道連れは可愛くて逞しい ~ミクとナツキの物語~

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第二部 耐える

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 奈美と美玖。

 夏樹は二人の年上の女と関係していた。二人ともMとSのどっちかといわれればSって感じがした。奈美はイッパツやってからSではなくなり、むしろ可愛くなってしまったが、Sだったころの奈美をはるかに上回るような超ド級S女が現れた。現れたというか、沢田とは四月からずっと同じクラスだったわけで、その「超ド級S女」ぶりに、その正体に夏樹が気が付かなかっただけだ。

 なにしろ奈美のおかげで「女=怖いもの」という意識をずっと擦り込まれて生きてきて、この秋、初めて美玖と出会い、美玖のおかげでその公式が崩れて「女=持っていきようによっては気持ちのいい、可愛くて素晴らしいもの」になったばかりだったのだ。美玖は夏樹の女性観を根本から変えてくれ、母への思慕をあらためて思い出色に縁取ってくれた、ある意味で夏樹にとっては恩人だ。

 そんなわけだから、夏樹が同い年のクラスの女子などに注意を払うわけもなく、彼にとって沢田という女子は急に降って湧いた「災難」であるだけだった。

 その「災難」が貴重な昼休みに自分を呼び出した。道場に来いという。誰が行くか、と思ったが、もし行かないとしつこく絡まれそうだしと思い直し、行くことにした。

 給食が終わり、体育館脇の道場に行く途中で物陰に隠れて例のリサイクルショップに電話をした。

「今日はどうですか」

「2台くらいあるけど、それだけで来るのもタイヘンだろ。なんなら明日また電話してこいや。明日ならまとまった数になるかもしれんから」

 たしかにまとめて出来る方が効率がいい。それにすぐに現金を稼がなくてもよくなった。なにしろ父から貰った三万円がある。つくづく金があるというのはありがたいものだと思う。心の余裕も、金次第だなと思った。ケーザイというのは大事なものだと悟った。

 黴臭い道場には誰もいなかった。奥が柔道部用の畳敷き、手前が剣道部用の板張り。体育館から昼休み中にバレーをして遊んでる奴らの声が響いていた。

「あ、いた」

 背後にセーラー服のままの沢田が立っていた。

 お前が来いって言うから来てやったんだろうが、と思った。沢田は道場の隅に突っ込んである竹刀を二本抜いた。入り口で上履きとソックスを脱ぐとぴたぴた音をさせて目の前に立った。なんだか凛々しい感じがした。

「はい、コレ」

 竹刀を差し出されて無意識に受け取ってしまった。

「勝負しよう」

 そう言って一歩引いた。沢田は右手に竹刀を持って一礼すると左手に持ち替え、右手で鍔元を握って正眼に構えた。

 なんだこいつ・・・。

「かかってきなよ。・・・どっからでも」

「・・・なんで」

「言ったでしょ」

「性根がどうこうってやつか」

「叩き直してやる!」

「だから、なんで。ここで俺らがチャンバラするとオレの性根が叩き直されてあの子が喜ぶって言うの?」

「ごちゃごちゃ言わないで。来ないなら、こっちから行くよ」

 きゃーっ!

 突然沢田が絶叫した。アタマ、大丈夫かと心配になってしまった。何で悲鳴なのかなと思ったが、剣道でやる気合というやつだとわかった。

「構えなよ!」

「無理だよ。オレ、やったことねえもん」

「関係ない! 行くよっ。きゃーあっ!」

 沢田が上段に振りかぶって前足を蹴って飛び掛かって来たので、思わず目を瞑った。

 シーン、となった。沢田のだろう、リンスの香りが漂ってきて目を開けるとすぐ目の前に彼女の顔があり、真っ赤な頬をして息を弾ませていた。竹刀を上段に構えたままだった。頬と同じく真っ赤なプルンとしたくちびるがおいしそうだった。美玖のとも奈美のとも違う、さくらんぼみたいで可愛い唇だ。チュッとキスしてやった。

 そしたら、沢田は腰を抜かして尻もちをつき、唖然と夏樹を見上げていた。

 ワケも訊かず竹刀を振り回してくる女の子を落ち着いて迎え、キスひとつで尻もちつかせてしまう。夏樹は、「少年」からそんな肝の据わった「青年」になりかけていた。

 オレの勝ちだ、と夏樹は思った。これもきっと美玖のお陰だ、と。

 

