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33 人間のクズ
しおりを挟む新居となる、アパートというより賃貸マンションは、今よりもヨウジの高校に近く、レナのには遠く、バス通学を余儀なくされることになる。
だが、今よりも政令市の中心街に近く、レナの新たなフィールドにとっては使い勝手の良い物件だった。
多少高めだが、レナの父親の収入から考えて突飛なほど高い賃料ではなく、昼間は管理人が常駐する割には安い買い物と言えた。2DKだが兄弟二人で住むのには広すぎるぐらいで、南に中心街のビル群を望む眺めも気に入った。
いい所の出で、自身も年収数千万の、高級スポーツカーを乗り回すお嬢様にしては、スミレさんの金銭感覚はちゃんと地に足が付いている。おそらく、そういうところがサキさんに買われたのだろう。
ヨウジはまだ帰っていなかったが、珍しく母がいた。風呂に入っているらしい。見たくない顔だが、仕方がない。
弟が帰ってきたら新居の話をしてやろうと、諦めてパンプスを脱ぎ、居間に入った。
と、キッチンのテーブルの上で何かが振動していた。それはすぐに止んだ。
レナは初めて母のスマートフォンを手に取り、開いた。ロックはかかっておらず、メールが一通入っていることがディスプレイに表示されていた。レナはそれを開いた。開かなければよかったと、後から後悔するものを、見てしまった。
「ノブちゃん。十年の節目の、最高の旅行だったね。記念に動画を送ります。愛してるよ。ノブちゃんの永遠の恋人、マサ」
動画は十秒ほどの短いものだった。
幼少時から見慣れた女の顔がアップで映っていた。汗だくで、醜く歪んだ顔の眉根を寄せて荒い呼吸をしていた。そして、歓喜の声を張り上げて間欠的に顔を揺らしていた。
「もっと! もっと突いてェ。ああん、気持ちいい~」
彼女の頭の後ろに、見知らぬ中年の男の顔が見え隠れしていた。女が、男に背後から貫かれながら、自分でスマートフォンを構えて撮影した画像だとわかる。
その場で嘔吐した。
夕方食べた消化途中のバゲットがテーブルの上にドボドボぶちまけられ、飛沫が純白のサマードレスを汚した。
「レナ? 帰ってたの・・・、まあ、どうしたの、あんた」
母親だった女が、背後から近づいてきた。
すぐにテーブルの上のスマートフォンに気付き、さっと手を伸ばして胸に抱きその場に蹲った。まだ、髪が乾いていない。ジャージのズボンにTシャツ姿のその女は、震えていた。
「マサって、誰? 十年の記念て、何?」
「・・・」
女は震えるだけで、何も答えなかった。
「ひどい人だね、あんた。散々お父さんのこと詰りまくって、罵倒しまくって、慰謝料までふんだくったくせに。
あんたのほうが先に裏切ってたんじゃん。それも、十年も。お父さんを、あたしたちを、家族を・・・。裏切って、騙して、壊したんじゃん」
かすかに、ひいーっという小さな悲鳴を聞いたような気がした。自分の嘔吐物の発する悪臭に再び吐き気がした。
「違うね。人じゃなかった。獣だったね。けだものだね、あんたは。あんたの腹から生まれてきたかと思うと、死にたくなっちゃうよ。
今日で、永遠のお別れしようね。もう二度と、顔見たくない! 一人で寂しく死んで。出来れば、早めに」
思いのたけをありったけ吐き出したはずなのに、何故かスッキリできなかった。
真新しい新居に移り住み、はしゃぐ大男を横目に、レナは絨毯の上に置いたコンビニ弁当のおかずを肴に、ぬるいビールを飲んだ。
「ヨウジ。あした、部活休みな。姉ちゃんと生活必需品とか家具とか、買いに行くから」
「でも、明日はサイトー先輩とか、来るんだよ」
「いいから。休みな。これは命令」
その夜はエアコンの他は何もないリビングでヨウジと雑魚寝した。途中でイビキに耐えられなくなり、自分の部屋にする予定の六畳間の洋室に逃げた。
変な時間に目が覚めたせいで、眠れない。ベランダに出た。熱帯夜。ムッとする熱気と湿気に襲われながら、遠くに瞬くビル群の夜景を見つめた。
父に、何と言おう。
