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41 トオルの怒りと女同士

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 今日も道場へ行った。が、ヨウジは既に帰ったと言われた。

 その代りに、トオルに会った。ヨウジが部活を早退した理由が、わかった。

「しばらくだね」

 高校生たちから神のように奉られる体育会系のOB。その大先輩に、平気でタメ口を利くヨウジの一個上の姉。柔道部の面々は、ここでもレナを畏敬の眼差しで見つめた。

「ちょっと、来いよ」

 しばらくぶりで会ったトオルは、怖い目をしてレナを道場の外へ連れ出した。汗臭い黒帯は、道場の裏のケヤキの木の広場の隅にレナを誘うと、くるりと振り返り、壁際にレナを追い込んだ。

「なんだよ、あれ。勝手すぎんだろ! たった、あんだけで・・・。俺らの付き合いって、あんなもんだったのか」

 怒るの、遅すぎるよ。

 短い間だったが、ちょっと本気になりかけた、複雑な経緯で付き合ったかつての男を見上げた。

「・・・ごめん。ごめんね、トオル」

「納得できるわけ、ないだろ。なんだよ、ご主人様って。あの、ロールスロイスの持ち主か。金持ちがいいのか、金さえ持ってれば股開くんか、平気で身体にそんなものつけるんかお前は!」

「殴っていいよ。なんなら、どっかに連れてって、犯してもいい。今、ここでされても、いいよ」

「お前・・・」

 トオルの拳固が、レナのすぐ横の壁に叩きつけられた。古い土壁が崩れ、パラパラと土が落ちて行った。

「そんなチャラチャラしたカッコで道場に入るな。みんなの気が散る。二度とここへ来るな。お前とヨウジは関係ない。あいつに見どころがあれば、しっかり指導する。だから心配しないで、黙って見てろ。俺の前に、もう二度と、そのツラ見せんな」

 他の男に惚れさせて、思い切り残酷に、フル。そうすれば、僕の気持ちがわかる。

 やっと、わかりました。わかってました。でも、トオルは、優し過ぎたんです。だから、ようやく今、怒ってるんです。怒りまくってるんです。

「トオル」

 去って行こうとする男を呼び止めた。彼は首だけ振り向き目尻でレナを認めた。

「あんたは、ヨウジと同じ、男の人。とっても優しくて、強い。女のあたしじゃ、絶対、敵わなない。

 だけど、あたしを必要としてくれてる人は、男なの。女よりも弱いいきものなの。あたしがいないと、ダメな人なの。もう、ここへは来ない。ヨウジを、よろしくお願します」

 何故そんな言い方をしたのか、自分にもよくわからない。トオルは何も言わずに再び背を向け、去って行った。


 

 ヨウジは家に帰っていた。

 驚いた。

 いつもならスポーツバッグや脱ぎ散らした道着やジャージが散乱している廊下。

 それがピカピカに磨き上げられ、洗濯物は取り込まれて畳まれ、風呂はきれいに掃除されて湯が沸いており、その本人が、濃い毛脛をむき出しにしてTシャツに短パン姿で台所に立っていた。

「あ、姉ちゃんお帰り」

 唖然として、しばらくそこに突っ立っていた。

 目の前のテーブルに、辛うじてオムライスではないかと推測されるモノが置かれた。スプーンを取って一口食べた。

「どう? 美味い?」

 何ををどうすればこんな味になるのかと思った。だけど、それまでのレナの人生の中で一番だった。父がいなくなってから、もしかすると今日が一番嬉しい日かも知れない。身体を張って自分を守ってくれた姉に素直に感動し、何か出来ることはないかと必死に考えたのだろう。そのいじらしいまでの気持ちがじんじん伝わって涙がこぼれた。

「ねえ、どう?」

「うん・・・。泣けてくるほど、めっちゃ・・・、ゲロマズ」


 

「じゃあ、テストするよ。今稼働中の五つの会社の名称と代表電話番号は」

「・・・」

「マジ?・・・。じゃあ、お掃除屋さんの番号。この間使ったでしょ。もう、忘れたの?」

「・・・」

「それじゃ、弁護士事務所の番号は? あなたが電話番してる事務所だよ」

「・・・えと、・・・」

「ダメだ、こりゃ。頭ワル過ぎ。スマホに頼り切ってるからよ」

 スミレさんのレッスンは日を追うごとに厳しく、熾烈さを増していった。

 結婚式の日取りが決まり、カウントダウンが始まってからは特にそうだった。傍目にも、イライラをつのらせているのがわかる。こういう時、彼女の車に乗せられると、確実に、死ねる。事務所の前に停まっているスズキさんの黒塗りの車が神々しく見える。

