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36.大学病院
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ところが運命てのは残酷なものですね。翔太がひょんな事から出生の秘密を知ってしまいましてね。隠すつもりはなかったのですが翔太が成人してからでも遅くはないだろうと。のんびり構えていたのが良くなかったんですかね。
何ですか、親子の血液型が合わないとかそういうのが流行った時があったでしょう。それで面白半分に調べたら不都合な事実が出て来たのでしょうね。
真っ直ぐに目を見つめてきて「父さん。本当の事を教えてくれ」と。あいつの目は特別な時があるでしょう。
それで話しました。妻と二人と。
翔太は最後まで取り乱したりせず黙って聞いていましたよ。そして兄さんの事を話してくれてありがとうと、それだけ一言。
いろんな思いがあったろうと思います。
あいつはそれを理由にグレるという事もなく残りの高校生活をきちんと送りました。私達の不安は杞憂に終わりました。
ところが卒業が近づいたある日の事です。
私はてっきり大学に進むものだと思っていました。一人息子ですし出来れば跡を継いで欲しかった。出来の悪い方ではなかったんです。
あいつは、翔太は言いました。またあの目で。
「父さん。大学には行かない。今までありがとうございました。俺は自分で、自分一人で生きてみたい。五年間だけ好きにやらせて欲しい。そしたら家業を継ぐよ。何でもする」と。
私は嬉しかった。こいつはこいつなりに色々考えがあっての事に違いない。自分で何かを決めてやると言い出したのはこの時が初めてでした。
随分甘やかして育てましたからね。知らぬ間に大人びた事を言うようになった。
私は了承しました。「好きにやってみなさい。ただし連絡はしてくれ」と。
妻は反対しました。毎日説得しましたよ。
でもこんな事になってしまって。どうだったのかな。その選択が正しかったのか今となっては私にもわかりません。
翔太は私達の仕送りにもいっさい手をつけず自力で生活をしていました。いろんな職を転々としながらね。
カップラーメンばかり食べてあんなにやつれて。それでも生き生きしていましたよ。
椎名さん、あなたに会えて良かったとそればかり言っていましたよ。
車はいつの間にか美しく整備されたロータリーを走っていた。ゆっくりと回遊する小さなクジラのように。
海に近い高台の大学病院。
真っ白で巨大な壁が今は園子を押し潰そうと立ちはだかっていた。
「着きました」
もうすぐ翔太に会える。けれど会って何と言えば良いのか。駆け出しそうになる気持ちを不安が包み込む。
何ですか、親子の血液型が合わないとかそういうのが流行った時があったでしょう。それで面白半分に調べたら不都合な事実が出て来たのでしょうね。
真っ直ぐに目を見つめてきて「父さん。本当の事を教えてくれ」と。あいつの目は特別な時があるでしょう。
それで話しました。妻と二人と。
翔太は最後まで取り乱したりせず黙って聞いていましたよ。そして兄さんの事を話してくれてありがとうと、それだけ一言。
いろんな思いがあったろうと思います。
あいつはそれを理由にグレるという事もなく残りの高校生活をきちんと送りました。私達の不安は杞憂に終わりました。
ところが卒業が近づいたある日の事です。
私はてっきり大学に進むものだと思っていました。一人息子ですし出来れば跡を継いで欲しかった。出来の悪い方ではなかったんです。
あいつは、翔太は言いました。またあの目で。
「父さん。大学には行かない。今までありがとうございました。俺は自分で、自分一人で生きてみたい。五年間だけ好きにやらせて欲しい。そしたら家業を継ぐよ。何でもする」と。
私は嬉しかった。こいつはこいつなりに色々考えがあっての事に違いない。自分で何かを決めてやると言い出したのはこの時が初めてでした。
随分甘やかして育てましたからね。知らぬ間に大人びた事を言うようになった。
私は了承しました。「好きにやってみなさい。ただし連絡はしてくれ」と。
妻は反対しました。毎日説得しましたよ。
でもこんな事になってしまって。どうだったのかな。その選択が正しかったのか今となっては私にもわかりません。
翔太は私達の仕送りにもいっさい手をつけず自力で生活をしていました。いろんな職を転々としながらね。
カップラーメンばかり食べてあんなにやつれて。それでも生き生きしていましたよ。
椎名さん、あなたに会えて良かったとそればかり言っていましたよ。
車はいつの間にか美しく整備されたロータリーを走っていた。ゆっくりと回遊する小さなクジラのように。
海に近い高台の大学病院。
真っ白で巨大な壁が今は園子を押し潰そうと立ちはだかっていた。
「着きました」
もうすぐ翔太に会える。けれど会って何と言えば良いのか。駆け出しそうになる気持ちを不安が包み込む。
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