスローブの裾から伸びた脚の、肌の色が異様に黒かった。

 張り裂けてしまいそうな胸を抑えつつ、ぼくはポケットに入れていたふた姉のスマホを差し出した。

「・・・これ。忘れ物」

 そして、ぼくはエレベーターに向かって駆けだした。


 

 再びムッとした熱気がぼくを迎えた。

 でも、なんだか虚しさが込み上げて来て心の中が寒かった。

 駅に向かった。

 でも、駅には入らずにぐるっと回って暗くて長い通路を突き抜け、東口に出た。西と違い、人も街の佇まいもゴチャゴチャしている。車の騒音や家電量販店の宣伝がうるさい。

 そんなゴチャゴチャの暑い街を、ぼくは歩いた。ぼくの中の気が収まるまで、ぼくにはただひたすらに歩くことが必要だったのだ。

 あれは「みけ」じゃない。「マイク」だ。

 外人で、黒人だ。

 そんなどうでもいいイメージが湧いて来て、ぼくをさらに苦しめた。

 通りを歩く人たちののん気そうな顔を誰かれかまわずぶん殴ってやりたくなった。もちろん、殴ったりはしなかったけど。

 あれはカレシなんかじゃない。ぼくには確信があった。

 そんなふうにまたとぼとぼ、グルグルと街を彷徨い、やっぱり、駅に戻って来た。

 ふと、駅の時計を見上げた。

 ああ、もうこんな時間か・・・。

 家に帰って風呂の掃除をして洗濯物を取り込んで夕飯の支度をしなきゃな・・・。

 駅のコンコースを改札に向かって歩いてゆくと、人波の中にジーンズとキャミとキャップを被った愛らしい姿を見つけた。

 ふた姉は驚いてもいなかったし怒ってもいなかったし笑ってもいなかった。ただ、じっとぼくを見つめ、こう言っただけだった。

「よかった・・・。帰ろ、タケル」

 夕方のラッシュ前。

 ベンチシートにふた姉と並んで座った。

 ふた姉からはいつも家で使っているのとは違うソープとリンスの香りが漂っていた。

 ふと、ぼくの汗ばんだ手が握られた。知らない人からは、若いカップルにみえることだろう。ふた姉の手は、柔らかくて、あったかかった。

「ねえ、あんたに話したことあったっけ。お父さんが亡くなるちょっと前のこと。お父さんね、枕元にひとちゃんとあたしを呼んでこう言ったの」

 とつぜん、ふた姉はこう話しだした。

 ぼくが黙っていると、ふた姉は続けた。

「今でもハッキリ覚えてるよ。ひとちゃんはまだ中学生。あたしは、5年生か4年生ぐらいだったかな。お父さんの言葉通りに、言うよ? おとうさんね、こう言ったの。

『なあ、お前たち。人間てもなぁな、一本のスジさえありゃいいんだ。他にゃあ、何にも要らねえ。ただでさえ生き辛れえ渡世だが、そのスジさえ通ってりゃあ、あとはなんとでもならぁな・・・』

 ってね」

 ぼくの父のヤマトイサムは最後の正統派武闘派ヤクザとして名を馳せ、ぼくたち4人の姉弟を残して若くして病に倒れ、死んだ。

 ぼくは遺影でしか父を知らない。

「あのとき、きっとオレはもう長くないってわかってたんだろうね。だから、何かを言い残したかったんだって思うの。まだ中学生と小学生の娘にね。そんな重たい話さ」

 郊外のぼくの街に向かう電車は次第に人が降り、空いていった。人が降りると冷房の効きがよくなる。汗ばんだぼくの身体も、次第に冷えていった。

「あたし、お父さんが大好きだったの。だから、そんなお父さんがあたしたちに死ぬ間際に残した言葉は大事なモンだと思った。だから、その通りに生きようって、思った」

 あのホテルの部屋のドアの隙間から見せていた上気した表情はなくなっていた。いつもの優しい落ち着いた横顔がそこにあった。

「あたし、レースが好きなの。死ぬほど好き。あたしからレースを取ったら何も残らない。だから、命かけてる。それが、あたしの『スジ』なんだと思う。

 だから、そのためには、なんだってやる」

 ふた姉は握ったぼくの手にギュッと力を籠めた。

 見かけによらずふた姉は握力がある。オートバイのブレーキやクラッチを切るのに大事だから、と。TVを見ながらとか、趣味の筋トレをしながらとか、暇さえあればパワーグリップをニギニギしてるのをよく見ていた。

 ぼくは、押しつぶされそうな右手の握力に、耐えた。

「オトコもおんなじなんだよ、あたしにとってはね。あたしの『スジ』を通すための道具なの。踏み台なのよ」

 ふつう、好きな男からの電話を切った後って、名残惜しいような、もう一度かけたくなるような、切ない気持ちになるもんじゃないだろうか。

 でも、ふた姉は違うのだ。

 いつも通話が切れるとちっ、と舌打ちする。そんなふた姉を知ったら、相手、傷つくだろうな、とは思う。

「相手には、悪いなって思わないでもないんだけどさ、それがあたしって女だし、別にダマしてるわけじゃないしね。くれるっていうから、貰うもんもらってるだけ」

「なんで、そんなこと、ぼくに・・・」

「なんとなく。あんたにだけは、言っておきたかったの」

 とふた姉は笑った。

「だって、あんたはたった一人の、あたしの可愛いオトートだもん」


 


 

 それからしばらく経って、ふた姉のクルマがまた変わった。

 今度は青じゃなくて、赤。鮮やかなワインレッド。

 ふぇらーり、とかいうヤツらしい。もちろん、めっちゃスピードが出る。しかも、めっちゃガソリン食う。しかも、目ん玉飛び出るぐらいド高い。

 そして、ソノダさんのとこのふた姉のマシンのロゴマークも変わった。ひょっとこ印のソース会社から、日焼けしたサングラスのマッチョが髭剃りしてる画に。今度のスポンサーは外資系の髭剃り会社らしかった。

「ほい、今度のヤツ」

 ふた姉はまた男性誌を持ってきた。

 今度は白のビキニ。そのひげそりマークを付けたマシンの横でポーズを取ってニコニコ笑ってるふた姉のビキニ姿が眩しかった。

「お願いだから、それオカズにしないでね」

 そう言ってふた姉は笑った。

 ワカバが来襲しないうちに、ぼくはマジックを取り出した。車のロゴマークを塗りつぶすためである。

 ぼくは髭が濃い方ではないけれど、もし濃くなっても、絶対にこの会社のは使わないと決めた。

 それが、ぼくの「スジ」だからだ。


 


 

      第三話 ぼくの姉、双葉 終り
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