母のことは、あの女のことは黙っていようと思った。別れた元女房に男がいたなんて聞きたくもないだろう。娘と息子が揃って家を出て別居した事実だけメールしよう。もう母とは一緒に住みたくないこと。これは姉弟の総意であること。今付き合っている人の好意で部屋を借りられたこと。お金の心配はいらないこと。父の幸せを願っていること。
一度会いに行きたい・・・。打ちかけて、止めて置いた。自分たちが行けば、迷惑になるだろう。父は、もう十分に苦しんだ。これからは新しい若い奥さんと穏やかに暮らして欲しいと心から願った。
照れくさそうにしてはいるものの、姉と一緒に歩くことが嬉しいのだということがよくわかる。ヨウジは終始上機嫌だった。
家具屋でテーブルセットと食器棚、二人分の学習机と椅子。電気屋で冷蔵庫と電子レンジと炊飯器、雑貨屋で食器その他・・・。ショッピングモールを半日かけて歩き回り、ほとんどを配送手続きにして、消耗品はヨウジに預け、そこで弟と別れた。
「姉ちゃん、ちょっと用事があるから。先に帰ってて。その後実家によって、あの女がいなければ残して来たものいくつか持って帰る。帰りは、そうだな、八時ごろかな」
財布から五千円札を抜いて渡した。
「夜は先に適当に何か食べてて。コンビニとかファミレスとか。明日からは作ってあげる」
「姉ちゃんさ、なんであんな金持ってるの?」
「・・・今付き合ってる人、お金持ちなの」
ある程度は納得させる必要があるだろう。
「その人の仕事の、お手伝いしてるの。これはそのお給料だから」
「もしかして、エッチな仕事?」
すかさずイガグリ頭を張った。
「殺すよ、マジで」
なんとなく、兄弟のいつものパターンが戻ったようで、ホッとする。しかし、ヨウジはそうではなかったようだった。
「・・・サイトー先輩は、どうすんの」
弟の顔が、苦く、笑った。
「なにか、言われた?」
「べつに、なんもねえけど・・・」
「うん・・・。そうだね。ケジメ、つけないとね、いつか、どっかで」
スミレさんの事務所に彼女はいなかった。
スズキさんに送られ、きのうと同じように本館を通り抜けて事務所に入り、二三時間パソコンに向かった。主に手配や連絡先のおさらいをした後、明るいうちに実家へ向かった。スズキさんは帰した。
都合よく、母はいなかった。仕事だろうが、あの男の元だろうが、もう、どうでもいい。気に入りの服や本、持てるだけのものを紙袋に入れて家を出たところに、ユーヤがいた。
「許さないって、言ったっㇲよね」
「で、許さないから、どうするって?」
ガラス張りの広いバスルームの柔らかなマットの上に仰向けに転がっているユーヤのペニスを、禿げかけたペディキュアの足で踏む。
「ああっ! うう・・・」
「何とか言いなよ。・・・こんなことされて悦んでるくせに。生意気過ぎんじゃない?あんた」
プレイルームは気後れがした。もう、遅い時間だったし、スミレさんに覗かれていると思うと、つい近場のラブホテルの方へ足が向いた。
「ああっ!・・・も、もう、ダメっㇲうう・・・」
さらに足に力を込めてやると、ペニスがビクついて呆気なく玉砕した。精液の飛沫は彼の顎にまで飛んだ。もちろん、レナの足にもべっとりとついた。
「おい。汚れちゃったよ。キレイにして」
精液の着いた足を、ユーヤの口元に押し付けた。息を乱しながら足指に舌を這わせる彼を見て、足指に加えられた刺激を感じていると、ここ数日の溜まっていた憤懣や鬱憤や欲望がムラムラと頭をもたげて来る。
ユーヤの顔に、逆さに跨る。
「あたしにナメた口利くなんて・・・。ただじゃ済まさないからね。ホラ。舐めなよ。これが欲しかったんでしょ。エロ小僧のくせに・・・」
足を舐めさせていただけなのに、もう、レナのそこは蜜で溢れている。ぴちゃぴちゃという音と共に、クリトリスを舌で転がされる快感がビンビンと乳首にまで響く。
「・・・ああ。上手くなったね。もしかして、他の女のコで練習してきた?・・・っくふ。やるじゃん。ご褒美、あげるね」
ボディーソープを泡立てて、ペニスをくるんだ。今射精したばかりのそれはすでに腹の上で反り返っている。左手で扱きながら、右手の平で亀頭を撫でまわす。
「くっ、あああーっ! ・・・で、出るゥ」
手を放し、平手でペニスを打つ。
「ぎゃっ!・・・ああ・・・」
「早すぎるってェ。なんでもう少しガマン、出来ないかなあ? こんなじゃあたしのオ●ンコ、満足できないよ。せめて五分は耐えなきゃ」
