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35.血の繋がり
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実を申しますとあれは、翔太は施設で貰い受けた子でしてね。
実子ではないのです。
それまで私達夫婦には一人息子がいたのですが、交通事故で亡くしてしまいましてね。まだ幼稚園でした。運命を呪いましたよ。加害者のドライバーを殺してやりたいと思いました。妻も私も悲しみに打ちひしがれました。
とくに妻の落ち込み方はひどかった。子が親より先に逝く事ほど辛い現実はありません。
私には仕事がありましたからまだ良かったのです。社員達の生活を支えなくてはならないという義務がありましたからね。それが気を紛らわせる事にもなったのでしょう。
ところが妻はどんどん衰弱していってしまいました。精神的にです。むろん体の方もみるみる痩せ細っていきました。
私の前では気丈に振舞っていましたが。そうですね。気の強い女だったのですが。そのうち就寝中に突然叫び出したり、家の外へ彷徨い出たり。しまいに台所で手首を切ってしまいまして。一命は取り留めましたが。
ボロボロになった熊の縫いぐるみを離そうとしないのですよ。不憫でなりませんでした。
その頃私の知人に児童養護施設を運営している者がいましてね。そこで養子を取るのはどうかという事になりまして。安易だとお思いですか。でもね、我が子を無くす苦しみがどんなだか私はそれまで考えた事もなかった。まるで地獄です。
結局悩みましたが何もしないよりましだろうと。
子どもを選んだのは私です。とても私に懐いてくれてね。それが翔太だったんです。まだ一歳にもならない頃で。
つぶらな瞳が光り輝いて見えました。
その子を意気揚々と家に連れ帰りました。これできっとうまくいくと。
最初妻はヒステリックに泣きわめいたりしましたよ。「そんな子はいらない!私の子を返せ!」と言ってね。
私の事を「あなたは鬼だ」となじりました。「あなたはあの子の事をもう忘れたのか」とね。
けれどそのうち泣いている子どもをあやすようになりました。嬉しかったなあ。あの時は…。
妻が笑っている顔を見るのは久し振りでした。翔太が妻と私を救ってくれたのです。
そうして月日はあっという間に経ちました。
本当にあっという間でした。私達は幸せな時を過ごしました。仕事は忙しかったですが充実していましたね。
親と子の関係に血の繋がりなど無用なのだなと初めて知りましたね。
実子ではないのです。
それまで私達夫婦には一人息子がいたのですが、交通事故で亡くしてしまいましてね。まだ幼稚園でした。運命を呪いましたよ。加害者のドライバーを殺してやりたいと思いました。妻も私も悲しみに打ちひしがれました。
とくに妻の落ち込み方はひどかった。子が親より先に逝く事ほど辛い現実はありません。
私には仕事がありましたからまだ良かったのです。社員達の生活を支えなくてはならないという義務がありましたからね。それが気を紛らわせる事にもなったのでしょう。
ところが妻はどんどん衰弱していってしまいました。精神的にです。むろん体の方もみるみる痩せ細っていきました。
私の前では気丈に振舞っていましたが。そうですね。気の強い女だったのですが。そのうち就寝中に突然叫び出したり、家の外へ彷徨い出たり。しまいに台所で手首を切ってしまいまして。一命は取り留めましたが。
ボロボロになった熊の縫いぐるみを離そうとしないのですよ。不憫でなりませんでした。
その頃私の知人に児童養護施設を運営している者がいましてね。そこで養子を取るのはどうかという事になりまして。安易だとお思いですか。でもね、我が子を無くす苦しみがどんなだか私はそれまで考えた事もなかった。まるで地獄です。
結局悩みましたが何もしないよりましだろうと。
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つぶらな瞳が光り輝いて見えました。
その子を意気揚々と家に連れ帰りました。これできっとうまくいくと。
最初妻はヒステリックに泣きわめいたりしましたよ。「そんな子はいらない!私の子を返せ!」と言ってね。
私の事を「あなたは鬼だ」となじりました。「あなたはあの子の事をもう忘れたのか」とね。
けれどそのうち泣いている子どもをあやすようになりました。嬉しかったなあ。あの時は…。
妻が笑っている顔を見るのは久し振りでした。翔太が妻と私を救ってくれたのです。
そうして月日はあっという間に経ちました。
本当にあっという間でした。私達は幸せな時を過ごしました。仕事は忙しかったですが充実していましたね。
親と子の関係に血の繋がりなど無用なのだなと初めて知りましたね。
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