 五時間目も六時間目も、沢田は大人しかった。

 放課後、体育館に行って部長をしているヤツに退部をしたいと話した。

 父からの小遣いだけではダメだ。経済的に独立しなければ。そのためには、働かなければならない。そのためには、部活がジャマだった。全ては母を探すためだ。

「最近調子悪くてさ。この際、ちょっと早いけど勉強に専念しようと思うんだ」

 見え透いてはいたが、一番穏当に見えるウソを吐いた。

「・・・そうか」

 無理には引き留められなかった。レギュラーではなかったからだろう。顧問の先生に言っておいてくれと言われ、職員室に行き、こういう場合の常套句である「内申に響くぞ」という小言を貰って退部届を出した。

 校門を出ると、何故かまた沢田がいた。

「なんだ。まだなんか用か」

「さっきの、・・・どういうつもりなの」

 やっぱりさくらんぼは怒っていた。もう、勝手にしてくれと思った。

「ちょっと、待ちなさいよ!」

「どういうつもりも何も・・・。キスして欲しそうだったからしただけだよ」

「ちょ・・・、何言ってんの! 勝手なこと言わないで!」

「なあ・・・」

 脚を止めて、沢田に向き直った。

「もう勘弁してくれよ。オレ、ヒマじゃねえんだ」

 ズボンのポケットの中でピロピロという電子音が鳴った。

「あ」

 そうだ。自分の携帯電話だ。自分の電話に初めて着信がきたのだ。フリップを開いて耳に当てた。

「もしもし。あたし・・・」

 奈美だった。

「おお! ・・・どうしたの」

「う・し・ろ。見てごらん」

 振り向くと、高校の制服姿の奈美がいた。電話しながらこっちに歩いて来る。

「お前・・・。何してんの、こんなとこで。部活は?」

 携帯電話を畳んで仕舞いながら訊いた。

「休んだ。ちょっとあんたの家で打ち合わせたいことがあるの!」

 奈美の顔が赤かった。

 こいつ・・・。

 きっと今朝の電話のせいだ。めちゃめちゃ可愛いじゃねえか。いったい何を打ち合わせるつもりだろう、と可笑しかった。

「この子、誰?」

「ああ、同じクラスの子。じゃな、サワダ。また明日」

 夏樹は奈美と連れ立ってバイバイしながら歩き出した。

「・・・助かったよ、ナミ・・・」

「なんかモメてたの? なによ、あの子」

 片手でカッコよく髪をかき上げたりして年上の女っぽく演技してたりするけれど、夏樹が他の女の子と一緒にいたのがあまり愉快ではなかったらしいのが態度に出ていた。

「それがさあ・・・」

 家に帰る道々、夏樹は時々吐息を挟みながら一連の出来事を愚痴った。キスしてやったことは伏せて。そこを奈美に知られると大変なことになるのは火を見るより明らかだったからだ。

「・・・それさあ、思われてるってことじゃないのォ」

 フン、と鼻で笑いながら、奈美は言った。

「オレがあ? サワダにぃ? まさか・・・」

「マンガでよくあるパターンじゃん。友達の好きな人が自分の好きな人だった。大事な友達のために本心を隠してキューピットしてあげた。ところが好きな人が大事な友達を無下に袖にした。大事な友達を傷つけた。許せない。だけど本心は・・・。ってヤツ。ホントは自分が告りたいのに、友達の手前出来ない。チクショー、って。

