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第二部 耐える
31 The Second reunion
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父が奈美の母とどういうやり取りをしたのかは知らない。一切何も教えてはくれなかった。
「聞いてるな。今夜からナミちゃんちに世話になれ。いいな?」
父からはそれだけだった。
たぶん奈美の母のことだから、一切余計なことは言わず、夏樹は今日からウチで面倒見ます。お金なんていりませんぐらいは言った気がする。
奈美と恵美は仲良くなったみたいだ。
「あんた、気に入った。今日からあんたを妹分にしてあげる」
そんなふうに先制してマウントをとったこともあったと思う。
「だけど、ナツキとイチャイチャするのは十年早いから。・・・いいね?」
奈美の部屋でそんなことを言い含めているのが廊下に聞こえていた。早いとか遅いとかいう問題じゃないような気がしたが、それで丸く収まるなら、と思った。
恵美はちゃんと学校に出て来た。これも奈美の母が学校へは行きなさいと言い含めてくれたおかげだと思う。
「ごめんね、ナツキ」
恵美は廊下でペコっと頭を下げた。
「ママにはちゃんと自分で話して謝ったよ。怒られちゃった。でもね、ますます気に入ったって、ナツキのこと。まだチャンスはあるから頑張りなさい、って。あたし、頑張るね。絶対あきらめないから」
いったい何を頑張るんだろう、と思い、背筋がゾクゾクした。
その日の夕食、奈美の父は嬉しそうだった。
「ナツキ。明後日の日曜な、お前に釣り教えてやる。朝三時に出るからな。ちゃんと起きるんだぞ」
自分の周りは父を除いてみんないい人ばかりなのを改めてありがたいと思った。
大変だったのは奈美のフォローだった。
ほとんど拉致。そして、逆レイプ。
まずゲーセンに連れて行かれた。UFOキャッチャーの前にしがみつかれ、ムキになって次々と百円玉を投入し、自分のを使い果たすと、
「絶対獲って。あんた稼いでるんでしょ!」
と、無理やり交代させられ、ユキヒョウのぬいぐるみをひとつ獲るのに昨日の稼ぎ三千円を摩ってしまった。
「そうそこっ! ああーん、ダメじゃん! 何やってんのっ、もうっ! 下手くそっ。グズかお前はっ! ちょ、そこじゃないって、おおあおーっ!」
「おいー。少し静かにしてくれよ」
「いいから早く獲ってよ。ああん、もうっ! ツカエねえヤツだなーっ!」
いつもの夏樹ならもっと獲れたと思う。だが何しろすぐそばで大声で喚かれるもんだから集中できなかったのだ。
「だからうるさいんだって!」
「も、いいっ! 次っ! ホテル行くよっ」
もちろん、ホテル代は夏樹持ち。部屋に入るなり無理矢理服を脱がされ、バスルームでガシガシ洗われ、息つく暇もなくベッドに押し倒されて、あちこち貪られた。
「も、むっちゃムカつく! あんな小娘なんかに。キーぃッ! ちっくしょっ! このっ!」
「んなー、あ痛! お前さー、もうちっと優しくやってくれよー。痛いよー。何回も謝ったじゃんかあ・・・」
「やかましいわ! 早く勃起たせてっ! 時間ないんだからっ!」
ギュッと握り締めてガシガシやられ、これではいくら夏樹でも勃起つものも勃起つわけがなかった。
「いてて。なあ、やってることとしたいことがあべこべだって。そんなんじゃ痛くて勃起たないよ。それでもいいのか」
「ダメに決まってるでしょうっ!」
無茶苦茶だな、と思った。
「勃起たせたいならとりあえず落ち着けよ、な? 」
まだ肩で息をしているが、般若だった奈美の顔からようやくトゲが消えて半ベソに変わっていた。
「信じてくれよ、ナミ。オレが好きなのはお前だけだって。突然来られて、どうしようもなかったんだって・・・」
身体を起こして奈美の頬を挟んで見つめてやった。途端に奈美の瞳から涙がポロポロ流れて、うわーんと抱きつかれた。
