道連れは可愛くて逞しい ~ミクとナツキの物語~

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第二部 耐える

28 be pursued by girls

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 リサイクルショップにはいろんなものが持ち込まれる。

 元々店主のヒッピーオヤジは宝飾品が専門で電化製品はシロートに近かった。ところが、景気が悪くなってくると食い詰めた人がジャンジャンありとあらゆるものを持ってくる。最近は電化製品の中でも電子機器。特にデスクトップ、ノートを問わずパソコンやその周辺のアクセサリー、ストレージなどを持ち込む人が増えていた。

 夏樹が来たのはそんな流れの中だった。だから、重宝された。

 今日は四時間かけて十台も仕上げた。五千円。時給1250円は悪くないどころか上々だった。

「ボーズ、ホント助かるよ。明日も頼むな」

「ハイ。・・・あのう」

「なんだ」

「今日仕上げた、あれですけど」

 仕上げてラップしたばかりの一台の旧式のデスクトップを指して言った。

「売るとしたら、いくらぐらいですか」

「そうだなあ。・・・六年も型落ちしてるし、CPUも小さいし、1、2万でも売れねえかもしれないなあ・・・」

「あれ、売ってほしいです」

「・・・持ってけ。カネはいらん」

「ホントですか!」

「その代わり明日からも頑張ってくれ。ま、臨時ボーナスってやつにしとくか」

「スッゲー! ありがとうございます!」

「だけどよ、自転車じゃ、無理じゃねえか」

 ヒッピーオヤジに軽トラックで送ってもらった。自転車とやっと手に入れた自分専用のパソコンを抑えて自分も荷台に乗った。夜風は冷たかったが、気持ちよかった。

 旧式だが、中の基盤を性能のいいものに入れ替え、一番新しいOSをインストールすれば今の最新型の六七割ぐらいのパフォーマンスは期待できそうだった。それに夏樹はネットだけじゃなくてプログラムの演習用として使いたかったから、なまじ最新型じゃない方がなにかと都合がよかった。休みになったら電気街に行って基盤を探して来ようと思った。

 とにかく今夜は嬉しくてたまらない。ちょっとイジりまくろうと思ったので、今夜は忙しいから明日なと、あらかじめ奈美にメールをしておいた。

「そういえばよ、お前、親にはなんて言ってるんだ、バイトのこと」

 玄関先にパソコンを下ろしてもらい、お礼を言うとそう訊かれた。

「フツーに。働いてるって。ああ、そうかって感じです」

「・・・そうか。まあいいか。んじゃ、また明日な」

 ヒッピーオヤジの軽トラックを見送ってドアを開け、カバンを置いて引き返して本体に続いてディスプレイを中に運び込もうと玄関を出たところに、

「ナーツキ!」

 門の外に沢田恵美が立っていた。学校のカバンとは別に大きなスポーツバッグを持っていた。

「えへへ。・・・来ちゃった」

 あまりにも自然に、嬉しそうに立っている彼女に、あやうく抱えていた大切なパソコンを取り落とすところだった。

 なんだよ・・・。なんなんだよ、来ちゃった、って・・・。

 これは修羅場になる。奈美に見つかると絶対修羅場になってしまう!

 とにかくひとまずは家に入れ、それから訳を訊こうと思っていたら、恵美は勝手にどんどん上がって行ってしまった。

「おい、サワダ!」

「それは学校だけ。二人だけの時はエミって呼ぶ約束でしょ」

 してねーっつうの、そんな約束・・・。

 そうこうしている間にも勝手に洗面所に入り勝手に部屋着に着替えて勝手にキッチンに入り電気ポットのスイッチを入れてエプロンなんかしてる。しかもピンクのフリフリがついたやつ。

