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第三部 つくす
38 born to be pimp
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「どうして息子さんを突き放すんですか。お宅は・・・、あなたは父親として、子供がかわいそうだと思わないんですか!」
ゆうべ、奈美の母が家を訪れた父に結構キツめに詰問したらしい。一緒にいた奈美が教えてくれた。父は何も反論せず、黙って頭を下げ続け、最後に、
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。・・・でも、どうしても、息子を愛せないんです」
そう言い残し、帰ったと。それを教えてくれた奈美はその晩、ベッドの中でずっと抱きしめていてくれた。幼いころ母が死んだと聞かされた夜のように。
朝、奈美のイビキで起きた。
清々しい目覚めだ。こんなに熟睡したのは、何年かぶりのような気がした。奈美が言ってた「一緒に朝を迎えられたらな」という願いは、かりそめだが、叶ってしまった。
不思議に下半身は暴れなかった。きっと父が言った言葉を聞いたせいかもしれない。それにショックを受けたわけではない。いまさらという気がした。ずっと思っていたことが言葉になったからと言われればそうかも知れないと思うだけだ。
奈美も襲ってこなかった。その前に満足していたからなのか、それとも、夏樹が厳しく追及したせいで父の言葉を知らせてしまったのを後悔していたのかも。もし後者だったなら、悪いことをしてしまったと思う。奈美は何も悪くない。無用な負担をかけたとしたら済まないと思った。
ずっと抱きしめていて肩が凝ったんじゃないかと心配したが、大口を開けてよだれを垂らして眠りこけているぐらいだから大丈夫かと思い直した。ティッシュでよだれを拭いてやり、口を閉じてやったが、すぐにまた開いた。おもしろかったので、何度か繰り返した。
可愛いヤツだ。
唇にそっとキスした。一瞬起きたかと思ったが、むにゃむにゃ唇を動かし、また寝入ってしまった。般若になることもあるけど、奈美の寝顔を見ていると温かいものが込み上げてくる。
それにしても意外だったのは父が奈美の家に来たことだ。しかも、厳しく詰問されても何も言い返さなかったこと。息子が世話になっているのだから親として言い返す立場ではないのは夏樹にだってわかるが、それでも、あの父がと思うのだった。それに、そこまで責められても、夏樹と一緒に住みたくないのだというのもあらためて感じた。小遣い兼生活費を置いて行き、さらに口座まで用意し、それでも、夏樹と一緒に居たくない、あるいは、居られない。
そういうことなのだろう。
だから奈美は抱いて寝てくれたのだ。幼いころのように。夏樹があまりにも不憫で可愛そうに思ってくれたのだろう。優しい女だ。コイツほど可愛い女を夏樹は知らない。奈美はオレの女だ。オレだけの女だ。誰にも渡さない。夏樹は奈美への思いをいっそう強くした。
強く抱きしめたかったが、起こすと可愛そうだからやめた。
しばらく携帯電話をチェックしていない。持ってきたスポーツバッグからそれを取り出した。メールの着信が一件あった。
「元気? あたしは元気だよ。必ず見つけるから待っててね。◝(⑅•ᴗ•⑅)◜..°♡」
美玖からだ。しかも昨日の午前中。彼女は今も母を探してくれている。そう思うと、胸が張り裂けそうになる。反射的に電話しそうになったが、止めておいた。
美玖のことだから自分を気遣い、焦らせまい心配させまいとしてこんなメールを寄越したのだと思う。