 だからあんたに八つ当たりしてカランでくるんだよ。

 急にモテだしたね、あんた。モテ期到来って感じ。よかったね」

 言葉とは裏腹に、奈美がムッとしているのは夏樹にもよくわかった。

「いいわけないだろ。・・・めんどくせーよ」

 と、言ってみるしかなかった。実際、マジでめんどくさかった。

「ま、許すわ。そんなの気にしてないし、あんたも気にしなくていいから。あんたはあたしの前だけ真面目なら他はどうでもいいから」

「なんだよ、それ」

「いいの。とりあえずあんたの家行くよ」

 家にはやはり継母の姿はなかった。

「どうしたんだろうね、あの人」

「さあ・・・」

 そんなの知るかという気分だった。

 制服のまま突っ立っている奈美を後ろから抱きしめた。とりあえずイッパツやってご機嫌を取らねばならない、ような気がした。

「あ、ん・・・」

「さて、打合せしますか、お嬢さん」

 奈美の弱点はうなじだ。奈美の汗の匂い。はあ~ん、と吐息が出るのを聴いた。ブレザーの上から胸をグッとわしづかむ。

「自分で脱ぐ? それとも、脱がせてほしい?」

 親がいない家というのは、ある意味で天国だ。時間も料金も気にしなくていい。ホテルの部屋に比べて解放感が違う。

 お互いの制服を脱がせ合って全部脱ぎ捨て、笑いあって風呂場に突入した。めちゃめちゃ愉しい!

 奈美も笑っている。嬉しいのだと思う。夏樹も嬉しかった。奈美の弾力のある舌が口の中に入って来る。ひと先ずそれを吸うようにして応える。落ち着けって、奈美。

 夏樹の口の中を荒らしまわる奈美の舌をやり過ごしながら、シャワーの湯の温度を確かめて彼女の身体にかけてやる。

「頭、かけないでね」

 それはわかっている。家に帰る前に髪が濡れていてはおかしい。でもソープの匂いプンプンしながらだから、意味ないんじゃないか、とも思った。

「あ・・・」

 奈美の身体をくるりと回し、うしろからうなじを責めてやる。そうしておいてソープを取って手に受け、乳房をやんわりと愛撫する。美玖よりも小さくて固い。乳首も小さい。でもそこを手のひらでコロコロ転がすようにしてやると途端に可愛い声を上げた。

「あ・・・」

 ほんと、敏感なんだな。可愛い奴め。

 もう一度ソープを手に取って濡れた身体中を愛撫しつつ洗う。恥ずかしがって閉じようとする脚も開かせる。胸と股間の同時攻撃。すぐに脚を閉じようとするけれど、自分の脚を割り入れて閉じさせない。漏れたシャワーの湯が奈美の肌にかかって玉になって弾かれる。しっとりとした餅肌の美玖とは違う、脂があって弾力のある若々しい肌。まだ中学生のくせに、夏樹は女の肌の違いが判る男になっていた。

「ああん、やあっ・・・」

「やあ、じゃない」

「だあって・・・、あんっ!」

 そこを剥いて指でこねくり回す。ソープじゃない、奈美の液でぬるぬるするそこを執拗に、責める。前よりもそこが尖って固くなって、夏樹の指に反発してくるのが面白かった。夢中でそこをイジっていると、

「あ、はあん、そこやああっ! そこ、ああん!」

「声デカいよ。隣に聞こえちゃうだろっ!」

「だあって、ああん・・・」

 サッと流して、あとは部屋ですることにした。そういう、声を気にしなくていいところは、ホテルの方がいいと思った。ホテルなら、どんな大声でよがっても構わない。

 奈美の耳に吹き込んだ。

「部屋に行こう。そこで続きしよう」

 二人とも裸のまま、ちゅっちゅ、うふふしながら部屋に行った。初めての時は暗くしないと恥ずかしいと言っていたのに。女というのはこうも変わるものなのか。階段を上がる前に、奈美がカバンからゴムを取り出したのが少し可笑しかった。

 夏樹をベッドの端に座らせ、奈美はその前に膝をついた。

「口でしてあげる」

 そう言って、もうギンギンになっている夏樹のものに舌を這わせた。口でしながら上目遣いで見上げニコニコしている。夏樹のを愛撫するのが嬉しいという感じ。そんな奈美の髪を手で梳いてやる。頬を撫でてやると、さらに嬉しそうに舌をチロチロ使った。

「ここが感じるんだよね」

 その舌先でのチロチロはとても気持ちよかった。奈美なりに、一生懸命なのだな、と思った。

 きっと、さっきの沢田のせいだ。

 そんなことをしなくても、幼いころからの付き合いなんだから夏樹の気持ちが変わることはない。外向きにはツンツンしているくせに、二人きりになると猛烈にベタベタしてくる。こういうのを「ツンデレ」というんだな。熱心に夏樹のをしゃぶり続ける奈美の頬に手を添え、耳をいじり、うなじを撫でた。