「やだよー、浮気しちゃやだー。あたしを捨てないでェー。うわーん」
「おいおい・・・」
やっとホントの奈美に戻ってくれた。あまりにもギャップがハゲし過ぎて疲れるが、とりあえず、胸を撫で下ろした。
「こんなに可愛い女、誰が手放すかって・・・。大好きだよ、ナミ」
それでも傷つけてしまった奈美の心を癒すように、埋め合わせで優しく抱いた。何度か奈美をイカせ、もちろん自分も奈美の中で爆ぜた。
「ナツキぃ、・・・だあいすき・・・」
奈美は弾んだ息を抑えながら夏樹の耳元で囁いた。その髪を撫でてやった。
「可愛いな、ナミは・・・」
「一緒に朝を迎えられたらいいのにな・・・」
帰り道、奈美はそんなことを言った。
「でもさ、これからナミんちに世話になるってことはさ、逆に今までよりもエッチ出来なくなるってことだぞ、こりゃ・・・」
「え、ウソ。・・・やだよ」
「そりゃそうなるよ。ママとパパいるんだし。さすがにそんな出来ねえよ。しょうがねえじゃん。ママも好意で言ってくれてるんだから・・・」
とたんにシュンと萎れるナミ。わかりやすいヤツだな、と思う。とても愛おしくなる。
「そうだなあ。ナミが大学に行って独り暮らしすれば、朝までコースできるかなあ」
「その時は毎日来てくれる?」
「うん。可能な限り。オレが大学入ったら一緒に暮らせるといいな」
奈美は夏樹の腕にギュッと掴まった。
「あと三年もあるよ・・・」
彼女の家の前でもう一度キスした。けっこう、ディープなやつだ。
「ちょっとバイト行ってくる。夕飯までには戻るよ」
「早く戻って来てね。ナツキ、だあいすき。・・・愛してる」
「オレもだよ。・・・じゃ」
家に入るのを見届けた。ドアが閉まった。自分の家までダッシュして玄関の脇に置いてある自転車に飛び乗り、一番近い公衆電話に走った。
マナーにしていた携帯電話に着信があったのを知ったからだ。
ボックスに入り、テレフォンカードを取り出して、焦りすぎて受話器を取り落とし、二度番号を間違えた。呼び出し音が三回で美玖が出てくれた。
「もしもし・・・」
あまりに感激しすぎて、声がかすれた。
「・・・ミクさん!」
「どおしたの。風邪?」
「ううん。違う」
「よかった」
と美玖は言った。
「帰って来たよ」
「うん。・・・今どこ? 会いたいよ。会いたい。どおしても、会いたいんだ!」
「・・・いいよ。じゃ、今からそっちに行く。ファミレスかどっか、教えて」
「ウチに来てよ」
「それはダメ。親御さんがいない家に入るわけにはいかない」
「何でだよ!」
「・・・そういうもんなの。聞き分けなさい。今インターだから二十分で着く。待ってて」
家から自転車ですぐの所にあるファミリーレストランに行った。
もう一度公衆電話から携帯への面倒な連絡がもどかしく、こんな手間をかけないと会えないことに苛立つ。今この世で一番会いたい人に会うのが一番手間がかかるなんて。
コーヒーだけ頼んで待った。
そして、美玖は来た。
ライディングブーツに皮のジャンパー。冷たい風を受けて走って来たせいだろう。頬と鼻の頭ががほんのり赤くなっていた。外の寒気を身に纏った美玖は何度かスン、スンと小さく鼻を啜った。それがとても、可憐に見えた。
「寒かったあ・・・。待った?」
と、美玖は笑った。
夏樹がテーブルの上で手を差し伸べて来た。握ってやると「冷たい・・・」と握り返してくる。
「会いたかった。・・・ずっと、ミクさんに会いたかったんだ」
大人になりかけの手で小さな美玖の手を温めてくれた。
「ナツキ・・・」
彼の手の温もりが、嬉しかった。立ち寄ってよかったと思った。
だが、感傷に浸る前に、大人の務めを果たさねばならない。
注文したコーヒーを一口飲み、スラッシュしていたタンクバッグから、二葉の葉書を出してテーブルの上に置いた。どちらもモノクロームの、ネコのイラストの絵葉書だった。