すぐ傍にはいつも奈美がいて、その周りに奈美の母がいて、最近は恵美の母、恵理が加わった。
だけど美玖だけは違う。立ち位置が違う。
全ての普通の人にとって、心の支えが母親なのだとすれば、夏樹にとって美玖は最もそれに近い。実の母親が奪われて七年。まだ14歳の少年は美玖に依存していた。
時間と共に本当の母のイメージが薄れゆき、それが美玖に取って代わりそうになっていた。母をイメージしようと思うと、美玖になってしまう。それがいいことなのか、悪いことなのか、夏樹にはわからない。
「ありがとう。ミクさんは、オレの恩人です。ナミも愛してるけど、ミクさんに会いたい。今すぐ行きたいけど、ガマンします。もう一度言います。ミクさん、ありがとう。あんまり無理しないでね。大好きです」
そう、返信した。少し、頬が火照った。携帯電話を抱きしめた。
ジャージのまま階下に降りた。
「おはようございます」
すでにキッチンで立ち働いていた奈美の母に挨拶をした。
「おはよ、ナツキ。よく眠れた?」
みそ汁の香りと彼女の柔らかな笑顔で癒された。
「はい。おかげで、すっごい、よく眠れました」
と夏樹は応えた。
なぜ人は、それが過ちと知りつつ、同じことを繰り返してしまうのだろう。
十七歳の美玖の性欲は、辛抱を知らなかった。
最初に無理矢理された快感が忘れられず、なかなか会えない夏樹への欲求不満が嵩じて、一人で「モリオ先輩」にされたのを思い出して慰めた。でも、二日と持たず、どうしても忘れられず、もう一度その快感が欲しくて、自ら無理矢理されたはずの場所へ、夏樹には黙って再び「モリオ先輩」のアパートに来てしまった。
「忙しいんだよ。週に一度っつったろ・・・」
開いたドアの中の彼が素っ裸だったのにも驚いたが、あの日美玖を蹂躙したそれが、ヌラヌラ濡れ光って天を突いていたのにも絶句した。
彼の背後、薄暗い部屋の奥に目を凝らすと、すでに先客がいた。女だ。しかも、裸。全裸。しかも、両手をベルトで後ろに縛られていた。パイプベッドの上の、汗を吸った酷い匂いのするシーツの上に伏せにされ、白いお尻を高々と上げ、熱でもあるかのように上気して惚けた顔の目を恨みがましく突然の闖入者である美玖に向けていた。
「しょーがねえな。・・・コイツ終わったら相手してやっから、そこで見てろ」
彼に「コイツ」と呼ばれた女を、美玖は知っていた。
部活は覚えていないが三年生で文化部系だったはず。だった、というのは夏休み明けに彼女が退学したからで、この目の前の男「モリオ先輩」のウワサ話に登場してきたので退学した事実を知っていたのだった。成績だってよかったのにと。それが何故・・・と。
やっぱり、・・・こういうことだったのか。その一人に自分もなるのか。
「ねえ、早くぅ! 早くしてェ・・・」
突然の来訪者、特に同性にこんな場面を見られたら普通なら恥ずかしくて悲鳴を上げる。自分ならそうする。でも、彼女は違った。急に悦楽を中断されて、怒っていた。同性のしかも下級生に見られているのにも意に介さず、中断された悦楽を再開してくれることのみを願っている。上級生としてのプライドとかそんなものは微塵もなかった。
すっごい・・・。逝っちゃってる・・・。
それでさすがに美玖も、引いた。
すぐにそこを離れればよかった。離れねばならなかった。「モリオ先輩」の部屋を出て、もう今後一切彼とは関りを持たなければ、引き返すことはできた。悪夢を不幸な事故として心の中に仕舞い込み、夏樹との純な恋愛に戻り、幸せな青春を謳歌することができた。
でも、美玖はそうしなかった。
木本が彼女の後ろに膝をつき、お尻をガッと鷲掴み、それを挿入れた。
「あーっ! あ、いいっ! あ、あ、あ、きもち、いいっ! とろけ、るよああっ、もっと、もっと突いてェっ! ああっ!・・・」
