道連れは可愛くて逞しい ~ミクとナツキの物語~

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01 Dirty

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「今からならいいよ。いつもの場所で。三十分後」

 ひと月に一度が週に一度になり、二度になりウィークデーの午前中は全てになるのにさほど時間はかからなかった。

 夫の好きだった腰まであった長い髪も邪魔になって切った。多少は不平を言うかと思ったがさほど怒られなかった。今にして思えば、その頃にはもう感づかれて証拠を積み上げられていたのだろう。虎視眈々と絶好の機会(チャンス)を待っていたのだと思う。

 その日、美玖はいつものように息子を幼稚園に送った後、ショッピングモールの巨大な立体駐車場に車を潜め、そのどこかにやって来るはずの青い車がパッシングで合図をするのを待っていた。

 B棟の二階。車は西向きに駐める。空いて無ければ三階。それでも空きが無ければ屋上は避け、渡り廊下を走行していけるA棟の三階・・・。

 じっと辺りに目を凝らし続けるのも疲れる。何気に肩のあたりに手を伸ばすが、もうそこまであった髪は切ってしまった。今だに髪が長かったころの癖が抜けないとは。それに外出するときは必ず履いていたストッキングも履かなくなった。

「ガーターベルトで留めるヤツにすればいいのに」

 そう言われたが、そんなものを家に置き、洗濯しているとわかってしまう。極力普段と変わらないようにするのも疲れる。そんな疲れることばかりしなくてはならないにもかかわらず、美玖はやめられなかった。

 相手に愛はない。ただの快楽をもたらすだけの機械だ。それは動かない。愛しているのは夫であり今幼稚園でお遊戯かお絵かきか園庭を思いきり駆け回っているだろう息子だ。それも動かない。

「お前は愛する人を裏切って平気なのか。それが愛と言えるのか」

 仮にそう言われても、愛しているのは事実だから仕方がない。極端に言えば、誘拐犯に夫と息子が攫われたら喜んで身代わりになる。殺されてもいいぐらい、愛している。

 でも、どうしても疼く。身体が欲しがる。欲しくて仕方がない。それを夫がくれるなら、こんなことはしていない。美玖はセックスが好きだ。それも動かない。

 連絡も携帯は使っていない。公衆電話から相手にかけ、都合がよければ会う。悪ければ、我慢する。日中に時間が取れる都合のいい相手。美玖が欲しいだけくれる便利な相手。今美玖が待っているのはそういう男だ。

 来た。

 二列向こう側の車列からパッシングがある。場所は覚えた。車を出てそこへ向かう。

 いつも幼稚園に送り迎えする格好のまま。プレーンな白いブラウスにベージュのスカート。履きやすいローヒールの靴。ナチュラルメイク。身体の外はごく普通でも、中が熱く燃えている。電話をしてからもう止まらなくなってしまっていた。自然、歩調が逸る。

 ドアに手をかけるとすぐに乗り込み、いきなり運転席の男に抱きつく。むさぼる。

「おいー。落ち着けったら。ホテルまで我慢しろよもー・・・」

「だったら早く出して!」

 無精ひげがじょりじょりと痛い。それでも構わないし気にならないぐらい、持って行かれている自分がいる。これだけは、どうしようもない。

 ホテルに着き、部屋に入ると待ちきれないように抱きつく。

 唇に吸い付き舐めあい、舌を絡ませあう。それでも治まらず、逆に昂奮して男の首筋にかぶりつく。

「おいー。相変わらず、飢えてるなー」

 いつの間にか男にはすっかり上に立たれてしまった。それでも構わない。気持ちよくしてくれて、身体の疼きを静めてくれるのなら、上でも下でもどっちでもいい。

 男の手が乳房を揉みほぐし下に向かいディープなキスを交わしながらスカートがたくし上げられ裸の尻たぶをキツく揉み込んでくる。

「ああ・・・」

 おもわず仰け反るおとがいに食いつかれ、またゾワゾワした快感が沸き起こる。そのまま舌はうなじを這い、尻たぶの愛撫が激しくなる。どちらかの指がそこを確認するように這う。もう、ゴマカシは効かない。

「・・・グチョグチョじゃん・・・」

「ああん、やあっ・・・」

 男の頭が下がってゆき、スカートの下の下着の上からそこの匂いを目いっぱいに吸い込まれると、降参したくなる。

「ああん、だ・・・」

「すげえ、エロい匂い。朝からたまんなかったんじゃねえのォ・・・」

 すぐにクロッチがずらされ、そこが空気に触れ露にされていると思うと昂まりが抑えきれず、男の頭を抱えてしまう。

「そん、・・・あ、はあん、やあ、ああっ!」

 クリトリスが包皮を押し上げて勃起しているのだ。だからすぐに見つかり、男の舌の嬲りが始まる。その周りをグルグル、舌の先が遊ぶ。電気が入りっぱなしになり、膝がガクガクと震える。男はそれを待っているから、出来るだけガマンしたい。そうでないと・・・。