「これが、収穫。少なくとも二か月前まで、あんたのお母さんはここにいた」
美玖は片方の葉書の消印部分を指した。日付は9月25日。九州の北の大都市の局の名前がスタンプされていた。
「聞いてるな。今夜からナミちゃんちに世話になれ。いいな?」
父からはそれだけだった。
たぶん奈美の母のことだから、一切余計なことは言わず、夏樹は今日からウチで面倒見ます。お金なんていりませんぐらいは言った気がする。
奈美と恵美は仲良くなったみたいだ。
「あんた、気に入った。今日からあんたを妹分にしてあげる」
そんなふうに先制してマウントをとったこともあったと思う。
「だけど、ナツキとイチャイチャするのは十年早いから。・・・いいね?」
奈美の部屋でそんなことを言い含めているのが廊下に聞こえていた。早いとか遅いとかいう問題じゃないような気がしたが、それで丸く収まるなら、と思った。
恵美はちゃんと学校に出て来た。これも奈美の母が学校へは行きなさいと言い含めてくれたおかげだと思う。
「ごめんね、ナツキ」
恵美は廊下でペコっと頭を下げた。
「ママにはちゃんと自分で話して謝ったよ。怒られちゃった。でもね、ますます気に入ったって、ナツキのこと。まだチャンスはあるから頑張りなさい、って。あたし、頑張るね。絶対あきらめないから」
いったい何を頑張るんだろう、と思い、背筋がゾクゾクした。
その日の夕食、奈美の父は嬉しそうだった。
「ナツキ。明後日の日曜な、お前に釣り教えてやる。朝三時に出るからな。ちゃんと起きるんだぞ」
自分の周りは父を除いてみんないい人ばかりなのを改めてありがたいと思った。
大変だったのは奈美のフォローだった。
ほとんど拉致。そして、逆レイプ。
まずゲーセンに連れて行かれた。UFOキャッチャーの前にしがみつかれ、ムキになって次々と百円玉を投入し、自分のを使い果たすと、
「絶対獲って。あんた稼いでるんでしょ!」
と、無理やり交代させられ、ユキヒョウのぬいぐるみをひとつ獲るのに昨日の稼ぎ三千円を摩ってしまった。
「そうそこっ! ああーん、ダメじゃん! 何やってんのっ、もうっ! 下手くそっ。グズかお前はっ! ちょ、そこじゃないって、おおあおーっ!」
「おいー。少し静かにしてくれよ」
「いいから早く獲ってよ。ああん、もうっ! ツカエねえヤツだなーっ!」
いつもの夏樹ならもっと獲れたと思う。だが何しろすぐそばで大声で喚かれるもんだから集中できなかったのだ。
「だからうるさいんだって!」
「も、いいっ! 次っ! ホテル行くよっ」
もちろん、ホテル代は夏樹持ち。部屋に入るなり無理矢理服を脱がされ、バスルームでガシガシ洗われ、息つく暇もなくベッドに押し倒されて、あちこち貪られた。
「も、むっちゃムカつく! あんな小娘なんかに。キーぃッ! ちっくしょっ! このっ!」
「んなー、あ痛! お前さー、もうちっと優しくやってくれよー。痛いよー。何回も謝ったじゃんかあ・・・」
「やかましいわ! 早く勃起たせてっ! 時間ないんだからっ!」
ギュッと握り締めてガシガシやられ、これではいくら夏樹でも勃起つものも勃起つわけがなかった。
「いてて。なあ、やってることとしたいことがあべこべだって。そんなんじゃ痛くて勃起たないよ。それでもいいのか」
「ダメに決まってるでしょうっ!」
無茶苦茶だな、と思った。
「勃起たせたいならとりあえず落ち着けよ、な? 」
まだ肩で息をしているが、般若だった奈美の顔からようやくトゲが消えて半ベソに変わっていた。
「信じてくれよ、ナミ。オレが好きなのはお前だけだって。突然来られて、どうしようもなかったんだって・・・」
身体を起こして奈美の頬を挟んで見つめてやった。途端に奈美の瞳から涙がポロポロ流れて、うわーんと抱きつかれた。
「やだよー、浮気しちゃやだー。あたしを捨てないでェー。うわーん」
「おいおい・・・」