ベッドがギシギシと軋んだ。
「お前、少しうるせーよ。声出すなって」
「だって、だって、ああっ、奥、ああっ! 気持ち、いいっ! だも、んんんっ」
「しょーがねーな・・・」
手近にあった薄汚れたタオルを取り、挿入したまま縛られた両手を掴んで彼女の上体を引き起こし、口にタオルを噛ませて後頭部でギュッと縛った。そして乱暴に胸を揉みまくりながら耳元で囁いた。
「気持ちいいのわかんだけどよ、何回も言わせんな。隣に聞こえるだろうが。静かにしろ。声出すな! 」
彼女を無造作にベッドの上に放り投げ、抜き差しを再開した。ピストン運動。そんな言葉が浮かんだ。まさに彼にとっては運動というだけの行為なのだろう。
しかし、さるぐつわされた彼女のほうはウゴガゴ唸り、そのせいなのが、余計に淫靡な感じがした。
その単調な責めが続いた。
見せられている美玖は、堪らなかった。股間がムズムズする。正座したデニムのミニの上から両手で股間を抑え、俯いていた。だが、どうしても、見てしまう。
「声、ガマンしろ!」
彼の平手がパアンと尻を叩いた。彼女はうーっ、と呻き、
「ウム、ムグぅ、あむっ、あうぐっ・・・んんん」と漏らした。
下着はもう、濡れていた。あの無理矢理された行為を思い出し、自分の姿を彼女の痴態に重ね、余計に感じてしまっていた。
こんなふうにされたら、自分も・・・。と。
彼女は全身汗びっしょりで、汗が玉になって流れ落ちていて、何度も絶頂し、その度に痙攣して筋肉を引きつらせ、汗を散らした。
体位が変えられ、仰向けになった木本に跨った彼女は健気にも両脚を踏ん張って上下の運動をしようとする。しかし縛られているしベッドの上で揺れるからか、なかなか動きが定まらない。そのもどかし気な様がなお一層彼女を淫靡に見せた。
「オラ、もっと腰使え、こういう風に!」
「モリオ先輩」が両手で彼女の腰を掴んで揺すぶる。その刺激で、また彼女は絶頂してしまった。
「ぐわああっ、・・・んんんっ、んぐ、うぐあーっ・・・」
前にバタンと倒れたのを起こされ、さらに突きあげられる。彼女は白目を剥いて今度は後ろに倒れ、悶絶した。
「そろそろ出すぞ。いいか、口で受けろ」
先輩はまるで木本の性欲を処理するための道具だった。
タオルが解かれ、それでも健気に言いつけを守って歯を食いしばってむふーむふー、と荒い呼吸をしている彼女を引き起こし、彼は立ち上がった。彼女の髪を掴んで愛液でヌラヌラしているそれをつきつけ、顔に擦り付け、それでペチペチと顔を叩いた。
「最後だ。口でイカせろ。いつもヤッてんだろうがよ」
彼女は上気した顔を朦朧とさせながらもチラと美玖を一瞥し一瞬の躊躇のあと、それにはあ、はあ、と息を荒げながら舌を這わせた。ケダモノみたいだと思った。
「おい、ミク。何してる。服脱いどけよ。次相手してやっから」
それを舐めさせながら、木本はフェラチオする彼女の髪を撫で、時折頭を抱えて強引に腰を動かした。
自分の性器を舐めさせる彼と、縛られたままウットリとそれにしゃぶりつき深く飲み込む先輩の、イヤらしい光景に度肝を抜かれ放心していた美玖だったが、やがて立ち上がり服を脱ぎ始めた。
美玖はこれ以上ないくらいに昂奮していた。ドキドキが収まらず、心臓が口から飛び出しそうだった。これをしてもらいたかったのだ、と思った。これを待っていたのだ、と。だから、来たのだ、と。
服も下着も全て脱ぎ捨てると、美玖は胸と股間を隠して立ちあがった。木本がフン、と息を吐くと、元三年生の彼女は目を瞑ってそれを受けた。
「来いよ」
木本は何度かの放出を愉しみながら、美玖を呼んだ。
