ハウスDr.園子

MIKAN🍊

文字の大きさ
上 下
39 / 41

38.再会

しおりを挟む
エレベーターの扉が開いた。
一階と違い強いアルコール臭が漂っていた。
看護師達がストレッチャーを押してゆく。
急がず慌てず。左側通行を守りながら。
壁際のベンチで眠る人。静かにポータブルゲームをしている子や、放心した目で天井を見つめる人。

俊一郎と園子の足音をリノリウムの床が吸い込んでゆく。
面会謝絶の札を幾つか通り過ぎた。
「ここです。どうぞ会ってやって下さい」
「はい」
ドアを小さくノックして園子は部屋の中に入った。
園子とすれ違うように花緒莉が出て行く。
「外で待っていますね」

気配を察したのか窓の方を向いていた頭がゆっくり園子を見た。
「藤間君… 翔太君?」
「係長?」
「来たわ」

開け放たれたカーテンの向こう。
スズメが二羽。仲良く並んで二人を見ていた。

園子は丸椅子を引き寄せ、翔太のそばに座った。
翔太はひどくやつれていた。
「こんにちは」
「なんすか。それ」
「何が?挨拶よ」
「そうすか」
今なら翔太がとても照れている事がわかる。園子はそう思った。
元気を出して。いつものように。

「お父さんに会ったわ。お母さんにも」
「オヤジ、いろいろ言ったっしょ?気にする事ないっす」
「気にしてるのはあなたでしょう?二人ともすごく良い人じゃない!」
「外ヅラがいいだけす」
「そんな事言わないの」

翔太は園子を見つめた。
「なあに。何か顔についてる?そんな目をしても何にも出てこないわよ」
「そんな意味じゃ…」
翔太は顔を赤らめた。

「早くでよう」
園子は言った。
「え?なんすか」
「早くこんな所出よう」
「ムリっす」
「ムリじゃないわよ。お花見するんじゃなかったっけ?」
「したいす」
「でしょう?お花見してビール飲もうよ」
「メキシカンビールすか?」
「そうそう…」

翔太と園子は久しぶりの会話を楽しんだ。
いつもと同じように。
翔太はすぐに疲れて眠ってしまった。
それは安心しきった表情だった。
園子は翔太の額に載せていた手を頬や首に当てて、今はまだちゃんと温もりが感じられる事を神に感謝した。
まだダメよ。翔太。もっとよ。もっと生き抜いて… 一緒に生き抜くのよ…

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...