「すぐご飯にするね」

 しかも勝手に「奥さん」までしてるし・・・。

 ダイニングに呆然と立ち尽くし、なぜこういうことになっているのか、何度頭をひねってみても理解が出来なかった。

「さわ、・・・エミ。なんで? なんでオレん家来ちゃったりしてるの」

「だって、言ってたじゃん」

「何を。いつ」

「今日話してたでしょ、休み時間に。パンかじりながら」

「は?」

 勝手に冷蔵庫を開け、あーやっぱなー、何にもない、とか言いながら、

「今、親がいなくて毎朝アサメシ抜きなんだ、って・・・」

 そういう間にも恵美はスポーツバッグからレジ袋を取り出し、その中の食材をテーブルにドンドン出してゆく。

 思い出した。

 彼女の言う通り、一時間目が終わった後、菓子パンを齧っていたら前の席のヤツに、

「ナツキ、おめ、朝食ってねーの?」

 と訊かれたので、一時的に親が旅行に行って家にいない、と話したのだ。

「あれ、聞いてたの?」

「うん♡」

 マジか・・・。しかもハートマークつけて喋ってるし・・・。

「だから。家に行ってお料理作ってあげよって。だって、あたしナツキの恋人だし。当然でしょ」

 どっと疲れを感じてテーブルに着いた。すると目の前にトン、と栄養ドリンクが置かれた。

「飲んで♡」

 ニコニコしている恵美に恐怖を感じた。こんなもの飲ませてどうする気なんだろう、と。


 

「お風呂沸かしたから入ってー」

 いつもシャワーばかりだったが、久々に湯に浸かった。美玖とのツーリングで温泉に浸かって以来だ。

 恵美はとても甲斐甲斐しかった。

 キッチンのレンジをカチカチしてたと思えばさっと風呂に行って湯を張り、また引き返して来て今度はトントン材料を刻んだり・・・。そういうところは料理なんかからっきしな奈美よりも優れているような気がした。

 脱衣所と風呂場にはしっかりカギをかけた。携帯電話もビニール袋にいれて風呂場に持ち込んだ。万が一奈美から電話があって恵美が出たりしたら・・・。恐怖すぎて考えるだけで貧血になりそうだった。もちろん、こっそり家電のプラグも抜いた。

 強引に押しかけて勝手に作り始めただけあって、中学二年生にしては、恵美の料理はまずまずと言えた。きっとあの若っぽい恵美の母親が見かけによらず家庭的なのだろうし、その薫陶もあったろうし、いろんな料理本で研究したりしてるのだろう。

 しかし、一般的な中学生男子のニーズをわかってない。何よりも質より量なのだ。微妙な味加減よりガッツリ感と「食いで」なのだ。だから満足感でいうと奈美の母親の夕食に比べれば三分の一に満たなかった。名前も知らない、おハイソでおフランス的なお料理の数々。パッと見「スゲー!」となるが、みんな一口で食えそうなのばかりだ。しかも、真正面近距離でウットリ見つめられながら食うのだ。一気に食ったりしたら「味わって食べて」とか怒られそうだし。ニッコリ笑って、

「すげー、美味しい・・・」

 と言わざるを得なかった。

 しかも、ここに泊まるつもりでお泊りセットまでもってきていた。

 しかも、親に、

「ショージ君のお母さんが泊まりにおいでって言ってくれたの」

 と、絶対にありえないウソまで吐いて。しかもそれを許す親も親だと、夏樹は思った。

「でもさ、帰りが遅いと親がうるさいって言ってなかったっけ?」

「無断ではね。でも話せばわかってくれるの。とりあえず今晩だけだけどね」

 と、恵美は言った。だが一晩で十分だ。これを何度もやられたら、たまらない。

 一緒にお風呂に入ろうと言われなかっただけよかった。

 風呂から上がると後片付けを終えた恵美が入れ替わりに風呂へ行った。

 すかさず携帯電話の電源を入れてチェックした。奈美からのメールが十件も入っている。なぜ携帯に出ないのか。なぜ家電も通じないのか。なぜメールの返事を寄越さないのか・・・。

 なぜインターホンを鳴らしても出ないのか、の文字には背筋が凍り付いた。電池を外しておいてよかった。奈美への返事をポチポチ入れながら、もう一度家中の戸締りを確認した。

「ごめんな。今日新しいパソコンを仕入れて、その入力作業に集中してたからわからなかった。明日は会おう。もう十時過ぎてるから電話はしないよ。おやすみ。愛してる」

 送信ボタンを押すのと風呂から恵美が出てくるのとが一緒だった。

 心臓に、悪すぎる・・・。

 もうダメだ。限界だ。一度しっかり話さねば。

「さわ・・・、エミ。話しておきたいことがある。いいかな」

 部屋に行く前にリビングのソファーに座らせた。

 湯上りの恵美からはソープの香りのほかに美玖や奈美にはない、まだ性に目覚めていない少女のシズルのようなものが発散されていたが、夏樹にはそれをなんといえばいいのかよくわからなかった。パジャマまで持ってきていた。これが奈美ならTシャツにショートパンツ、あるいはぱんつのままでいることもある。美玖なら、平気で全裸でいる。例えばそういうものだろうか。そのパジャマの膝を抱えて膝小僧の上に顎を載せて普段は切れ長の目を大きく見開いて爛々と光らせていた。話って、なに? と、身体全体で夏樹の言葉を待っていた。

