ハウスDr.園子

MIKAN🍊

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37.リー・シェイプ

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吹き抜けの広いロビーを横切って俊一郎は食堂へ向かった。
園子は黙ってその後を付いて行った。
「家内を紹介します。花緒莉、椎名さんだ。来てくれたよ」
藤間夫人は椅子から立ち上がり会釈をした。
「花緒莉です。藤間がいつもお世話になっております」
どちらの藤間だろうか、園子はふと考えた。
ベージュの丈の長いスカートに淡いブルーのカーディガン。桜色のジャケット。
髪はアップにしてあるが襟足がわずかにほつれている。
病院に泊まり込んでいるのだろう。

「お疲れになったでしょう。遠いですものね。今コーヒーを注文致しました。何か召し上がる?」
ふっくらと丸みのある顔だち。アニメの声優のような可愛らしい声で藤間夫人は微笑んだ。
「はい、コーヒーだけで十分です」

「翔太が血を分けた子でないところまでお話ししたよ」
「でも、あの、似ていらっしゃいますよね。御二方のどちらにも」園子はありのままに感じた事を伝えた。
「ウフフ。そうでしょう。長く一緒にいると似てくるものなのですよ。ね、あなた」
花緒莉は嬉しそうに笑った。
「ああまったくだ。部下の中には私と翔太の声を電話で間違えるそそっかしいのがいるくらいだからな。わはは!」

「藤間君は、翔太さんはお二人にとても愛されて育ったのですね」
「わがままで本当に困ります」
花緒莉は目を細めて恐縮した。
「私もつい甘やかしてしまいました。主人からお聞き及びかと思いますが。最初の子を亡くして。それはもう地獄でした。あの子が私を生まれ変わらせてくれたんです。感謝してもしたりないくらい」
「お気の毒な事でした」
「良いのですよ。人には運命というものがあるのでしょうね。信じたくない事にも目をつぶって行くしかない事も沢山あって」
花緒莉は声を詰まらせた。
そして続けた。
「私はあの子に、愛される事より愛する事を学びなさい。そう言い聞かせました。我が家の家訓のようなものでした」

三人の目の前にウェッジウッドのコーヒーカップが並んだ。
繊細な花柄のリーシェイプ。
三人は同時にカップを取り上げて一口飲んだ。
それがあまりにも息がぴったりだったので、互いに顔を見合わせて笑った。
緊張がほぐれていった。

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