「せめて弁護士事務所の番号は絶対暗記しなさい。いい? なんでかわかる?」

「・・・どうしてですか」

「いざという時にね、救命ボートになるから」

「いざという時?」

 スミレさんは腰に手を当ててペリエの残りを一気に飲み干し、大きな吐息を吐いた。

「休憩しよう。アホに教えるの、疲れる。ストレスたまる。おいで。イジめさせな」

 あのスミレさんの最後のプレイからもうひと月以上が過ぎた。サキさんからは一切連絡がない。もちろん、スミレさんにもないのだろう。ここのところ毎日のように頻繁にスマートフォンを覗いている。

「脱ぎなよ」

 と、スミレさんは言った。

 三日に一度の割合で、レナはスミレさんの相手をした。

 ゆっくりと、服を脱いだ。スミレさんは、レナが服を脱いでゆくのを見るのを好んだ。ノースリーブのサマードレス。腕を回し、背中のファスナーを時間をかけて下ろしてゆく。早くもレナは興奮している。荒くなってゆく息遣いに肩を小さく上下させながら、両手を前でクロスして肩にかかった衣を落とす。スミレさんを見上げる。

「下着もよ」

 もう何度もプレイをしてわかっているのに、あえて彼女にその言葉を言わせる。それで、レナの被虐と羞恥のスイッチが完全にオンになる。淡いバイオレットを基調にした、ちょっと前まで高校生だった年齢の娘には贅沢過ぎる、高価なブラジャーを外す。ダイヤのピアスに飾られた乳首が露にされる。

「後ろを向きなさい」

 言われた通り、回れ右をする。

「ショーツも脱ぐのよ。膝を折らずにね」

「はい」

 指をサイドにかける。ショーツを、膝を折らずに脱ぎ去るためには上体を大きく前に倒し、尻を突き出さなければならない。突き出せば、ピアスした股間と尻の穴がスミレさんに露になる。ゆっくりとその動作をしていると、いきなり尻を叩かれる。

「ああーっ!」

 それほど痛くないのに、ワザと大袈裟に、官能的に悲鳴を上げる。防音などないから、事務所の周囲に漏れないように、悲鳴も控えめにした。

「ああっ、そ、そこ・・・」

 スミレさんの指が股間をまさぐる。指が、多分二本、レナのヴァギナに潜り込む。

「もうこんなにしちゃってるのね。イケない子」

 ぬちゃ。くちょ。

 敏感になっている入り口をじっくりとかき回され、卑猥な音が股間から流れて来る。中途半端にショーツを下ろした、前かがみの、みっともない姿勢のまま、レナは早くも昂まってしまう。

「ああっ! あ、あ、いっ、イキ、イク・・・」

 スミレさんだけでなく、レナも、サキさんの調教によってプレイの中で自分で官能を高めてゆく術を十分に身に着けている。一を聞いただけで、その後に続く十のストーリーとステップがわかるようになっている。

 絶頂の寸前で指が抜かれ、恐らくはレナの愛液が滴っているであろう、その指が肛門を、アナルの入り口を撫で、揉む。

「ここ、欲しがらせてるくせに・・・。欲しいって、言いなさい」

「・・・欲しいです。アナル、虐めて下さい」


 

 事務所にいるときは一日一回、全てのプレイルームをモニターする。サキさんがスレイヴ達と連絡するLINEは全て転送されて来るから誰がルームを使うかはわかる。他のスレイヴ達にも、ここひと月は連絡がないようで、ほとんどのモニターの映像には使われた形跡は映っていなかった。もちろん、かつてレナがそうだったように、スレイヴ達はレナにモニターされていることなど知らない。それに、レナとスミレさんがサキさんの秘書であることも彼女たちは知らないし、スレイヴ同士の接触もカエデさんとのプレイのような例外を除いては、あまりない。

 一件だけ、かつてレナがユーヤを連れ込んだように、サキさんではない、知らない男を連れ込んでコトに及んでいるスレイヴがいた。彼女のデータを見る。

 スレイヴナンバー七番のひとだ。歳は二十三で、同い年の彼氏がいる。でも、画面に映っている相手の男はサキさんよりはるかに年上で腹が突き出ている。会社の上司だろうか。サキさんでも彼氏でもない男のペニスを頬張り、受け入れ、張り付け台にかけられて責められる女の、モノクロームの映像に異様な昂奮をし、食い入るように見つめてしまった。

