ハウスDr.園子

MIKAN🍊

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34.スピーチ

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園子は車に乗った。
車が走り出すとすぐ俊一郎は飲み物を勧めた。
それよりも…。
園子の疑問を察して俊一郎は言った。
「ああ、あいつに頼まれていました。袋叩きに合った後です。あなたの身辺に例の仕事仲間達が近づかぬようにと。それで失礼な真似を承知で。申し訳ありませんでした。どうかお許し下さい。ケガが回復しても翔太は手術を先延ばしにしていました。その直後に今度はあなたが入院する事になってしまったからです。やっと踏ん切りがついたのでしょう」

「あの日私を病院に運んでくれたのは?」
「私と運転手です。ハラハラしました。運転手から連絡がありましてね。大変な事になりそうだと。私もすぐ駆けつけました。けれど何があってもあなたに直接会ったりはしないでくれときつく言われてましたからね。翔太はまだ体を動かせる状態ではなかった。あいつもあなたの事を探るような真似は本当はしたくなかったのだと思います。しかしあんな事になってしまって…。それで、階段の下で倒れたあなたを急いで病院へ運びました。その時あなたが妊娠している事を知ったのです。いや、その、看護師が私を椎名さんの父親だと勘違いしたようで。検査の後でね」
「そうだったんですね…」
だから翔太もその時に知ったのだ…

自分の知らない所で自分のためを思い動いてくれる人達がいたのだ。
けれど今はその事に素直に感謝する気にはなれなかった。
自分だけがまるで置いてけぼりにされたようなちっぽけな不満が渦巻く。
どうして早く言ってくれなかったのか… 翔太も、この男も。


車は何度か交差点を折れて幹線道路に出た。
「少し遠いのですよ。あいつは、翔太はなるたけあなたの近くに居たいと言いまして。あなたが回復するまでは手術は受けないとね。死期が近い事を薄々感じていたんでしょう。いえ、椎名さんのせいじゃありません。手術があと一週間早かろうが遅かろうが大勢に影響はなかったのですよ。結局…」

窓の外をいつもと変わらぬ日常が通り過ぎてゆく。
自分だけが別世界にいるようだった。
けれどもう逃げ出そうとするのだけはやめようと園子は誓った。

俊一郎は淀みなく話し始めた。何度も練習を積み重ねてきたスピーチを読み上げるように。
園子は黙って話を聞くしかなかった。

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