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第四夜 あなたを挑発したい

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 店から歩いて十分ほど。古びた四階建てのアパートがペイヴメントの街灯やそのあちこちの部屋の窓に掲げられた色とりどりのネオンサインに浮かび上がっている。壁にはアイビーが這い、暗くてよくは見えないが建物全体を覆っているように見える。

「ここはその昔『文化住宅』といって建てられた当初は当時の流行に敏感な方々にもてはやされたそうです。築五十年は経ってますかねえ・・・」

 老紳士は老練な不動産屋でもあるかのように淡々と説明した。

 その横でキョーコは時折目を瞑って歯を食いしばりながら鼻で息をし、堪えている。店からここまで歩いて来るうちに、幾度もアスファルトを打つヒールの音のテンポを乱し、彼女は何度も躓きそうになりながらもたどたどしい歩みでついてきていた。

 その原因を、譲治は知っていた。

「お仕置きする。自分で持ってこい」

 店を出る前、絶頂のあとの痙攣が治まった彼女に老紳士は命じた。

「・・・はい、先生」

 尻を丸出しにしたまま一度カウンターの中に引っ込んだ彼女は間もなく道具を持って戻って来た。道具とは、黒い革ひもが結びつけられたようなものとこれも黒いタマゴ大のもの。細い線が伸びていてその先にコントローラーと思しきこれも黒の小さな箱が付いていた。

 小さな箱が「先生」に手渡された。先生がそのスイッチを入れるとモーターの音と共に彼女の指が持つそのタマゴが微妙に伸び縮みしたり震えたりした。彼女はそれを口に咥え嘗め回して唾液を塗すと股間に当て、膣の中に挿入した

「あ、・・・うんっ・・・」

 絡み合った革紐を広げ、身を屈めてその二つの輪の中に脚を入れ、引き上げた。それが「下着」であることを譲治は知った。

「先生」はその「下着」の背後のアジャスターをグイと引いた。

「はあうっ!」

 よくはわからないが、その締め付けで例のタマゴがより食い込み、彼女の核を刺激するのだろうと思われた。

 そのままスカートが下ろされ、ここまで歩かされてきたというわけだった。

「ふん・・・、んん」

 彼女からはほのかな汗の匂いが漂っていた。見ると首筋に汗が浮いていた。

「では、上がりましょう。この三階になります。エレベーターがありませんので、階段ですがね。

 アイビーの這う狭い入口を「先生」、キョーコ、譲治の順に入って行った。

 階段はやっとすれ違うことができるほど狭かった。フロア毎に二つのドアがある。それぞれのドアに看板がある。ネイルアートの店。アジアン雑貨の店。希少版専門のレコード店、それにタロット占いの館と書かれた看板。いずれも営業時間を過ぎて誰もいないようだった。

「もちろん作られた当初は住居だったのだと思いますが、今はご覧のとおり、ほとんどが店舗になっていましてね。夜中は誰もいなくなります」

 と、「先生」は言った。

 すぐ前にキョーコのスカートの豊満な尻がある。そこからはずっと淫靡な匂いが漂っていた。譲治が放った精液の匂いは、彼女の醸す強い牝の匂いに消されつつあった。その野性の匂いに幻惑されていると急に彼女がふらついて躓きそうになった。後ろに倒れてくるような気配で咄嗟に手を差し伸べると柔らかい尻に指が食い込んだ。

「・・・も、申し訳ございません」

 消え入りそうな声で詫びる彼女。よく見ると、スカートの下から内股を伝って薄い白の液体が伝っているのに気付いた。またも譲治の男根は反応した。

 鍵を取り出して鉄の扉を開けたのはキョーコだった。だが、どうぞ、と言ったのは「先生」だった。彼女を追って、中に入った。パチ、と灯りが点く。ブラックライトとまでは言えないが、青白い照明で部屋が満たされた。非現実的な空間がそこに現れた。だが、耳を澄ませばまだ通りの雑踏のざわめきと少し離れたところを走る電車のレールの音が聞こえた。これは確かに現実なのだ。イヤでもそう思わざるを得なかった。