「どうしたの。もよおしちゃったの?」

 背後から声を掛けられ、振り返った先にスミレさんの濡れた唇があった。思わず抱きつき、キスしてしまった。

 二人のレッスン中の定期的なプレイは、それがきっかけで始まった。

 他のスレイヴ達と違い、サキさんの、ある意味で危険な仕事の手伝いをしている分、ストレスが大きく、昂奮を呼びやすく、お互いを慰め合う気持ちが強く、それが性欲を高めたのかも知れない。


 

 レナはすっかりアナルセックスに馴染んだ。

 スミレさんがキッチンの引き出しに忍ばせたレナの首輪と手枷などを取りに行っている間にショーツを脱ぎさり、両手はさらに両の足首を持って待つ。

 二日前はレナがサディストでスミレさんを責めた。でも、やはり相手が年上で、しかも教えてもらっている立場が災いし、言葉責めの活舌が悪く、何度もかんで、ついにスミレさんが吹き出し、白けてしまって、普通の女同士のセックスになってしまった。

 彼女はあのサキさんとの最後のプレイがよほど忘れられなかったらしく、レナを責めながら、何度もその話題を口にした。そして最後にはいつも、

「どうしよう。わたし、あの刺激なしでいつまで耐えられるかなあ」とぼやいた。


 

 肛門に冷たい感触があり、あの圧迫と排泄を促されるもどかしい感覚が襲う。ワセリンを塗った指がすぼまったその穴を犯す。

「あ、はあ~ん。ああ、そこ~ん、んん、あは、だ、ダメえ・・・」

「何がダメなの、ヘンタイのくせに。お尻グリグリされて、気持ちいいんでしょ」

 指が抜かれ、アナルスティックが挿入される。先が細っていて、キャンドルのように螺旋状に根元に行くにしたがって太くなる。凹凸が肛門を通る度にむずむずが倍加してゆき、それが振動して直腸を刺激する。ヴァギナのバイブとはまた違う、ある意味、原初的な排泄欲を増幅する快感が堪えられない。

「ああーっ、あーっ、入ってくる、入ってくる~ん、やだ、やだこれ~ん」

 前かがみで尻を突き上げ、異様な快感に悶える。

「堪らないでしょう。すっかり気に入ったね、これ」

 しばらく抜き差ししていたスミレさんは、スティックをそのままにレナを立たせ、ベッドルームへ引き立てた。

 自分も全裸になり、レナに首輪をする。悶えるレナの唇を奪い、舌を絡める。その舌に貪りつく。すでにピアスの取り去られたスミレさんの乳首を摘まみ、転がす。その手首を掴まれ、手枷が嵌められる。前で繋がれた手は上へ、頭の後ろにまわされ、首輪についた輪に首の後ろで繋がれた。脇を大きく曝け出したレナの身体をベッドにまず伏せ、次いで仰向けにし、両の足首を緑のカラーリボンで縛り、その先をヘッドレストの格子にかけ、引っ張る。大きく両脚を開かされて股間が天井を向き、アナルにはずっとスティックが挿されたままで肛門を刺激し続けている。

 大きなピローに頭を沈めているレナに肌を合わせるように添ったスミレさんは、曝け出された脇に舌を這わせ、乳首のダンベルをくすぐり、全開している股間のクリトリスを弄った。

「あーん、気持ちいいっ。おかしくなっちゃう~ん。おかしくなっちゃうよォー・・・はあん」

 もう一度脇が集中的に責められる。肌が上気して赤くなり、汗が噴き出て来て空中に括られている足指が蠢く。スミレさんの指が開いているヴァギナに潜り込み、親指でクリトリスを撫で回される。

「はあーん、スゴイーっ! スミレさん、たまんないっ!」

「あなた、これ好きでしょ。脇にクリにヴァギナにアナル。四点責め。どのくらい耐えられるかな」

「はあん、もう、無理ぃ・・・いっちゃう、いっちゃうーん、んんーっっっ!」

 足を何度も突っ張り、リボンが肌に食い込む。

「・・・っっ、く、ふうー、・・・ああーっ、気持ちいいですゥ。やっばいですゥ・・・」

「あなたは、いいわね・・・」

「え?」

「レナが、羨ましい・・・」
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