「可愛いヤツだな、ナミ。大好きだよ・・・」

 何度もしつこく「可愛い」を連発する。これも美玖から学んだ。繰り返すほどに、奈美は可愛くなる。二歳も年上なのに、完全に立場が逆になっているのを感じた。

「二回ぐらいできるでしょ。あたし、いっかい口でイカせてみたい。イッて」

 そこまでするのか。奈美の必死さに心がほころぶ。ほっこりしたものが溢れてきそうになる。

「じゃあ、ナメっこしよう。おいで、ナミ」

 明るいうちに二人でシャワーを浴びて素っ裸で部屋に上がってきたせいか、奈美は恥ずかしがりつつも仰向けになった夏樹の上に平気で逆さまに跨った。大きな彼女の大きな尻がにじり寄って来る。それを両手で捕まえ、目の前のぱっくり割れた奈美の女を見つめた。

「すっげー。もう濡れてるじゃん。ぬるぬるの、ぐっちょぐちょ」

「いや~ん・・・」

 恥ずかしさを紛らわすためだろう。すぐにまた夏樹のを咥えた。

 さっき風呂場でイジりまくった包皮の下のを舌で穿り出して舐めまわし、吸った。ソープの匂いはすぐに薄れ、もう馴染んだ奈美の、濃い女の匂いがあふれ出て来る。

 すぐにくぐもった呻きが聞こえた。何を言ってるかわからない。感じてるのに、それでも咥えたまま離そうとしない。さっきシャワーを浴びたばかりだというのに、奈美の尻や背中はもう汗ばんできていた。息が乱れている。時折口を放して振り向く。

「ねえ、まだあ? イッて、イッてよお! ああっ、これじゃ、あたしが、先、ああん、そこダメ~ん、あ、ああ、気持ちいいよお・・・」

 口だけじゃなくて手でもシゴかれた。だが、散々奈美のゴツイ手で扱かれて鍛えられたせいで、ちっとやそっとでは音を上げることはなかった。

「ふふっ。お前のせいだぞ。あんだけイジりまくられたらイヤでも強くなっちゃうって。こういうのを自業自得って言うな」

「うるさい~ん、あはあ~ん、ダメ、そこダメああん! あ、来ちゃう、イッチャう~ん、あ、あ、ああっ、あイ、イッ・・・。んんんんん」

 奈美の大きな尻がピクピク痙攣した。夏樹の上に完全に体重を預けて弛緩する奈美の下から這い出し、その身体をひっくり返した。

「顔見せて。奈美のヤラしい顔見ながらしたい。モダえる顔見せてよ。ベロ出して」

 そう言って、舌を絡ませ合う濃いキスをする。

「いや~ん、ナツキ、めっちゃエロいーん・・・」

 上気して蕩け切った奈美の顔が、また可愛く見える。

「挿入れるよ。ゴム、してくれよ。さっき持ってきたろ」

 きっと今日はアブない日なのだろう。アブない日のほうが感じるのか。奈美にゴムを付けてもらい、真っ赤になって蕩けているそこにあてがい、ゆっくりと突き入れた。蕩けるような美玖の中とは違い、奈美のそこの中は弾力のあるゴムのように夏樹を力強く締めつけて来る。だがゴツイ奈美の手とはもちろん違う。躍動する滑らかでしなやかな筋肉が心地いい刺激をくれる。

「ん、ああ、這入ってくるぅ、這入ってくるよォ・・・はあ、お、おお・・・き・・・」

「なあ、ウソだろ。オレのそんなおっきくないよ」

 男子トイレや水泳の授業での着替えでふざけて見せ合ったりすることもあった。他の奴から「お前、チンコでかいな」と言われたこともある。だが、ダントツではない。夏樹よりも大きいチンコのやつはいた。ましてや大人の男に比べれば決してデカくはないだろう。自分が取り立てて大きいわけではないことを夏樹は知っていた。それなのに奈美も、子供を産んでいる美玖も自分のが大きいという。それがどうも腑に落ちなかったのだ。

「ウソじゃないよああっ! 当たるんだよォ、いろんなとこ。奥とか。中に入るとぶわってああ、ね、少し慣れたから動いて、動いてよォんあ、あ、すご、ああっ、ああっ、いい、だんだん、気持ちいいのあっ、あっ、あっ、あっ、そこ突かれるとすごいっ、あっ・・・」