やっとホントの奈美に戻ってくれた。あまりにもギャップがハゲし過ぎて疲れるが、とりあえず、胸を撫で下ろした。
「こんなに可愛い女、誰が手放すかって・・・。大好きだよ、ナミ」
それでも傷つけてしまった奈美の心を癒すように、埋め合わせで優しく抱いた。何度か奈美をイカせ、もちろん自分も奈美の中で爆ぜた。
「ナツキぃ、・・・だあいすき・・・」
奈美は弾んだ息を抑えながら夏樹の耳元で囁いた。その髪を撫でてやった。
「可愛いな、ナミは・・・」
「一緒に朝を迎えられたらいいのにな・・・」
帰り道、奈美はそんなことを言った。
「でもさ、これからナミんちに世話になるってことはさ、逆に今までよりもエッチ出来なくなるってことだぞ、こりゃ・・・」
「え、ウソ。・・・やだよ」
「そりゃそうなるよ。ママとパパいるんだし。さすがにそんな出来ねえよ。しょうがねえじゃん。ママも好意で言ってくれてるんだから・・・」
とたんにシュンと萎れるナミ。わかりやすいヤツだな、と思う。とても愛おしくなる。
「そうだなあ。ナミが大学に行って独り暮らしすれば、朝までコースできるかなあ」
「その時は毎日来てくれる?」
「うん。可能な限り。オレが大学入ったら一緒に暮らせるといいな」
奈美は夏樹の腕にギュッと掴まった。
「あと三年もあるよ・・・」
彼女の家の前でもう一度キスした。けっこう、ディープなやつだ。
「ちょっとバイト行ってくる。夕飯までには戻るよ」
「早く戻って来てね。ナツキ、だあいすき。・・・愛してる」
「オレもだよ。・・・じゃ」
家に入るのを見届けた。ドアが閉まった。自分の家までダッシュして玄関の脇に置いてある自転車に飛び乗り、一番近い公衆電話に走った。
マナーにしていた携帯電話に着信があったのを知ったからだ。
ボックスに入り、テレフォンカードを取り出して、焦りすぎて受話器を取り落とし、二度番号を間違えた。呼び出し音が三回で美玖が出てくれた。
「もしもし・・・」
あまりに感激しすぎて、声がかすれた。
「・・・ミクさん!」
「どおしたの。風邪?」
「ううん。違う」
「よかった」
と美玖は言った。
「帰って来たよ」
「うん。・・・今どこ? 会いたいよ。会いたい。どおしても、会いたいんだ!」
「・・・いいよ。じゃ、今からそっちに行く。ファミレスかどっか、教えて」
「ウチに来てよ」
「それはダメ。親御さんがいない家に入るわけにはいかない」
「何でだよ!」
「・・・そういうもんなの。聞き分けなさい。今インターだから二十分で着く。待ってて」
家から自転車ですぐの所にあるファミリーレストランに行った。
もう一度公衆電話から携帯への面倒な連絡がもどかしく、こんな手間をかけないと会えないことに苛立つ。今この世で一番会いたい人に会うのが一番手間がかかるなんて。
コーヒーだけ頼んで待った。
そして、美玖は来た。
ライディングブーツに皮のジャンパー。冷たい風を受けて走って来たせいだろう。頬と鼻の頭ががほんのり赤くなっていた。外の寒気を身に纏った美玖は何度かスン、スンと小さく鼻を啜った。それがとても、可憐に見えた。
「寒かったあ・・・。待った?」
と、美玖は笑った。
夏樹がテーブルの上で手を差し伸べて来た。握ってやると「冷たい・・・」と握り返してくる。
「会いたかった。・・・ずっと、ミクさんに会いたかったんだ」
大人になりかけの手で小さな美玖の手を温めてくれた。
「ナツキ・・・」
彼の手の温もりが、嬉しかった。立ち寄ってよかったと思った。
だが、感傷に浸る前に、大人の務めを果たさねばならない。
注文したコーヒーを一口飲み、スラッシュしていたタンクバッグから、二葉の葉書を出してテーブルの上に置いた。どちらもモノクロームの、ネコのイラストの絵葉書だった。
「これが、収穫。少なくとも二か月前まで、あんたのお母さんはここにいた」
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