彼女がシャワーを浴びている間に、後ろから身体じゅう、特に胸や股間を愛撫された。さっきまで木本に抱かれていた彼女がまだ部屋にいるというのに、だ。首筋を舌が這う。たまらずに声が漏れる。
「んああ・・・」
先輩が声をあげて叱られているのを見ていたので、極力抑えた。
「お前、ここが感じるんだな。けっこう、感度いいな」
下着をつけた彼女がバスルームから出て来た。咄嗟に脚を閉じた。さすがにまだ同性の前で痴態を披露する気にはなれなかった。彼は美玖の羞恥を煽るように閉じた脚を無理矢理開かせ、その間に両足を入れ、固定された。恥部を全開にしている恥ずかしさに全身が赤く染まった。
彼女の髪は濡れていなかった。乾かすのに時間がかかるからだろう。こんな、木本の女同士の「バッティング」は初めてではないのだろう。もう何度も経験しているといった風情で、先ほどまで惚け乱れていたのがウソのように、落ち着いて服を着ていた。全裸で股間を曝け出されている下級生の痴態にもさして驚かなかったどころか、その眼にはメラメラと嫉妬の炎さえ浮かべていた。
あんたが来なかったら、もっとしてもらえたのに。もっと愉しめたのに・・・。
そんな風に。
バッグを取って出て行こうとする彼女の背中に、木本は声を掛けた。
「おい。何か忘れてねえか」
先輩は立ち止まり、戻って来てポーチを開きベッドのそばの座卓の上に千円札を四枚置いた。
「・・・足りねえだろうがよ」
「今、それしかないの」
「だったら稼いで来いよ。コンビニでもウリでも。親のカネでもなんでも、稼ぐなり強請るなり盗むなりなんでもいいから金作ってこい。出来ねえなら、もう来んな」
「・・・必ず、持ってくるから。また、して!」
彼女は口を歪ませてウルウルと涙ぐんだ。
ちっ!
彼は舌打ちすると美玖の乳房の愛撫を続けながら言った。
「・・・たく、しょうがねえ。コイツの相手終わるまで待ってろ。今回は部屋の掃除とシーツの洗濯でカンベンしてやる。それまでそこで指咥えて見てるなりどっかで時間潰すなりして来い。今度はカネ掴んで持ってこい。そしたらまた抱いてやる。わかったか!」
彼女は涙を拭きながら出て行った。
「お前もだ、ミク。オレに抱いて欲しかったら次からカネ持ってこい。いいな?」
ゆうべ、奈美の母が家を訪れた父に結構キツめに詰問したらしい。一緒にいた奈美が教えてくれた。父は何も反論せず、黙って頭を下げ続け、最後に、
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。・・・でも、どうしても、息子を愛せないんです」
そう言い残し、帰ったと。それを教えてくれた奈美はその晩、ベッドの中でずっと抱きしめていてくれた。幼いころ母が死んだと聞かされた夜のように。
朝、奈美のイビキで起きた。
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不思議に下半身は暴れなかった。きっと父が言った言葉を聞いたせいかもしれない。それにショックを受けたわけではない。いまさらという気がした。ずっと思っていたことが言葉になったからと言われればそうかも知れないと思うだけだ。
奈美も襲ってこなかった。その前に満足していたからなのか、それとも、夏樹が厳しく追及したせいで父の言葉を知らせてしまったのを後悔していたのかも。もし後者だったなら、悪いことをしてしまったと思う。奈美は何も悪くない。無用な負担をかけたとしたら済まないと思った。
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可愛いヤツだ。
唇にそっとキスした。一瞬起きたかと思ったが、むにゃむにゃ唇を動かし、また寝入ってしまった。般若になることもあるけど、奈美の寝顔を見ていると温かいものが込み上げてくる。