「あのさ、エミ。前に会ったよな。オレの付き合ってる女」

 あえて大人っぽく、おんな、と言ってみた。

「ナミっていうんだ。生まれた時からの幼馴染で、一緒に風呂も入ったし、一緒に寝て来たし、キスも、それ以上のこともしてる。わかるよな、うん・・・」

「・・・それで?」

「うん。・・・将来は、ナミとずっと一緒に暮らす。つまり結婚しようと思ってる」

 ちら、と恵美を見た。まったく変わらずにじっと夏樹を見ていた。

「結婚、したいねって、お互いに言い合っている。そういうヤツなんだ。わかるよな、うん・・・」

「それで?」

「・・・へ?」

 これ以上何を説明しろと?

「だから、それで? ナツキの話って、それで終わり?」

「あ、いや、だから、そういうヤツと付き合ってるわけだから。お前とは友達なんだからさ。こういう、なんてか、泊まりってのはさ。メシまで作ってもらって嬉しかったけどさ・・・」

「うれしかったんだ」

「うん、うれしかった。・・・いや、うれしいんだけど、その、・・・困るんだ」

「なんで?」

「いや、なんでって・・・、フツー、困るでしょ」

「あたしは平気だけど」

「え?」

「将来は結婚するかもしれないけど、それは予定でしょ。まだしてない。ナツキにはナミさんもいるし、あたしもいる。それでいいじゃない」

「だから、それが困るんだって」

「じゃ、なんでキスしたの?」

 そうくるのか。

「え? いや・・・、だから、あれはさ・・・」

「わかってる? 」

 恵美は身を乗り出して来た。

「キスってさ、女の子にとって重大なことなんだよ、特にファーストキスは」

 また恵美の攻撃が始まった。

「ナツキはあたしのファーストを奪ったんだよ。そして、二番目も。しかも抱きしめてくれたし。あれで、あたし、奪われちゃったんだよ。ナミさんとどうであろうが、ナツキがあたしを奪ったんだよ。あたしの心を。ギュって。・・・どうしてくれるの?」

 どうしてくれる、って言われてもなあ・・・。どうしたらいいんだ・・・。とりあえず防戦するしかない。苦し紛れではあったが、反論を試みた。

「・・・でもさ、なんか、へんじゃね」

「何が」

「だって、エミはさ、俺にも都合があるよねって、認めてくれたじゃんか。ハンバーガー屋で。ごめんね、って・・・」

「あたしにもあるの、都合」

「え?」

「・・・そっち、行ってもいい?」

「え?」

 夏樹の返事も待たずにローテーブルを飛び越えて隣に来て身体が密着した。美玖よりは固い。がそれは芯だけで、腰と太腿が密着するとペタッという感じにフィットしてしまう。しかも裸足同士が触れ合ってしまっていた。しかも、片腕を取られ、それを抱かれると、まだ中学生なのにナミより大きそうな、柔らかな胸が二の腕に当たってぐにゅと食い込んでいるのがわかってしまった。痛くないんだろうか。

「ナツキが、好き。・・・もう、ナツキしか見えなくなっちゃったの」

「そんな・・・」

 濡れたさくらんぼを薄く開き、ウルウルした瞳で見上げて来られると、もう、ダメだった。股間が反応してしまうのを、抑えることができなかった。

「イテテテ・・・」

「・・・そんなに痛いの? どうしてそうなっちゃうの?」

「いや、・・・そう言われても・・・」

「さっき言ってた、それ以上のこと、って・・・、セックスのこと?」

「えっ? ・・・」

「ナツキ、もうセックス、したんだね」

「いや、・・・その・・・」

「教えて、セックス。あたしに、教えて」

 剣道でもフェンシングでもボクシングでも同じだが、相手から逃げてばかりいるとどんどん追い詰められて手数が出せなくなり、ついには、踏み込まれて、やられてしまう。

 その時の夏樹がそうだった。
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