 板の間の奥に畳敷きの間がある。六畳と六畳ほどの続きになっていた。元は仕切りがあったのだろうが、取り払われたのだろう。畳敷きの向こうが窓になる。そこにはカーテンがかけられていた。

 それ以外には何もない。壁の一方が収納なのだろう。全面を衝立式の扉が覆っていた。

「板の間までは土足で構いません」

 背中から「先生」が言った。目の前で、今まで抑制していた彼女が大きく吐息をつき、胸と股間を抑えて板の間に蹲った。「先生」が彼女の背後に立った。

 しゅっ、パチーン!

「ひっ!・・・、あ、・・・あ」

 低い叫び。キョーコの顔が苦痛に歪んだ。口元をわなわなと震わせていた。

 いつの間にか「先生」は鞭を持っていた。短くて細い、馬術の騎手が持つような鞭。と、立ち上がった彼女がスカートのサイドのホックを外し、ファスナーを下ろした。黒い布がすとんと足元に落ちた。例の黒革帯の下着ともいえない下着が再び露になった。あの黒いタマゴのコントローラーはストッキングの赤い帯に挟んであった。ついでベストが、シャツが脱ぎ去られた。ブラジャーは着けていなかった。代わりに、その豊満な胸の突起の先に金属が、両の乳首がピアスで飾られていた。

「キョーコ。よくご覧いただきなさい」

「はい、・・・先生」

 彼女はそこに膝をつき、胸を張り、豊かな乳房を突き出して両手を頭の後ろで組んだ。さほど濃くはないが、両脇にはふさふさした毛が生えていた。

「お客様。・・・キョーコの、恥ずかしいカラダを、ご覧ください」

 その豊かな尻から想像していた以上の、ボリューム感あふれるグラマラスな肢体がそこにあった。彼女は舌を出して大胆に舌なめずりをして見せた。明かに譲治を挑発していた。先刻精を放ったばかりだというのに、譲治の下半身はもう痛いほど突き上げ反応し始めていた。あの蠢きながら締めつけて来た彼女のヴァギナの味を思い出していた。

 大きな乳首は完全に勃起していた。その銀色のピアスは小さなシャックルのような形をしていた。ボルトの部分が乳首を貫通し、Uの部分が乳首の下にぶら下がってキラキラ光っていた。

「いかがですか。なかなかいいカラダをしているでしょう」

「先生」は穏やかな笑みを湛えて掌の上でムチを弄んでいた。

 キョーコはつと立って収納の扉を開き、左右に畳んでいった。そこに整然と並んだ無数の棚が現れた。その中からこれもまた黒い枷を取り出した。

「キョーコ。何か忘れていないか。今日はどうやってお仕置きして欲しいのか」

 彼女はもう一度棚の前に立ち、そこから白い大ぶりの男性器を模した張り子を鈴を取り出して枷と共に畳に置いた。そしてヒールを脱いで床に平伏した。

「先生。どうか、愚かでスケベなキョーコに、罰を、罰を与えて下さい・・・」

「わかりますか」

「先生」は譲治を顧みて言った。

「キョーコが何を望んでいるか、わかりますか?」

 彼は靴を脱いで畳敷きの間に上がった。そこに腰を下ろした彼の前にキョーコが傅き、靴下を脱がせた。

「おいで、キョーコ」

「はい、先生」

 いそいそと畳の上に上がり立て膝をついた。

「先生」は、枷を取り上げた。枷は四つ。それが鎖でエックス字に中央でつながっていた。ただ、鎖が短すぎてそれぞれの枷がくっついているように見えた。まず両の足首に枷を嵌めてつないだ。そして両腕を後ろに回させ、手首に枷を嵌めて足首とつないだ。キョーコはイヤでもその豊満な胸を張りピアスされた乳首を突き出さなくてはならなくなった。

 その状態で、彼女は放置された。というよりも、そんな状態を、鑑賞された。


 
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