それにしても意外だったのは父が奈美の家に来たことだ。しかも、厳しく詰問されても何も言い返さなかったこと。息子が世話になっているのだから親として言い返す立場ではないのは夏樹にだってわかるが、それでも、あの父がと思うのだった。それに、そこまで責められても、夏樹と一緒に住みたくないのだというのもあらためて感じた。小遣い兼生活費を置いて行き、さらに口座まで用意し、それでも、夏樹と一緒に居たくない、あるいは、居られない。
そういうことなのだろう。
だから奈美は抱いて寝てくれたのだ。幼いころのように。夏樹があまりにも不憫で可愛そうに思ってくれたのだろう。優しい女だ。コイツほど可愛い女を夏樹は知らない。奈美はオレの女だ。オレだけの女だ。誰にも渡さない。夏樹は奈美への思いをいっそう強くした。
強く抱きしめたかったが、起こすと可愛そうだからやめた。
しばらく携帯電話をチェックしていない。持ってきたスポーツバッグからそれを取り出した。メールの着信が一件あった。
「元気? あたしは元気だよ。必ず見つけるから待っててね。◝(⑅•ᴗ•⑅)◜..°♡」
美玖からだ。しかも昨日の午前中。彼女は今も母を探してくれている。そう思うと、胸が張り裂けそうになる。反射的に電話しそうになったが、止めておいた。
美玖のことだから自分を気遣い、焦らせまい心配させまいとしてこんなメールを寄越したのだと思う。
すぐ傍にはいつも奈美がいて、その周りに奈美の母がいて、最近は恵美の母、恵理が加わった。
だけど美玖だけは違う。立ち位置が違う。
全ての普通の人にとって、心の支えが母親なのだとすれば、夏樹にとって美玖は最もそれに近い。実の母親が奪われて七年。まだ14歳の少年は美玖に依存していた。
時間と共に本当の母のイメージが薄れゆき、それが美玖に取って代わりそうになっていた。母をイメージしようと思うと、美玖になってしまう。それがいいことなのか、悪いことなのか、夏樹にはわからない。
「ありがとう。ミクさんは、オレの恩人です。ナミも愛してるけど、ミクさんに会いたい。今すぐ行きたいけど、ガマンします。もう一度言います。ミクさん、ありがとう。あんまり無理しないでね。大好きです」
そう、返信した。少し、頬が火照った。携帯電話を抱きしめた。
ジャージのまま階下に降りた。
「おはようございます」
すでにキッチンで立ち働いていた奈美の母に挨拶をした。
「おはよ、ナツキ。よく眠れた?」
みそ汁の香りと彼女の柔らかな笑顔で癒された。
「はい。おかげで、すっごい、よく眠れました」
と夏樹は応えた。
なぜ人は、それが過ちと知りつつ、同じことを繰り返してしまうのだろう。
十七歳の美玖の性欲は、辛抱を知らなかった。
最初に無理矢理された快感が忘れられず、なかなか会えない夏樹への欲求不満が嵩じて、一人で「モリオ先輩」にされたのを思い出して慰めた。でも、二日と持たず、どうしても忘れられず、もう一度その快感が欲しくて、自ら無理矢理されたはずの場所へ、夏樹には黙って再び「モリオ先輩」のアパートに来てしまった。
「忙しいんだよ。週に一度っつったろ・・・」
開いたドアの中の彼が素っ裸だったのにも驚いたが、あの日美玖を蹂躙したそれが、ヌラヌラ濡れ光って天を突いていたのにも絶句した。
彼の背後、薄暗い部屋の奥に目を凝らすと、すでに先客がいた。女だ。しかも、裸。全裸。しかも、両手をベルトで後ろに縛られていた。パイプベッドの上の、汗を吸った酷い匂いのするシーツの上に伏せにされ、白いお尻を高々と上げ、熱でもあるかのように上気して惚けた顔の目を恨みがましく突然の闖入者である美玖に向けていた。