 クリトリスがチューッと音を立てて吸われ、尻の穴におかしな熱い感覚が生まれ、筋肉が強張り、身体中の毛穴という毛穴から汗がドッと吹き出す。

「はあんっ! あ、だ、はあ、・・・っんああっ! そこ、そん、なああんんんんんん」

 ダメだ。やっぱりこれをやられると、どうしようもなくなってしまう。一気に上り詰めて最初の絶頂。膝が折れ、壁際をズルズルと下がって尻もちをつく。

 すかさず目の前に男のモノが突き出される。

「かわりばんこ。ホラ、これ。欲しいんだろう?」

 言うまでもなく、それにむしゃぶりつく。

 舌を這わせ、唇で食み、先を嘗め回して咥える。美玖が壁に押し付けられているのをいいことに、男は調子に乗ってそれを入れたり出したりし始める。

 苦しいけど、耐える。

「言えよ。これ下さいって」

 その状態で言えるわけがない。それは美玖の口いっぱい塞ぎ、さらに喉の奥までギューッと突っ込まれ乱暴に押し込まれていてはなおさらだ。えずき、吐き気、涙が出てくる。それなのに、身体は熱く、そこはジンジンと欲しがり、もう耐えられないほどに熟してしまっている。

 それがやっと出て行った。

「ほら、言えよ。どうして欲しいんだ」

「突っ込んで、ズコズコしてェ・・・」

「なんつー、スケベな女だ。旦那も子供もいるってのに。悪いと思わないの?」

 男にすがって立ち上がり、唇を奪う。余計なことは言ってほしくない。

 洗面所に連れ込まれる。目の前に、淫らな女がいる。

「鏡に向かって言ってみ、今の」

 そんな残酷なことさせるんだ・・・。

 さらに身体が熱くなる。乳首が、クリトリスが痛いほど勃起し、股間が濡れる。

「言わないと、挿入れてやらねーぞ」

 ああ・・・。あまりな仕打ちに涙が出る。でも、これが欲しくて男を呼び出し、会いに来ている。美玖はどうしようもない自分の性(さが)を呪った。

「挿入れて、あなたの。あたしの中に、突っ込んで・・・」

 鏡の女はそれが挿入れられる圧迫感を耐えている。その苦悶の表情に、また萌える。

「はあうっ!・・・ああ」

 口に指が突っ込まれ、女はそれをもありがたそうに舐めている。レロレロ、ビチャビチャ。下劣な女だ、と美玖は思う。頭の後ろがしびれすぎる。そこをさらに男のモノに突かれる。美玖の一番弱い部分が突かれる。

「ああっ! そこ、ああん、はあっ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、あっ、だっ、いい、はあ、ハッ、で、ああ、いっちゃ、ハッ、ハッ、いっちゃうっ、ハッ、ああっ、」

「イケよ、イクんだろ? おら、いっちまえ、がーっと・・・」

 片脚を洗面台の上に上げられ、さらに深く、追い上げるように下から突き上げられ、デビリビリゾワッゾワの身体が仰け反り、飛んで行ってしまいそうな錯覚を覚え、両手で男の頭にしがみついた。

「はあああっ、あ、ダメッ、ダメああんっ・・・んんんんん」


 

 二時間ほどで部屋を出た。一階の駐車場に二人で降り、男の車でショッピングモールの駐車場に戻る。毎回同じルーティン。そして今日も現実に戻り、明日もまた男に電話するのだろう。そして束の間の非現実を味わい、また現実に戻る・・・。

 いつまでもそのルーティンが続くのだろう、と思う自分がいる一方で、こんなことはいつかはバレ、身の破滅に繋がると警告する自分がいる。もうずっとその二つの相克の間で揺れていた。

 車がホテルの出口に向けて動く。センサーが車を感知して青いパトライトが回る。それもいつもと同じだった。

 同じでなかったのは、公道に出る寸前に、車の前に四五人の男性が立ちはだかったことだった。

 こんなことはいつかは終わる。そう覚悟をして来たから、美玖はあまり驚かなかった。驚いたのは、男の方だった。

「おわっ! 何だこいつら・・・」

「一番左の人以外はあたしも知らない」

「・・・え?」

「一番左の人、あたしの旦那」

 さっきまで美玖を思うさま蹂躙して彼女の支配者だった男は急に委縮して、頭を抱え込んだ。

 夫は容赦なくやるだろう。性格的にそういう人だ。その場合、離婚だけでは済まないだろうという予測もしていた。でも、たった一人の息子とも別れねばならなくなるのだけは受け入れがたかった。それだけは想像するのさえ拒んできた。

 美玖は息子を、大樹を愛している。誰にも渡したくない、自分のお腹を痛めて産んだ子供だ。

 それだけは・・・。

 しかし、自信たっぷりに美玖の乗った車に歩み寄って来る夫の顔には、彼女の願いを聞き入れる余地は一厘もないように思えた。
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