 夏樹が初めてだった奈美ならわかるのだが、美玖が何で、という疑問は残る。

 しかし、やめておこう。

 セックスしてる最中に別の女のことを考えると奈美に悪い。

「好きぃ、ナツキ。大好きぃ、ああん、気持ちいいよお、ああん、ああっ! チューして、チューしてェ・・・」

 眼が潤んでいる。泣きそうなくらい気持ちがいいのだろう。奈美の切なそうな顔がとてもいい。ぶっちゅーっと激しいヤツをしてやると、すぐに舌を差し込んできて、グルングルンされる。昂奮が伝わってくる。脚が腰に絡み、ギューッと抱きしめられる。

「ごめん、ごめんね。また、いきそ、あたしばっかごめんーっ!」

「いいよ。いっぱいイキなよ。ナミがイッてくれるとオレもうれしいんだ」

「ナツキああっ、好きっ、大好きあ、イク、イクよ、ああっ、あっ! あああーっ! あ、い・・・んんんんんんんっ・・・」

 終わって、しばしまったりしたあと、再び素っ裸で階下に降りもう一度一緒にシャワーをした。奈美の身体を流していると、

「ナツキ、晩ご飯ウチで食べなよ。一緒に行こ」

 と、チンコを握られながら誘われた。

「でも、そんなに度々じゃさ・・・」

「もうっ! 遠慮はなし。だってちっちゃいころは毎日来てたじゃん。ママだっておんなじこと言うよ」

 シャワーヘッドを奪われ、奈美に流してもらった。特にそこを念入りに。当然反応して再びムクムクと大きくなった。

「あ、おま、ナミ・・・。またしたくなっちゃうじゃんか・・・」


 

「そうよォ。遠慮しないで。自分の家だと思いなさい。なんなら泊ったっていいのよ。あんたの家のご事情はわかってるつもりだから。パパだって、なんだっけ、ねえナミ。『本当の息子が出来たみたいだ』って・・・」

 結局奈美の家で夕飯をごちそうになった。目の前にごはんの御代わりを置きながら、奈美の母もそう言ってくれた。彼女の家に呼ばれるといつもそうだが、テーブルの上には何皿もの湯気の上がる料理が並んだ。母がいなくなってから、そんな光景は奈美の家でしか見たことがない。

「違うよ。『ウチは男みたいな娘しかいないから』って。・・・どうしてそういうこと言わすのっ!」

 奈美の家はやっぱり楽しい。それに、あったかい・・・。

「ありがとう、おばさん。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」

 愉しい夕食を腹いっぱいごちそうになって、奈美の家を辞した。

「ホントに帰るの?」

 奈美が玄関の外まで送ってくれた。

「うん。あんな家でもやっぱ自分ちのほうがよく眠れるから」

「・・・寂しいな」

 セックスを重ねるほどに、奈美は夏樹を失うのを恐れるかのようにオドオドした顔を見せることが増えた。

「おいー。たった二軒隣だろ」

 玄関先から少し暗がりに奈美を引き入れ、キスした。

「あたし・・・、ナツキと結婚したい」

 幼馴染はそんな可愛いことを言うような女になった。

「オレ、まだ中学生なんだけど」

 笑おうとしたが、奈美があまりにも真剣なのでやめた。

「大人になったら、ナミを嫁さんにする。約束する。これでいいか?」

「ナツキ・・・」

 奈美が抱きついて来た。

「どうしたんだろ。どうしちゃったんだろ、あたし。あんたがいなくなるのが怖いよ」

 奈美の小さな胸の感触が切なかった。

 二軒隣の家のドアを開けた。奈美がまだこっちを見ていた。軽く手を挙げた。奈美も手を振った。お・や・す・み、と口パクして、ドアの中に入った。

 すぐに携帯が鳴った。

「おい、ナミー・・・。おやすみ言った意味ないじゃんか」

 夏樹は笑ったが、奈美は笑わなかった。

「おやすみ、ナツキ・・・めっちゃ、愛してる」

「オレもだよ。おやすみ、愛してる、ナミ。また明日な」

 通話を切った。

 しばらく、通話の切れた携帯電話のディスプレイを見つめた。

 すると、さっきまで存分にセックスした奈美に抱いている愛情とは別の思いが、ムクムクと頭を擡げて来た。

 気がついたら、あの番号を押していた。
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