「しょーがねえな。・・・コイツ終わったら相手してやっから、そこで見てろ」
彼に「コイツ」と呼ばれた女を、美玖は知っていた。
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やっぱり、・・・こういうことだったのか。その一人に自分もなるのか。
「ねえ、早くぅ! 早くしてェ・・・」
突然の来訪者、特に同性にこんな場面を見られたら普通なら恥ずかしくて悲鳴を上げる。自分ならそうする。でも、彼女は違った。急に悦楽を中断されて、怒っていた。同性のしかも下級生に見られているのにも意に介さず、中断された悦楽を再開してくれることのみを願っている。上級生としてのプライドとかそんなものは微塵もなかった。
すっごい・・・。逝っちゃってる・・・。
それでさすがに美玖も、引いた。
すぐにそこを離れればよかった。離れねばならなかった。「モリオ先輩」の部屋を出て、もう今後一切彼とは関りを持たなければ、引き返すことはできた。悪夢を不幸な事故として心の中に仕舞い込み、夏樹との純な恋愛に戻り、幸せな青春を謳歌することができた。
でも、美玖はそうしなかった。
木本が彼女の後ろに膝をつき、お尻をガッと鷲掴み、それを挿入れた。
「あーっ! あ、いいっ! あ、あ、あ、きもち、いいっ! とろけ、るよああっ、もっと、もっと突いてェっ! ああっ!・・・」
ベッドがギシギシと軋んだ。
「お前、少しうるせーよ。声出すなって」
「だって、だって、ああっ、奥、ああっ! 気持ち、いいっ! だも、んんんっ」
「しょーがねーな・・・」
手近にあった薄汚れたタオルを取り、挿入したまま縛られた両手を掴んで彼女の上体を引き起こし、口にタオルを噛ませて後頭部でギュッと縛った。そして乱暴に胸を揉みまくりながら耳元で囁いた。
「気持ちいいのわかんだけどよ、何回も言わせんな。隣に聞こえるだろうが。静かにしろ。声出すな! 」
彼女を無造作にベッドの上に放り投げ、抜き差しを再開した。ピストン運動。そんな言葉が浮かんだ。まさに彼にとっては運動というだけの行為なのだろう。
しかし、さるぐつわされた彼女のほうはウゴガゴ唸り、そのせいなのが、余計に淫靡な感じがした。
その単調な責めが続いた。
見せられている美玖は、堪らなかった。股間がムズムズする。正座したデニムのミニの上から両手で股間を抑え、俯いていた。だが、どうしても、見てしまう。
「声、ガマンしろ!」
彼の平手がパアンと尻を叩いた。彼女はうーっ、と呻き、
「ウム、ムグぅ、あむっ、あうぐっ・・・んんん」と漏らした。
下着はもう、濡れていた。あの無理矢理された行為を思い出し、自分の姿を彼女の痴態に重ね、余計に感じてしまっていた。
こんなふうにされたら、自分も・・・。と。
彼女は全身汗びっしょりで、汗が玉になって流れ落ちていて、何度も絶頂し、その度に痙攣して筋肉を引きつらせ、汗を散らした。
体位が変えられ、仰向けになった木本に跨った彼女は健気にも両脚を踏ん張って上下の運動をしようとする。しかし縛られているしベッドの上で揺れるからか、なかなか動きが定まらない。そのもどかし気な様がなお一層彼女を淫靡に見せた。
「オラ、もっと腰使え、こういう風に!」
「モリオ先輩」が両手で彼女の腰を掴んで揺すぶる。その刺激で、また彼女は絶頂してしまった。
「ぐわああっ、・・・んんんっ、んぐ、うぐあーっ・・・」
前にバタンと倒れたのを起こされ、さらに突きあげられる。彼女は白目を剥いて今度は後ろに倒れ、悶絶した。
「そろそろ出すぞ。いいか、口で受けろ」
先輩はまるで木本の性欲を処理するための道具だった。