ユーヤのペニスを弄るイヤらしい言葉を口にのぼせる度に、あのサキさんの、疲れを知らない、無限にレナを犯し続ける肉棒が恋しくなってくる。会いたくて、再び滅茶苦茶に犯されたくて、堪らない。また死ぬほどイカされたい。
サキさんが、欲しい・・・。
シャワーでユーヤの筋肉質の体を洗い流す。
「せめて五回はイカせてね。約束だよ」
ガウンを羽織ったレナが、一人用のソファーに寝そべるように寛いでいる。
本当ならビールを飲みたいところだが、ここはレナの生活圏に近い。ユーヤと一緒のところを見られても別に構わないが、酒の匂いをプンプンさせているのを知られるのはマズい。スズキさんも帰してしまったし、もう、ユーヤは乗せられない。
仕方なく冷蔵庫にあったコーラで喉を潤している。
「もう一回、挑戦してみる? この前の記録塗り替えてみたい? でも、もう、あと十分ぐらいしかないんだけど。延長してみる? ねえ、どうなの?」
「むんぐ、むむっ」
「何言ってるか、わかんないよ」
ローテーブルの上には色違いの、口を縛った使用済みのゴムが、縦に伸ばされて並べられていた。回数順らしく、右から左へ少しずつ中の白い液体が減っている。それは四本あった。バスルームで一回射精しているから、ユーヤはこれで、もう五回も精を放っていることになる。
そのユーヤがレナの股間に顔を埋めていた。後頭部を長い脚で抱え込まれていて、舐め方が悪いと言っては、その太腿を締めあげられる苦しさに耐えていた。
両手は背中に廻し、互いの手首を握っていて放さない。レナか強制したわけでもないのに、レナと出会ってからなのか、元々そうなのかはわからないが、すっかりマゾ根性が染みついていた。
結局、何を許さないと言いにきたのかは言わなかったし、聞かなかった。試合がダメになったというレナの推測通りなのだろうが、ホテルに入った途端レナが全裸になり、ユーヤの股間を握りしめて後は、どうでもよくなったのだろう。
彼にとってはもう、サッカーなどは、このレナとのプレイに比べればその程度のものになってしまったというわけなのか。
「のど乾いたらあたしのラブジュース、好きなだけ飲みなね。一生懸命舐めれば、いっぱい出て来るよ。それに、もうすぐ生理だから、血まみれのオ●ンコになるかも。舐めてみたい? 舐めたいって言って。
元気になって、したくなったら、言うんだよ。あたしも満足したいんだ。まだ二回しかイカせてもらってないんだよ。ひどいよ、ユーヤ。自分ばっかり、五回もなんて。元気になったら黙ってちゃだめだよ」
次第に昂奮しずけずけとあられもない言葉を吐きまくる。言葉がさらに昂奮を呼び、昂奮が勝手に身体を動かす。股間に傅くユーヤの顔を掴み強引に唇を寄せ奪い、舌で顔中を舐めまわす。手がユーヤのペニスを握り股間に導こうとする。
「ほら。やっぱりこんなになっちゃってんじゃん、もォ。サービスするから、こんどこそ頑張るんだよ」
ユーヤを立たせ、また昂ぶってそそり立とうとする肉茎を扱き、ゴムを口でつけてやる。レナの唇が傘を通過するとき、ユーヤは「クッ」と眉根を寄せ、尻の筋肉を震わせた。
「入りたい? 入れたいの? あたしのオ●ンコに。ちゃんと言いなさい」
「せ、先輩のオ●ンコに、い、入れたいっㇲ」
「入れて。思いっきり突いて。犯して」
最初からぎゅうぎゅうに締め上げた。快感を堪え歪むユーヤの顔が堪らない。頬を挟み、口を吸い、舌を入れてかき回し、両足を彼の尻に廻して太腿でも締め上げる。
「う、・・・あ、・・・クッ」
「ガマン。我慢しろ。男でしょ。女、ちゃんとイカせるのが義務でしょ。ああっ、いい。もっと、もっと奥。もうちょっと、もうちょっとで、イケる・・・。ガマンだよ」
「うわ、あくっ、も、もうダメっㇲ」
「あたしも、イクっ。一緒に、イッて。あ、イク、いくーっ!・・・」
思い切り締め上げて、搾り取った。耐えに耐えて義務を果たしたユーヤを、かわいいと思う。
「頑張ったね。えらいよ」
唇を吸い、舌を絡ませ合っていると、電話が鳴る。秘書用のだ。
「ユーヤ、そこのポーチ取って」
来たかな、ついに。
荒い息を整えながら、独り言ちた。
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