タオルが解かれ、それでも健気に言いつけを守って歯を食いしばってむふーむふー、と荒い呼吸をしている彼女を引き起こし、彼は立ち上がった。彼女の髪を掴んで愛液でヌラヌラしているそれをつきつけ、顔に擦り付け、それでペチペチと顔を叩いた。
「最後だ。口でイカせろ。いつもヤッてんだろうがよ」
彼女は上気した顔を朦朧とさせながらもチラと美玖を一瞥し一瞬の躊躇のあと、それにはあ、はあ、と息を荒げながら舌を這わせた。ケダモノみたいだと思った。
「おい、ミク。何してる。服脱いどけよ。次相手してやっから」
それを舐めさせながら、木本はフェラチオする彼女の髪を撫で、時折頭を抱えて強引に腰を動かした。
自分の性器を舐めさせる彼と、縛られたままウットリとそれにしゃぶりつき深く飲み込む先輩の、イヤらしい光景に度肝を抜かれ放心していた美玖だったが、やがて立ち上がり服を脱ぎ始めた。
美玖はこれ以上ないくらいに昂奮していた。ドキドキが収まらず、心臓が口から飛び出しそうだった。これをしてもらいたかったのだ、と思った。これを待っていたのだ、と。だから、来たのだ、と。
服も下着も全て脱ぎ捨てると、美玖は胸と股間を隠して立ちあがった。木本がフン、と息を吐くと、元三年生の彼女は目を瞑ってそれを受けた。
「来いよ」
木本は何度かの放出を愉しみながら、美玖を呼んだ。
彼女がシャワーを浴びている間に、後ろから身体じゅう、特に胸や股間を愛撫された。さっきまで木本に抱かれていた彼女がまだ部屋にいるというのに、だ。首筋を舌が這う。たまらずに声が漏れる。
「んああ・・・」
先輩が声をあげて叱られているのを見ていたので、極力抑えた。
「お前、ここが感じるんだな。けっこう、感度いいな」
下着をつけた彼女がバスルームから出て来た。咄嗟に脚を閉じた。さすがにまだ同性の前で痴態を披露する気にはなれなかった。彼は美玖の羞恥を煽るように閉じた脚を無理矢理開かせ、その間に両足を入れ、固定された。恥部を全開にしている恥ずかしさに全身が赤く染まった。
彼女の髪は濡れていなかった。乾かすのに時間がかかるからだろう。こんな、木本の女同士の「バッティング」は初めてではないのだろう。もう何度も経験しているといった風情で、先ほどまで惚け乱れていたのがウソのように、落ち着いて服を着ていた。全裸で股間を曝け出されている下級生の痴態にもさして驚かなかったどころか、その眼にはメラメラと嫉妬の炎さえ浮かべていた。
あんたが来なかったら、もっとしてもらえたのに。もっと愉しめたのに・・・。
そんな風に。
バッグを取って出て行こうとする彼女の背中に、木本は声を掛けた。
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先輩は立ち止まり、戻って来てポーチを開きベッドのそばの座卓の上に千円札を四枚置いた。
「・・・足りねえだろうがよ」
「今、それしかないの」
「だったら稼いで来いよ。コンビニでもウリでも。親のカネでもなんでも、稼ぐなり強請るなり盗むなりなんでもいいから金作ってこい。出来ねえなら、もう来んな」
「・・・必ず、持ってくるから。また、して!」
彼女は口を歪ませてウルウルと涙ぐんだ。
ちっ!
彼は舌打ちすると美玖の乳房の愛撫を続けながら言った。
「・・・たく、しょうがねえ。コイツの相手終わるまで待ってろ。今回は部屋の掃除とシーツの洗濯でカンベンしてやる。それまでそこで指咥えて見てるなりどっかで時間潰すなりして来い。今度はカネ掴んで持ってこい。そしたらまた抱いてやる。わかったか!」
彼女は涙を拭きながら出て行った。
「お前もだ、ミク。オレに抱いて欲しかったら次からカネ持ってこい。いいな?」
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